断章 円卓の騎士編 第23話 騎士王の真実
これ以上は、物語の主役である自分が語るべきだろう、とアルトが口を開き始める。そうして語られたのは、制約と盟約、そして契約に縛られた、一つの物語、だった。
「・・・始まりは、あの時。俺が<<湖の聖剣>>を手にする前・・・<<王たる証の剣>>時から、始まった。あの剣には、ある一つの呪いが、掛けられていたらしい」
聞けば、元からそうだった、という事だ。老魔術師は何も言わなかったが、詐欺も良い所だ、とはアルトも苦笑していたが、同時に、それぐらいの代償が必要なのだ、とも誰もが思う。
「呪い?」
「ああ。あの剣。誰が作った物だと思う?」
「?」
言われた意味が理解出来ず、カイトは首を傾げる。だが、それも仕方がない。伝承では、先代のマーリンが作った選定の剣が、あれ、なのだ。ならば先代のマーリンのはず、だった。だが、そうでは無いのだろう。
「あれは、未来に幾つもの栄華を得させる代わりに、様々な代償を支払わせるらしい。俺の父、ウーサー・ペンドラゴンが存命中に鍛えさせた物、だそうだ・・・俺という英雄を生み出すかわりに、な」
アルトが苦笑とも呆れとも怒りともつかぬ感情を滲ませながら、カイトに告げる。ウーサー・ペンドラゴンは、アルトの父の事だ。とは言え、面識は殆ど無いらしい。アルトが生まれて間も無く早世して、彼はケイの家に預けられたのであった。
そんな父であっても、そして自らの栄華が彼に作られた物で、更には破滅まで彼に操られた物なのだ、とわかってなお、呆れや色々な感情を滲ませながらも、やはり憎みきれないのだろう。その顔には、どこか憐れみも存在していた。
「制約と盟約。それらを雁字搦めにして、俺は生まれた。稀代の龍の血を引き、完璧なる王として、英国を率いる為に、な。そもそも<<王たる証の剣>>は俺にしか抜けないわけだ。俺の為に、作られた武器、なのだからな。そして、それが、全ての始動キーだった、というわけだ。制約の開始条件が、選定の剣を抜く、という事だったらしい」
「制約と盟約?」
「ああ。敵に侵略され、自らの滅びが見えた時、親父殿は馬鹿げた賭けに出たらしい。下らない話、だ。釈迦に説法だろうが、制約も盟約もキツく縛れば縛るほど、得られる対価は大きい。それは分かるよな?」
「ああ」
アルトの言葉を、カイトも認める。魔術的に制約というのは、いわば枷、と言うべきかもしれない。ある自由を除外する代わりに、それを対価に莫大な力を得る、という方法だ。魔力を糧に結果を生み出す魔術を更に特化させた物、と考えれば良い。盟約は同盟者達に対するそのままの意味だろう。
「はぁ・・・それを、なんと俺に向かって使ったらしい。しかも、胎児の俺にな。制約の内容は、まあ、姉上との事が大半だ。姉上・・・モルガン・ル・フェイが巻き込まれたのは、まさに偶然、だろう。俺に兄妹は何人か居るからな。盟約により、妖精族や様々な異族の血を引く俺の姉弟達に、俺と出逢えば契りを交わしたくなる様な制約を掛けたらしい。姉上は、その哀れな犠牲者、ということだ」
モルガン・ル・フェイ。伝説に語られる自らの敵を、アルトは自らの因果に巻き込まれた哀れな犠牲者、と告げる。とは言え、それも仕方がなし、と彼は首をふる。そして、更に続けた。
「その制約が更に悪辣だ。制約に従えば、不義と背徳を為す事による、神秘性の補填が出来る。近親相姦は倫理観を除けば・・・まあ、その倫理観も今の物、だがな・・・儀式として確立できれば、十二分に神秘性の補填になり得る、からな。俺は知らず、制約を達成したおかげで、妖精の祝福を得た。腹立たしい事に、な。それを、術式では無く結果としてもたらされる様に、奴は設計させた」
