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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第10章 神話に語られし者達編

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断章 影の国編 第19話 狂戦士達

 フェルグスやフェルディアら『赤枝の騎士団』と同行する事になったカイトは、大鷲の愚痴を聞き流しながら彼らと共に走っていた。そうして30分程疾走した頃に、目の前に黒い海が見えてきた。


「なんだ、あれ?」

「おぉ、もう到着か。総員、戦闘よーい! 突っ切るぞ!」

「武器を取れ。あれは先の『影の魔物(シャドウ)』だ。<<七重の影の城(スカイ)>>はあれらに取り囲まれていてな。中に入るにも突破せねばならん。何、貴様の腕ならば余裕だろう」


 カイトと共に先頭を突っ走っていたフェルグスが号令を掛けて、フェルディアがカイトに用意を促す。どうやら先の影の魔物を彼らは『影の魔物(シャドウ)』と呼んでいるらしい。そんな彼らに、カイトがため息を吐いた。


「やれやれ・・・突っ切るね。攻城兵器とかで一掃とかしないのか?」

「や、出しなに全て討伐したつもり、だったんだがな。帰るまでに増えたようだ」

「おいおい・・・」


 見たところ、先ほど討伐した数千を遥かに越えた量だ。万は優に下らない。見えた所でこれなのだ。総数はどれだけなのかは全く不明だった。それ故、何処か呆れた様なフェルディアの言葉にカイトが唖然となる。

 全て討伐した、というのはおそらく事実だろう。なにせクー・フーリンさえその武勇を頼りにするフェルグスだけでなく、クー・フーリンに匹敵すると言われるフェルディア、そして神話の通りであれば、城の中にはかのスカサハまで一緒なのだ。数十万で襲って来たとしても、この程度の敵であれば軽くやってのけるだろう。


「ちなみに、今回の遠征はどの程度で?」

「一週間だな。その間にフィオナ騎士団の連中も出たはずだから、正味5日程か」


 カイトの問いかけに、再度フェルディアが答える。<<フィオナ騎士団>>とは同じくケルトの英雄フィン・マックール率いる騎士団の事で、彼ら<<赤枝の戦士団>>より300年後の戦士達だ。更にその400年後が、アルト達の活躍した時代だった。

 ちなみに、アルトの<<円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンド>>はその<<フィオナ騎士団>>をモチーフに結成されたらしい。当人が酒の話でそう語っていた。つまり、彼らは全員アルトの先輩達だった。


「わーい・・・食い放題かよ」

「良い例えだ」

「はっはは! ならば食いたいだけ食え! 総員、戦闘開始だ! 好きに戦え!」


 フェルグスは豪快に笑って、指示を下す。この程度の相手だ。誰もが油断してても勝てるし、負ければ笑い者の相手だった。連携を取るよりも、各個好き勝手に戦った方が効率が良さそうだったのである。


「さて、では貴様も好きに戦ってこい」

「どこでも良いのか?」

「ああ」

「じゃあ、裏先行って来る」

「好きにしろ。俺は左翼を貰う」


 フェルディアの返答を聞いて、カイトは速度そのままにぐっ、と身を屈める。そうして、大ジャンプで一気に城壁を超える高さにまで跳び上がると、そのまま<<空縮地(からしゅくち)>>で虚空を蹴った。裏に回る、というのは実は上から<<七重の影の城(スカイ)>>を観察する為の方便だった。


「へぇ・・・普通の街か。どうやら人と死んでも魂が実体化する様な奴が一緒に暮らすタイプの・・・っ!?」


 全速力で駆け抜けつつ街の様子を見ていたカイトだが、そこで街の中心の城のバルコニーに佇む一人の美女と視線があう。とは言え、カイトの側はまさか視線が合うとは思っていなかった為、思わず次の一歩を失敗しそうになるほどに驚いていた。

 なにせ彼の全速力の<<縮地(しゅくち)>>なのだ。普通は目視なぞ不可能だ。カイトに次ぐとされるティナやルイスでも出来ていないし、それどころか近接戦の達人であるルクスもバランタインも出来ていない。唯一、信綱だけが成し得た領域だった。つまり、それが出来るということは、彼女がそのクラスの達人だ、という事の証だった。


「あれが、『影の国』の女王スカサハ・・・『影の国』において最強と謳われる女傑か」


 視線が合ったのは一瞬だけ。こちらは知っていても向こうは知らない為、ほとんど興味を持たなかったスカサハはそのまま城内に戻るか、と思われたが、その前に一つの行動を行った。それは何処か胡乱げに何かを投げる様な動作だった。


「っ!?」


 ちっ、という音と共に通り過ぎていった『何か』に、カイトは久しぶりに顔に痛みを感じる。『何か』の正体はカイトもあまり判別出来なかった。白色の何かだ、とはわかったが、それ以上は不明だった。そして試しに触れてみると、そこからは血が流れていた。


