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断章 第1話 出会いの物語・前日譚1

 はじめましての方は、はじめまして。本作は元々『Re-Tale』のヒロイン達の恋心の補完や『Another-Tale』という物語の補完という形で始めた物なのですが、色々風呂敷が広がっていく中で本編とは完全に独立してしまった為、こちらに再編した物です。なので特にプロローグやエピローグなどでところどころで理解しにくい所があるかと思います。

 とは言え、そこらを一部を除けば大半はこちら単独でも理解出来る様に構築されています。そこの所、ご了承をお願い致します。

 ――――切っ掛けは、些細な事で良かったんだろう。

 こう、後のソラは述懐する。これは子供達に自身の過去を語り聞かせる際に言った言葉であった。あの時は、そんな事思えなかったけどな、その顔には苦笑が浮かび、妻はそんなソラに柔和な笑みを浮かべるのであった。




「げっ、俺とカイトの出会った頃の話?」

「はい、それで。」

 ソラは問われて、かつての自分を思い出す。様々な要因から荒れていた自分にとっては、その些細な事とは、この不思議な親友との出会いであった。とは言え、やはり語るとなると、小っ恥ずかしい思い出はたくさんある。それ故、この問い掛けは出来れば、はぐらかしたかった。

「あー、やっぱ話さないとダメ?」

「えー、ソラー。ルールには従おうよー。」

 かなり興味津々と言った具合に、ユリィがソラに促した。彼女も帰ってからのカイトの行動については、興味がない筈はなかった。

「あのねぇ・・・あんたポーカーで負けたんだから、従いなさいよ。」

「いや、これオレにも関係してくるんだが・・・」

 ちびっ、と徳利からおちょこに注いだ酒を飲み干すカイト。中身はぬるめの燗で、ほぅ、と一息ついた。

「相変わらずあんたお酒好きよね。」

「風呂が命の洗濯なら、酒は命の妙薬なり、と思うな。酒は百薬の長とも言うだろ?」

 既にカイトの正体を把握している一同は、誰も彼に注意するつもりは無い。

「薬も過ぎれば毒となる、とも言うがのう。」

「ま、適量は心得ているさ。」

「で、ソラさん。一応はルールはルールですので・・・それに、私や瑞樹ちゃんでも勝ち目は薄いですし・・・」

 そう言ってちらっ、とカイトを覗き見る桜。桜も瑞樹もカード勝負はかなり強いのだが、カイト相手では、いささか分が悪かった。今回の様に勝てなくは無いのだが、ルールの関係上カイトに頼む事は出来なかったのだ。

 そのルールとは、トップが最下位に一つ命令できるというルールで、丁度桜がトップで、ソラが最下位となったのである。大した望みは無かったので、かつてから聞きたかった事を聞いてみることにしたのだ。

「まあ、私も気になりますわね。この中の地球出身者で知らないのは私、桜さん、一条先輩、妹の凛さんの4人。それに、此方の皆さんは誰もご存知無い筈ですわ。せっかく全員揃っている事ですし、聞かせていただけないでしょうか?」

「俺としては、カイトが地球でどんな事をしていたのかが気になるな。」

「んー・・・確かにお兄ちゃんの言う通りかなぁ。カイト先輩、地球に帰った時にはもう勇者だったんでしょ?」

「ああ、まあな。」

 カイトは少し、考えこむ。そうして、別に隠す事でも無いか、と考え、口を開いた。

「ソラ、メインはオレが話してやる。お前はお前しかわからない部分を補足してくれ。」

「げ、マジか?話すの?」

「お前は勝負に負けただろ?文句言うなよ・・・それと、少し長くなるな。各自、飲み物でも欲しいなら、勝手にここから取って行ってくれ。」

 そう言ってカイトは収納用に使っている異空間から、温かい飲み物が入った保温容器を取り出す。まだ、春も終わりかけとは言え、大陸でも少し北側に位置するマクスウェルではまだ夜は寒い。それ故、身体を冷やしてはいけない、と温かい物にしたのだ。

