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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第7章 氷のクリスマス・イブ編

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断章 天使達編 第30話 狂いし神

 カイト、ルイスとベル、そしてアザゼルに完全に包囲されたガブリエルだったが、その顔に浮かぶのは苦渋では無く、歓喜に近い表情だった。


『本当に・・・ルル様なんですか・・・?』

『ふん・・・貴様にまでルルと呼ばれるとはな。まあ、良い。そこの時間に糞真面目なサリエルが見て取っただろう? あそこはあまりに寒いのでな。いい加減飽きた事だし、と出て来た』


 傲慢に頬杖をついて、空中に足を組んで腰掛けたルイスがガブリエルに偉そうに告げる。まあ、嘘なのでカイトから即座につっこみが入ったが。


『泣いて、仲間を助けて、って言ったのに、よく言うよ』

『・・・うるさいぞ』

『あら! そんな事言ってくれたの!? うれしー!』


 ルイスの恥ずかしげな表情が、何よりもそれが真実だ、と示していた様だ。それを見て、ベルが一瞬でルイスに抱きついてなでくりまわす。

 が、当たり前だがその撫でくり回す対象には胸やらおしりが含まれているので、再びゼロ距離から一撃を食らうことになり、ベルは再び地面に沈み込む。


『やめろ! このセクハラ女!』

『うぐぅ・・・ミ、ミカちゃんは居ないの・・・?』

『あはは。居ませんよー・・・ふふ、懐かしい遣り取り・・・ベル様はこの後、何時もはミカエルに飛んでたんですよねー・・・ミカエルもどうすれば良いのかわからなくて・・・懐かしいですねー・・・』


 地面に沈んだベルの問い掛けを受けて、ガブリエルが懐かしげにかつてを思い出す。それはどうやらサンダルフォンの方も同じらしく、あまりの懐かしさに思わず涙ぐんでいた。そうしてそれを見て、ルイスが首を振る。


『はぁ・・・それにしても、貴様らは、敵の前でこの有様とは・・・情けない』

『そう言うルルちゃんだって可愛い教え子達だから、って手加減しまくりだったじゃない?』

『煩い!』

『やーん!』


 呆れ返ったルイスであったが、どうやらこれは自分の事を棚に上げた発言だったらしい。それをしっかりと見抜いていたベルから今度はツッコミを食らう。が、やはりここらは応対が違い、暫くの間、二人は追っかけっ子を開始する。


『はぁはぁ・・・もう良い・・・そういえば、貴様はやはり女は殴らんのか?』

『いや、というか、そっちは誰かわかんねえし、そもそもそっちのガブリエルってのは、まあ、殴れん』

『殴れん?』


 殴らないではなく、殴れない、と告げたカイトに対して、ルイスだけでなく、その場の全員が首を傾げる。それは当然だが、ガブリエルも一緒だ。そんな彼女に対して、カイトは頭を下げる。


『熾天使・ガブリエル殿。過日は我が同胞と、我らの大切な里をお救いくださり、感謝致します。今に至るまで感謝一つ述べれぬ事、まことに申し訳ありません。『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』が長として、里の全ての者を代表して、感謝の意を告げさせて頂きます・・・有難う御座いました』


 今までの傲岸不遜な態度は何処へやら、誰もが呆気にとられるほどに真摯で、丁寧な御礼の言葉が、カイトの口から語られる。それは、里の設立に密かに多大な尽力を行ったガブリエルに対する、今までは出来なかった感謝の言葉だった。

 が、その御礼の言葉と頭の下げ方があまりに綺麗で、心の篭っていた物だったため、思わず告げられたガブリエルは何も返せなくなってしまう。


『・・・おい、せめて何か返してやれ。そうでなければ、下げた頭が上げられん』

『・・・あ、はいはい! いえいえ! どういたしましてー! もう頭を上げてくださって大丈夫ですよ!』


 ルイスの言葉に、ようやく自分が何かを言わなければならないのだ、と把握したガブリエルがあたふたと慌てながらも言葉を返して、カイトの頭を上げさせる。


『かたじけない』

『・・・そういうの、出来たのね』

『俺達もびっくりだ』

『オレはやればできる子なんだよ・・・あんまやらないだけで』


 全ての遣り取りを男版ルイスというべき覇気を堂々とした態度で行っていたカイトの今の態度を見て、ようやく気を取り直したベルとアザゼルが苦笑する。そんな二人に、カイトは肩を竦めるだけだ。


