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断章 提携編 第7話 天才の帰還 ――新たなる始まり――

 昨日はすいません。大ポカしてしまいました。本来昨日上げる分だった物については、昨夜の内に全て投稿しておきました。

 神宮寺家現当主・神影との会談を終えたカイトは、とりあえず待合室で待つ刀花の所に転移術で現れた。のだが、そこに居た刀花は頬が緩みきった顔で、堅物という印象が一切ない柔和な顔で何かの動画を見ていた。


「うきゃぁ!? せ、せめてノックぐらいしたらどうだ!」

「そこまで驚くか・・・?」


 いきなり顕現したカイトにびっくりした刀花は、何故かいそいそとスマホをポケットにねじり込もうと頑張る。が、流石にこれはあまりに可怪しい行動だった。


「なんだよ、そこまで驚く事か?」

「い、いや・・・そ、そうだ! もし情事の真っ最中とかなら、失礼だろう!」

「情事って・・・お前、彼氏いんの? つーか、そもそもこんな所に連れ込まねえだろ」

「あ、いや、そういうことでは無くてだな・・・あ」


 どうやら焦りに焦って何を言っているのか自分でも理解できていなかったらしい。刀花でも焦ったりする事があるのだな、とカイトは妙な感心を得た。

 が、そんな応対をしながらスマホをズボンのポケットにねじり込もうとしていたのが、いけなかった。彼女が大慌てで立ち上がった衝撃で、入りきっていなかったスマホが落ちて、運悪く待ち受け画面が開いたのだ。


「・・・ねこ?」

「な、なんだ、待ち受け画面がねこで悪いか!」

「や、別に・・・というか、そこまで焦る事か? ああ、紫苑の所のミカサか。あのちびっ子がでかくなったもんだ」


 あたふたとなりながらスマホを回収した刀花だが、残念なのか何なのか、待ち受け画面のねこを見て、再度頬が緩む。それは堅物と言われる彼女からは考えられない程に、緩みきった頬だった。

 ちなみに、映っていたねこはカイトの幼なじみ兼刀花の親友である紫苑の飼うねこ――スコティッシュ・フォールド・雄・5歳――だった。


「・・・はっ」

「ねこ・・・好きなのか?」

「あぅ・・・あ、いや、その・・・」


 あの緩みきった頬を見れば誰だって分かるのだが、刀花はなんとか否定しようとがんばりはじめる。まあ、無駄だが。というわけで、カイトからあっけらかんとそれを認められた。


「まあ、良いんじゃね? ねこ、可愛いもんな。いや、オレは犬も好きだけど」

「うぅ・・・」


 カイトに苦笑しながら言われて、真っ赤なまま、刀花がうつむく。そんな刀花に、まあ、カイトも分からないでは無いので、頷いて告げた。


「ペットは良いもんな・・・オレも向こうじゃ竜飼ったりしてたなー・・・可愛いぞ、仔竜って。ぐるる、と鳴く事もあるけど、時折きゅ? とか小首を傾げるんだよ。他にもクズハに頼まれて犬・・・だと思ったら狼型の魔物だった、とかあったなー・・・あいつら元気かなー・・・」

「い、いや、流石にそこまでは言わないが・・・」


 同じく頬が緩んだ顔で自分のペット自慢を行うカイトに対して、初めて聞いた異世界のぶっ飛んだペット事情に、刀花が頬を引き攣らせる。

 彼女としては一体全体何をペット扱いとしているんだ、と言う風に背筋を凍らせるが、カイトの場合は異世界でも異常だ。誰としても勘違いしない事を祈りたい所だろうが、まあ、無理だろう。とは言え、そんなペットを飼える者特有の言動に、刀花が羨ましそうだった。


「・・・えーっと・・・もしかして、ねこ、飼いたいのか?」

「良いのか!?」


 悲しげだった刀花だったのだが、カイトの言葉にがばっ、と顔を上げる。その目には歳相応の幼さが滲んでいた。


「きちんと飼えるのなら、な」

「ああ! 大丈夫だ! 任せてくれ! 病院が何処にあるのか、どんな食べ物を何処で買えば良いのか、というのは全部調べてある! きちんと買い方のマニュアルも暗記しているぞ!」