「まあ、中には色々スープとかも入ってるから、小腹が空いた、とかいう場合はそっちを取ってくれ。」

 そうして、カイトは全員が用意を整えた事を見て取った所で、語り始めた。




「おい、天音。わりぃんだけどよ・・・」

「ほら。あんまり頼りすぎるなよ?」

「お、サンキュー!マジ助かるわ!わかってるって!んじゃ、始まるまでには返すわ!」

 そう言って自席へと戻り、カイトのノートを丸写しし始めるクラスメートの男子生徒を、カイトは若干呆れながらも苦笑だけで済ませた。

「あ、あの、天音くん・・・?」

 そんなカイトに、今度はおずおずと女子生徒が話しかけ難そうに声を掛けた。

「ん?何だ?」

「あ、いえ、その・・・」

 女子生徒は若干怯えた様子を見せたが、失礼だとわかっているらしく、なんとか続けた。

「日直・・・」

 小声で言って、女子生徒は日誌をカイトに手渡す。

「あぁ、そうか、今日だったか。すまん、東雲。」

 言われたカイトは今日が日直であった事を思い出す。そうして、少し申し訳無さそうに、頭を下げた。

 カイトの所属しているクラスでは、日直は出席番号順ではなく、くじ引きでランダムに決めていた。社会人なりたての担任がなんとかクラスの交流を図ろうと苦心して考えた結果らしい。

「あ、うん。いいの。それより、ごめんなさい。」

 彼女は物静かで、根が真面目なのだ。さすがに何もしていない男子生徒相手に、怯えを見せては悪いと思ったのだろう。

「いや、謝られると逆に申し訳ないんだが・・・」

「あぅ・・・」

「ま、まあ、取り敢えず、日誌、感謝する。」

 そう言って小さく頭を下げたカイトに、東雲は少し頬を赤らめ、自席に戻っていった。

「・・・まあ、仕方がない、か。」

 少しだけ怯えられた事は残念というか傷付くと言うかなのだが、カイトはそれを仕方がないと思う。ある日、突然なのだ。自分が急変したのは。それは、僅かな変化ではない。大きな、とてつもなく大きな変化だったのだ。それ故、カイトもどうしていいのかわからず、帰還してすぐの頃はそれなりに馴染みの者とトラブルを起こしてしまった。

「まあ、それでも一週間。なんとか、か。」

 始めは昨日話していた筈の友人の事さえ、忘れてしまっていた。エネフィアでの10年は、地球時間で40年に匹敵する。肉体も精神も十数年分しか経過していないが、時間だけは、四十年分経過しているのだ。自分が何処に座っていたか、遊んでいた友の名前は何だったのかなぞ、忘れるには十分過ぎる時間と濃密な経験であった。

 辛うじて忘れなかったのは、自分の親兄弟ら近しい親戚と、忘れたくても忘れられない幼馴染の事ぐらいだった。

「まあ、仕方がない、か。」

 本当に仕方がない、カイトはそう思う。当たり前だ。昨日楽しく話していた友人が、いきなり自分達の事を忘れ、おまけに性格も別人かと思える程に急変していたのだ。自分だって不審に思うだろう。

 とは言え、その頃に比べれば、大分と不信感はなくなっていると思う。そうして、暫くの間は誰もカイトに話しかけない状況が続き、朝のホームルームの時間となる。

「あー。皆、おはよう。」

 担任の最上が入ってきて、教壇の前に立った。そうして、彼は点呼を取っていく。

「今日も三枝と小鳥遊は休み、と。しかも日直は天音、か。はぁ・・・」

 最上は誰にも聞こえない様に呟いたのだが、魔力によって強化されているカイトの聴力には、きちんと聞こえていた。そんな担任のボヤキに、カイトは申し訳なく思う。残念ながら、帰ってきた後のカイトはトラブルメーカーで、おまけに大人顔負けの見識まで有しているのだ。いや、この場合トラブルの原因は大人顔負けの見識なのだが。そんな彼に、担任が苦手意識を抱くのも、無理は無かった。

「あぁ・・・また電話しないといけないのか・・・三枝の実家苦手なんだよな・・・頼むから、家でさぼっててくれよ・・・」

 朝の朝礼の最後に行っている読書の時間の最中、彼のぼやきが再び聞こえてきた。何の因果か、このクラスには、学校でも有数の問題児が集まっていた。おまけに、その有数の問題児達は、地区でも有数の問題児であった。要は、新人の教師である彼に対して、厄介払いがなされたのである。

「どうしてこうなった・・・俺は夕陽をバックに走る様な教師生活を想像してたのに・・・」

 誰にも聞かれていないと思っているが故に、こんな発言が出来るのだろう。意外と熱血系だな、カイトは最上の呟きに、危うく吹き出しそうになる。とは言え、それは公爵として10年やってきた経験が物を言う。一切顔には出さなかった。