『それで、そっちのは誰だ?』

『え・・・』

『ああ、それはサンダルフォンだ。私を封殺した時の組み合わせだな。私の弟子の一人・・・まあ、戦闘技術よりも、歌の方が上手かった奴だ。よく訓練をサボっては、私に怒られていたスイーツ女だ』

『うぐっ・・・だって、歌う方が好きなんだもん・・・』


 ルイスの言葉を聞いて、サンダルフォンが恥ずかしげにそっぽを向く。ルイスは最古参の天使で、元は神の右腕だ。今の幹部となる天使達全ての面倒を見てきていたのだ。それ故、誰もが隠しておきたい過去の秘密を知っていたのだった。


『第一さ! ルシ姉もルシ姉で厳しすぎるんだもん!』

『ふん・・・聞く耳持たんな』

『うぅー・・・』


 ルイスの取り付く島もない答えに、サンダルフォンが悲しそうに肩を落とす。彼女は元が人間だったため、天使となった時にルイスからみっちりと剣技や武芸も仕込まれたのだった。


『ルイスって、そこまでなのか?』

『まあ、ぶっちゃけ、全ての天使のお師匠様だ』


 完全に優位に立っているルイスを見て、カイトがアザゼルに問い掛ける。それを受けて、アザゼルが少し嫌そうに昔を思い出しつつ答えた。


『俺も昔はあの天使長・・・ああ、元か・・・の下で武芸学んだし、俺達グリゴリの天使達だってそうだ。奴から生まれた天使の大半と、元が人間だ、って奴は全員、あの元天使長殿の下で訓練積んでる。ぶっちゃけると、あの女がミカエルに負けた、つーのが信じられんぐらいのバカみたいな力だ』

『・・・手加減しまくりだったからよ。ほら、ルルちゃん、ミカちゃんとかに一番目を掛けてたじゃない? だから、もう1割ぐらいしか実力出せてなかったのよね』

『ああ、やっぱ兄貴の言う通り、意外とルイスって甘いわけな』

『甘いですねー。もうすっごい甘いですねー。ついでにいうと、反逆の後、ルル様の部屋入ったんですが、殆ど甘い物で埋め尽くされていたぐらいに、甘い物も好きですねー』


 傲岸不遜な態度でサンダルフォンと会話を行うルイスの傍ら、アザゼルとベル、カイト、ガブリエルの四人がルイスについてを語り合う。傲岸不遜で唯我独尊を地で行くルイスだが、実は天使達が認める通り、かなり甘いのであった。


『と言うか、兄貴? ルルちゃん、ってお兄さん居たの? 数百年ぐらい一緒だったけど、一度も聞いた事無いわよ?』

『ああ。まあ、知り合いが兄貴とちょいとした知り合いでな・・・まあ、そいつがルイスが実は優しい娘だ、って言ってた。何でも意外と面倒見が良い娘だから、偉そうでちょっと面倒な娘だけど、根は悪く無いから、だそうだ』

『なんか・・・とんでもなく出来たお兄さんっぽいですねー』

『当人は出来損ないだ、っつってたらしいけどな・・・』

『・・・いや、おい。そういや何平然とお前が混じってるんだよ』


 そうしてヒソヒソと会話をしていたカイト達四人であったが、途中でアザゼルがガブリエルまで混じっている事に気付く。


『いいじゃないですか。敵じゃ無いんですからねー』

『・・・実際、ガブリエル殿の行動は数百年単位でガチで敵じゃ無いっぽい』

『あ、殿は要らないですよー』


 カイトの言葉を受けて、ガブリエルが首を振る。その様子にどうやらガブリエルは自分達に対しては敵では無い様だ、とアザゼル達も判断したらしい。取り敢えずはそれで良いとする事にした。


『時代が変われば、お前らも変わるもんだ』

『その先駆者とも言えるのが、貴方達でしょ?』

『まあ・・・そりゃ、否定しねえよ』


 ベルの言葉を受けて、アザゼルが肩を竦める。彼らは一番初めの集団での堕天使達だ。先駆者といえば先駆者だった。まあ、その理由も人間と結婚して、という所なのだが。ここらは彼らが変わった、という所なのだろう。