 スマホを取り出してお気に入りの欄にあった『ねこ』という所から、病院の一覧や必要となる物、その他ペットホテルから公的機関へと届け出手順に至るまで聞いてもいないのに全てを矢継ぎ早にカイトに語る。どうやらずっと欲しい、と思っていたらしいが、皇家という状況が許さなかったのだろう。まあ、生真面目な彼女だ。途中で投げ出す様な事は無いだろう。

 ちなみに。これは少し先に聞く事になるのだが、実は紫苑の家に言った時にはねこをまさにネコっかわいがりしていたらしい。紫苑の飼うねこは人懐っこいねこなので更に彼女の猫好きが悪化したのであった。


「お、おう・・・ま、まあ、次の受け入れ先はマンションだったんだが・・・うーん・・・一軒家も考えといてやるよ」

「ありがとう!」


 カイトの手を握ってブンブンと振る刀花は、普通に一人の少女だった。随分と歳相応の顔が見える様になった、と思うカイトであったが、親友の紫苑曰く、ねこの絡んだ刀花は昔からこんな物だ、との事だった。


「スコティッシュ・フォールドもいいけど、アメリカンショートヘアも捨てがたい・・・ロシアン・ブルーも欲しいなー・・・ベンガルでも良い・・・」

「どうせなら雄の三毛猫でも探してこい」

「ああ・・・でも、他の皆にも聞いたほうが良いか・・・」


 カイトから出た許可に、刀花が頭を捻って色々とプランを練り始める。それに、カイトは微笑ましく思う。ここだけを見れば、まさに歳相応、という所だった。

 今までの彼女らには、こんなわがままも許されなかったのだ。まさに、籠の鳥。たったこの程度で喜んでくれるのなら、カイトとしては迷う必要が無かった。

 ねこなぞ血統書等が付いていても、一匹数十万程度。高くても数百万だ。その後の費用を見繕っても、今のカイトなら余裕で賄えるだけの財力はある。たかだかその程度で彼女らの喜びが贖えるのなら、別に考えるつもりも無かったのである。

 こうして、どのねこが良いか、と頭を必死で働かせる刀花を連れて、カイトは神宮寺財閥本社ビルを後にする事にしたのだった。

 ちなみに、この許可の結果。元贄女達が共同で飼育する事にして幾つかの犬や猫を飼うことになるのだが、それは横に置いておく事にする。




カイトが神影との会合を得て、少し。成田国際空港に一人の少年が降り立った。


「日本は久しぶりだなー・・・」


 少年の名は、天道 煌士。言うまでもなく、<<天道の麒麟児(てんどうのきりんじ)>>だ。カイトが持ちだした取引きに応じて、日本への帰国が許されたのである。


「3年、だっけ・・・最後に帰国したの・・・」


 専用機のタラップから降りる間にぼんやりと周囲を観察していた煌士であったが、思い出すのは最後に帰国した時の事だ。彼は神童として有名になった時から渡米して飛び級で進学したわけなのだが、それ以来一度も日本に帰国していなかったのである。

 表向きは研究で色々あるから、という事だが、事実としては、米国政府が嫌がったから、だ。世界で有数の知能かつ世界でも彼しか不可能な技術を有する彼を日本に返す、ということはそれ即ち、日本に利益であっても、アメリカの不利益でもある。それを厭うのは当然だった。


「でも、どうしていきなり帰って良い、ってなったんだろ・・・」

「ぼっちゃん。地面に付きますよ」


 急に下りた帰国許可に煌士が首を傾げていると、横の付き人が注意を促す。まあ、まさか戦争が起きるので、なぞという裏事情を教えてもらえるはずがない。彼の研究内容はあくまで、平和利用が主だ。それに他国の子供にそんな事を教えるわけにもいかない。

 というわけで、表向き煌士に教えられている理由は、必要な研究施設が日本でも整ったから、という事だった。現に彼のメインの活動拠点となるのは天桜学園の大学と研究施設だ。魔術的・科学的に日本で、否、世界で最も厳重な警備が出来る場所、だった。