「・・・くくく・・・あっはははは!」


 カイトが大きく笑う。顔に傷を付けられたのは、とてつもなく久しぶりの事だった。痴話喧嘩の類でなければ、それこそ大戦や厄災種、ランクSも上位の魔物を相手にした時以来だろう。そして久しぶりに戦闘中に流した自らの血を見たからか、カイトは獰猛なまま、地面に降り立つ。


「さぁ・・・ちょいと遊ぼうぜ」


 後にティナが解析した事だが、『影の魔物(シャドウ)』達は本能という物を持たないらしい。だが、その本来は本能を持たぬ『影の魔物(シャドウ)』達がカイトの圧力に押されて、後ずさる。


「さっきのフェルグス殿と良い。あっちのフェルディア殿と良い・・・どうにもここには熱くさせる戦士が多いな・・・オレも暴れるか」


 自らの血を見た上に周囲で乱舞する戦士達に影響されてか、カイトが獰猛に笑って告げる。そうして彼も彼本来の二刀を取り出して、更に圧力を増す。そうして動けぬ『影の魔物(シャドウ)』達に対して、カイトが問答無用に大斬撃を放つ。


「神陰流<<(まろばし)>>・・・<<転の重ね(まろばしのかさね)>>」


 放ったのは神陰流の<<(まろばし)>>と自らの流派の一つである蒼天一流の<<一房(ひとふさ)>>を重ねた武芸だ。それは次元さえも切り裂いて、現象としては空気の断層となって周囲の『影の魔物(シャドウ)』達を飲み込んでいく。

 そうしてそれを合図に、『影の魔物(シャドウ)』達も一斉に攻撃に入った。それは腕から漆黒の光条を放つ物だった。


「神陰流<<奈落(ならく)>>・・・<<奈落の舞(ならくのまい)>>」


 放たれた光条は全て、カイトの周囲に顕現した半透明の女達に吸い込まれて消える。これは神陰流と緋天の太刀を組み合わせた武芸だった。そうして更にカイトは技を変える。


「神陰流<<残響(ざんきょう)>>・・・残り香に酔いしれろ・・・<<艷女の舞(あでおんなのまい)>>」


 今度はこちらの番。そう言わんがばかりに、女達が刀を、薙刀を、小太刀を構える。そうして、女達が武器を振るい、無数の斬撃を放ち始める。


「まだまだ、終わらねぇよ・・・なぁ?」


 無数の斬撃に切り飛ばされる『影の魔物(シャドウ)』達を前に、カイトが獰猛な笑みを浮かべる。まだまだ全然手加減をしていた。そうしてカイトは自らも切り込む事にして、殲滅速度は更に加速することになるのだった。




 そんなカイトは当然だが、誰しもが注目していた。あれほどの技量を使いながらまるで狂戦士(ベルセルク)の様に振る舞うのだ。注目しない方が可怪しかった。


「はっははは! 見事見事! 戦場ではああいった男こそが映える! どれ、俺も本気を出そう!」

「あの暴れっぷり。フリンを思い出す・・・俺も滾ってきたな。久しぶりに本気でやろうか!」


 左右に散っていたフェルグスとフェルディアが獰猛な笑みを浮かべて、各々の持つ武器を全開放させる。そうして、片や先と同じく虹色の稲妻による大斬撃による剣舞が迸り、片や投げ槍によって無数の鏃が降り注ぎ、周囲の『影の魔物(シャドウ)』達を黒いモヤへと帰していく。そしてその三人の様子は、城砦の一番中央。城のてっぺんからよく見えていた。


「ふん。儂の前に来て澄ました顔をしておるからどのような小僧と思ったが・・・出来るではないか。そう言う顔こそが戦士には似合う」


 スカサハが非常に楽しげな笑みを浮かべて、遥か遠くのカイトに対して頷く。彼女がカイトに『何か』を投げたのは、単に気に食わなかったから、というだけだ。

 戦場だというのに若造が澄ました顔をしてさも平然と<<七重の影の城(スカイ)>>の観察なぞするのが気に入らなかったらしい。戦闘ならば戦闘に集中しろ。当たり前の事が出来ていなかった事におかんむりだったようだ。


「もう一発投げてやろうか、と思ったが・・・どれ、あの顔つきを崩すのは勿体無い。やめておこうかのう」


 スカサハは笑いながら、手に持っていた崩れた城の壁の破片を投げ捨てる。カイトに投げたのは、この城壁の破片だった。と言っても単なる小石では無く、ルーンと呼ばれる文字を即興で刻んだ物だ。

 とは言え、カイトが勇者になってからというもの、こんな単なる小石でカイトの顔に傷をつける事を成し得たのは彼女だけだった。というよりも、今後を含めて出来たのは彼女だけである。信綱でさえ、小石を投げてカイトに怪我を負わせる事は無理だろう、と笑っていた程だった。


