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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第11章 ミズガルズ救援編

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断章 梁山泊軍編 第13話 過去の者達

 『梁山泊(りょうざんぱく)』。それは『水滸伝』に記された北宋のとある時期に興隆したとされる組織の事だ。それは宋江と呼ばれる好漢を中心として今で言う山東省の反乱組織であった。


「宋江の下に集った英傑108人。特殊な宿星の下に生まれたとされる者達。現実としては単なる反乱組織として歴史書には記されている・・・」


 カイトは改めて、宋江という男と『梁山泊(りょうざんぱく)』という組織の表向きの歴史についてを口にする。とは言え、それは表向きの歴史だ。であれば、真実の歴史があるはずだった。


「とは言え、それは単なる表向きの歴史。歴史家達が都合よく書いただけの歴史だ。真実は殆ど描かれていない」


 カイトが笑う。いや、嗤う。所詮、歴史は勝者の物だ。敗者の真実なぞ記すだけ不都合が多い。特に、中世と言われる時代であれば、それが顕著だ。

 あの時代はまだ、魔術も異族も完全には失われていない。その中にもし反逆者に一分の利になる事があったとすれば、尚更時の政府は記せないだろう。


「『梁山泊(りょうざんぱく)』の宋江。それは真実魔術の力を使いこなし奇跡と呼べる事象を起こし、反乱を起こした人物だった」


 カイトがその当時の真実について言及する。それは記せないだろう。なにせ本当に『及時雨』という渾名が真実だったのだ。彼には、雨を降らせる能力があったらしい。そんな人物の噂が広まれば、腐敗真っ只中だった時の権力者達としては非常に有り難くない。

 一気に自分達の権威が危うくなってしまうからだ。だからこそ、彼らは宋江らを貶めねばならなかった。単なる無法者として、だ。なんら力を持ち合わせない無法者。そう、後々にまで記させたのだ。そのはずだった。


「まあ、実際には雨を降らせる程度の能力しかなかったんだけどね。剛の者ではあったけど」

「で、その後は生き残った一人が真実を書き記して、それが後に発見され『水滸伝』という物語になった、と・・・」


 斉天大聖の言葉に続けて、フェルがため息を吐いた。これが、『梁山泊(りょうざんぱく)』と『水滸伝』執筆に纏わる真実の歴史だった。『水滸伝』が執筆された14世紀はすでに『梁山泊(りょうざんぱく)』の者達も全員が墓の下だったことも、大きかった。

 時代も宋から元に変わっており、宋朝を貶める目的もあったそうだ。それ故、宋朝への反逆者達であった『梁山泊(りょうざんぱく)』と『水滸伝』が時の権力者達にも受け入れたのだろう。

 結局、敗者として貶められた『梁山泊(りょうざんぱく)』の面々も宋朝が敗者となった事で宋朝を貶められる為に利用されて、再び表に出たのであった。歴史なぞ往々にして、そんな物だ。


「まぁ、私も一応九天玄女の知り合いだから一度会った事があるけど・・・好漢は好漢だったかなー。あいつら」

「九天玄女か・・・メソポタミアのイシュタルとも繋がりのある女神・・・いや、この場合は女神の侍従官か」

「イシュタルとは知り合いか?」

「黄帝の時代にはまだ私も現役だ。イシュタル・・・イナンナともな」


 カイトの言葉に、ルイスが鼻で笑う。ギリギリ現役時代だったらしい。これから数百年後に、彼女の反逆があるのであった。と、そうして思い出して、ルイスが一つ思い当たる節があったらしい。


「ということは・・・『梁山泊(りょうざんぱく)』の奴らは九天玄女の弟子達か」

「少なくともトップの宋江は、その筈よ。まあ、ぶっちゃけると私は悪い妖怪だから知らないけど」


 ルイスの問い掛けに斉天大聖は首を振る。彼女はここらの話を聞くために、呼び寄せられたのであった。まあ、同時にせっかくの戦闘が近くにあるのだ。来ても不思議はなかった。

