表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第8章 騎士王の帰還編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

208/765

断章 円卓の再生編 第31話 再開

 少しだけ、時は遡る。カイトが日本への渡航をアルトに告げて、通信を切断した後、だ。アルトがガウェインに向けて、ある事の決定を告げる。


「ガウェ・・・俺も行く」

「あ?」


 アルトから発せられた決定に、ガウェインが首を傾げる。何かを考えた結果、らしい。


「どうした?」

「・・・おそらく、奴だ」

「奴・・・?」


 カイトとの会話ではまだ彼自身が自信を持てなかったがゆえに明言しなかったが、アルトには、とある答えが、頭をよぎっていた。それは、謎の騎士の正体について、だ。


「ヴィヴィ。居るんだろう?」

『うん。どうしたの?』

「やはりな・・・あれを、持ってきてくれ。俺の戴冠式を始めるかもしれん」


 アルトは何処か含みを持たせつつも、通信機の先の水色の髪の少女に向けて、自らの至宝を持ってくる様に頼む。彼女に預けたままの至宝を、今こそ使うべき時だ、と判断したのだ。


『・・・うん。わかった。じゃあ、私も途中で合流するね』

「頼む」


 万感の思いを乗せて頷いたヴィヴィアンに対して、アルトが頭を下げる。今までずっとワガママで預かってもらっていたのだ。そしてそんなアルトの様子に、ガウェインも粗方を理解して、彼が取るべき方針を決める。


「なるほどな・・・じゃあ、全員を呼んでくる。手はずもこっちで整えておくから、アルトは最後の鍛錬でもやっとけ」

「ああ・・・」


 親友の一人の気の回しに、アルトが苦笑気味に頭を下げる。そうして、アルトは立ち上がる。向かう先は、妻の所、だ。


「ギネヴィア・・・少し良いか?」

「ええ、何?」


 ギネヴィアはちょうどティナと共にストレッチをしていた所、だったようだ。騎士王の妻として、貴婦人としてはあるまじきラフな格好だったが、それもまた、非常に似合っていた。まあ、彼女も類稀なる美女だ。何を着ても似合う、という一人だった。そうして、アルトが、伝えるべき片割れの名を、告げる。


「そう・・・あの子が・・・」

「ああ・・・多分、そうだ。迎えに行ってくる。出迎えてやってくれ」

「ええ。貴方の妻、ですから。帰りを待っています」


 アルトの願いに、ギネヴィアが笑顔で頷く。これもまた、アルトが取り戻した一つ、だった。そうして、今から行くのもまた、かつて失われて、取り戻しに行く物、だった。そうして、夫婦として大切な会話を終えて、アルトが妻に問いかける。


「で・・・何をやっている?」

「・・・聞きたい?」

「・・・聞きたいか?」

「あ、ああ・・・」


 何故か妻と共にティナから半眼でギロリと睨まれたアルトは、踏まない方が良いかな、と思いつつも、何故かその直感に従わずに、こくん、と首を縦に振った。それに、ティナは呆れながら、口を開く。


「はぁ・・・何故男はこうも地雷を踏みたがるかのう・・・」

「ねぇ・・・ここら、ウチの旦那も馬鹿なのよ・・・」

「「はぁ・・・」」


 お互いに類まれなる才覚を持つ者を伴侶とした二人は、同時に呆れ返ってため息を吐いた。が、それだけだ。何かを教えてくれることはなかった。


「はいっ! 馬鹿な男はさっさと仕事に出る!」

「あ、あぁ・・・?」


 妻から追い出される様に、アルトがその場を後にさせられる。させられる、なので強引に追い出された。そうして、彼が去った後に響いてきたのは、明らかに何かを殴る様な音、だった。それに何か背中に薄ら寒い物を感じつつも、部屋の前に居たギネヴィア付きの侍女の一人を、ゆっくりと流し見る。


「・・・奥方は最近時折ああしてスパークリング紛いの事をなさって、ストレスを解消されているご様子です」

「・・・もしかして、中は見ない方が良いか?」

「その方が、陛下の精神衛生上よろしいかと」


 ぺこり、と頭を下げながらの進言に、アルトは今度は従う事にする。時折罵声に近い言葉が混じっていたのだが、詳しく聞く勇気は、いかに万夫不当の戦士である彼にも、存在していなかった。

 ちなみに、これは正解だ。中ではアルトの人形――ギネヴィアの手製――とカイトの人形――ティナの手製――を痛罵しながら殴る二人の姿があったりする。まあ、よく出来た手製の人形だし当人に当たることが無いので愛されている証ではあるのだろう。