アルトは何処か遠くを見る様に、呆れを含ませながらも話していく。ちなみに、ここで彼が言う祝福は、カイトやエネフィアの者が言う祝福とは少し違う。
どちらかと言えば加護に近い力と言うべきか、龍族の騎龍の契約に近い物だ。とは言え、力を融通し合えたり他方に分け与えたりする点は一緒だった。
「させた?」
「ああ・・・マーリンに、な。内緒だぞ? セカンドが傷つくからな。それに、マーリンとて、やりたくてやったわけではない。国の為、王命によりやむにやまれず、だ。責めるつもりは無い」
アルトは先にティナが明言した様に、責められるべきは命じた王であって、彼では無い、と快活に笑って明言する。が、まあ、敬愛する曽祖父が王にそんな事をしたのだ、と知ると、いくらアルトが気にするな、と言った所でマーリンが気を揉むだろう、という判断だった。
「続けようか。そうして、偶然、モルドレッドが生まれた・・・奴はなんてことはない。運命の悪戯にあって、偶然に生まれた、というだけだ」
モルガン・ル・フェイの悪意によって生み出された、と言われる騎士モルドレッドを、単なる偶然、とアルトは告げる。そこには、裏切られたとはいえ、そして背徳の子とは言え、自らの子に対するわずかばかりの愛情や憐憫が、滲んでいた。
「まあ、それは良いか。戻ろう。奴は紆余曲折あってここ、『常春の楽園』で育てられたわけなんだが・・・ああ、一応言っておくが、あの5月1日に生まれた子供を海に流した、などという話は嘘だからな。俺はそういうことはしてないし、マーリンは一度もそんな事を命じていないぞ。勝手にジェフリー・オブ・モンマスとか言う僧侶が書き加えただけだ。と言うかあいつはマーリンがヴィヴィや姉上を相手に色ボケしただのと色々と勝手に書き加えてくれて・・・」
「おい、アルト。愚痴は一度置いておけ」
どうやら彼らを欧州中で一躍有名にしたジェフリー・オブ・モンマスに対しては、記載されている側として、色々と言いたい事があるらしい。止めどなく愚痴が流れてきた。
まあ、実際に聞けば山程改変されている様子なので、仕方がなし、という所だろう。そうしてケイからの指摘を受けて、アルトが少し頬を染めて咳払いをした。
「ん、んん・・・」
「それに、ガウェよりはマシだろ。奴の扱いは最悪だろう?」
「まあ、な。すまん、ケイ。話を戻そう」
自分よりも下をだされて、アルトが気を取り直して、会話を再開する。ちなみに、後にカイトが酒の肴にケイから聞いた所によると、アルトとガウェインはジェフリー・オブ・モンマスに対して言いたいことが山程あるらしく、この二人がこの会話を始めると愚痴だけで一晩終わるから彼の名前は禁句だ、との事だった。
「さて・・・確か、モルドレッドの話、だったな。当時既婚者だった姉上は流石に俺との子なぞそのまま育てられるわけもなく、ここに秘匿して、育てたわけだ。が、まあ・・・ここらで、厄介な事が出来て、な。ここが、<<湖の聖剣>>に繋がるんだ」
アルトは頭を掻きながら、自らの愛剣に言及する。と、そこでふと、カイトが疑問を得た。
「そういえば・・・<<湖の聖剣>>は?」
「ああ。あれなら、まだヴィヴィに預けてある。まだ俺は、王として確立していないからな」
どうやら、何らかの想いがあるらしい。アルトは自らの相棒を湖の乙女に預けたまま、だそうだ。そうして、彼は今自分が帯びている長剣を撫ぜる。
