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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第9章 英国騒乱編

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断章 反撃編 第29話 英国の王

 バッキンガム宮殿に乗り込んだカイト達は、地下の最も強固な部屋に座していた英国王ジェームズの下までたどり着いたものの、ちょっとしたカイトの享楽から、御茶会となることになる。


「・・・ほぅ」

「分かるかね?」

「ああ、良い紅茶だ・・・が、既成の物のどれとも違う・・・これは飲んだことが無いな。気品高い味だ」

「見事だ。君は良い舌を持っているねぇ・・・君とは今後も良い関係が築けそうだ」


 感心し納得した様なカイトの感想を聞いて、英国王が満足気に頷く。と、言うのも、これは彼が懇意にしている歴史ある紅茶メーカーにワガママを言って独自に作らせている物だったのである。

 飲んだことが無いと言ったカイトの答えはまさに正解だった。これが振る舞われるのは、彼の前でだけ、だからだ。


「ほう・・・オレは敵に回っているが?」

「それも君が故あってだろう? この戦いが終われば、君は私の協力者となってくれる。違うかね?」

「ふふ・・・ああ、明言しよう。この戦いが終わった時、オレは再び中立に戻ろう」


 どうやらジェームズも今回カイトが参戦した裏はアルトからの依頼で、そのアルトの依頼にしてもこれはアルトがランスロットとモルドレッドに花を持たせる為だ、と理解していたようだ。なのでジェームズはカイトには敵意が無かった。


「まあ、とは言え・・・これでチェックメイト、とは言ってくれないだろうな」

「然り、だよ。折角の出し物だ。存分に楽しんでもらうつもりだ」


 カイトの言葉に、ジェームズが優雅に微笑んで、机に備え付けられていたスイッチを押し込む。


「この出し物に君が勝てば、私のチェック・メイト。負ければ、フェイ君のチェック・メイト。どうだね? それで行こうじゃないか」


 がこん、という音と共に緩やかに下降を始めた部屋の中で、ジェームズがフェイに提案する。


「このままブルーにあんたをぶん殴ってもらう、ってのもアリじゃないかい?」

「相変わらず君は優雅じゃないねぇ・・・そう言うところが、私は嫌いだった。ここまでで排除できれば、と思ったんだけどねぇ・・・」

「あんたのその優雅さたっぷりの態度が、私は鼻に付くんだけどねぇ・・・」


 どうやらお互いに性格的な相性は悪いらしい。ジェームズの声音の中には少しだけ、敵意が滲んでいた。まあここまで明白に正反対の性格であれば、仕方がないのだろう。


「どちらにせよ、今回の一件はもうお互いに他人を交えた代理戦争に近い。いいさ、そっちも切り札を切る時間をくれてやる。そのために、わざわざこの部屋で出迎えたんだろ?」

「わかってくれて嬉しいよ、フェイ君。君の理解度の良さだけは、私は唯一好感を持つ所だ」


 お互いに相性は悪いが、お互いに長い付き合いだ。考えている事は分かる。この部屋の存在は知っていたが、実はフェイはこの部屋が動く事は知らなかった。そして移動した先に、隠し通路が無いとは思えない。

 もしこれを使われていれば、フェイは永遠にジェームズを見つけられなかっただろう。逃げられるからだ。そうなれば、彼女の負けだ。だというのにこちらを待ち構えていた以上、何らかの狙いがあるはず、だったのである。

 それに、何時までもバッキンガム宮殿を制圧することはフェイ達には出来ないのだ。民草への影響を考えて、降伏を願い出るしかなかった。今回の戦いは実は、タイムリミット制の戦いだったのである。

 とは言え、ここまで来た事で、その時間は少しだけ、余裕が生まれる。というわけで、フェイはそれを利用して、何故今回の一件を起こしたのか、という事を問いかける事にした。