 が、残念ながら詳しい話は知らないらしい。そもそも政府に喧嘩を売る程の大妖怪だし、彼女は天帝、つまりはインドラ側の存在だ。仏教ではあっても道教ではない。知らない方が道理だろう。


「イシュタル・・・メソポタミア・・・おぉ、そう言えば。ウルクの王は何をやっとる」

「ウルクの王? あぁ、あの男か」


 スカサハの問い掛けに、ルイスが笑う。ウルクの王、と言われれば現代の裏世界では一人の男しか示さない。そしてその人物は、地球の歴史において重要な役割を果たした男でもあった。


「あの愚か者であれば適度に出て来て何かをしている、とは聞くな。一度喧嘩を売られてぶちのめしたが・・・今は王と呼ばれる者達の見極めをやっている、と聞いた」

「らしいな。理由とかは知らん。アルトも一度会ったんだったか?」

「ああ」


 カイトの言葉を受けて、アルトが苦笑する。まだ彼がブリテン王として現役だった頃には、一度だけウルクの王、即ちギルガメッシュと出会っていたらしい。が、そこでの評価を思い出して、そして彼の言わんとしていた事を今更理解して、苦笑が浮かんだのだ。


「下の下。今にして思えば、それが俺への評価だった・・・言わんとした事は今にして理解したがな。俺への言葉は秩序の担い手としては最適だ、だったな・・・騎士が王に忠誠を誓うのなら、王は自身に忠を誓う。それが王としての前提だ。王が先を歩くからこそ、後ろはその背を見て従えるのだ。王が立ち止まって秩序に膝をついて何になる・・・そう言われたな」


 アルトが笑う。あの時の答えは、それで良いのです、だった。意味を理解していない者の言葉だ。その時気付けていれば、おそらく『アルトリウス・ペンドラゴン』は騎士王ではなく、偉大な騎士達の王として名を残していただろう。


「まぁ、お陰で今がある・・・だろ?」

「そうだな」


 自らの甥にして親友の言葉に、アルトが笑う。あの時失ったからこそ、今失いたくないという想いがある。本当に騎士達の王として立てた。自分が本当にしたいことを理解出来た。秩序に頭を垂れていた頭を上げて、前を向いて歩ける様になったのだ。あの破滅のお陰であればこそ、だった。

 昔から、ガウェインは常に自分に忠実だった。それは騎士としては半端者だ。だがだからこそ、最後まで己の意思を持ち合わせ、多くの仲間がアルトから離れていく中アルトに最後まで付き従ったのだ。

 己が惚れ込んだ男だからこそ、最後まで一緒である事を選んだのである。そしてそれを今にして、アルトも思い出した。


「そう言えば・・・・アグラヴェインとお前は、常に俺と共にあってくれたな」

「半端な騎士は、やっぱ半端者の下が一番良いのさ。俺もアグラヴェインも騎士としちゃ、いまいち不出来だからな」

「おいおい・・・では、今の俺では駄目ということか?」

「おっと。失言だったな」


 少し照れ気味に、ガウェインがそっぽを向く。単なる照れ隠しだ。このアグラヴェインと言うのは、ランスロットとギネヴィアの不義を暴いた騎士でガウェインの弟であった。そして不義を暴き立てたその場で、ランスロットに殺されていた。ある意味、円卓崩壊のきっかけとなった人物でもあった。

 こちらは本来ならば騎士と王妃の醜聞を暴き秩序を正したと賞賛されるべきなのだが、アーサー王伝説の著者で有名なトマス・マロリーは彼を非常に嫌っているらしく、ガウェイン以上に扱いが悪いのであった。

 そこらについては自分達の事以上の愚痴があるアルト・ガウェイン・ランスロットの三人なのだが、それに対してアグラヴェインはどこ吹く風、だそうだ。気にしていないらしい。今もアルトから頼まれて己の忠道に従い、宮中の取り纏めを行っているそうだ。

 ちなみに念のために言うが、マロリー版よりも前。ランスロットに人気が出る前に記された物語では彼は『堅い手のアグラヴェイン』として立派な騎士として記されている。

 ここらもやはり、マロリーによる脚色だったと考えるのが妥当だろう。彼はどうやら幾人かの騎士を非常に嫌っているらしいというのはわかるが、なぜか、というあたりは闇の中だ。


