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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第3章 全ての始まり編

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断章 第16話 集結編 救援

「マジビビった・・・」


 最上が去った後の相談室にて、カイトは道化師のお面を取った。ロクサスとはとどのつまり彼で、この不思議空間は、彼が創りだした異空間なのであった。

 そうして道化師のお面を取ったカイトの顔には汗が一筋流れており、かなり余裕が無かった事が理解出来た。彼はティナがはじめてのおつかいに出たいというのでそれを見送ると、自身は此方で図書室から失敬した本を読んでいたのだが、そこに最上がやってきたのである。なので大慌てで髪以外を本来の姿に戻して自分の着ていた服を着替え、仮面と別の服を着用したのだ。


「もうちょっと結界の効力を上げておくか?・・・いや、やめとこ。これ以上強くすると、逆に気付かれるかもな。」


 カイトは一人、対策を練るが、結局はそのままにしておくことに決める。元々、かなり薄い力で入り口を隠していたのではあるが、それでも、入ってこられる事があるとは思っても見なかったのだ。かと言ってこれ以上強くすると、今度は魔術が理解出来る者には更に内側の異空間の存在に感付かれる可能性が出て来るので、ぎりぎりのレベルであったのである。今のレベルだと、何かがあってそんな場が出来ている程度にしか思われない程度だったのだ。

 まあ、そのせいで今後も時折この場所に迷い込む者が現れるのだが、それは仕方がない物として、諦めるしかなかった。


「・・・今日は帰るか。」


 途中まで読んでいた本は最上の所為で途中で止まってしまったし、念話で遣り取り出来るティナを待つ必要は別に無いのだ。時間を見れば既に18時を回った所で、少し小腹も空いたので、ティナに念話で連絡を入れておいて、カイトも席を立って、密かに学校から下校する。と、そんな最中で、ソラに出会った。


「んぁ?天音か?」

「ああ、天城か。どうした?」

「お前・・・今までよく学校に残れてたな。」


 ソラはカイトが学校の方角から歩いてきたのを見て、彼がまだ学校に居た事を悟る。なので、どこか苦笑した顔であった。


「いや、近くの茶店だ。ティナが買い物に行ってみたいと行ってたからな。待ってる間読書してたら、意外と気付かれなかったぞ。最上先生が目の前を通り過ぎていった。」

「まじか。」


 カイトの少し楽しげな発言に、ソラも少し楽しげな笑みを浮かべる。そうして、カイトは別に理由を知っているので問う必要は無かったが、問わないのも不自然と思ってソラに問い掛ける。


「で?お前はどうした?」

「あん?おりゃ、ゲーセン行ってたらセンコ来やがって、100円玉無くなったし腹減ったから、これから帰るとこ。」

「あんま迷惑掛けてやんなよ。」

「それはどうだろうな・・・って、そうだ。お前そういやこないだのガンゲーの新作出てたぞ。」

「あ、マジか。」


 ソラが思い出したかの様に告げた言葉に、カイトが少しだけ嬉しそうに笑う。実は以前の御子柴の襲撃の後にゲームセンターに行ってから、カイトとソラは時折一緒にゲームセンターに行く様になったのであった。

 そうして、二人は連れ立って歩き出す。家の方向が同じだし、別に険悪な仲でも無いので、別々に帰る必要も無いのだ。と、そうして他愛無い雑談をしながら帰っていたのだが、そこでふと、ソラが足を止める。


「どうした?」

「あれは・・・」


 そうしてソラが見るのは、道路を挟んで逆側の歩道を小走りに走る少し優男然とした若い男性だ。すると向こうも此方に気付いたらしい。きょろきょろと周囲を見渡し、横断歩道を見つけて此方に駆け寄ってきた。その顔にはかなりの焦りが刻まれており、少しだけ憔悴が見て取れた。


「ソラさん、お久しぶりです。」

「ああ、竜馬さん。お久しぶりっす。」


 どうやら二人は知り合いであったようだ。憔悴が見て取れた男性だったが、ソラと挨拶する際には柔和な笑みが浮かんでいた。ソラにしても、邪険にはせず、笑みが浮かんでいた。が、その笑みも直ぐに真剣な物へと変わる。


「ソラさん、お嬢を見ませんでしたか?」

「お嬢?三枝・・・っと、妹の方か?」

「ええ。ご存知有りませんか?」

「何かあったのか?」


 竜馬の問い掛けに、ソラが首を傾げる。当たり前だが、彼は先ほどまでゲームセンターでゲームをやっていたのだ。地下に潜る予定だった魅衣を知っている筈が無かった。そうして、事情を話そうとした竜馬だが、そこでカイトの存在を思い出した。


「それが・・・っと、そういえば、此方は?」

「え?あー・・・うん、まあ、俺のダチだ。」


 どう説明したものか、と悩んだ結果、ソラは結局それしか思い浮かばなくて、かなり恥ずかしげではあったが確かに友人、と答えた。それに、ソラが最近荒れていた事を知る竜馬が意外そうな顔をしたが、気を取り直して告げる。ちなみに、カイトはそんなソラを少しニヤついた笑みで見ていた。