『で・・・貴様ら。何時まで人の悪口を言い続けるつもりだ?』

『ん? ああ、どうやら戻ってきたみたいだな・・・で、そいつ放っておいたけど、どうする?』

『・・・ガブリエル。教えろ。貴様は何故、こいつの仲間に手を貸した?』


 サンダルフォンへの説教を終えて、ルイスが一同に告げる。当たり前に近いが、ルイスの認識ではガブリエルも今のミカエルと大差ないレベルでの神への信奉者だったのだ。それが真逆とも思える変貌を遂げていれば、気にもなる。


『・・・神の現状を、何処までご理解出来ていますか?』

『・・・そこまで、酷いか?』


ルイスの問い掛けを受けて、ガブリエルが沈痛な表情で頷く。それは何よりも、彼女が危惧していた事が現実になっている事を如実に表していた。


『原因は、大凡理解しています・・・その、対処も』

『・・・らしいな』


 カイトから聞かされていたガブリエルの行動の端々に滲んでいた自らと同じ行動に、ルイスがその言葉を認める。


『ルル様・・・今のままだと、神はどうなるのですか?』

『・・・わからん。それは私にも、な・・・取り敢えず、どうなっているのか、見なければ何も言えん・・・部屋は、相変わらずか?』

『・・・はい』


 かなり辛そうな顔のルイスだったが、ガブリエルの言葉に、意を決する。そうして何をしようとしたのか察したサンダルフォンは、大慌てでそれを止めようとする。


『ちょ、ルシ姉!? もしかして、今から行くつもり!?』

『ふん・・・そんじょそこらの雑多な転移術と、私の超高度な転移術を一緒にするな。ミカエルにもエノクにもバレんよ・・・サンダルフォン。貴様はサリエルを連れて天界に戻れ。我々はバレない様に、一気に行く』

『ちょ・・・もう! ルシ姉の馬鹿ー!』


 自らの制止も聞かずに消えたルイスとカイト達一同を見て、サンダルフォンの嘆きが、空港に響くのだった。




 消えた一同だが、タイムラグゼロで天界の最奥、それも天使達が厳重に警備する神の間への侵入を意図も簡単に成し遂げていた。そんなルイスに、思わずガブリエルが頬を引き攣らせる。


『あ、あはは・・・い、一応この部屋も転移禁止の空間断層が敷かれているんですけどねー・・・』

『ふん・・・そんな物で防げる転移術は使っていない』


 呆れ返ったガブリエルに対して、何処か自慢気にルイスが偉そうにふんぞり返る。まあ、普通は無理な空間に平然と侵入して見せたのだから、当然だろう。


『・・・にしても・・・ふん・・・広くなった物だ。それで、あのラインは何だ?』

『・・・進入禁止のラインです。あれ以上近づけば、神より天罰が下されます』


 ガブリエルが何処か自嘲気味に、ルイスの問い掛けに答える。そんな一同が入った部屋だが、そこ途方もなく巨大な空間だった。少なくとも、空間の果ては見えない。一同の後ろには扉があるだけで、それ以上先にも更に空間が続いていた。

 地面は雲の様な物体で覆われていて、奇妙な感覚が足の裏に感じられる。天井は青空で、こちらもどれだけ高いのかは、不明だ。そんな神の間だったが、扉の周囲100メートルほどで青く発光するラインによって、区切られていた。


『アザゼル。試しにあのラインを超えてみるつもりは無いか?』

『試すか、ボケ! めちゃくちゃ嫌な気配漂ってんだよ、この空間!』

『そうか・・・』

『何故ちょっと残念そうなんだ! 殺す気か! 俺はここから一歩も動けねえよ!』


 ルイスは少し残念そうであったが、アザゼルは試すつもりは無い様だ。まあ、それもそうだろう。ここまで爽やかで心地よい空間であるにも関わらず、アザゼルの言う通り、ここには本能的に忌避するレベルの濃密な魔力が漂っていたのだ。

 まだ強いルイスやカイトでは良いのだが、アザゼルは扉にもたれかかった状態だし、ガブリエルは腰を抜かした状況だった。カイト達やルイスを除けば地球ナンバー3の実力者であるガブリエルでこれなのだから、本能で忌避するのも仕方がない。