 当たり前だが、二人の伴侶は共に幾人もの女性を娶る義務のある男、だ。となると、いくら理解の上でも、ストレスは溜まる。それはティナも変わらない。なのでこのようにして、時折何処かでストレスを解消してやる必要があった。

 お互いに近い身の上故に意気投合したらしく、ギネヴィアのアドバイスを受けて、このストレス発散にティナも参加したのであった。夫二人が仲良くなっていたように、知らない所で妻達も仲良くなっていたらしい。


「・・・仕事に戻ろう」


 ボコスカ、という大音をバックに、アルトは人形がボロボロになって自らに照準が行かない内に戻る事にする。そうして、翌朝には、この一幕を完全に忘れる事にしたアルトと、ガウェインが一緒に出発するのだった。

 ちなみに、実はガウェインの妻や他のラウンズの妻達も時折参加しているのだが、それは誰もが知らぬが仏、なのだろう。




 そんなカイトも知りたくないだろう騒動から、数日後。カイトは飛行機を乗り継いでイギリスに渡英すると、再び謎の騎士が目撃された村にやって来ていた。


「おや、またですか?」

「ええ・・・実は少々ラウンズのとある方と共に騎士を探す事になりましてね。また、というわけです」

「それは・・・左様ですか」


 偶然村に入った所で、カイトは村長と出会った。向こうも妖精を連れた調査官は印象深かったのか、すぐにカイトだと理解したようだ。

 そういうわけで少し会話を行ったわけなのだが、彼も用事で外に出ていたらしい。それで終わり、だった。そうして、カイトはとりあえず当分の停泊所にするつもりの宿屋へと入る。


「で、何時サバトに行くんだ?」

「あ、もう行くよ。夜には着いておかないとね。じゃあね・・・っと、そうだ。もし『闇の洞窟』へ行くのなら、覚えておいて。自らの過去に打ち勝て。それと、逃げる事を忘れるな、って」

「あいよ。アドバイスは有り難く、受け取っておこう」


 モルフェからのアドバイスを受け取ると、カイトは彼女を見送って、ベッドに倒れこむ。とりあえずはガウェインの到着を待って、出発だった。


「こちらカイト。帰還した。ついでに合流ポイントに到着した」

『ああ。こちらももうすぐそちらに到着する。今一階の受付だ』

「・・・は?」


 アルト達から貸し与えられていた通信機から響いてきた声に驚いて、カイトががばっ、と身を起こす。響いてきたのは、アルトの声だった。


「え、ちょ、おまっ・・・」


 一体何が、と思っていると、扉が開いて、二人の男と、一人の小柄な少女が入ってきた。二人は当然、アルトとガウェインだ。だが、最後の少女は、カイトは見たことが無かった。


「よう・・・おーい、アルト! 居たぞー!」

「わかっているから、あまり大声を出すな。とと、紹介を忘れる前に、紹介しておこう。こっちはヴィヴィアン。湖の乙女の一人だ」

「はじめまして、カイト。彼がお世話になりました」

「え、いや、あ、ああ・・・」


 ぺこり、とヴィヴィアンが頭を下げる。そうして差し出された右手に、カイトも手を差し出して応じる。どうやら自己紹介は必要無さそうだった。そうしてヴィヴィアンからとりあえずの自己紹介を受けると、カイトは真っ先にとりあえず気になる事を問い掛けた。


「いや、どうしていきなり数増えたんだ?」

「まあ、俺も気になる事が出来て、な。こちらに来た」

「私は、ある物の管理者、だからね。アルトがそれを使いたい時が来る、って言ったから、一緒に来たの」


 アルトとヴィヴィアンの関係性を考えれば、ある物とは考えるまでもなく、彼の聖剣<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>の事だろう。どうやら何らかの目的で、彼はそれを使う時が来る、と考えているらしい。


「・・・もうオレ必要無くないか?」

「いや、居てくれ。一応万が一の場合がある」

「まあ、良いけどな・・・で、まずはどこにするんだ?」

「そうだな・・・とりあえず、北の洞窟から進めよう。あそこは封印が開いていれば入っている事がわかるし、逆に開いていなければ、それで良いからな」


 カイトの提言を受けて、アルトが方針を決める。そうしてとりあえず今日は休憩と作戦会議にあてることにしていた為、一同まずは、適当な椅子に腰掛けて、作戦会議の用意を行う。


