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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第9章 英国騒乱編

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断章 反撃編 第30話 オートマトン

 ついに追い詰めた英国王ジェームズの策略を詳らかにしたカイト達だが、その後の会話によって、これまでの内紛全ての一件が、彼の望み通りだった事を悟る。

 そうしてそんな彼のたっての希望により、カイトはフェイの代理として、ジェームズの代理であるイギリスの研究所が開発した約10体オートマトンと、20メートル級の巨大ゴーレム、3両の戦車と戦う事になっていた。


「あ・・・おーい! ちょいと良いかー!」


 戦いを開始するか、と思ったカイトだが、その前にふと、思った事を問いかける。一応居ない事は確認しているのだが、中に誰も居ないかどうか、と言質を取っておこうと思ったのだ。


「中、何の生命も感じねぇんだけど、これ、誰も乗ってない遠隔操作で間違いないよなー!」

『大声を出さなくても聞こえている・・・ああ、その通りだ。中には誰も乗っていない。思う存分やってくれて結構だ』


 カイトの問いかけを受けて、ハワードがしっかりと明言する。敵はカイトだ。ここで誰か乗っているとなると、彼らの倫理観が疑われる事になるだろう。

 そして幸いにして、一応は表向き第三者であるモルガンとヴィヴィアンが一緒だ。これが嘘だったとしても、彼女らが証人に立てる。問題は無い。


「さって・・・じゃあ、とりあえず・・・出方を伺う事にするか」


 こちらから出るのも良かったのだが、カイトとしても公には一切語られていない軍用オートマトンという物には興味があった。一瞬で終わらせるのでは無く、多少は長引かせて情報を得ておこうと考えたのである。と、そうしてカイトが相手の出方を伺っていると、戦車の方が動きを見せる。


「んー・・・べっつに戦車はわりかしどうでも良いんだよなー・・・」


 キュラキュラキュラとキャタピラの音を響かせながら、戦車がカイトを包囲する様に移動していく。速度は出せる最大速度、だろう。どうやら人工知能などではなく、何処か遠隔地から行動を指示している様子だ。その間は、オートマトン達も巨大ゴーレムも一切動きを見せなかった。

 そうして、移動が終わった戦車が、その大砲の照準を一斉にカイトに向ける。三方向から同時に発射するつもりのようだ。そして案の定、3両の戦車から、同時に砲弾が発射される。まあ、カイトにはこんな物は無意味なのだが。


「うーん・・・こいつら先にやらせて出方を見る、って所かな・・・いや、一応は効くかどうか試してみよう、って腹なのかもな・・・」


 砲弾の一切を常に展開している障壁で無効化して、カイトが相手方の意図を探る。カイトクラスの戦士を相手にこんな何の魔術的処理を施していない金属の塊が効かない事ぐらい、魔術を知っていれば誰でも理解出来る事なのだ。それで間違いはないだろう。


「おーい、これ、破壊してもいいのか? 戦車は無駄だぞ?」

『・・・すまん。情けないようだが、引かせて貰っても良いか?』


 避ける素振りさえ見せなかったカイトの問いかけに、ハワードが少々恥ずかしげに申し出る。壊しても良い、とは明言したが、やはり壊さずに済むのならそちらの方が彼には有り難い。議会を相手に要らぬ詭弁を弄する必要が無いからだ。


「・・・どぞ」

『かたじけない』


 少しの申し訳無さを滲ませながら、ハワードが感謝を示す。実は彼も始めから効かない事は理解していた。戦車を含めた者には無意味だ、とも説いた。

 だが今回の一件を仕組んだ際に協力を要請した軍部――特に陸軍系――のお偉方の一部から、『最新鋭の戦車の砲弾がわけもわからない力の前に無力だ、なぞあり得ない』『こんなわけもわからない輩を試す為にオートマトンを出すまでもなくミンチにしてやる』と強弁されて強引にねじ込まれてしまったのである。

 彼らとしては虎の子のオートマトンの力量を隠す為に、という名目で戦車をねじ込ませたわけであるのだが、無意味である事が分かっているお偉方からは銃弾もタダでは無いのだが、とため息を吐かれていた。


「さて・・・まあ、戦車が帰るまでは、敵さんは動かないだろうから・・・今のうちに、敵を確認しておくか・・・」


 戦車がすごすごと引っ込んでいくのを横目に見ながら、カイトは目の前で屯する大小様々なオートマトンに視線を向ける。

 形状は全て、人と同じだ。流石に純粋な物理学のみに従っている品なので、自重の問題で兵器として十分に使えるサイズは10メートル程度が限界なのだろう。

 そんな大中小のオートマトンに向けて、カイトは自らがティナに開発させた構造体の内部を見通す為の魔術を起動する。これの原理はソナーと一緒だ。それを魔術的に音波等の物理的な波を使わずに再現しているのである。


(主武器は・・・2メートル級は軽機関銃と・・・おぉ、これ、もしかして高周波ブレードってやつか? ちょっと欲しいな・・・流石に鹵獲しちゃダメか?)


