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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第11章 ミズガルズ救援編

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断章 ミズガルズ編 第6話 魔術師達の会話

 スウェーデン政府に属する騎士の一隊の隊長格だ、と告げた女性騎士と出会ったカイト達は、とりあえず彼女の案内で空港の一室へと案内される事になる。

 聞けば今回の事は彼らとしても本意ではない――本意であっても言わないだろうが――ので、国王直々に謝罪がしたい、ということだった。とは言え、その前に一つ問い掛けておかねばならないことが有った。


「では、そちらが、名にし負うフェルグス・マック・ロイにフェルディア、フィオナ騎士団の英傑のお二人、と?」

「ああ・・・大兄貴なんぞ見たらわかるだろ?」

「・・・え、ええ・・・」


 スカサハによって気絶させられてずるずると引き摺られるフェルグスを見ながら、女性騎士が頷く。ちなみに、彼女の名前はエドラというらしい。そうして歩きながら事情を説明していくと、すぐに空港の一室にたどり着いた。

 そこに居たのは、スウェーデンの政府高官というらしい男だ。彼はカイト達が入ってくると同時に、即座に頭を下げた。


「いや、まさかこれほどの方々にご助力願えたとは・・・スウェーデン政府として、改めて感謝を述べたい。そして同時に、謝罪も申し上げる。申し訳ない」


 政府高官は努めて真摯に見える様に、頭を下げつつ謝礼と謝罪を述べる。その一方、フィンとディルムッドは終始笑顔だった。

 というのも、彼らがケルトに名にし負う者達だと明らかに目に見えて応対が変わったからだ。今の時代が良くわからない彼らから見ても、明らかに重要人物として扱われている事がわかったのである。


「・・・我らもここまで知られていたとは。ディルムッド。なんとも嬉しいものではないか」

「ええ。いえ、些か私としては耳が痛い話でしたが・・・」


 非常に満足げなフィンの言葉にディルムッドはうなずきつつも、少しだけ苦い顔を浮かべる。彼は有名にはなっていたが、同時にそれは彼の武名で最も有名なグラニアの逸話も含んでいたからだ。

 ちなみに、フェルディアといえば大して武名の広がりには興味が無いらしく、大してそんな気は見せていなかった。そうして、そんなフェルディアが問い掛けた。


「それで、出来れば何があったか教えてもらえないか? 貴殿らはこの弟弟子の味方だと聞いている。それがなぜ、わざわざ敵対する様な行動を取ったのだ?」

「大方、政治的な話だろうよ」

「また政治か。男の嫉妬と政治的な話ほど、気分が悪くなるものもない」


 スカサハの断言に対して、いつの間にか目覚めていたフェルグスが珍しく非常に嫌そうな顔をする。彼の人生の大半は政治的な話によって翻弄され、最後の結末は男の嫉妬によって殺されるのだ。この反応は当然といえば当然だろう。


「申し訳ない・・・スカサハ殿の言われた通りだ。我々スウェーデン政府とて一枚岩ではない。イギリスの様にあのような手段を取って一枚岩になれるわけでもなし・・・皆様方には、非常に申し訳ない」

「何があったんだ?」

「どうにも、一部政治家が金に目が眩み、足止めとして傭兵達を雇ったようなのだ。この中には一部高官も含まれていて・・・申し訳ない。彼らの責任は追求させてもらうが、我らでも手出し出来なかったのだ」


 どうやら、彼の言う高官の中には軍の高官が居て、エドラ達が介入出来ない様に更に上から介入していたのだろう。アルトの問い掛けに彼は嘘を吐く事もなく、なぜ見てるだけだったのか、という事を明言する。仕方がない。彼らはどうあがいても組織の一部なのだ。上からの命令には逆らえない。


「それで? 国王陛下とやらの謝罪はどうなっているんだ?」

「少し待ってくれ・・・ああ。ちっ・・・申し訳ない・・・もうしばらく待ってくれ。どうにもあちらにも手が回っているらしく・・・」

「はぁ・・・」


 本当に泣きそうな顔で、政府の高官がカイトの問い掛けに頭を下げる。仕方がない。目の前にいるのは全員が英雄やそれに比する奴らなのだ。

 だというのに、失態を晒している挙句に自らの目の前で待たせるのだ。ということで、全員がほぼ同時に彼の面子の為にも、立ち上がった。


「? どうした?」

「挨拶は後で書面にしてくれ。そっちの面子が関わるだろ? 今回は無かった事にしておくよ」

「・・・かたじけない。必ず、イギリスと日本政府には国王陛下直々の感謝と謝罪の言葉を綴った親書を送らせて貰う。都合が付けば、首相直々に手渡す事も・・・貴殿らの足はすぐに外に用意させる。そのまま行ってくれ」

