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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第3章 全ての始まり編

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断章 第2話 ティナ転入編・ティナ挨拶する

 それはまだ、ソラと共に御子柴達の襲撃を退けて数日後の事だ。


「間違い無いか?」

『そのはずです。いえ、そうに違いないです。』


 カイトは使い魔の一体に対して、とあるテレビ番組を見せていた。とはいえ、見せていると言ってもこの時代のカイトの部屋にはテレビは無かったので、カイトはリビングのソファに腰掛けていた。

 なので当然だが、こんな所に使い魔もティナもなんぞ出せるはずも無く、カイトが見た映像をそのまま彼女に見せているだけである。


「まあ、確かに面影があるっちゃあるな。」


 テレビに映る老人には、確かに自分の馴染みの者の面影があった。が、自分達が探す人物には自分は会ったことが無かったので、以前会ったことがあると言っていた使い魔に頼んで確認してもらったのである。

 ちなみに、ティナ然り彼女然り、科学文明に馴染みのない人間が現代に飛ばされて良くある、この小さな板―天音家のリビングにあるテレビは薄型なのである―の中に人が~、ということはやっていない。と言うより、使い魔の誰もやっていない。カイトがエネフィアへテレビを魔術を応用した技術として持込済みだからである。まあ、代わりに何人かが向こうでやったのだが。


『とは言え・・・異世界なので他人の空似の可能性は否定出来ません。実際にお会いしてみない事にはなんとも・・・』

「そこが、問題なんだよなー。」


 使い魔の言葉に、カイトが頭を悩ませる。個人情報の保護が叫ばれて久しいこの時代。彼の住所なぞわかるはずもなく、目撃情報を頼りにネットの海を漁るしか無かった。が、その調査は難航しているのであった。


「カイトー、何か言ったー?」

「あ、いや!なんでも無い!単にテレビ見てただけ!」


 と、カイトの呟きを聞いたのか、台所から母親の声が響き、カイトは大慌てで誤魔化す。そうして、少しだけ顔を覗かせた彼女を見た使い魔の一体が、困惑混じりにカイトに問い掛けた。


『あの・・・カイト殿?失礼かとは思うのですが・・・今のはご母堂ですか?ご母堂ですよね?』

「・・・まあ、認めにくいのはわかる。が、オレの母、綾音だ。」

 

 使い魔の疑問に、カイトも苦笑しながら答えた。ティナにも実は呆然とされたのだが、カイトの母親は少し、というかかなり人並み外れた容姿だった。が、これは『まっとうな』意味で、ではない。

 カイトの母親の見た目―と精神年齢―はかなり若いのだ。若作りとかではなく、幼いといっても良いかもしれない。まだ小学校の妹と並んでもまず間違いなく姉妹としてしか、見られなかった。まず間違いなく彼女が3児の母親とは思われない。


『いっそ、魔術でこの国中を探索してみては?』

「そりゃマズイだろ。下手に下手を打って藪をつついて蛇を出しても面倒だ。今のこの国の現状がわからんことには、大規模術式を展開するなんて愚策もいいとこだろ。やるなら、こないだみたいに超簡単な分身とか隠密ぐらいだな。」


 カイトは先日のゴタゴタから異族の存在については確信を得ているものの、彼らがどのような状況に置かれているのかは把握していない。それ故、安易に大規模な異変をもたらす魔術を使えないのだ。が、二人の問題は、テレビによって解決された。


『では、皆さんよりブイが届いてまーす。』


 情報番組の司会が告げた言葉に、カイトがふと視線をテレビにやる。すると、先程まで見ていた彼の映像が映った。どこかの劇場の通路らしい背景だった。どうやら彼が演じる若者向けの舞台の宣伝らしい。件の蘇芳翁はこれで主役の俳優の父親に近い準主役級の役回りを演じるようだった。そして、最後に主役級の役者達が一斉に告げる。