 2メートル級のオートマトンの腕の中に搭載されていた刃を見て、カイトがもしや、と少しだけ興奮を滲ませる。結局カイトも少年の心を忘れていない。ロマンのある武器には心惹かれるのであった。

 ちなみに、カイトの見立ては半分正解だ。技術革新によって人型でもナイフ程度の大きさであれば、高周波ブレードと呼べるだけの切れ味を出せる様になったのである。まあ、この場合は高周波ナイフと呼ぶのが正確なのだろうが。


(5メートル級は・・・ミニガンが1門にミサイル数発・・・10メートル級は・・・左腕にはでかいガトリングが2門に、右腕に榴弾砲が1門・・・他も結構搭載されているな・・・でも、全部意味がねぇな)


 カイトは少し物悲しげに、ため息を吐いた。どれほど重火器を満載していようとも、カイトには、いや、高位の魔術師にはこんな実体弾のみの物は無駄だ。高位の魔術師は物理的攻撃そのものを無効化してくる。

 魔術的処理を施さない攻撃は、先の砲弾と一緒で核兵器とて無意味なのだ。まあ、カイトが主敵では無いとして開発していたとするのならば、かなりの重装備ではあっただろう。


「やっぱ一番警戒すべきはあのゴーレムか・・・性能はどんなモンなんだろうな・・・」


 カイトが次に見たのは、巨大なゴーレムだ。性能はわからない。地球発祥の20メートル級ゴーレムなぞ聞いたことが無いからだ。

 おそらく何処かの種族が壊滅させられた折りに、鹵獲されたのだろう。性能さえ考えなければ別だが、ここに持ってくるとなると、性能にも自信はあるのだろう。となると、人間種の魔術師だけで作れる品では無かった。


「さて・・・そろそろ、スタートか」


 戦車が隔壁の外に外側に消えたのを見て、2メートル級のオートマトン達が一様に身を屈める。動きはなめらかで、人間と見紛うばかり、だった。

 戦力の逐次投入をするつもりとは愚かと思うが、あれだけの策略を見せたジェームズがそれを把握していないとは思えない。なので意図的なのだろう、とカイトは判断する。そうして、こちらが少しの動きを見せると、オートマトン達が一気に動いた。


(・・・なるほど。人工知能じゃないな)


 オートマトン達の動きを見て、カイトは一瞬で敵の概要を悟る。このオートマトンはよく出来ている。そう、よく出来ているのだ。いや、出来過ぎていると言えた。

 だからこそ、カイトには悟れた。人工知能は残念ながら、一般的に大々的に語られる様になった10年前からさほど発展はしていない。技術の進歩が幾ら早くても、10年やそこらで進歩出来る程度は限られる。

 まかり間違っても、オートマトンに搭載して戦闘が出来る様な動きを取れるレベルには達していない。だというのに、このオートマトンはきちんと戦う為の行動を取れていた。そして同時に、それ故に、違和感もあった。


(遠く離れた場所に、遠隔で操作している者がいるな・・・軍人か)


 カイトは一瞬で敵の正体に当たりを付ける。先ほどオートマトンをのぞき見た時に見えたのは、人と同じ様な身体の構造をしている、という事だ。この身体の制作は、この時代ではそう大して難しい事では無い。そして同時に、人の動きを機械が遅れなくトレースする事も、だ。

 この二つを組み合わせて遠隔地からオートマトンを操作する技術はようやく最新鋭の医療用としてテレビで語られる程度になっていたのだが、軍用レベルではすでに実用段階に入っていたのだろう。


(だが・・・)


 残念だ、とカイトは思う。これは確かに、カイト達対魔術師戦でなければ、驚異的な兵器になっただろう。そして何時かはこういう兵器が主力となれたかもしれない。だが、これだけではダメなのだ。

