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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第10章 神話に語られし者達編

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断章 影の女王編 第25話 魔道書

 カイトが『影の国』に来て、丸一年が経過しつつあった。武芸に関しては凡才であるカイトであるが、別に意味で鬼才であるカイトだ。それ故、少しずつだがスカサハの個別制御は形になりつつあった。


「ほいっと」


 カイトは目の前に立ち塞がる壁をいとも容易く飛び越える。壁の高さは100メートル程。使ったのは身体強化の個別制御だ。とりあえず、カイトには訓練で、という程度であれば出来る様になっていた。

 まあ、ここまでは才能があれば大半の者が辿り着くし、先んじているフェルディアでさえ一年で辿り着いた、と言っていた。ここから先。幾つもの事を並列で処理しなければならない戦闘中に使う事が難しいのである。


「随分と腕を上げたな、カイト」

「ああ、フェルディアか。まあ、一年みっちりしごかれたからな」


 フェルディアとて基礎を怠る事はない。なにで一緒に訓練をしていたわけであるが、そうしてカイトが自らと同じように飛び越えたのを見て、称賛を送る。


「腕はどうだ?」

「まあ、なんとか、か」


 鍛錬の手を止めて、カイトはフェルディアに個別制御の出来栄えを見せる。そこにはルーン文字が浮かび、カイトの身体に張り付いていた。足の方は今の動作を見れば出来ている事がわかった。

 ちなみに、今日では一般にはラテン文字の方が古い――ラテン文字は紀元前7世紀で、ルーン文字は1世紀――と言われているが、実態としてはルーン文字も同じぐらいに古いらしい。元々は北欧の神であるオーディンが使っていた文字だという。それをスカサハが使う様になり弟子たちが師となり広めたのが、1世紀の頃らしい。


「にしても、これを一年って・・・クー・フーリンって男はどんなバケモンだったんだよ。最後一日は卒業試験、なんだろ?」

「あっははは。あれはまあ、馬鹿げた男だった。とにかく健脚を誇る男だ。と言うか、下半身が自慢、なぞと下品に笑い話を語ったぐらいだ・・・あ、今のはスカサハ様には内緒だぞ。まあ、確かにそうではある。速度と槍捌きで言えば全力のスカサハ様にも勝るとも劣るまい」


 カイトのぼやきに、フェルディアが笑って語る。彼らは敵国同士ではあったが、親友だ。最後にクー・フーリンがフェルディアを討った際には、自陣に遺体を連れ帰って丁重に埋葬していたぐらいである。


「そろそろ自信なくなってきた・・・」


 自らが世界最強だ、とは密かに勘付いているカイトであるが、流石にスカサハに比する男、との評には少し自信を無くす。

 まあ、これは流石に違う。カイトは戦士としては、スカサハを遥かに上回る。技で劣っているだけだ。戦いに勝つことと敵を殺す事は違うのだ。


「あはは・・・む?」

「あ、スカサハの姉貴」


 談笑をしていたカイトとフェルディアであるが、そこでふと誰かを探す様なスカサハと出会う。そうして向こうもこちらに気付いたようだ。歩いてきた。


「おお、おったおった」

「じゃ、姉貴。オレ、修行中なんで。ちょっと走り込み行ってくるわ」

「まあまあ、そういうでない」


 笑顔を浮かべていたスカサハから脱兎の如く逃げ出そうとしたカイトだが、<<縮地(しゅくち)>>を使われて首根っこを掴まれる。


「げぇ・・・」

「諦めろ・・・どうして貴様もフリンもそう諦めが悪いのやら・・・」

「嫌な予感しかしないからだろーが」

「奴もそう言っていたな」


 カイトの答えにフェルディアが笑う。どうやらかのクー・フーリンも同じ答えを言っていたようだ。とは言え、捕縛されたのだから、もう逃げられない。お師匠様の命令を受けるしか無い。


「で、よ。二人で少しオイフェとウタアハの所へ行って来い」

「はぁ・・・オイフェ様ですか?」

「嫁に出たとは言え、たまにはウタアハの様子を知ってやれねばならんだろう。贈り物というわけよ。一人で持ち運べるが、今度は守りに不備があるやもしれん。それで、お主らというわけよ。こんな事で人数を割く必要も無いからのう」


 スカサハが笑いながら、二人に頼んだ理由を語る。どうやら娘の事は気にかけているようだ。そう言っても実はこの贈り物もほぼ半年ぶりだ。何処まで放任主義なのか、とウタアハ嘆いて良い程だろう。


「わかりました。二両日で戻ってまいります」

「アイマム・・・」

「うむ。では行って来い」


 スカサハの言葉を受けて、カイトとフェルディアは<<七重の影の城(スカイ)>>を出る事になる。が、その時点で頭が痛かった。

 なにせ外には相も変わらず大量の『影の魔物(シャドウ)』達がワンサカ湧いているのだ。これを突っ切らねばならないのである。しかも今度は荷物を抱えたままだ。面倒にも程がある。