「今は<<選定の剣・2nd>>を使っている。セカンドが寝込むほどに頑張ってくれた作品、だ。まあ、悪くはない」
「良くもないがな」
どこか照れくさそうに、アルトが腰に佩びた剣を撫ぜ、ケイが苦笑する。どうやら先代と同じく、こちらもマーリンが作った剣、らしい。彼の力量からすれば剣としての性能は先代のマーリンには劣るのだろうが、自らへの献身の方を取った様だ。
「で、だ。<<湖の聖剣>>なんだが・・・実はあれは聖剣の聖剣としての性質を抽出した物、でな。魔剣としての格を有するもう一振りの<<湖の聖剣>>が、ある・・・らしい」
「らしい、って・・・おいおい。自分の武器だろ? 把握しとけよ」
「仕方がないだろう。俺がそれを知った時には、既にカムランの丘での戦いが終わり、モルが何処かへ去った後、だ。そもそも実子だ、と確信したのも、あの戦いの後、だぞ。わからないでも無理は無い」
むすっとした様子で、アルトがカイトの言葉に口を尖らせる。まあ、分からない物は仕方がない、のだろう。そうして、カイトが気付いた。
「ん? もしかして、その<<湖の聖剣>>の魔剣の方を持ってたのが、そのモルか?」
「そういうこと、だな。まあ、その呪いというべきなのが、まあ、聖剣の呪い、でな。鞘を失わなければ良かったんだが・・・鞘を失った事で、魔剣が魔剣としての性質が活性化したらしい」
「・・・その呪いの性質が、叛逆、というわけか」
「ご明察だ。正確には、聖剣の持ち主の率いる国を簒奪、ないしは崩壊させる、というより酷い呪いだ。聖剣は国を救い、魔剣は国を滅ぼす、というわけだ。簒奪者の国がまともに機能するはずがないからな」
「まあ、こう言っちゃあなんだが、モルの奴はこいつの子に相応しいだけのカリスマ性はあってな。騎士としての素質も十二分だった。それが、なおのこと、悪かった。元々こいつの失敗から不信感を抱いていた豪族や一部騎士達が呪いに突き動かされたあいつに賛同したわけだ」
当時を知るケイが、笑いながらアルトに続いて説明する。どうやらモルドレッドの人物像についても、大幅にジェフリー・オブ・モンマスの手が加わっていた様だ。
まあ、そうでなければ、騎士の中の騎士と名高い栄えある<<円卓の騎士>>の末席に迎えられるはずも無いだろう。それに、そうであるからこそ、アルトはモルを探し求めているのだ。彼の人格面については疑うべくも無かった。
「あの当時を言わせてもらえば、どちらが正しいか、なぞ分からんな。俺は単なる機械で、モルは反逆者、だ。どちらを信じても、俺は責める気は無い。そもそも、ランスに半分取られた状態、だしな」
アルトが苦笑を滲ませつつ、カイトに告げる。ここらは彼の語った通り、自らの不明故、と折り合いがつけられているのだろう。
「まあ、そういうわけで、な。今の俺には<<湖の聖剣>>を十全に使えるだけの力が無い、と判断したわけだ。今使っても、どこかに居るモルを呪いで苦しめる事になるからな」
「強引にねじ伏せる、だそうだ。この義弟殿は」
「そりゃあ、良い。オレ好みでもあるね。その時はぜひとも、見せてもらおうか」
「良いだろう、異世界の勇者よ。その時は存分に、英国騎士王の姿に刮目しろ」
不敵に笑うアルトが、カイトの言葉に絶大の自信を滲ませる。どうやらアルトもまた、カイトと同じく普通は無理な事を強引にねじ伏せるむちゃくちゃな人物の様だ。
カイトとしては、非常に好感が持てるタイプ、だった。まあ、自らと同じタイプなので、相性が良いのだろう。似た者同士、なのであった。
「騎士王ではなく、覇王だな。その笑みは」
「貴様こそ、公爵と聞くが、あれは覇王だろうに」