『~座で三日後に公演開始です。お楽しみを。』

「これだ!そっか、そうだよな!」


 蘇芳翁達が告げた言葉に、カイトは大声を上げる。今まで何故気付かなかったのか、彼の顔にはそう浮かんでいた。

 今までは私人としての蘇芳翁にアポイントを取ろうとしてにっちもさっちもいかない状況だったのだが、公人としての彼の居場所なら、安易に掴めるのだ。ならば、後はそこに行けば良いだけであった。


「当たり前だよな!芸能人なんだから、どっか人目に付く仕事してるよな!」

「カイトー!どうしたのー!?」


 いきなり狂喜乱舞し始めたカイトに、母親が台所から大慌てで顔を出した。カイトは笑いながら母親に告げる。綾音はカイトの笑い顔を訝しむが、首を傾げるに留まった。


「あ、お母さん。今度の土曜出かける。」

「?そうなんだ?」

「ああ、都心の方に行くけど、何か買っておくか?」

「あ、じゃあちょっと待ってねー。」


 どうやら台所での仕事は終わったらしい。彼女はソファに腰掛けると、スマホで調べ物をしていく。それに合わせてカイトもスマホで蘇芳が告げた劇場への行き方を調べる。すると、どうやら自宅から電車でも1時間足らずで行ける距離らしい。隠蔽の魔術を展開して屋根上を駆け抜ける事も出来るが、先ほどから電車に乗りたいとのたまう魔王が居たので、電車にすることにした。


「あ、あった。カイトー、今から送るメモでお願いね。」

「あいよ。」


 どうやらカイトがルートを探している間に、母親の方もどうやら調べ物が終わったらしい。送られてきたメモにはチケットの購入が書かれていた。しかも、カイトが行く予定の劇である。奇妙な偶然に、カイトは思わず笑みがこぼれた。


「あ、オレこれ行くんだけど。」

「え、ホント?じゃあ、一緒に行こ?」

「ん?・・・まあ、いっか。」

「やった。久々にカイトとお出かけだ。」


 綾音が嬉しそうに笑う。ちなみに、カイトはエネフィアに転移する前までは思春期真っ盛りである。当然だが、母親と出かけるのはこっ恥ずかしすぎて久しく出かけていなかった。おまけに彼女の見た目が見た目なのだ。恋人だのなんだのと茶化されて、彼女の時間軸で言えば、ここ一年近くは一緒に出かけられていないのであった。


「あ、そだ。母さん。それでちょっとした知り合いと一緒に行くだけど、一緒で良い?」

「あ、そなの?じゃあ、私は別に一緒じゃなくてもいいよ。」

「あ、いや、別に一緒でいい。」


 どちらにせよ、手筈さえ整えば一緒に暮らさせるのだ。別に気にする必要は無いし、ティナの方はティナの方で容姿変更の魔術が万全か確認するテストを望んでいたのである。なので、カイトは一緒に来る事を望んだのであった。


「おはようございます。」

「おはよー。」


 と、そうして話している内に、更に子供の声が二つ響いた。カイトの弟妹の浬と海瑠が起きてきたのである。


「あ、おはよー!ねえ、二人共!今度の土曜日お兄ちゃんと都心に出かけるけど、一緒に来る?」

「え?どこ?」

「劇を観に行くんだって。」


 どうやら綾音はカイトが起こした珍しい気まぐれ―既にカイトは思春期を脱しているので気まぐれではないが―に大層喜んでくれたらしく、二人にも声を掛ける。そうして、結局拗ねた父親の彩斗(さいと)も一緒に、天音家全員で出かける事になったのであった。