 この兵器は所詮兵器だ。心が宿っていない。つまり、意思を持たない。意思を持たない者はどうあがいても、魔力を生み出す事は出来ない。魔力とは意思の力、だからだ。だからこそ、この結果は、必然だった。


「次だ」


 一瞬で、3体のオートマトンが鉄くずに変わる。カイトはその場から動く事もなく、刀を抜き放って斬撃を飛ばしたのである。その結果は、オートマトン3体は自らの高周波ナイフの射程にカイトを捉える前に細切れにされる、という呆気無い結果だった。


(やはり、順番に来るか・・・魔術師に有用な対策を考えているのか)


 次に動いた5メートル級のオートマトンを見て、カイトが推測を立てる。動きは同じだ。おそらく操縦者が同じなのだろう。情報の露呈を避ける為に開発の人員を最小限にしているのだ、とカイトは判断した。


(恐ろしい男だ・・・二枚舌でこれは単なるケジメに見せかけて、ここまで見通したか・・・)


 5メートル級を相手にしながら、カイトはここまでを読んでいただろうジェームズに改めて畏怖を覚える。年老いては居るが、彼はアメリカ大統領であるジャクソンと同じく厄介な相手だ、と認められる男だった。これはカイトの戦闘データを取るという、二枚舌どころか三枚舌の作戦、だったのである。

 まあ、そんな策を打てるジェームズだが、カイトにとって幸いな事は彼はもう老齢だ、という所だろう。第三次世界大戦から少しで、彼の寿命は尽きる。おそらく復興を見届けた所が関の山だろう。

 これは彼が人間である以上、どれだけ頑張っても避けられない事だ。第三次世界大戦後の世界で彼が辣腕を振るってくる事は無いだろう。


「次」


 そんな思考を巡らせている間に、戦いが終わる。5メートル級のオートマトンは先の2メートル級に比べて、あっけなかった。図体が中途半端な大きさの所為で出力が限られて火力は中途半端だし、機動性も中途半端だった。

 対戦車戦や対人戦を器用にこなせる事を考えれば通常兵器を相手にはこのサイズが最も取り回し等が良いのだろうが、魔術師相手には逆に相性が悪いサイズだ。機動性も火力も装甲も全てが足りていない。


「最後は・・・デカブツか」


 5メートル級が破壊されたのを受けて、ゆっくりと10メートル級のオートマトンが動き始める。このサイズにはカイトも純粋に興味があった。というわけで、今回は一度攻撃を受けて見るつもり、だった。


(こいつはでかい高周波ブレードを積んでるな・・・このサイズなら、純粋な科学だけでも実用化出来るか)


 どうやら高周波ブレードを積んでいなかったのは、5メートル級だけのようだ。やはり中途半端なサイズが災いして、使えるレベルのサイズには抑えられなかったのだろう。

 まあ、それでもあの大きさで殴られれば人は死ぬし、機体の各所にジェット・エンジンでも搭載すれば戦車でも押せ返せるだろう。やりようによってはひっくり返す事も出来るかもしれない。要改良、という所だろう。


「うお・・・やっぱ10メートルの巨体って何時見てもでかいな・・・」


 ずしん、という音を響かせながら、3機ある内の中央の10メートル級オートマトンが歩き始める。流石にこれだけの数が2メートルも無い人に同時に近接戦を挑めるはずがない。なので一対一で他2機は援護を、という事だろう。

 他の2機はカイトに向けて榴弾砲を向けて腰を落としていた。と、次の瞬間、横の2機の頭部右側の部分から、搭載されていたガトリングが火を吹いた。


「おぉ! やっぱバルカン砲ってやつか! 設計者、わかってんな!」


 頭部のユニットから発射されるガトリングを見て、カイトが少し興奮する。某アニメの主人公機にはお馴染みの兵装だった。

 ちなみに、バルカン砲とはガトリング砲の製品名の一つなので、正確にはガトリング砲全般を指す事が無いと言うことを注意しておく。更に念を入れておくと、このオートマトンに搭載されているガトリング砲はバルカン砲ではない。


「うーん・・・材料ありゃやっぱ大型魔導鎧作って貰ってもいいかもなー」


 ガトリングは誰が考えてもめくらましと牽制だ。その間に中央のオートマトンがカイトに肉薄する為に、動かさない様に牽制しているのである。


「っ」


 カイトの顔が僅かに歪む。10メートル級オートマトンはカイトまである程度の距離になると、いきなり駈け出したのだ。当たり前だが、大きくなればその分、一歩の歩幅も長くなる。それを使っての走力は、当然、高くても2メートルほどの人とは比べ物にはならない。自動車にも及ばんとしていた。