「失礼致しました。私は早苗 竜馬。お見知り置きを。」

「ご丁寧に有難う御座います。私は三枝さんの同級生で、天音 カイト、といいます。」


 自己紹介をした二人だが、カイトはある事がずっと気になっていた。だが、場所が場所であったことと、ティナから念話が来た事で問い掛ける事も出来なかった。とは言え、そんなことを知る由もない竜馬が、魅衣のクラスメイトと知って更に情報を追加する。


「ああ、お嬢・・・魅衣さんのご学友でしたか。私は彼女の姉の婚約者です。」

「そうでしたか。それで、何かお困りのご様子でしたが、お手伝いしましょうか?」

「いえ、大したことは・・・そうですね、どうしても、とおっしゃるのでしたら、もし、魅衣さんを見かけたら、家に電話する様にお願い出来ますか?」

「わかりま」

「竜馬さん!」


 カイトが応じようとしたその時、竜馬の後から声が掛けられた。此方も彼と同年代の若い男だった。ただ、竜馬とは違い、筋骨隆々のかなりゴツイ男だった。


「何ですか?」

「今携帯にメールが!」


 そうして、此方の男は不用心にもカイトとソラの前で、スマホに届いたメールを展開する。するとそこには、猿轡を加えさせられた魅衣が捕えられ、袋の中に入れられている映像が映っていた。それを見たカイトとソラは、思わず顔を顰めた。


「おい、こりゃあ・・・」

「誘拐、ですか?」

「大馬鹿者・・・」

「あ、すんません・・・」


 カイトの問いかけに、竜馬が大きく溜め息を吐いた竜馬が苦言を呈する。そうして明らかにカイトとソラも見ていたので、大慌てであとから来た若い男が謝罪するが、後の祭りだ。どう足掻いても見てしまったものは、どうしようもない。

 そうして写真を見て明らかに顔を顰めた二人を見て、竜馬はスマホを出した男を先に帰らせると、二人に対して口止めをする。


「申し訳ありませんが、この事は内密に・・・ウチも企業なので、娘が拐われたとなると、大事になりますので・・・」

「探すの手伝うぜ。この辺りの裏道なら、俺の得手だしな。天音、お前も手伝え。お前の喧嘩の腕なら邪魔になんねえ。」

「いえ、そういうわけには・・・っと、大旦那からですか。では、失礼します。」


 一人やる気になったソラに対して、竜馬が止めようとした所で、着信が入った。そうして竜馬は二人に断りを入れて、スマホを取り出して通話を始める。その顔には明らかな焦りと苛立ちが見えて、時々竜馬が怒鳴り散らす声も聞こえてきた。どうやら大旦那という言葉は嘘だったようだ。


「どうする?」

「どうする、ったって・・・見ちまった以上は動かないと、な。」


 ソラが若干苦笑しながらであるが、カイトの問いかけに答えた。確かに、ソラと魅衣の仲は良くは無い。だが、それでも理不尽に誘拐された者を見過ごして良い、という事では無かった。そうして、ソラがスマホを取り出して、カイトに告げる。


「おい、スマホのアドレス渡せ。」

「ん?」

「二手にわかれたほうが探しやすいだろ。見つかったら連絡入れろ。」


 昨今の襲撃者の事を考えればソラの言うことは若干カイトには承服しにくかったが、言って聞くわけでも無い。なので、カイトは彼に使い魔を密かに監視させる事にして、ソラの言葉に従い、アドレスを交換する。そして、二人は別れて探し始める。だが、そうして別れて直ぐに、ソラの方に声が掛けられた。


「天城!」

「あぁ?って、お前は小鳥遊んとこの・・・」

根津 雪(ねづ ゆき)だ。すまん、恥を忍んで頼む!由利さんとチームの仲間を助けてくれ!」


 雪と名乗った少女は、勢い良く頭を深々と下げた。どうやらソラを探して走り回ったのだろう。彼女は汗だくだった。だが、ソラの方は頼みを聞いてやる必要を感じず、顔を顰める。


「はぁ?なんで俺が助けなきゃなんねえんだよ。」


 まあ、此方は当たり前だ。由利と友人であるわけでもないし、魅衣の様に拐われたわけでもないだろう。そうでないなら、助ける道理は無かった。なので、彼は事件の重要性を考えて魅衣の誘拐事件の方を優先しようとしたが、雪が必死な様相で口を開く。


「あ、おい、待ってくれ!話だけでも聞いてくれ!」

「ああ、こっちも、忙しいんだよ!」

「頼む、聞いてくれ!」


 雪のあまりに必死な様相に、遂にソラが折れる。自分よりも少し年上とは言え、少女に頭を下げられて見過ごせるほどソラは非道な人間では無かった。


「・・・はぁ。話せよ。」

「本当か!・・・実は、由利さん達が罠にハマりかけてるんだ。」

「何?」


 そうして、話された事は簡単にまとめれば、こういうことであった。

 まず、彼女はいつも通りに集会に参加しようとバイクを走らせていたのだが、いつもよりも少しだけ遅刻してしまい、近道として、天神市の外れの倉庫街を通った。そこでふと、見知った男達が集まっているのを見つけて密かに監視していたのだが、そこで自分達に罠が仕掛けられた事を知る。