 そうして数日後。ネットでチケットを購入して、集合場所となった駅前に天音家一同が集まっていた。


「そういや、カイト。お前の知り合いって女か?」

「ああ・・・ん?なんだよ?」


 彩斗がどこか茶化す様にカイトに告げた言葉を、カイトは恥ずかしがること無く認める。それに彩斗は少しだけ驚いた様な顔で目を見開いていた。


「あー、いや、もしかしてデートやったか?」

「ん?ああ、いや、そんなんじゃねえって。お、来たな。」


 そしてそれに合わせるかのように待ち人が来た。元々はカイトの知り合いが一緒だ、と言うのは全員が承知していたが、そうして現れた人物を見て、天音家全員が唖然となる。

 現れたのは目を見張る様な美少女が二人だったのだ。片方は金髪碧眼の美少女で、もう片方は着物姿の童女である。此方もまた、美少女だ。年の頃は、カイトと同年代である。


「初めまして、カイト殿のご家族の皆様。月銀 月花(つきしろ げっか)と申します。」

「初めましてじゃ!ユスティーナ・ミストルティンじゃ!」


 片方は言うまでもなくティナである。もう片方はカイトの使い魔だ。カイトの使い魔の中で唯一蘇芳翁にあった彼女を連れて来たのである。ちなみに、蘇芳翁が跳ばされたのはティナが封印されている最中らしいのだが、他国の要人ではないので彼の名を知っていても、ティナは出会った事がないらしい。


「あ、はい。初めまして・・・おい、カイトちょっと来いや。」

「ん?なんだよ?」

「お前、あんなべっぴんさんとどうやって知り合ったん?」

「ネット。」

「おま・・・まあ、ええわ。電車の時間が近いから、先乗るぞ。」


 そうして多少の事情聴取の後。カイト達は電車の時間が近い、ということで電車に乗り込む事にする。


「おお!これが日本の電車か!」

「あんま、はしゃぐな。」


 電車に乗って大はしゃぎのティナを諌めるカイト。初めて見る乗り物に、ティナは興味津々であった。そんなティナに若干周囲が気圧されつつも、浬が話し掛けた。


「ティナさんはどうして日本に来たんですか?」

「む?おお、別に余はついで、じゃな。」

「え?」


 ティナの言葉に浬が首を傾げる。日本に来るのがついで、とはどういうことなのか、顔に浮かんだ疑問をティナは笑い、答えた。


「簡単じゃよ。ほれ、そこの月花がおるじゃろう?あ奴が里帰りしたい、と申したのでな。余と共にこっちに短期で旅行に来た、というわけじゃ・・・おぉ、別に学校にはきちんと休暇を届け出ておるぞ?」

「あれ?月花さんは日本人じゃないんですか?」

「うむ、余と同じく海外で生まれ育ってのう・・・なんじゃったか・・・カイト、月花みたいに海外で育った日本人の事を日本語ではなんと言うんじゃったか?」

「日系人、もしくは在外邦人だな。まあ、月花の場合は日系人が正解だ。」


 ティナは正面真向かいのカイトに問い掛け、カイトがそれに答える。カイトの横に月花が座っている。


「私は父母の仕事の関係で海外で生まれ、今回の訪日まで日本に来た事が無かったんです。それで、ネットで知り合ったカイト殿に案内をお願いしたのです。ええ、お願いしました。」

「それにしても二人共日本語が上手ねー。」

「うむ、月花は自宅では日本語を使っておるらしいからのう。余はまあ、若干口調がおかしいらしいが、月花のご母堂のご母堂に教わったら、のう。こうなってしもうた。」


 綾音の質問から一番全員が聞きたかったであろう質問を予期して、ティナが少しだけ苦笑を作りながら答えた。苦笑を作った理由は簡単で、嘘八百だからである。

 そうこうしている内に、電車は問題なく駅へと到着し、劇を観覧。そこで、カイトは一旦劇のパンフレットやインタヴュー等のグッズの探索の為に家族と別れ、案内という名目でティナと月花を連れて外に出る。


「さて・・・元に戻るか。」

「この姿もなかなかに悪うないのう。月花もの。」

「懐かしいです。燈火と共に過ごした幼き日を思い出します。ええ、思い出されます。」


 3人は人気のない通路へと足を運ぶと、そこで元の本来の姿に戻る。が、カイトは当然黒髪黒目のままだし、ティナは金髪碧眼だ。が、月花は彼女本来の銀髪灼眼に代わる。以前会ったという時の姿は童女の姿だが、そちらはカイトの家族と会った為、使わない。