 なお、荷物は花束だった。しかもそこら辺に生えている草花というのではなく、バラや金魚草などきちんとバランスが整えられていて、意外とセンスが良かった。


「まあ、援護はしてやる。儂が作った道を突っ切れ。使者達はそこを通るのがいつもの常よ」

「あいよー」


 カイトは花束が折れたりしないように気を遣いつつ、スカサハの言葉に応ずる。荷物持ちは弟弟子の仕事と、とカイトが荷物を持つ事になったのだ。

 で、そんな三人は今、7つある中の一番外の城砦の上に立っていた。今回はスカサハも流石に槍を持っていた。魔術で援護は出来るのだが、効率等から言って槍の方が良いらしい。


「さて・・・では、ゆくぞ」

「はい」

「あいよー」


 スカサハの号令に、カイトとフェルディアが応ずる。そうしてそれを受けて、スカサハが少し先んじて、城壁から下りた。すると当然だが、彼女は『影の魔物(シャドウ)』の群れの中に入る事になるのだが、『影の魔物(シャドウ)』達が行動に出る前に、スカサハが動いた。


「吹き飛べ!」


 スカサハはそう言うと、槍をぶん回して自らの周囲10メートル以内の『影の魔物(シャドウ)』達を吹き飛ばす。カイト達が着陸するスペースを作ってくれたのだ。そうして、カイト達がそのスペースに着地すると同時に、スカサハは軽く槍を放り投げた。


「ふっ!」


 放り投げた槍が自らの腰程度の高さになったのを受けて、スカサハは槍の側面を蹴っ飛ばしてくるくると回転させる。そうして自らも勢いそのままに一回転して、槍の石突きを蹴っ飛ばした。彼女の得意とする<<縮地(しゅくち)>>の極みを応用した蹴りだった。

 本気ではなかったが、それでも『影の魔物(シャドウ)』にとっては過剰な攻撃力だ。なので蹴っ飛ばされた槍は進路上の『影の魔物(シャドウ)』達を吹き飛ばして、遥か彼方まで飛翔していった。


「では、行って来い。ウタアハによろしく頼むぞ」

「はい」

「行って来まーす」


 出来た道を通って、カイトとフェルディアがその場を後にする。そうして残されたスカサハだが、何時もはこのまま再び城壁に戻るのであるが、今日は少し運動したい気分だった為、その場に残った。


「まあ、ちょいと掃除はしておくことにしよう・・・来い。<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>」


 スカサハは自らの槍を呼び寄せる。それは無数の赤黒い銛の様な禍々しい槍だった。これら全てが、彼女の愛槍である<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>だった。材質は骨。『影の国』の海に住まう特殊な海獣の骨だった。

 『ゲイ・ボルグ』という武器には、無数の伝説がある。それは総じて投げれば敵を殺す、という逸話であるが、何故か効果は一定しない。突き刺せば心臓を破裂させるだの、投げれば無数の鏃を飛ばすだの、投げれば雷の速度で進む、分裂する、奇妙な軌道を描く、必中だ、だのという具合に無数にある。

 が、それも当然だ。なにせ『ゲイ・ボルグ』という武器は単独の武器の名では無いのだ。スカサハの持つ<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>は槍の集合体だった。その一つ一つが、違った効果を持つ『ゲイ・ボルグ』という武器なのである。無数の効果がある様にも見えるのは当然だった。一つの槍では無かったのだ。謂わば、槍の群体という様な感じだった。


「さて・・・では、無数の槍を使うスカサハの真髄・・・少しだけ、振るう事にしよう」


 <<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>の一つを手に取ったスカサハがふっ、と消える。そうしてその次の瞬間には、無数の『影の魔物(シャドウ)』がモヤに変わり、更に10分後にはそこら一帯の『影の魔物(シャドウ)』が消えてなくなっていたのであった。





 そんな戦いを背後に進むこと、一日。カイトとフェルディアは時間としては夜――と言っても真夜中とかではない――には危なげなくオイフェの起居する領地に辿り着いていた。

 そこは城塞都市だった。『影の魔物(シャドウ)』に取り囲まれる前には魔物が闊歩していた為、こういう造りになるのは当然なのだろう。


「オイフェ様。スカサハ様より、進物を持ってまいりました」

「ああ、フェルディア。申し訳ないな・・・む? 荷物持ちかと思えば、カイトか。貴様も苦労を掛ける」


 花束を持ったカイトの姿に気付いたオイフェがカイトに苦笑して礼を言う。一年もここで暮らしていたのだ。オイフェともウタアハとも知り合いだった。

 オイフェも女傑だが、スカサハとは違い冷静な武人、という感が強かった。まあ、今のスカサハは過去の自分を演じているだけなのだが、根っこの部分は似ているのだろう。昔から武人気質ではあった様子だ。


「何処に飾っときましょうか?」

「ふむ・・・そこに飾っておいてくれ。花瓶も頼む」

「はい」


 オイフェの言葉に従って、カイトが指定の位置に花瓶を置いて、花束を添える。言う必要は無いかもしれないが、スカサハはオイフェの分の贈り物も用意していたのであった。


「ウタアハだが・・・まあ、貴様らが人妻をこの時間帯に訪れるのは拙かろう。花束は受け取るが、明日の朝、改めて目通りすると良い。コンラ、必要は無いだろうが、客間まで案内して差し上げろ」