『で? 奴は何処に居る?』

『・・・おそらく、この空間の中心に。その中心が今は何処なのか、というのは、私達には、もう・・・』


 アザゼルいじりを適度に切り上げたルイスの問い掛けに、ガブリエルが中心部とおぼしき方角を指差して、悲しげに首を振る。聞けば、彼女達にももはやどれだけ遠くに神が居るのか、というのが分からないレベルらしかった。

 が、そんな状況でも、神を発見する事の出来る実力者が、この場には一人、居た。彼はずっとこの空間に来てから一言も発せず、悲しげな顔をしているだけだった。


『・・・居た。あそこだ・・・』

『え・・・?』

『何処だ?』

『あっちのずっと遠く・・・おそらくとんでもない距離だ』

『つっ!?』


 カイトの言葉にガブリエルが即座に最大の力で出来る限り遠くを見るために視力を魔術で底上げする。この部屋は遠くの場所を見通す様な魔術が禁止されているため、自らの視力を底上げして見つけ出すしか無いのだ。

 そうして、暫くガブリエルが頑張って捜索すると、その姿がなんとか見付けられたらしい。小さく、嗚咽にも似た声を漏らした。


『あ・・・』

『俺にははっきりとは見えねえな・・・』

『・・・哀れな』


 見付けられたのは、ルイスもアザゼルも一緒だった。そうして呟いたルイスの言葉が何よりも、彼の現状を如実に表していた。そうして、ルイスがそのまま悲しげな顔で、カイトに告げる。


『カイト・・・頼む。もう殺してやってくれ・・・あんなあいつは見たくはない・・・』

『・・・ちょっと行ってくる』

『あ!?』


 ルイスの言葉をきっかけにしたかの様に、カイトがおもむろに空間に設定されたラインを越える。それと同時にガブリエルが制止の声をあげようとして、それと同時に、遥か彼方の神から無数の光球が放たれた。

 それに驚いたのは、けしかけたと思っているルイスだ。まさか向こうから攻撃が仕掛けられるとは思っていなかったのだ。


『っ!? 一体奴は何のつもりだ!?』

『・・・もう・・・多分何も理解出来ていないんです・・・あの御方にはおそらく、敵も味方も区別が付いていない・・・ただ、生存本能だけで動いているだけなんです・・・』

『つっ・・・厄介な・・・ついに近づく事さえできなくなっているのか・・・カイト! 戻れ! 今の貴様でも手に余る存在だ!』


 無数の光球を双剣で切り払いながら神に超速で肉薄するカイトに向かって、ルイスが声を上げる。だが、彼女は勘違いしていた。カイトはルイスの望みを聞くためにラインの内側に入ったのでは無いのだ。


「苦しいか・・・少しでもマシになるなら、思う存分ぶちかませ。全部、防いでやる・・・お前が大切だった奴にゃ、一発も通さねえよ」


 一発一発が最新鋭の核弾頭にも匹敵する光球を放つ神に対して、カイトは届かない声を告げる。それを聞いたからかどうかは分からないが、唯一神はカイトが近づくにつれて、攻撃の密度を遥かに高めていく。


「ちっ・・・やはりこれ以上は身ひとつじゃあ無理か・・・」


 ある程度、それこそ唯一神が目視出来る距離にまで近づいた所で、カイトが顔を顰める。唯一神の現状での力量は、ティナにも匹敵するほどだった。ルイスの居なかった地球では圧倒的ぶっちぎりでナンバーワンと言えただろう。

 それも現状は何処か遊びじみたティナや、手加減をしてくれるルイスとは違い、なんら容赦無く殺しに来ているのだ。カイトでさえ手に余るのは、当然だった。

 ティナが魔道具等を扱う事を含めた総合的な技量に、ルイスが汎用性と特殊技能に長けるとするのなら、彼は出力と魔力保有量に異常に長けた存在と言えた。とは言え、それは彼が自我の大半という莫大な代償を支払って、得ている力だった。


「サリエルが幾星霜が一瞬となる空間に入れてくれたおかげで助かったぜ・・・今までの所までの信綱公の剣技なら、完璧に習得出来た・・・<<奈落の雨(ならくのあめ)>>!」