「にしても・・・儂も鈍ったか、と思ったが、あの顔では儂もまだまだ、というだけか」


 城壁の欠片を投げ捨てたスカサハが楽しげに笑う。実は彼女はカイトの頬に傷を付けるつもりではなかった。顔面にクリーンヒットさせて血みどろにしてやるつもりで投げていた。

 だが、カイトの実力を見誤って僅かに避けられた結果が、カイトの頬に掠った、という結果である。まあ、彼女にしてもカイトにしても本気では無かったが、彼女が本気でやっていれば、狙い通りの結果を導き出せていただろう。


「どうやらフェルグスの奴は楽しい新弟子を連れ帰ったらしいな。ふふふ・・・あっはははは! どれ、儂の心の臓に届けば、『誓約(ゲッシュ)』に従い貴様にこの国をくれてやろう! 存分に振るうがよい!」


 スカサハはカイトが見込みのある新たな弟子入り希望者だと勘違いしたまま、大笑いしながら城内に戻っていく。結果なぞあれを見れば火を見るより明らかで、逐一見る必要なぞ無かったのだ。

 ちなみに、そんなスカサハの笑い声は城中どころか街中に厄災を告げる鐘として知れ渡っていた為、<<七重の影の城(スカイ)>>全域が『影の魔物(シャドウ)』襲撃とは別の意味で避難勧告が出たのであるが、それは横においておこう。




 一方、大暴走を続けるカイトに触発されて同じく暴走を始めたフェルグス達<<赤枝の戦士団>>だが、その結果、今までで最速の速度で『影の魔物(シャドウ)』達の掃討を終える。が、そうして終わってみれば、残ったのは若干の虚しさだった。


「あー・・・足んねぇ」

「些か薄味だったのが残念だな」

「あっはははは! 仕方があるまい! 俺も貴様もフェルディアもあの程度では取るに足らん! どれこれから一死合と行きたいが、城壁が開いた! この続きは城での飲み交わしで行うとしようではないか!」


 たった三人で左右翼と背面の敵を壊滅させたのであるが、敵が弱すぎた為にどうやらフラストレーションが溜まっていたらしい。

 ちなみに、三人で壊滅させた、というがあまりに三人が暴走する為、他の面々が関われなかった、という事が大きい。『アルスター物語』の主人公であるクー・フーリンも狂戦士と呼ばれる程に戦場では活躍したらしいが、その親友二人もやはり、そういう似たような性質を持っていたのだろう。


「まあ、とりあえず飲むか」

「そうだな」

「では、城に帰る事にしよう! スカサハ殿に伝令を送れ! 客人を連れ帰った、と!」


 フェルグスの指示に従い、一同は<<七重の影の城(スカイ)>>の中に入っていく。『影の魔物(シャドウ)』達が再び湧いてくる前に、ということだった。そうして中に入って安全の確保がなされると、フェルディアが街の解説を行ってくれた。


「<<七重の影の城(スカイ)>>はその名の通り、7つの城壁に覆われている。ああ、幾らなんでも全部修行場というわけではない。なにせこんな場所だからな。食物は全て城壁の内側で育てている。一番外側では魚を養殖し、牛や羊を飼っている。その更に内側では小麦と野菜を育てている。更に内側は戦士達の訓練場だ。更に内には鍛冶師達の鉱山がある。更に内側は一般の民達の住居。更に内側には研究者や文官武官達の住居が。更に内側には、あの城がある。あそこに、俺の師であるスカサハ様がいらっしゃる」


 流石にキロメートルという単位を知らない為にフェルディアは大凡の大きさを説明してくれなかったが、カイトが先ほど走った所、直系は数十キロ程度という所だった。かなり巨大な城砦だ。まあ、街を一つすっぽりと覆っているのだから、当然ではあるのだろう。

 ちなみに、そういうわけなのでカイトは秒速数キロで動いており、スカサハはそれに小石を当てたわけである。しかもその前には視線を交わし合っているのだ。どちらも馬鹿げていた。


「って、ことは、今からは戦士達の所に行くのか?」

「いや、貴様にはスカサハ様にお目通りしてもらおうと思う。貴様程の戦士だ。スカサハ様にお目通りさせないのは我らの不明として・・・まあ、その・・・なんと言えば良いか・・・後にバレた時にはボコボコにされてしまう」


 非常に言いにくそうに、困った様な顔のフェルディアが告げる。初対面の相手に問答無用に小石を投げつける事からもわかるが、どうやら非常に豪快な女傑のようだ。

 そして同時に並外れた戦士でもあるのだろう。フェルディア程の男の顔には僅かに怯えがあった。まあ、カイトをして興奮させる程の女傑だ。わからなくもない。

 そうして、カイトはそんなフェルディアと相変わらず豪快に笑うフェルグスに連れられて、<<七重の影の城(スカイ)>>の中心部であるスカサハの居城に向かう事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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