「わかりました」


 二人はとりあえずオイフェへの届け物を終えると、そのまま息子のコンラの案内に従って歩き始める。彼は髪の短な男だった。身長はカイトよりも少し小さいくらいだ。

 美形ではあったが残念ながら父には似なかったのか、顔立ちはオイフェに似ていた。身体つきは武人なので鍛えているため、筋肉質であった。


「久しいな、カイト。フェルディア殿もお久しぶりです」

「ああ」


 道中、コンラと二人は会話を行う。それは大半が修行に関する事だ。コンラは父クー・フーリンと同じくスカサハの弟子で、今はオイフェの国に居るがそれでも修行を怠る事は無かった。

 なので話題としては最適だっただろう。強さとしてはフェルディアより下という程度で、今の実力は弟子の中では上の方だという。とは言え、修行の話題だけが全てではなかった。事務的ではあるが、別の話もあった。


「ああ、そういえば・・・母上は忘れていたが、一つ貴殿らに持ち帰って貰いたいものがあった。近々俺が持っていくつもりだったが、ついでなので持ち帰って貰えるか?」

「ああ、承ろう」

「オレがな」

「ははは」


 応じたフェルディアに対して、カイトがため息を吐いてコンラが笑う。持ち帰るのはやはりカイトだった。彼とて兄弟子は敬うのである。


「少し寄り道するが良いか?」

「ああ・・・一体なんだ?」

「書物です。偶然この街に来た美しい褐色の旅人が持ち込んだのですが・・・」


 フェルディアの問いかけに、コンラが行き先を保管庫に変えて告げる。が、そう言われて逆に疑問が出た。何故本をわざわざ持って行ってもらおう、と考えたのがわからないのだ。


「本?」

「実に奇妙な本でして・・・古代語で書かれている事まではわかったのですが・・・まあ、見てもらった方が早いでしょう。それ故、スカサハ様に見てもらいたかったのです」


 コンラは歩きながら、事情を説明する。どうやら読めたわけではないらしい。魔道書の類なのだろう。そうして、5分程歩くと、封印の施された保管庫に辿り着く。魔道具の中には取り扱い注意の物も多い為、こうなっていたのだ。


「こちらです・・・えぇと・・・ああ、あった。これです。少々お待ちを。今、開封致します」


 コンラが持ってきたのは、金属製の箱だった。封印を施しているらしい。そうして、彼が規定の所作に従って封を開く。すると、禍々しい魔力が溢れ出てきた。


「これが、その書物です。書いてある内容はわかりませんでした」

「ふむ・・・これは古代エジプトの文字だったか・・・<<ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)>>・・・それにこれは・・・『ゴディアエ』と読むのか? 中は・・・開かんか」

「はぁ!?」


 先んじて覗き込んでいたフェルディアの言葉に、カイトが大いに目を見開く。<<ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)>>とは古代イスラエルの王にして、魔術王の名を冠したソロモンという男が書き記したとされる魔道書の総称だ。全5部からなるらしい。

 <<ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)>>の『ゴディアエ』はその中でも彼の使役した72体の使い魔達の召喚方法を書き記した書物の事だった。最も有名な一冊でもある。

 今では<<ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)>>そのものが16世紀の英語訳の写本が大英博物館に5冊残るばかりで、原本は何処かはわからない。そもそも、ソロモンが記したとされる原本が存在するのかさえ不明だった。


「知っているのか?」

「あ、あぁ・・・だが、何故こんな所に・・・? しかも、原本かそれに近い写本、だと・・・?」


 カイトは思わず絶句する。存在が疑問視されていた物が、目の前にあるのだ。本物か写本かはわからないが、古さと表紙に書かれている言語、そして表紙に刻まれた七芒星は、それが今に伝わる物よりも遥かに正確に魔術的な意味を持って記されていた。


「なんなんだ、これは?」

「あ、ああ・・・あんたらが活躍するよりも千年程前のイスラエルの王様が書き記した書物だ・・・全部で5部あるらしいんだが、実在性さえも疑問視されていた・・・いたんだが・・・これは・・・」

「つまり、これは・・・そのイスラエルの品だと・・・?」


 カイトの口ぶりに、コンラもフェルディアも意味を悟る。あまりに、ありえない。何故こんな物がこんな所に。そう言う考えが共有される。


「再度封印を施して、スカサハ様の所に持ち込むのが吉だろう。カイト。これは厳重に貴様が持っておいてくれ」

「ああ」

「俺は取り急ぎ、母にこの事を知らせてきます」

「そうしろ。コンラ。すまないが、俺達はこのままスカサハ様の所に戻る。ウタアハ殿にもよろしく伝えておいてくれ」

「わかりました」


 これはこのままにしておけない。厳重に封印する必要がある。そう考えた三人は取って返す様に保管庫を後にする。そうして、カイトとフェルディアは大急ぎでスカサハの下へ戻る事にしたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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