「???」


 一人エドラという女性のみが、このやり取りを理解出来なかった。とは言え、説明するわけにはいかない。してはならないからだ。そうして、政府高官の言葉に従って足早に去っていこうとしたカイト達を見て、エドラがぎょっとなった。


「良いんだ。こちらの面子を考えてくれての事だ。そのままにしなさい・・・私だ。外に車を用意しろ。人数は告げているな」

「は、はぁ・・・」


 政府高官の言葉に、慌てて制止しようとしたエドラが立ち止まる。そうしてカイト達が去った後、政府高官がエドラへと告げた。


「このまま国王陛下を待っていれば、最悪は我々は道士達の内通者と取られかねない。オーディン神の状況如何に応じては、こちらが斬り殺されても文句は言えん。かと言って、国王陛下からのお言葉を邪推されたとなっては、我々も彼らも面子が立たない。ここで待つ間にも、敵は動いているのだ・・・感謝の時間が惜しい、とここには来なかった事にして立ち去った事にするのが、一番良い落とし所なのだ」


 さすがは、神話に残る英雄達。政府高官は改めて全員に畏敬の念を抱く。これを全員が見抜いていたのだ。そうして、彼は内線を手に取った。常には政治に興味のなさそうなフェルグスさえも、だ。これが、英雄と語られる者達の実力だった。


「ああ、私だ。彼らはもう行った。邪魔をしている者達にもう無駄だ、と告げておけ・・・告げる必要も無いのだろうが」

『わかりました』


 どうせどこかで盗聴されているので、彼は最後にそう言い含める。そして現にそうだろう。彼がそう告げた5分後には、このままでは拙い、と思ったらしい首相とほぼ同時に国王へと連絡が着いた。


『そうかね』

『そうか・・・ふぅ。察しの良い連中で助かった』

「ええ。足止めされている事を告げると、即座に無かった事にしてくださいました」


 三者三様に汗を拭い、察しの良い彼らの応対に感謝を抱く。それも無しに彼らの面子を立ててくれた事は、彼らとしても非常に好感が持てる事だった。

 ここらは道士達とカイト達の方針の差、という所だろう。まあ、それを見越してカイトもアルトもやっていたし、スカサハに頼んでフェルグス達にも注意していた。それを失念していればこそ、フェルグスはお説教を受けたのである。

 片方がこちらの面子を立てて、もう片方が面子を潰す様な行動をするのだ。どちらに付きたいか、というのは誰でも理解出来た。後は個人の欲望にどれだけ忠実か、というレベルだろう。


「どうしますか?」

『今回の一件だけで決められるわけではないが・・・少なくとも、好感は持てる。後は政情次第、と言うところか』

「私の頑張り次第、ということですね」

『そうだな。君が勝てば我々はアメリカ側に付き、今回邪魔をした彼らが勝てば、中国側に付く。頑張ってくれたまえよ』


 首相の言葉に、政府高官が頭を下げる。今回、彼が来たのは偶然にも近くに居た事もあったが、同時に彼がアメリカ側に付いて多数派工作を行っていたからでもあった。予定を変更して、急遽空港にまでやって来たのである。

 努めて下手に出ていたのも、これから付こうとする陣営の幹部――カイトとアルト――になんとか悪く思われない様にするための行動だった。そうして、そんな彼は再び議会に戻り、多数派工作に勤しむ事になるのだった。