「さて、な」
アルトの指摘に、カイトが不穏な笑みを浮かべる。お互いにお互いが同質の存在だ、と把握していた。それ故、お互いに通じ合う物があるのであった。
と、そうして一通り語り終えた所で、ガウェインが帰って来たらしく、挨拶にやって来た。そうなると当然、カイトに気付いて、首を傾げる。
「よう、アルト。ただいま・・・って、誰こいつ?」
「ああ、ガウェ。お帰り。この間言っていたカイト・アマネだ。あのブルーだな」
「ああ、こいつが・・・」
「一杯やるかい?」
しげしげと観察されたカイトは、口を潤す為に、ということで飲んでいた酒盃を傾ける。中身はインドラから貰ったソーマの残りだ。と言うかあのクリスマスではサリエル達の襲撃のおかげで一滴も飲めなかったので、まだまだ樽で残っていた。
「おぉ、良いな。もらうもらう」
中身が酒だ、とわかると、ガウェインが破顔してそそくさと一同の輪の中に座る。そうして、とりあえず駆け付け三杯と口を潤してから、アルトに報告を開始した。
「で、どうだった?」
「ああ。竜は未だ見つからず、だ。どうにも巣作りを考えているらしいな」
「厄介だな・・・」
ガウェインから寄せられた報告に、アルトがため息を吐いた。年末年始から捜索しているのだが、結果はまだ見つかっていないようだ。当然だが、繁殖期に入ると、どんな生き物でも気性は荒くなる。竜もその例に漏れることはない。
とは言え残念な事に、普通の生き物とは違い魔物の繁殖期は季節で決まっているわけではなく、個体ごとにまちまちだ。この個体は偶然に今、という事なのだろう。
「わかった。では、捜索は続けてくれ」
「ああ・・・ああ、そういえば、一つ報告があったんだ」
「なんだ?」
「あー・・・ランスとモルの事、なんだが・・・大丈夫か?」
カイトを見ながら、ガウェインが問いかける。先ほどまでのやり取りを知らない為、身内の話をして良いのか、と判断が出来なかったのだ。
「ああ。大丈夫だ。ついさっきまで、その話題でな」
「そっか。じゃあ、モルについて、ちょっと噂が流れてきてる」
「ほう」
今まで何処かのんびりとしていたアルトだが、この報告に、少しだけ真剣さを滲ませる。
「少し前、だが・・・どうやらゼウス神達の所に腕利きの騎士が居た、という噂が流れて来た。もしこれがラウンズなら馬鹿な愚弟の方だ、と思う。ランスの馬鹿は掴めるとも思わないからな」
「なるほど・・・分かった。では、情報部の方にそちらの情報を頼んでおこう」
「ああ、頼んだ」
アルトの言葉に、ガウェインが頭を下げる。そうしてふと、彼が顔を上げて、カイトの方を見た。
「あー・・・俺とモルの関係は知ってるか?」
「知ってる。だから、不思議には思わないさ」
「そか。なら良い。一発ぶん殴ってやりたいだけだからな」
カイトの答えを聞いて、ガウェインが何処か照れくさそうに酒盃を傾ける。二人は、父違いの兄弟だ。それ故、今の今まで心配を掛けている事等色々含めて、ぶん殴ってやる、という事なのであった。
そうして、カイト達は更にガウェインやその後に色々とあって呼び出されたラウンズの面々を交えて、色々な事を語り合いながら、酒盃を傾ける事になるのであった。
ちなみに、その結果。アルトは仕事中だということをすっかり忘れて久しぶりの部下達とのささやかな宴会で痛飲したらしく、偶然に来た妻のギネヴィアに騎士全員と揃って大いに怒られて、更には一緒に居たガウェインの妻にガウェインも怒られる事になるのだが、それは横においておく事にする。
お読み頂きありがとうございました。