「あはは・・・ん? っと、拗ねるなモル。お前も忘れてはいないさ」

「何も言っていません」

「ははは」


 つーんと口を尖らせるモルドレッドに、アルトが笑う。確かに最後まで付き従ったわけではないが、兄二人が評価されるとやはり嫉妬したのだろう。彼女らしいと言えた。と、そうして一頻りの会話が終わったのを見て、カイトが口を開いた。


「家族仲良い事で。で、本題に話戻していい?」

「っと、すまん」


 カイトの言葉に、アルトが謝罪する。そもそもここへは敵情を把握する為に集まったのだ。円卓の仲が良いのは良いが、それはそれとして今に話を戻してくれねば困るのであった。


「で、ギルガメッシュ王だったな。俺達第一世代の騎士は彼と会っている・・・ベディは・・・まだエネヴァウクを名乗っていた頃に会ったか?」

「はい、陛下。トリスタンは確か・・・」

「私はその当時、父の城にいましたので・・・」


 どうやらトリスタンは出会っていなくて、当時城で女中をしていたらしいベディヴィアは出会っていたようだ。そうして水を向けられた事で、ベディヴィアが過去を振り返った。そうして思い起こすのは、たった一度だけ出会った金色の男だった。


「メソポタミアの神の血を引いた証である黄金の様に輝く金色の髪。顔は美丈夫と称えるに相応しい。体躯はカイト殿程・・・適度に筋肉のついた彫刻の様に整った体躯でしょうか。武芸百般は極めていた方でした」

「あれほどの努力家もおるまいよ」

「儂も同意しよう。あのウルクの王程、努力という言葉が似合う男はおるまい。才能に胡座をかく事もなく、常に上を向いて歩き続けておった。向上心の塊、と言うて良い」


 ルイスとスカサハは一様にギルガメッシュへと絶賛を贈る。どうやら彼女らからは非常に好感を持てる人物であるようだ。

 なお、メソポタミアの神の血を引いた証が金色の髪、というのはメソポタミアでは神様は金色の髪で、人は黒髪とされているからだ。ギルガメッシュは母がニンスンという女神だ。その血を三分の二引いている彼は、金髪だったわけである。そうして、ルイスが続けた。


「魂そのものが、あれは黄金だ。朽ち果てる事のない者。人類の最終到達者の一人・・・錬金術では魂を物質で表す事があると聞いた事があるが、あれほど黄金が相応しい男はおらんな」

「お前が絶賛するほど、ね」

「ふむ・・・」


 滅多に他人を絶賛しないルイスが絶賛するのだ。カイトもティナもそれだけで十分だった。とは言え、カイトにはわかっていたらしい。どこか懐かしげな表情が浮かんでいた。

 が、それも一瞬だけだ。所詮これは、過去の出来事。過去世のお話。どうせギルガメッシュも知らないだろう、と気にしない事にしたのだ。


「ま、遠からず挨拶には行かないと駄目だろうな、こっちから」

「うむ?」

「どうにも彼は日本に何らかの縁があるらしくてな・・・何度も世話になったそうだ」


 スカサハに対して、カイトがヒメ達高天原の神々から聞いていた事を語る。神々しか詳細は知らず彼らも詳しい事を語らないので詳細は知らないのだが、どうやらギルガメッシュは何か日本と繋がりがあるらしい。度々日本の窮地を救ってくれていたそうだ。

 そしてそうなれば、カイトの祖先達も救っている事になる。であれば、カイトの立場から言って礼の一つも言わねばならないだろう。と、そんなカイトに対して、アルトが告げた。


「ああ、それなら、一応聞いてみると良い」

「うん?」

「彼は今、世界中の情報も持ち合わせている。もしかしたら、お前の事も把握しているかもな」

「怖いな、おい・・・とは言え、それならたしかに、『梁山泊(りょうざんぱく)』について詳細を聞いてみるのは良いかもな」


 敵の情報は殆ど無いのだ。どういう組織なのか、というのは推測出来ても、事実がどうかはまた別の話だ。どこかで詳細な情報を入手する必要があった。その為にも、一度会うのは正解だろう。