 直ぐにその場を離れた彼女は由利達に連絡を入れようとしたのだが、既に走りだしているらしく、電話に出ることは無かった。そこで、大慌てでこの状況でも何とか出来そうなソラを探しだした、ということであった。だがその説明を聞いて、当然だが、ソラには1つの疑問が湧く。


「で、なんで俺何だ?」

「え?お前、由利さんと付き合ってるんじゃないのか?」

「はぁ!?」


 ソラのもっともな疑問は、雪が首を傾げて告げた言葉によってとんでもない爆弾へと変わる。そうして、告げられた言葉に、ソラが大慌てで身を乗り出し、彼女を問い詰めた。


「おい、ちょっと待て!なんでそんな事になる!?」

「え?だってあんた・・・この間由利さんと二人っきりで仲よさげにファミレスで話してたじゃないか。」

「ふぃ!?」


 ソラの間の抜けた悲鳴が上がる。見られてたのか、とも思うが、そんな誤解をされていたとは思ってもみなかったのだ。

 ちなみに、彼女とて意図して見たわけではない。由利もソラも気づいていなかったが、実は彼女のバイト先がソラの行きつけのゲームセンターの目の前のファミレスだったのだ。彼女はいつもとは違うファミレスの制服と仕事向けの化粧だったので、由利も見たことがあるな、程度で気付かなかったのである。まあ、彼女にしてもそんな姿を見知った者に見られたく無かったので、言い出せなかった事も大きい。


「いや、あれは単に御子柴達の事を聞かれてただけだぞ!」

「え、でも確かくまのぬいぐるみプレゼントしてたよな?由利さんもかなり嬉しそうに抱きしめてたし・・・」


 ソラのあまりの剣幕に雪は若干のけぞって答える。実は彼女も一度は声を掛けようと思っていた。だが、由利が周囲を見渡してくまのぬいぐるみを抱きしめたのを見て、そっとしておいたのである。

 ちなみに、その状況は由利のチームの面々に動画で配信されており、密かに全員で由利のそんな姿に悶えていたのだが、それはチームの全員の秘密であった。


「げっ!そんな事やってやがったのかよ!」

「ぬいぐるみ?」


 状況が理解出来た二人は良いが、カイトは初耳だ。それ故、ソラに問い掛けた。


「って、天音!何時の間に!」

「後ろでお前の大声が聞こえりゃ、普通こっちに来るだろ。」


 ちなみに、これは嘘だ。カイトはソラが後ろを向いた瞬間にティナの拐われた場所へと出発しており、彼に付けた監視の使い魔を自らの姿に偽装し、気付いてやって来た、という風を装ったのである。


「UFOキャッチャーでデカブツ取ったんだけどよ、置き場所に困って小鳥遊にやったんだよ・・・ちっ、まあそれはどうでも良いか。取り敢えず、どうするよ。」

「どうするったって・・・結局、二手に別れるしかないだろ。オレ三枝の方行くぞ。」

「はぁ!お前小鳥遊の方行けよ!」


 ソラが抗議の声を上げるが、カイトの方は平然と、即座に今後の予定を決める。


「いや、お前が頼まれたんだから、お前こっちな。聞いた以上見過ごすのも後味悪いし。」

「そうか!すまん、助かる!まだ走っている最中の筈だから、今から飛ばせば間に合うはずだ!」

「え、ちょ!」

「天城!じゃあ、案内するから、一緒に来てくれ!」


 自分の意思を一切無視して決まった救援にソラが抗議の声を上げたそうだったが、大喜びの雪が大急ぎでソラの手を引いて自身が乗ってきたバイクの方へと引っ張っていく。

 ちなみに、カイトとてここまで強引に決定したのには理由があった。それも、ソラが危険だ、という理由でだ。まだ、由利の増援に向かって不良達相手に大乱闘を行うほうが安全なぐらいには、向こうは危険だった。


「さて・・・あんまやくざ者と喧嘩なんてやりたくないが・・・まあ、そりゃどうでもいいか。よくやってるし。で、もう一個は事実なんだろうな?」


 カイトは二人が去った後、カイトは遠く離れたビルの屋上で小さく呟く。それは、ティナから上がった報告に対してであった。ティナの念話の後に飛ばした使い魔からの映像でもそれを裏付ける結果が上がっており、ソラは是が非でも遠ざけておかねばならなかったのである。


「さて・・・じゃじゃ馬娘がお姫様、か。まあ、爺にはこの間ティナの転入で世話になったし、爺の傷の借りぐらいは返しておくか。」


 そうしてカイトは再び疾風の如く、二人が拐われている建物の前まで走り抜けるのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

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