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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第9章 英国騒乱編

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断章 御門一門編 第9話 師事

 総司が京都で修行をしていた頃。当然だが、他の面子もまた、各々の里で修行を積んでいた。


『遅い遅い。そのような速度ではハエが止まる』


 森の中に、笑い声が響き渡る。それに、涼太が翻弄される。彼の目の前には、無数の鎌を持ったイタチの獣人の残像が生み出されていた。


『ほれ、速さには自信があるのだろう? どれが本物なのか、見切ってみせい』

「ちょ、んな無茶な・・・」


 自信満々で挑んだ涼太だが、まあ、その結果が、このザマ、だった。


「ほれ、終わり」

「ぐふ・・・」


 後ろからそっと手を添えられて涼太が意識を失う。


「まだまだよなぁ・・・」


 鎌を持ったイタチの獣人とはまた別のイタチの獣人が、呆れ顔で首を振る。こちらが、涼太のお師匠様、というところだった。

 ちなみに、速さに自信、というのははじめて会った際に涼太が言っていた言葉だ。至極当然というかなんというか、今では涼太は使っていない。

 それどころか口が裂けても言えない。彼らの方が、圧倒的に速過ぎるからだ。というわけで、自信満々に告げた涼太に向けて、彼らがおちょくるのに使っている。


「と、言うわけで、だ・・・速さを極めたいのなら、<<縮地(しゅくち)>>は確実に覚えるべき、よな」


 涼太の師匠が、目覚めた涼太に対して告げる。が、今見せられた物を思い出して、思い切り、涼太が顔を顰めた。


「いや、それ・・・人間に出来るんっすか?」

「いや、そもそも貴様が人間なのか、というのも疑問、よな」

「うぐっ・・・」


 師匠の呆れた様な言葉に、涼太がおもわず口ごもる。如何に国の力を使ったとしても、天涯孤独の上に隠れて出産したりが多い異族達だ。調査が終わり確定するのは早くても年が明けて4月頃だろう、という事が、夏に一同には伝えられていた。


「まあ、人間でなければなんなのだ、という所よな」

「まあ、そうっちゃそうなんっすけど・・・」


 人間でなければ何かまずいのか、と問われれば、涼太も答えにくい。まさか異族達の前でダメとも言いがたいし、実際今の様に出会って接してみれば、一部に人間と違う性質を持つ者がいるだけで、殆ど中身は人と変わらない。何がダメなのか、と言われても首を傾げるしかなかった。


「まあ、どちらにせよ・・・とりあえずは、<<縮地(しゅくち)>>を覚えてから、の話よな。それが出来なければ、次にも進めん」

「うっす!」


 涼太は立ち上がって、気合を入れなおす。そうして、彼の方では総司より先んじる事約3ヶ月で、<<縮地(しゅくち)>>の練習を始める事になるのだった。





 所変わって、中国地方の山奥。そこでは、和平が大柄な異族を相手に、力比べを行っていた。異族の身体は1メートル90センチはあろうかというほどの巨躯を誇る和平よりも更に大柄だった。


「ふん!」

「ぬるいわ!」


 気合を入れて力を込めた和平に対して、大柄な異族が意図も簡単に押し返す。力だけではなく、技まで備わった見事な力の使い方、だった。


「ぐぅ・・・」


 為す術もなく投げ飛ばされた和平は、そのまま背中から地面に激突してそのまま立ち上がることもなく、息を切らせる。始めは立ち上がる力があった和平だが、それも二桁を数える頃からは少しの時間を必要として、30を超える頃には立ち上がるのも一苦労、だった。


「百戦ぐらい一日に出来る、と豪語しておったのは何処の誰だったか・・・」

「ぐぅ・・・」


 大柄な異族の言葉に、和平の柄では無いのだが、それでも思わず和平は少し昔の自分をはっ倒したい気分になった。

 彼本来の師匠からこの大柄な異族の所に連れて来られた時には力比べ程度ならば百戦でもやってやる、と意気込んだわけなのだが、弟子入りして数カ月後の今でさえ、50を超えられた事は一度も無かった。40を超えた所で、疲れた様に眠るのが、彼の常であった。と、そんな過去の自分をはじていた和平の所に、一人のスーツ姿の男がやって来た。


「どうだ?」

「おぉ、神野悪五郎(しんのあくごろう)様・・・これはこのような所まで、よくぞおいでに・・・」


 和平に対しては横柄だった大柄な異族だが、スーツ姿の男を見るや、即座に平服してへりくだる。まあ、それも仕方がない。和平が弟子入りした本来の師匠とは、神野悪五郎と呼ばれる大妖怪だったのだ。ここら一帯のまとめ役、でもあった。