 そうして響く、チャイムの音。朝の読書の時間の終わりと、朝礼の終わりを告げるチャイムであった。

「よーし、終わり。じゃあ、俺は行くからな。」

 そう言って最上は教壇の後ろの教師用の椅子から立ち上がり、教室から出て行った。去り際に溜め息を吐いていたので、今から魅衣と由利の家に電話をして、事情を確認するのだろう。

「おっし!出来た!天音、サンキュな!」

「ああ、次からはしっかりやれ。」

「おーう・・・なあ、お前何時からこんな真面目になったんだ?」

 男子生徒がカイトの急変っぷりに首を傾げて訝しむ。

「お前、宿題忘れんの何時もの事だし、神楽坂に見せてもらうのが何時もの事だろ?字もこんな綺麗じゃなかったし・・・しかも、いつの間にか赤点スレスレの小テストも満点。で、逆に何時もやる気だった筈の体育はサボりまくり。喋り方も可怪しいし、別人やん、状態じゃん。」

「古いCM知ってんな・・・」

「お、お前も知ってんの!あの番組見た?」

「何を指しているかわからんぞ・・・」

 カイトは、十数年前の個性的なテレビコマーシャルを集めた動画を動画投稿サイトで見つけて見たのだが、おそらく、それでは無いだろう。

「昨日の10chだよ!あれじゃないのか?」

「ああ、オレはネットだ。昨日はテレビは見てないな。」

「何だ、マジか。っと、じゃあな。」

 そうして話している内に、チャイムが鳴る。去って行った男子生徒の背を見送り、カイトは話題を逸らす事に成功してほっとする。この年頃だ。ちょっとした話題転換をしてやれば、直ぐにそちらに食いつく。それをカイトは良く分かっていた。

「悪いな。」

 カイトは小さく、男子生徒に謝罪する。男子生徒の質問は、宿題以外はどれも答えられない物だ。

 字は公文書として他人に見られる事を考えれば、自然と綺麗になっていった。これは、もうどうやっても元に戻せない。書いた本人でさえ、昔の字を見た瞬間、きたなっ、と驚いたほどだ。しかし、どうやればそんな汚い字を書けるのかは書いた本人でさえ、一切不明である。

 小テストは、カイトの不注意だ。カイトの脳には知識に記憶を忘れない様にする魔術が掛かっており、間違えようが無い。頭の回転もかつてを遥かに上回っている。帰還して翌日に受けた小テストでは、かつての自分がテストでどの程度の点数を取っていたか覚えている筈もなく、誰かに聞くのも不自然だ、と間違える必要も感じなかったので満点を取ってしまったのだ。

 体育はもう、どうしようもない。楽しむ事も出来ない。全力なぞ以ての外だ。如何に上手く力を抑えるかに苦心せざるを得ず、一番苦手な科目となってしまった。

 これらは、全て仕方がなかった。カイトが地球に殆ど急遽に近い形で帰ってきた。その為、学校生活等をどうするか、についてはまだ対策が考えられていなかったのだ。

 帰って早々のカイトはまだ十分に地球での力の感覚が取り戻せず、また、魔力を抑えるにも、どの程度抑えれば良いのかわからなかった。その為、実はカイトは体育で一度、とんでもない失敗をしていた。

 その失敗とは、体育の授業である。授業でドッチボールをやったのだが、まだその当時、感情の抑制が十分ではなかったため、ついうっかり少しだけ熱中して本来の性格に戻り、力の抑えが少しだけ緩んでしまった。その結果、どうなったか。答えは簡単だ。一端とはいえカイトクラスの戦士が放つ覇気と魔力、その他様々な力の波動を間近で感じたクラスメート達だけでなく、その波動を感じた学校中全体が老若男女問わず、カイトに怯えてしまったのである。

 カイトに日誌を渡した東雲が未だに怯えているのも、その影響だ。彼女だけでなく、気の弱い生徒には、未だに怯えられている。そして、そんな下級生に怯えるという自分が嫌な見栄を張る先輩方には、理解不能な言いがかりで喧嘩を売られる結果となったのである。

「さて、今日は3年C組の先輩方だったな・・・」

 そうして、カイトは最近多くなった昼のお誘いを思い出し、しかし一切気負うこと無く、授業に臨むのであった。これもまた、その失敗による、一つの弊害であった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今度はこっちを読み始めます 仕事の隙間とかで読むので3ヶ月・・・かからないといいかな?まぁ本編の方は読んでるのでコツコツ読みますね
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