「その『闇の洞窟』はどんな・・・って、誰も入った事は無いのか。ってことは、無情報での突入になるのか?」

「ああ・・・とは言え、封印される前にマーリンが情報を残してくれていた可能性がある。セカンドに調査を頼んでおいたんだが・・・そろそろ、結果が出ている頃、か。聞いてみる事にしよう」


 アルトはそう言うと、懐から通信機を取り出して、<<騎士王の城(キャメロット)>>に居るはずのマーリンに連絡を取る。


『あ、はい、陛下。例の件ですか?』

「ああ。頼んだ」

『はい。やっぱりあそこもひいお爺ちゃんが作った所の一つ、らしいです。中の仕掛けについては大半が紛失していましたが、地図は見つかりました。デジタル化した物を転送しますんで、皆さんが持ってるウェアラブルデバイスにダウンロードしておいてください』


 アルトの求めを受けたマーリンは、予め調べて用意しておいた地図のデータを転送してくる。とりあえずは地図を見ながらでないと何も出来ないので、一同はまず、それをダウンロードすることにする。なお、ヴィヴィアンは流石に持ち合わせてい無かったので、カイトの物を横から覗き込む形になった。


「ふむ・・・入り口の所から、3つに別れているのか」

『はい。その様ですね。残されていた情報から推測すると、3つ同時に攻略しないと、最奥には辿りつけない形になっている様子です』


 一同は地図を見ながら、作戦会議を開始する。どうやら、都合の良いのか悪いのか、道は3つに分かれていて、その3つ共に入らないといけないらしい。そうして、ガウェインが問いかける。


「3つの特徴は?」

『えっと・・・いえ、各々の違いは無いはず、ですね。3つは全く同じ仕掛けで動いていると思われます。どうにも3の数字を使って、洞窟の仕掛けを強めている様子です。ガウェイン卿の力と同じ、と有りましたので、そこから、先の推測をしました。長さもおそらく3日程度になるので、食料等の用意を忘れないでくださいね』

「まあ、あの爺さんだからな。長い上に面倒な仕掛けがあり得るな」


 マーリンの言葉を受けて、ガウェインもそれはあり得る、と納得する。ちなみに、ガウェインと同じ、というのは彼は朝から正午まで3時間、能力が3倍になる、という非常に稀有な特性の事を指していたのであった。その『3』というのが、一神教に置ける意味のある数字、なのであった。神を表す数字、らしい。老魔術師はそれに則ったのだろう。

 なお、アルト曰く、この時間の中だと、彼が<<円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンド>>の中では最強らしい。大昔の話だが、と前置きをしていたが、アルトとランスロットの二人を同時に相手をして勝った事のあるほどの実力、との事だ。通常時だと総合的にはランスロットで、いざと言う時の爆発力だとアルトが強い、とは当人達の言、だった。


「ということは、どこへ入っても一緒、か」

『はい。そう思われます・・・が、最後に何が納められているのかだけは、わかりませんでした。モルガン・ル・フェイ殿が何かをご存知だとは思うのですが・・・』

「だが、姉上は姿を見せてくれん、か。わかった。ならば行ってから考えよう」


 マーリンの言葉に、アルトが苦笑する。会えない以上は、情報の入手も不可能、だろう。となると後は、実際に赴いて考えるしかない。というかそのために、カイトを使うつもり、だったのだ。そうして、とりあえずの結論を付けて、アルトが問いかける。


「では、組み合わせはどうする?」

「俺達は単独で良いだろ。俺もアルトも爺さんの試練や訓練は慣れっこ、だろ?」

「それもそうか。ヴィヴィアン。悪いが、カイトと頼めるか? カイトだけは、マーリンの悪戯を知らん。変な引掛けに引っ掛かって戻されても叶わないからな」

「あはは・・・わかった。じゃあ、私はカイトと一緒、だね」

「はいはい。今度は右肩ね」


 小型化してぽふり、と右肩に座ったヴィヴィアンに、カイトが苦笑する。まあ、座られるカイトにはどちらに座ろうともどうでも良いことだった。そうして、ヴィヴィアンを乗せたカイトが、提案する。


「じゃあ、とりあえず・・・この最後の合流ポイントで集合にしよう」

「それが良いだろう。もし謎の騎士を見つけたら、一緒に連れて来てくれ。ガウェもな。間違っても、殴りかかるなぞやめろよ」

「わかった」

「それは保証しないがな」


 アルトの言葉に、カイトが頷き、ガウェインは少しだけ、牙を見せた笑顔で答える。そうして、一同はこの日はこれで終わりにすることにして、休息を取る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

*活動報告はこちらから*

作者マイページ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