 さて、その一方のカイト達は、というと空港の外に用意されていた黒塗りの車に乗り込んでいた。


「へー。Sクラスか。ドイツの車だな。どこかの私有物なんだろうな、これは・・・それとも、万が一に秘匿してる隠し資産、ってところか」

「ドイツ・・・確かガリアのあたりか?」

「ああ。今ではドイツと名乗り、自動車の一大生産地として有名だ」

「ほぅ・・・が、動くのか、こんなものが?」


 フェルグスの言葉に、フェルディアもフィンもディルムッドも全員が訝しげに頷く。この全員、常識は西暦800年前後で停止しているのだ。せいぜいどこまで進んでいても中世ヨーロッパが限度。一応飛行機や自動車は知っていても、見たことはないのだ。疑うのも無理はない。


「良いから、乗ってみろ。運転は前に座ってる人がやってくれる。座ってれば、すぐに到着する」

「ふむ・・・走ってはいかんのか?」


 カイトの言葉に、フェルグスが首を傾げる。周囲を見回しても、自分で走った方が速そう――そして事実速い――なのだ。無理もない。


「誰か走ってる人いるか?」

「・・・戦車の様なものか? それなら、わからんでもないが・・・」

「フェルグス。仕方がない。我らにも身分という物がある。乗る事にしよう」

「・・・はぁ・・・走った方が速そうに思うんだがなぁ・・・」


 どこか釈然としない物を感じつつも、フェルグスはフィンの言葉に応ずる。が、やはり二人共少し警戒していたのは、仕方がない事なのだろう。


「・・・狭いな。もう少し奥につめてくれ」

「ああ・・・ここに座れば良いのだな・・・」

「・・・奇妙な客だな・・・」


 警戒感満載のフェルグスらに、運転手が首を傾げる。彼は何も知らない。目的地まで送り届ける様に言われただけだ。となれば、彼らを訝しんでも仕方がないだろう。

 とは言え、仕事は送り届ける事で乗員については何も問うな、と言われていたので、何も言わないが。そうして、彼らが乗り込んだ事を受けて、カイト達も数台に分かれて車に乗り込む。

 が、そこで問題が起きた。というのも、些かこれを用意した者達が想定するよりも図体のでかい奴が二人程居て、全員は乗れなかったのだ。というわけで、その片方であるクレス――もう片方は勿論フェルグス――が運転手へと申し出た。


「・・・運転しましょう。貴方の上にはそう伝えてください」

「・・・わかりました。では、そのように。こちらが、鍵になります」

「ありがとうございます」


 上司へと確認を取って了承を受けた運転手からクレスは鍵を受け取ると、自らが運転席に座る。ケイが運転しようか、と申し出たが、クレスは意外と車の運転が好きらしくSクラスは運転した事がないと固辞したのである。運転している時の顔は少し嬉しそうだった、と助手席に座ったカイトが後に告げる。


「道はそちらにおまかせします。もしはぐれたとしても、こちらも行った事がありますので、ご心配なさらず」


 ヘラクレスが他の運転手へと告げる。そうして、ゆっくりと車が発進するのだった。



 さて、その道中なのだが、車の乗り分けは男連中と女連中で別れていた。始め勢力ごとに分けようとしたのだが、スカサハとティナ、そしてルイスの会話を聞いて、全員が逃げたのである。そしてその結果、割りを食ったのは少女騎士トリスタンと同じく少女騎士ベディヴィアであった。


「・・・何言ってるかわかる?」

「無理無理無理。無理です。理解不能です」


 トリスタンの問い掛けにベディヴィアがぶんぶんぶん、と首を振る。目の前で行われていたのは、非常に高度な魔術談義だ。

 しかも、会話の面子がえげつない。交わされる会話が普通で常識的な内容なのに、ネジが幾つかぶっ飛んでいる様に見えるという非常に不思議な現象が起きているのである。

 それはアルトもカイトもケイ達も素足で逃げ出すだろう。が、彼女らを他の車に乗せる所は無い為、彼女らの所に一緒に乗せたのである。


「なるほど。つまり世界間転移とは世界の端という概念へアクセスして、そこに門を創り出せば良いのか」

「うむ・・・その為にはまず空間を歪めて、概念的にでも世界を小さくしてやらねばならん」

「なるほど・・・その為には世界という概念にアクセス出来る程の技量がいるわけか・・・儂なら、可能か」

「うむ。お主程の実力者であれば、そしてお主程の魔術師であれば、容易くやってのけられるじゃろう」

「ふむ・・・術式を見せてもらえるか?」

「うむ、よかろう」


 ティナとスカサハは二人して、世界間転移術という非常に高度な技術についての技術的なお話を交わし合う。ここらが、数年後にカイト達が転移させられて一番苦慮している所だった。