「あ、はい。ありがとうございます」


 付き人の言葉を受けて、煌士が前を向く。そんな煌士を、カイトと覇王が見ていた。


「あれが、ウチの三男坊。俺の子供の中じゃあ、最高の知能を持つ子供、だ」

「<<天道の麒麟児(てんどうのきりんじ)>>・・・か。聞き及んでいる。相当な賢さだ、とな」

「親の贔屓目無しで見ても、地球で有数の大天才だ」


 二人が居るのは、成田国際空港の屋根の上、だ。二人以外には誰もいない。本来は必要なはずの覇王の護衛も、だ。まあ、彼も並の護衛よりも遥かに強いので、密かに話し合う分には問題がない。ちなみに、念のために言うが、二人の近くに居ないだけで、護衛はきちんと存在している。


「了解した。こちらから紫陽の村正殿には話を通しておこう」

「助かる。俺達だけではやれる事が限られる。一応皇殿にも援助を依頼しているが、護衛は多い方が良い。それと・・・父親として、感謝しておく。あいつを日本に戻してやれねえか、と動いていたが・・・何分、開発した物と技術が悪かった。やっこさんらが首を縦に振らなくてな」

「それは受け取っておこう」


 覇王の言葉に、カイトが笑いながら頷く。話し合いの内容は、煌士の警護に関して、だった。天神市は天道財閥のお膝元であるが、同時に、日本有数の国際都市でもある。となると、何処からスパイが紛れ込むのか分からない。

 これから彼には専門の護衛を付ける、という事だったが、それでも、手は多い方が良い。彼らよりも遥かに強い蘇芳翁達に援護を依頼するのは、至極当然と言えた。

 とは言え、事情を理解してくれて居なければ別組織のトップにアポイントなぞ取れないので、事情を理解してくれているカイトを通しておこう、という事だったのである。


「にしても・・・先ほどまで関西に居た、と聞いていたんだがな」

「別に1分ありゃ、地球一周は出来る」

「はぁ・・・戦略爆撃機も形無し、か」


 カイトの言葉に、覇王が肩を竦める。カイトは超強力な爆弾を無数に搭載した爆撃機に等しい。言っている事は正しかった。どの国も恐れるわけである。ちなみに、本当は全力でやれば1分も必要はない。ルイスならば5秒も必要無い。


「それで、どうするつもりなんだ?」

「とりあえずは、反重力発生装置を作らせる。宇宙船を作れる、つって煌士もそれなりに乗り気だ」


 カイトの問いかけを受けて、覇王がざっくばらんに意見を返す。ここらはまだ煌士の帰国が実現するかどうかの見通しが立たなかった為、大雑把にしか確定していなかったらしい。どうやら彼らにとってはそれほど信じられない事だった様だ。


「そうか。そこらは、まあ、本格的に決まったら、そっちで進めてくれ。見た所でわからん。オレの知性はそこらのガキと変わらん」

「そのガキは何歳基準なのやら・・・」


 カイトの言葉に、覇王がため息を吐いた。彼らは未だに、カイトの事を数百歳の異族だ、と考えている。となると、この言葉は何処までの年齢の事を言っているのか、分からなかったのだ。


「まあ、要件は聞いた。こちらはこれから紫陽へと向かい、村正殿に伝えに行こう。そちらもようやく返って来れた息子を出迎えてやれ」

「ああ、感謝する」


 カイトの言葉に、覇王が頷く。それで、会談は終了だった。そうして、覇王はカイトと別れて、自らの息子を出迎えに行く事にする。


「よう、煌士。帰ったな」

「あ、お父様。ただいま帰りました。わざわざ空港まで出迎えに来て下さったんですか?」

「ああ。近くで仕事の話があってな。それで、一緒に家まで帰るか、と思ってな」


 入国手続を終えた煌士の言葉に、覇王が手で笑いながら歩くように促す。そうして、二人と護衛達が歩き始めて、車に乗り込む。


「どうだった、アメリカは」

「ええ、とても大きな国、でした。人も、国も、土地も、全てが、です」

「そうか」


 煌士の言葉に、覇王が頷く。そうして、しばらくの間。二人はたまさかの親子の会話を行う。


「まあ、お前が使っていた研究道具については、全部アメリカから持ってこさせている・・・まあ、本来は天道で作った物だから、別にこっちで新調しても良かったんだけど・・・な」