「さて・・・じゃあ、聞かせな。なんでわざわざ事を起こした?」

「ふむ・・・君は思わないのかね? 一つの国に二つの王家。なんとも歪では無いか。今後を考えれば、統一は必要な事、だろうからねぇ・・・」

「そりゃあね。私も認めるよ。時々、何故エリザベス一世はわざわざ裏にも王家を置いたのか、ってね」


 ジェームズの言葉に、フェイも同意する。どうやらジェームズは真実、英国王としてイギリスを思っての事だったらしい。嘘も無く、こちらに対して事を起こした理由を白状する。


「なんというか・・・ほんとーに、あのクズがすいませんでした・・・」


 そんな二人に対して、モルガンが済まなそうに頭を下げる。そもそもの根本的な原因は、と問われると、それは誰もが究極的にはオベロンだ、と明言するだろう。そしてオベロンは、モルガンの父親だ。娘として、父親の愚行を申し訳なく思ったわけである。

 彼に引っ掛かった結果が、エリザベス一世の未婚に繋がったのだ。それが無ければ、エリザベス一世は結婚して子供を生み、その子が裏と表を統べる英国王になっていただろう。


「い、いや・・・流石に私もフェイ君も、そして我が英国もモルガン殿に謝って頂かなくても大丈夫だよ」


 モルガンの謝罪を受けて、ジェームズが少し苦笑気味に首を振る。まさかこんな風に謝罪を受けるとは少々予想外だったらしい。そうして、ジェームズは少し咳払いをして、話を続ける事にした。


「ん、んん・・・まあ、それでねぇ・・・このまま行けば、大戦は近い。私だってそれは理解しているからねぇ・・・裏を潰してしまおう、と考えたわけだよ」

「強引だねぇ・・・そもそも裏は予備じゃないか。それも表が不意に何らかの事情で壊滅した場合の、だ。わざわざ予備を潰そう、ってのは、少々感心しないね」


 やれやれ、とフェイが呆れ気味に首を振る。これは明確な事実、だった。一応はフェイとジェームズは対等な立場だが、権威はフェイ達が上であるのに対して、役割としては、ジェームズ達が上だ。そこは住み分けだった。


「あはは。それは分かっているとも。でもねぇ・・・やはり、この間の一件を見ても分かるだろう? お互いにやり方が少々違うからねぇ・・・どちらかに統一を、と考えたわけだよ」


 この間の一件。それはおそらく、中国でのフィルマ一家の一件の事だろう。何故なのか、というのは理解出来ないが、ジェームズのこの様子であれば、わざと漏洩させたと見るのが妥当だろう。


「あれ、か・・・まあ、分からないでもない」

「まあ、あれはこちらとしても申し訳なくは思うけどねぇ・・・ああいった事が起こり得るから、統一を、というわけだよ」

「どうしても、裏と表に分けている以上、軋轢は生まれてしまう、か」

「そういうこと、なんだよねぇ・・・」


 二人はお互いにどうしようもない所で起きる軋轢に、同時にため息を吐いた。二人はお互いに認める通り、仲は悪い。しかし、足の引っ張り合いはしたことが無かった。

 二人共イギリスという国家を第一に動いている。つまりは、仲が悪かろうとも、お互いに国家の不利益になり得る引っ張り合いはしないのだ。あの時はそれが自分たちのあずかり知らない所で起きてしまった、という事だった。


「それで、この一件、ということか」

「そういうことだよ」


 全てを納得した様子のフェイに、ジェームズが認める。だが、それにカイトはぞっと背筋を凍らせる。今のこの場合、どう転んでもジェームズの勝ちだったのだ。

 しかも彼の身の安全は絶対的に保証されている。恐ろしいまでに、よく練られた策略だった。そうして、そんなカイトの表情を見て、ジェームズが機嫌よく笑う。


「気付いてくれたようだねぇ」

「認めよう。貴方は、オレが敬うべき相手だ・・・この戦い。オレが勝っても負けても、戦略的には貴方の勝ちだ。いや、英国の勝ちと言える」

「あはは。二枚舌の本場、味わってもらえたようで嬉しいねぇ」

「どういうこと?」


 どうやらヴィヴィアンは二人の会話の内容が理解出来なかったらしい。首を傾げて、カイトに問いかける。ちなみに、モルガンは理解出来ていた。曲がりなりにも彼女も為政者だ。政治面ではヴィヴィアンよりも秀でていた。