 そうして、カイトを僅かに驚かせた10メートル級オートマトンは、カイトに肉薄すると同時にその図体に見合った巨大な腕を振り下ろした。


「ほう・・・なかなかな強度だな。自分の全力の一撃でも耐え切るか」


 巨大な腕の振り下ろしは、カイトの前で停止していた。障壁によって拒まれたのである。そうして10メートル級オートマトンはそれを受けて、頭部ガトリングを吹かせながら後退していく。


「一応は損傷を慮ったわけか・・・」


 一応破損はしておらず戦えないとは思えなかったが、それでも機体になんらかの疲労が溜まっている可能性はある。万が一を考慮したのは悪い事ではないだろうし、カイトもそれを認めて、撤退を許す。そうして、カイトは次は左と右のどちらが動くかを、注視する。


「左か」


 中央の機体の後退と同時に、カイトから見て左側のオートマトンが立ち上がっているのが見えた。そうして、左側のオートマトンは頭部のガトリングではなく左腕に設置された大型のガトリング砲を撃ちながら、歩き始める。


「おいおい・・・オレは兵装試験の的か」


 見ようによっては自らを的にした巨大オートマトンの性能評価試験にも見えた様子に、カイトが苦笑気味に笑う。ガトリング砲を幾ら撃とうとも無駄だ。それをお互いに分かっている以上、普通の人程度の大きさにどの程度の命中率を、と確認しているとも思えたのである。

 そうして、10メートル級オートマトンは先程中央の一体が駆け抜けたと同じほどの距離になると、左腕に取り付けられたガトリング砲を停止して、こちらも駈け出した。


(高周波ブレードが来るか!)


 先ほどと同じ攻撃が来るとは思えない。ならば、内装されている高周波ブレードを抜き放つのだろう、とカイトは予想する。

 そして、その予想は正しく、両者の距離が10メートル級オートマトンで後一歩の所にまで接近すると、機体内部の格納部位からオートマトンの手のひらほどの高周波ブレードを抜き放った。


「・・・外した? いや、外れたのか」


 が、その攻撃は、カイトの真横を通過する。外したのか、とカイトは始め思ったが、何か違うと思った。オートマトンの操縦者らしい者の舌打ちが今にも聞こえそうな様だったのである。


(なるほど。調整は完璧じゃあないな・・・)


 敵の搭載している武器の中で見たい物はほぼ見終えた。そうしてこちらの動きが無いのをいい事に更にもう一度振るわれる高周波ブレードを、カイトは刀を使って防いでみせる。


(っ・・・ちょい重いな・・・)


 カイトが僅かに、顔を顰める。やはり重さは脅威だ。この大きさであれば、低練度の魔術師相手には驚異的だ。そういう対魔術師を考えて欲を言えばもう少し、できれば15メートル強は欲しい所、だった。

 逆にこれ以上、例えば50メートル級などになると、人間を相手に使うとすると一気にそのサイズが無駄になる。ここまでの大きさを必要とするのは、茨木童子達ぐらいな物だろう。カイトやティナ、ルイスの三人にはどれだけ大きさがあろうとも無駄だ。


(が・・・今の技術では、10メートル級が限度、か・・・やはり重力場技術は進めざるを得ん、か)


 数合10メートル級オートマトンと刃を交えて、カイトは足りない物を把握する。根本的に、全てのオートマトンに機動性が足りていなかった。火力は敵を考えて、という所だろう。


「出し物は終わりか?」


 カイトは不敵に笑みを浮かべながら、少しだけ怯えを見せるオートマトンを窺い見る。搭乗者はどうやらオートマトンに絶対とまではいかないだろうが、それなりの自信を持っていたようだ。全く効かず、焦っているのがオートマトン越しにでも感じられた。


「なら、終わりだ・・・流石にそのデカさは厄介だな。少々、おおぶりに行くか」


 カイトは終了を宣告すると、刀を腰だめに構える。一気に居合い斬りで勝負をつけるつもりだった。そうして、カイトが刀を抜き放ち、10メートル級オートマトンを一刀両断してみせる。こうして、イギリスの誇る最新鋭のオートマトン9機は、全て単なる鉄くずに成り下がったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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