「あはは。新品が良かったです」


 覇王の何処か茶化すような言葉に、煌士も茶化す様に答える。そうして、車が走る事、約3時間。密かな護衛車両と共に車に揺られて、天神市にある天道邸へとたどり着いた。


「久しぶりだなー・・・帰って来るのも」

「おう、お帰り」

「おかえりなさい、煌士」

「ソラさん! 空也!」


 車から降り立った煌士を出迎えたのは、煌士が帰って来る、という事を密かに聞かされて出迎えたソラだった。急な帰国となって桜達上の姉や兄達の出迎えが困難だった為、変わってソラと空也が出迎えてやるか、ということだったのである。サプライズの演出だったのだが、この二人との再会は何よりも彼に帰国を実感させる物になったらしい。


「なんか落ち着いた?」

「あはは。うん。ちょっとアドバイスを受けて、ね。色々と落ち着いてみよう、って」


 少し見ない間に様変わりした幼なじみを見て、煌士が少し驚いた様に問いかけると、空也はそれに少し苦笑混じりに頷く。カイトのアドバイスを受けて、ゆっくりとだが、彼も変わっていたのである。これが良い変化になるのか悪い変化になるのかは、まだ誰にも分からない。


「ソラ君も空也君も、後は任せる。煌士、悪いな。俺はこれから本社に出ないとな」

「あ、はい。お仕事頑張ってください」

「うっす」

「はい」


 覇王からの言葉に、三人が頷く。そうしてそれを受けて、覇王は運転手に命じて、再び車を走らせ始める。そうして、それを見送って、三人は天道邸に入る。


「お兄ちゃん!」

「お兄様」


 天道邸に入って出迎えたのは、二人の少女、だ。片方は着物姿で、片方は動きやすそうなホットパンツだ。顔立ちは桜に似てお上品なのだが、おかしなことに、二人共同じ顔だった。身体つきもそっくりで、髪型が片やショートカット、片やロングヘア、という事以外に、異なった点は無かった。


「葵、茜。ただいま」

「お帰り!」

「おかえりなさい」


 葵と茜。そう呼ばれた二人は、顔立ちを見れば分かる事だが、一卵性双生児の煌士、ひいては桜の妹達だ。彼女らが、天道家の末妹達、だった。ショートカットではつらつなのが葵で、ロングヘアでおとなしめなのが茜だった。


「二人共、お稽古は良いの?」

「うん! 今日はお兄ちゃんが帰って来るから、ってお休みだよ!」


 煌士の問いかけに、葵が笑いながら頷く。彼女だけは、この歳不相応に落ち着いた天道兄妹の中で唯一、快活な笑顔が良く似あう少女で、色々と動き回っていたのだった。ちなみに、お稽古、とは日舞の事だ。二人共、習い事の一貫で日舞の稽古を行っていたのである。

 そうして、そんな二人の後ろから、一人の着物姿の女性が出てきた。顔立ちは、煌士にも双子の妹達にも桜達にも似ていた。


「おかえりなさい、煌士」

「お母様。今、戻りました」

「はい。さあ、そんな所に立っていないで、入りなさい。まだ1月。外は寒いでしょう。ソラ君、空也君。君達も」

「はい」


 着物姿の女性は、煌士の母だった。美姫と名高い桜の母なので、彼女も類稀なる美人だった。とは言え、何処か、春真や夏樹という二人の兄達には、似ていなかった。

 まあ、それも仕方が無い。彼女が実母なのは、桜以下の面子だけだ。実は彼女は後妻にあたる存在だった。夏樹がもう大学も卒業が近い頃だというのに、桜が中学生なのは、こういう理由があったのである。


「桜は今お稽古の真っ最中ですから、帰って来るのは夕食の前になるはずです。春真はお父様のお手伝いで今日は帰りませんが、夏樹は学校で研究に一区切りつけたら、今日は早めに帰って来る、との事です」

「わかりました。ありがとうございます」


 母からの言葉に、煌士が頷く。別に気にしていた事では無いが、曲がりなりにも家族の事だ。なので煌士はそれに頷いて感謝を示す。こうして、煌士は約3年ぶりとなる実家での生活を、スタートさせることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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