 ちなみに、さすがにドレスだと目立ちすぎるので、ティナは地球で売っている大量生産品の服を着こなしている。が、どう考えても彼女の場合はどこかの海外モデルよろしく着こなしが巧すぎる。


「だれ、あれ・・・モデル?」

「舞台にあんな人出てたっけ・・・」


 と、そうして人気のある劇場のメインホールに出てきた3人だが、その場の全ての視線が3人に注がれた。当然だが、3人共美男美女だ。それが3人も連れ立って出て来れば注目の的だろう。異様な空気に包まれたメインホールに、一瞬3人は気圧される。

 が、気圧されているのは他の観客たちも一緒だ。劇も終わりパンフレットや次の公演を見る為に残っている観客達はまさか休憩に出てきた俳優なのだろうか、と騒然となり、大急ぎで記憶やパンフレットで調べ始める。


「あの・・・俳優さんですか?」

「え?・・・あ、いえ!違います!単なる観客です。」


 まあ、気圧されているなら良いか、と気を取り直したカイト達3人だが、歩き出す前に予想外の出来事が起きた。調べても埒が明かないと判断した一団が話しかけてきたのである。それも、その一団が大問題だった。


「あれ・・・でもどこかで見た気がするんですよね・・・」

「あはは、近くの席に座ってたんじゃないですかねー?」


 カイトは背中に汗を掻きながら笑う。カイトに問い掛けるのは、小さな女の子だ。いや、見た目は、と付けた方が良いだろう。そして、彼女が見たことが在ると告げるのも、当たり前だ。つい先程まで一緒だった自分の息子を見たことがないわけがなかった。カイトの方はカイトの方でかなりベタなはぐらかし方をしてしまったので、周囲の観客たちはお忍びの芸能人か、と更に騒然となる。

 と、そこで劇場の別の一角、それもスタッフが出入りする方向が騒然となる。どこか黄色い歓声が混じっている所を見ると、誰かがファンサービスにでも出てきたのだろう。


「押さないで下さーい!」


 劇場のスタッフの声が響き渡る。どうやら考えは当たりだったようだ。


「蘇芳 政宗が出てきたらしい。他にも誰か一緒だって。」


 どこかで若い女性の観客の呟きが聞こえた。それに、綾音の問い掛けに四苦八苦していたカイト達が頷き合う。


「あ、誰か出て来られた様ですね。私達も向かおうと思うのですが、皆さんはどうされるのですか?」

「あ!さーくん、急いで行こ!」

「おう!っと、っちょい待ち。カイトに連絡入れておくわ。」


 彩斗が片手でスマホを操ってカイトにメールを打つ。そうして送信されたメールは、当たり前だが目の前のカイトに届き、着信音が鳴り響く。当然、此方もカイトのスマホなので彼らが知る着信音だ。それに、二人だけでなく一緒に居た浬や海瑠までもがきょとん、となる。


「あれ・・・?近くに居る?」

「あ、メールか。」

「あれ?・・・ああ、貴方のですか。」


 メールを送ると同時にカイトがポケットからスマホを取り出したものだから、彩斗に偶然だと判断される。


「ん?」

「ああ、いえ。偶然息子と同じ着信音でしたから。では、私達も行きましょうか。」


 カイトの訝しむような顔を見て、彩斗が苦笑して断りを入れる。それに、カイトも笑い、頷いて、彼らの後を歩き始める。


「ばれんで良かったのう。」

「なんでここまで行動的なんだよ、ウチの親共は・・・」


 ティナの楽しげな言葉に、カイトはげんなりとして、肩を落とす。が、カイトは直ぐに気合を入れなおし、蘇芳翁の正体を見極めんと、意識を集中するのであった。

 お読み頂きありがとうございました。


 2018年1月1日 追記

・誤字修正

『認める』の送り仮名『め』が抜けていたのを修正。

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[気になる点] この話で出てくるカイトの父親の名前が彩斗ではなくカタカナになっていますがいいのでしょうか?
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