 完璧に至れれば、後はカイトの領域だ。なので彼は敵弾を完璧に相殺する神陰流<<奈落(ならく)>>を自らの武器を創り出せるという特性に合わせて改良した<<奈落の雨(ならくのあめ)>>という技を使用する。

 それは無数の武器に<<奈落(ならく)>>という相殺する技の特性を持たせ、敵の攻撃を完璧に無効化するためだけの防御特化の技だった。


「どれだけぶっ飛んでようと・・・どんな神だろうと、オレの愛する奴らの方が上だ。ディーネ! 雪輝! 他にも聞いてるだろう馬鹿共! 祝福云々関係なく、この哀れで優しい神のため、一瞬だけ時を止める許可をくれ!」


 無数の武具と光球が交差する中、カイトはあと一歩まで肉薄した状況で、最後の切り札を切る事にする。それはかつてディーネがやってのけた、世界の時を止めるという大精霊達最大の手札だ。

 それは誰も、ティナさえも存在さえ知らない、大精霊から全てを教えられて、そして自らの全ての真実を識るが故に知り得た時系統最高位の魔術だった。そうして、カイトの求めに応じて、世界の時が止まった。


『これで良い?』

『急げ、時間は無い』

「ああ、助かる・・・他の奴らも、サンキュな」


 ディーネと雪輝の声が響き、カイトが笑ってそれに礼を言う。時を止めたには止めたが、それが大精霊達の望みで無い以上、出来るのは極僅かな時間だけだ。だからこそ、カイトはこの距離にまで近づかなければならなかったのだ。

 そうして、カイトはティナが大昔に作った現在の身体の状況を調べるための魔道具を神に取り付けて、情報を入手する。


「・・・すまん。今のオレじゃあ・・・いや、オレ達じゃあ、お前を救ってやる事が出来ない・・・だけど、覚えておいてくれ。お前を救おうとしている奴らがいる、という事を、な。オレはカイト。勇者カイトだ。嘆く者を救う勇者だ・・・それは相手が神であっても、変わらねえよ」


 情報の入手を終えて、神に背を向ける前。カイトは時の止まった空間で神に告げる。近くで見た彼は、金髪碧眼でまさに天使の様な、という褒め言葉が似合いそうな小さな少年だった。

 だが、ここでカイトだからこそ、見えた事がある。その少年は、泣いていた。辛いのか、痛いのか、それとも別の何か故なのかは、カイトにも分からない。今も彼にそんな事を感じられるだけの意識があるのかも、だ。

 だが、少なくとも、泣いている事だけは、遠くからでも理解出来た。これはおそらく彼が人の嘆きに敏感な勇者だからこそ、だろう。そんな少年を、喩えルイスの頼みであってもカイトは殺す事は出来なかった。


『カイト、もう少ししたら、時が動くよ』

『その距離は貴様でも危険だ。早く引け』

「ああ・・・これ、貰ってくぜ。せめて可能性でも見せてやらねえと、あの怖くて優しいお姉さんは納得してくれそうにないだろ?」


 唯一神である少年から離れる瞬間、カイトは彼の胸に掛かっていたネックレスを入手する。それはこの世界では無い世界で作られた物だった。


『カイト、消えるよ。急いで』

「ああ!」


 時が動き出す寸前、カイトは彼から距離を取る。無数の光球を防ぐ相手にゼロ距離まで近づかれてやられそうな事は、というと、まず第一が全周囲に無作為の攻撃だ。そんな物を彼の出力で使われれば、カイトとてまっとうな手段では防ぎきれない。

 そうして、時が動き出すまでに出来る限りの距離を移動した所で、時が動き始める。どうやら距離が離れた事で、危険性が低下した、と思われたのだろう。カイトが危惧した全周囲への無差別攻撃は無く、再び光球を繰り出すだけだった。


「・・・次に来る時は、お前が治せると決まった時だ・・・その時まで、頑張れよ」


 両者の距離が広がるにつれて弱まっていく唯一神からの攻撃に、カイトが誰にも届かない激励を送る。それが聞こえたのかは分からないが、カイトがルイス達の所へと帰還する時には攻撃は止み、カイトはこの空間が隔離されてから唯一の生還者となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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