 英雄と呼ばれる程の桁違いの魔力量と、超一流と言える程に桁違いの技術を要求されるのである。それは天桜の生徒では無理なはずだった。まあ、そもそもの使い手が超一流のティナとカイトだけで良かったのだ。それで問題は無いし、それで良かった。


「なるほど・・・天使長。御身はどうしていたんだ?」

「私か? 私はそもそも空間に囚われない一族の出だ。世界を軽く行き来出来るからな」

「ということは、やろうと思えば今でも異世界へ行けるわけ?」

「当たり前だ。そもそも私が旅をしていたのは馬鹿兄を探す為だぞ」


 モルガンの問い掛けに、ルイスが頷く。今でも彼女はバカ兄ことティナの父親のイクスフォスを探している。生きている事は確実だ、とは思っている。なにせ自分が生きているし、悪運が強い事にかけては、何より兄を信用していた。


「・・・意外とブラコン?」

「兄の癖に頼りないのが駄目なだけだ」

「兄妹仲良くていいじゃない」

「・・・ま、それもそっか」


 どう聞いても照れ隠しなセリフに、モルガンはヴィヴィアンの言葉で良しとしておく。ここで暴れられても困るのだ。そうしてその会話が終わった事を受けて、スカサハが改めて明言する。


「ふむ・・・ということは、そちらの再現は無理か」

「無理というよりも、私達も知らん。出来るから出来る。呼吸をどうやるのか、と問われて答えられる者はおるまいよ」

「ははは。それは然り・・・ふむ・・・とは言え、ティナよ。思うに少々これは未完成なのではないのか?」

「うむ。本来は何度も試作してやるつもりだったんじゃが、何分急な転移じゃったからな。未完成の物を使った」


 スカサハの問い掛けをティナが認める。カイトもティナも何度も明言していたが、カイトの地球への帰還は急な転移だ。全ての準備が整わず、必然、術式についても未完成でも使わなければならなかったのである。それ故何処か力技で突破した所も多かった。ティナには珍しく、魔術の洗練さは皆無とも言えた。


「ふむ・・・これはもらって構わんか?」

「うむ。別に使える者が使って悪い術式では無いからのう。それに、あれもエネフィアへと帰るつもりではある。であれば、使った所で文句は言うまい」

「ふむ・・・」


 スカサハはカイトの切り札と共に、こちらについても教授を依頼されていた。そこから見える物もあるか、と思い、術式を完全に脳内に焼き付ける。

 これで、彼女も世界を越えられる様になったわけだ。とは言え、このままでは流石に彼女も使いたくはない。彼女なりに完成させてからだろう。そうして、その話題が終わった所で、モルガンが提言した。


「というかさ。あのクズに対して何かお仕置き出来る魔術とか無いの?」

「それなら、儂の所でちょいと一時期的に去勢させる術式があるが?」

「あ、それちょーだい」

「ふむ。なかなかに面白そうじゃな」

「バカ弟子二号にはキャンセル方法も教えたがな」

「むぅ・・・」


 カイトの性豪っぷりは、フェルグスにも匹敵する。それをなんとか抑えられないかな、と思うティナに対して、スカサハはそこらも気に入っているので回避方法を教えていたらしい。ティナが少し口をとがらせていた。


「理解できてる?」

「「あはは・・・」」


 再度魔術談義に花を咲かせる三人の天才達と一人の妖精を横目に、ヴィヴィアンが少女騎士達へと問いかける。が、返せたのは渇いた笑いだけだ。とは言え、わからないで済ませるわけにもいかない。ちなみに、勿論ヴィヴィアンは理解出来ていない。笑顔で誤魔化されていただけだ。


「頑張ってね」

「「・・・はい」」


 二人はがっくりと肩を落としながらも、話に耳を傾ける。今回、ここに放り込まれる時にアルトから三名の話について聞ける所は聞いてこい、と命ぜられていた。

 これは彼女らを放り込む為の方便だが、それでも王命である以上聞かない道理がない。頑張って聞くしかなかったのである。そうして、少女騎士達は戦う前から知恵熱でダウンしそうになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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