 幸い伝手は幾つかありそうなのだ。勢力を広げる意味でも実力者という意味でも、ギルガメッシュという男は非常に有り難い。こちら陣営に引き込みたい所ではあった。


「良し・・・じゃあ、とりあえず今日はこの辺にしておくか」

「ああ・・・では、帰るぞ」

「おう」


 カイトの終会の言葉を聞いて、アルト達、ジークフリート達――話には殆ど参加していなかったが実は居た――が去っていく。そして、殆ど誰も居なくなった時、カイトが口を開いた。


「黄金の英雄ギルガメッシュ・・・幾星霜ぶりに聞いた名前だな・・・前は・・・何時だったっけ?」


 遠く、ギルガメッシュと呼ばれる英雄へとカイトは親愛の情を滲ませる。遥か過去。前世よりも遥かに前。自分では無い自分がそこで出会った男。魂に刻まれた記憶にある男。

 そして、今のカイトにも絶大な影響を与えた男。それが、ギルガメッシュと呼ばれた男だった。この過去世の記憶を得た時に一番初めに思い出した一人だった。


「過去世は過去世。今とは違う・・・変な話だ。『梁山泊(りょうざんぱく)』ではないけど、こっちも変な宿世には囚われている・・・いや、囚われていた、か。終わったんです、先生。やっと。全部・・・」


 カイトの言葉には、万感の想いが込められていた。これが何だかは、カイトと答えにたどり着いているギルガメッシュ以外にはわからないのだろう。

 とは言え、今はまだ、カイトは己以外にこれを知っている者とは出会っていない。だからこそ、これは意味のないつぶやきだった。


「ソフィアが来て、ルイスが来て・・・後一人。ヒメアが揃えば、全員が揃う・・・その時は、会いに行きます。オレは貴方に認められたい。先生が喩え先生でなくとも、貴方はオレが憧れた人だったから・・・」


 憧れというのは、誰もが抱く。それはカイトとて変わらなかった。そしてカイトにとって、いや、過去世の『カイト』にとってそれは、遥か過去のギルガメッシュだった。過去世は今のカイトとは違う。だが、地続きの存在だ。影響は受けていたし、大きく今のカイトへと食い込んでいた。

 そしてそれを思い出して、カイトは今に目を向けて、覇気を失った。そこにはつけねばならない『けじめ』があった。己がこれ以上裏に関わるのなら、手放さねばならないものがあるのだ。


「・・・はぁ。やっぱ。いつまでもそのままにしておくべきじゃねぇよな・・・なんでだろな・・・弥生さんがヒメアだったら、悩まずにすんだってのに・・・」


 『地球人・天音 カイト』と『エネフィアの勇者・カイト』。『天音 カイト』と『過去世のカイト達』。知りたくもない事を山ほど知らされて。嫌というほどの地獄を見て。それでも、『天音 カイト』は消えてなくならなかった。

 だが、何時かは覚悟を決めねばならない。『天音 カイト』は殺さなければならないのだ。他でもない己の手で。弥生が好きだからこそ。巻き込めば、とてつもない大きな流れに巻き込んでしまうかもしれない。

 それだけは、駄目だった。『天音 カイト』が拒絶する。彼にとって彼女こそが、日常の象徴。今世の平和の象徴だ。カイトにとっては聖女にも等しい。巻き込みたくはなかった。


「・・・っ・・・」


 スマホへと、カイトの手が伸びる。だが、勇気が出ない。おかしな話だ。数多の強大な魔物、数多の人を斬って捨ててきた手が、たったひとつのボタンを押せないのだ。その僅かな何もない隙間が、カイトにはどんな魔物の鱗よりも固く、分厚かった。


「カイトー。何やってるのー。晩御飯だよー」

「あ・・・おーう」


 モルガンの言葉にカイトが僅かな安堵を、彼も悟れぬ程に僅かな安堵を零した。そうして結局、カイトはスイッチを押す勇気が出せず、そのままとなるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。意味も無く過去世の話なんぞ入れてるわけではないですよ?

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