山ン本五郎左衛門さんもとごろうざえもん様とのお話し合いは終わられましたので?」

「ああ。まあ、何時も通り、という所だ・・・で、調子は?」

「ははは。まだまだ、と言うところです。もう暫くは、某の下で、となるかと」


 突っ伏した和平を横目に、神野悪五郎が問いかけと、大柄な異族もまた、和平を横目に答える。そうしてそんな大柄な異族の言葉に頷いて、神野悪五郎が歩き始める。


「そうか、任せた・・・おーい、伸びてると蹴っ飛ばすぞー」

「ぐっ・・・蹴っ飛ばしてから言わないでくれ・・・」


 わざわざ和平を蹴っ飛ばして歩き去った神野悪五郎に対して、小さく和平が恨み言を告げる。が、神野悪五郎はそんな事をお構いなしに、歩き去って行った。


「さて・・・で、まだまだだな、小僧。俺が何をしているか、わかっているか?」

「・・・いや・・・さっぱりだ・・・」

「やれやれ・・・今某がやったのは、<<剛体法(ごうたいほう)>>というまあ、身体を強靭に変える物だ。小僧がどれだけ力を込めようとも、それをなんとかしないと無理だ」


 大柄な異族はそう言うと、<<剛体法(ごうたいほう)>>という魔術についての詳細な解説を開始する。そうして、和平もまた、修行の日々を送るのだった。




 再び所変わって、四国のとある寺の中。そこでは陽介が滝に打たれていた。この頃はまだ秋口だったとは言え、山奥の冷えた冷水は寒いことこの上ない。というわけで、陽介は一見顔は平然としているのだが、寒さで震えていた。


「・・・」

「わからぬか? この世界に満ち溢れる魔力の存在が」

「・・・わ、わからないです・・・」

「ふーむ・・・なんともならん奴だのう・・・」


 陽介に対して、少し小太りの老人が呆れた様に告げる。彼は四国の八百八狸の長で隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)とも形部狸(ぎょうぶだぬき)だのと言われる古狸だった。陽介は鞍馬の勧めで、彼らの教えを受けに来ていたのであった。


「こ、これで何が分かるんすか・・・」

「世界の流れを感じよ。さもなくば、我らの呪術を使いこなそう、なぞというのは夢のまた夢。人・・・いや、人間の身にて我ら妖怪の呪術を使いこなすには、呪力霊力魔力、そう言った霊的な力が足らぬ」


 ガクガクブルブルと寒さに震える陽介の問いかけに対して、隠神刑部が何を当たり前な、とばかりに道理を告げる。一応、彼は人間という話を前提としている以上、その前提に則って訓練を進めるのが道理だ。そして隠神刑部はそれに則って鍛錬をしているだけ、だった。


「人間はたぬきや狐の様に化かす事は出来ん。だが、所詮呪術は全てこの化かし合い。世界を化かす為には、自らで世界を化かさねばならぬ・・・もう良い。それ以上やった所で、今は無駄。身体を温めて、もう一度再開じゃ」

「は・・・はい・・・」


 助かった、という思いの下、陽介は滝から出てくる。そうして、隠神刑部が数枚の木の葉を何処からともなく取り出すと、彼はそれを岩盤の上に投げ飛ばす。すると、地面に着くと同時に、身体を温める為の焚き火が現れた。


「ほれ・・・このような呪術もまた、呪符を使わんでも出来る。が、これらは我らの為に我らが改良した物。まだまだ、要精進というところじゃ」

「は・・・はい・・・」


 焚き火で身体を暖めながら、陽介が頷く。彼は遠距離からの攻撃を極める事にしていた。他の面子が猪突猛進気味に突っ込む事が目に見えていたので、それ以外を、ということだった。と、そうして陽介はふと、思った事を問いかけてみる事にする。


「そ、そういえば・・・どうしてわざわざ修行をしてくれるんですか?」

「む?・・・そうじゃのう・・・狐七化け狸八化けと言うが、知るか?」

「まあ、一応は・・・」

「なら、わかろうもの。聞けばお主らが敵と見定めた男はかの大妖狐まで配下に置いたという。ならば、負けられんのよな。まあ、流石に年と偉業を考えれば敬意を払う相手ではあるが・・・それでも、やはり狸と狐。一泡吹かせねば、気がすまんのじゃよ」


 陽介の言葉に対して、隠神刑部がかかと快活に笑う。大妖狐とは考えるまでもなく、玉藻達の事だろう。流石に彼らが現役時代には既に封じられて語られるだけの大妖狐を相手に挑もうとは思えないが、それでも彼女が認めた相手に一泡吹かせたい、とは思ったらしい。