「ん? えーっと・・・もしこの次の代理戦闘。オレが勝ったとすると、どうなる?」

「え? えっと・・・ジェームズ王はとりあえず、責任を取って殺される?」

「外れ。彼は殺せない。英国首脳陣も当然、だ。今から数日後には、ロスで調印式だ。今の時点でもし英国王か首相の訃報となれば、英国はどうなる?」

「あ・・・」


 問われて、ヴィヴィアンも気付く。英国王もイギリスの首相も言うまでもなく、イギリスでは最重要人物の一人だ。そんな人物の死去だ。イギリス首相だけでなく、この間にイギリスに関わる大半の国の外交日程は大半が取りやめになるだろう。

 となれば、折角纏まった調印式もお流れになりかねない。それはフェイもカイトも望まない。なにせただでさえ各国共にかなり強引にまとめたのだ。ここでもしお流れになり別日を、となると、反対勢力に盛り返されないのだ。このまま強引に一気に決めるしかない。

 であれば、今回の首謀者はフェイ達側からすれば心苦しいが、誰も捕らえてはならないのだ。そうして、気付いた様子のヴィヴィアンに、カイトが続けた。


「が・・・当然、内紛を起こして負けたんだ。結果として、敗者の勝者への影響力は一気に失われて、逆に勝者の影響力が一気に高まる。となれば・・・彼らは当分の間、それこそ少なくとも第三次世界大戦後までは、フェイ達の傀儡に堕ちるしかない・・・これは逆に言えば、裏が主導権を握ったに等しい。はてさて・・・これではジェームズ陛下の望まれた通りの結末だ。勝っても負けても、彼の望みは達成される。究極的には、フェイの身柄なんぞどうでも良いわけだ」

「なるほど。うん、理解したよ。ありがとう」


 カイトの解説を聞いて、ヴィヴィアンもすとん、と腑に落ちたらしい。まさに、動く時には完璧に目的を達成する、と言われる彼の前評判通りの見事な策略だった。

 だが、これで終わりでは無かった。それに、ヴィヴィアンは気付いていなかった。なので、カイトは少しイタズラっぽい笑みで、彼女に問いかける。


「本当に?」

「え?」

「本当に、これで終わりかな?」

「どういう・・・こと?」


 カイトの顔に、ヴィヴィアンが混乱を浮かべる。これで終わりのはず、だったのだ。だが、カイトの笑みは話がまだ続いている事を示していた。と、そんなヴィヴィアンに対して、モルガンが口を開く。


「簡単よ。これは同時に、『show the flag』ということよ」

「旗手を鮮明にしろ? どういうこと?」

「ねえ、ヴィヴィ。今ジャック達が抑えているのは、何処の軍?」

「アメリカの兵隊さん、だね。彼らもそうだけど」


 カイトの耳に取り付けたヘッドセットからの連絡が確かであるのなら、最後にジャックは在英米軍が表に出てきた、と報告してきていた。それを受けての台詞だった。


「今、イギリス・・・いえ、表の政府はアメリカに莫大な借りを作った。利益を供与し合った聖ヨハネ騎士団とは別に、ね。外交は信頼関係が大事。裏切れば国としての信頼を失う。でも同じぐらいに、貸し借りの勘定も大事なの。獅子身中の虫を退治するには、丁度良い言い訳じゃない? そうなれば、表側も大手を振って、海洋国家としてアメリカの御旗の下に参戦出来る」

「さすがはモルガン殿。そこまで把握されていらっしゃるか」


 ジェームズが、モルガンの解説に優雅に拍手を送る。全て、その通りだった。イギリスの首相であるハワードは確かに、明言した。アメリカとの同盟関係には一切影響は与えない、と。