「ぷっ・・・なるほど・・・じゃあ、俺ももっと気合入れて行きます」

「そうせいそうせい・・・さて、身体が温まったのなら、再び滝に入れ。やるのは世界の魔力を感じ、自らに取り込む感覚。それを、留意せよ」

「はい」


 隠神刑部の師事を受けて、陽介が再び滝行を開始する。そうして、こちらもこちらで、修行を続けていく事になるのだった。




 当然だが、他の面々が修行を行っていた頃には、蘇芳翁の下で希も修行を行っていた。まあ、行っていたのであるが、一番修行っぽくないのは、ここだった。


「ばかもん! この程度が出来んでどうする!」

「うごっ! いってぇ・・・て、てめぇほんとに鍛冶師かよ・・・」


 どごん、と振り下ろされた拳骨を受けて、希がうずくまりながら頭を擦る。彼は鍛冶師だというのに、とんでもなく痛かった。


「ふん・・・鍛冶師であっても、刀の調子を見るには刀を扱えねばならん。カイトや剣聖様ほどの腕を持たぬのなら、この程度の武芸は出来て然るべきよ。それにこの程度の武芸であれば、別段誇るまでもない。まだ儂が異世界におった頃には、弟と共に素材を探しに西へ東へと旅をしておったこともある。弟の息子であれば、カイトの旅の仲間でもあった。鍛冶師故に戦えぬ、というのは愚かな考えよ」


 希の言葉に、蘇芳翁がため息混じりに告げる。彼にせよ大昔の鍛冶師達は、魔物を相手に戦いながら、素材を追い求めた者は少なくはない。エネフィアであれば未だにそうだ。戦えて当然、というのもある種当然の話であった。


「つーか、俺は鍛冶師になりたくて来たわけじゃねえ、っての・・・」

「馬鹿者。お主らは全員戦う事だけしか考えておらん。そもそも、武器も無しにあれに勝てると思っておるのか?」

「あぁ? 何馬鹿言ってんだ? 使うに決まってんだろ」


 蘇芳翁の言葉に、希が訝しげに顔を顰める。彼の言う通り、武器は使うつもりだ。カイトも使ってくるのは承知の上だ。と言っても流石に殺すつもりは無いので拳銃等の過剰な攻撃力を持つ武器は考えていないが、木刀や錫杖等は使うつもり、だった。

 だからこそ、蘇芳翁が呆れているのだ。武器は使い捨てではない。長く使い続けて手になじませて初めて、その人の得物と言えるのだ。そこらにある道具を使うのであれば、たんなる喧嘩と変わらない。戦いに勝つというのなら、各々が最適な武器を持つべき、なのであった。


「だから、馬鹿なんじゃ・・・貴様らの武器は、誰が作る? 誰が専用のカスタマイズを行う? 誰かがやらねばならんじゃろう」

「あん? 爺がやってくれりゃ良いだろう」

「ぷっ」


 誰も信じなかった元不良の言葉とは思えない希の返しに、蘇芳翁は思わず吹き出す。が、そんな蘇芳翁の対応に希は不機嫌そうに、顔を更に顰めた。


「あぁ?」

「お主な・・・儂はカイトの側じゃぞ? 一応中立には立ってやっておるが・・・お主、そんな敵の側近に武器の調整を任せるか?」

「・・・おぉ、そりゃそうだ」


 言われて初めて気付いたらしい。ぽむ、と希が手を叩く。それに、蘇芳翁がたたらを踏んだ。てっきり見識不足なのか、と思っていたが、そもそも気付いていなかったらしい。


「お、お主な・・・その程度気付け・・・では、誰が武器を調整する、となると、お主しかおるまい。戦闘法ぐらいは後々教えてやる。どちらにせよ基礎が出来ねば、何もならん。そしてそれが終わった頃に、お主が戦い方と同時に、武器の調整についても学べ。武器の調整は繊細じゃ。繊細な業を学ぶのにも役に立つ」

「な、なるほど・・・」

「お、お主は・・・」


 非常に納得した様子の希に対して、蘇芳翁が呆れ返る。武芸の腕前等については悪くはない、というのが蘇芳翁の率直な意見であったが、同時に、頭の中身の方がまだまだ、というのが、彼の率直な意見だった。


「万事極めればよろずの事に通ずる。それを心がけ、もう少し鍛錬に身を入れよ。宮本殿・・・宮本武蔵の言葉に、千日の稽古を以って鍛となし、万日の稽古を以って錬となす、とある。カイトはそれを実戦しておる。師は宮本殿じゃからのう。相手にはその鍛錬の果てがある。かような所でつまずいてはおれんぞ」

「おう」


 蘇芳翁の言葉は道理だ、と本能で察したらしい希が、彼の言葉に頷いて立ち上がる。そうして、彼も彼で鍛錬を再開するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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