 まさにそうだ。借りを作った以上、それもこれが多大な恩である以上、フェイもジェームズも多少はアメリカの面子を立てる必要がある。

 借りがあるからアメリカの旗の下に従う、という内向けの宣言が出来るのである。これは同時に身体の中に巣食う敵の傀儡を一掃する為の方便でもあったのだ。


「すごいね、政治家って」

「いやはや。湖の乙女殿にまで称賛されるとは・・・長生きしている甲斐があるねぇ」

「・・・だからあんたは嫌いなんだよ・・・」


 ヴィヴィアンから向けられる掛け値なしの称賛に素の表情で照れを見せるジェームズに、フェイが身をすくませる。

 フェイもこれが半ば内向けの意図を持つ物だろう、とまでは見抜いていた。だが、流石にその先までは、フェイも見えていなかった。やはり表として外交に携わるが故の経験の差、なのだろう。


「あはは・・・まあ、そういうわけでだねぇ・・・フェイ君。もう今さらだ。君は生かして置く事にしよう。というわけで、私が負けても、殺そうとは思ってくれないでくれよ」

「さっきの解説聞いておきながら、言うんじゃないっての・・・」


 敢えて明言したジェームズに、フェイが顔を顰める。ここらが相性が悪いのだろう。と、そうして解説が一段落ついた所で、移動が停止した。


「さて・・・ここはバッキンガムの地下300メートル。もともとは大空洞があった場所、だよ・・・っと、言っても外からのブルー君にはわからないだろうけどねぇ。まあ、それを使って、隠しておきたい兵器の開発を行う所、と思ってもらえれば結構だよ」


 部屋の移動が停止すると同時に、ジェームズが立ち上がってカイトに告げる。そうして、彼の後ろにあった壁が、ゆるやかに下降していく。


「さて・・・君に戦ってもらうのは、この先の兵器達だよ」

「・・・これは・・・」


 壁が降りた先にあったのは、一つの巨大な部屋、だった。空洞を全て使った兵器の試験場、という所だろう。おそらく、何処からかここに通ずる通路があり、完全に外には出さずに試験が出来る様にしているのだろう。

 そしてそんな巨大な部屋にあったのは、20メートルほどの巨大な金属製の人型、だった。それは、カイトには馴染みがある物だった。


「ふふふ。古いゴーレムを回収して改修してねぇ。それを、持って来たわけだよ。まあ、これだけじゃあ、無いけどねぇ・・・ハワード君。出してくれたまえ」

『はい、陛下』


 ジェームズの求めを受けて、何処かに居るらしいハワードが行動に移る。すると、部屋の隔壁が開いて、3両の戦車と共に、10体ほどの大小様々な人型が出てきた。こちらは、カイトには馴染みが無かった。


「戦車は見たら分かるだろうね。あっちはオートマトン、という物らしいねぇ・・・まあ、詳しくは知らないんだけどもねぇ」

「これと、戦え、と?」

「そういうことになるねぇ」


 カイトの言葉に、ジェームズが椅子の向きを逆転させて、試験場が見える様にして座る。観戦するつもり、なのだろう。


「わかった。ヴィヴィとモルガンは念のために残していくぞ」

「正しい判断だよ」


 カイトの申し出を、ジェームズが受け入れる。当たり前だが、今までの全ての言葉が嘘の可能性は残っているのだ。ならば、カイトが離れたのを好機と取ってフェイに攻撃を仕掛けられる可能性は無いでは無い。それを考えれば、カイトの申し出は当然の物だった。


「さって・・・敵は20メートル級のゴーレム一体に、10メートル級のオートマトン3体、5メートル級のオートマトン3体、2メートル級のオートマトン3体、と・・・まあ、戦車は数に入れる必要も無し、と・・・適当にあしらうか」


 どうせ警戒するに値しない敵だ。なのでカイトは気軽に肩を回すと、少しだけ屈伸をする。そうして、カイトは最後の戦いを、開始するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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