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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第7章 氷のクリスマス・イブ編

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断章 天使達編 第29話 天使達の会合

 カイト達が脱出してから、少し後。ようやく人数分の服を買い揃えて、現代の衣服の着方に苦心していた頃だ。カイト達が居る中欧の何処かの草原とは遠く離れた天界で、ガブリエルは届けられたある報告に、思わず愕然となった。


『なっ・・・嘘・・・では無いのですか?』

『はっ・・・今、密かに、そう通達を行う手筈を整えておいでです』


 ガブリエルの確認を受けて、報告した天使が改めてその報告を肯定する。そうしてガブリエルはもう確認も仕事も全て放り投げて、大急ぎでそれを命じた天使の下へと急ぐ。向かう先はこの天界において、最も地位の高い者の部屋だ。


『ミカエル!』

『・・・ああ、こちらが先か。言いたいことは理解している。だが、それが私・・・天使長ミカエルの決断だ』


 轟音と共に扉を勢い良く開いたガブリエルを見て、どうやらミカエルも要件を理解出来たらしい。何かを聞くことも無く、問答無用に答えを告げる。

 それは絶対の意思を持っており、翻意なぞあり得ない事を、如実にガブリエルに知らせていた。だがそれでも、文句を言わなければ、ガブリエルの気持ちが収まらなかった。


『貴方は・・・何を考えているの!? もしこれが表に知られれば、どうなるか考えているの!? 彼は今、裏と表、どちらにとっても最大の軛! もしそれが失われれば、表も裏も一気に動き出す! 独断での決断に至らないために、重要な議題では議会を開く事になっているんでしょう!? 貴方は会議を何だと思っているの!? それに討伐隊を送るにしても、状況が悪すぎるわ! しかもサリエルとサンダルフォン!? もし万が一<<零時空間(コキュートス)>>にでも落としたら、それこそ彼を奪還するために、インドラ達も、アマテラス達も動き出す! 貴方は二つの神軍を相手に、大戦争を起こすつもり!? ゼウス達とて、動き出す可能性もあるわよ!?』


 烈火の如くに怒りながらミカエルを一気にまくし立てたガブリエルは、取り敢えず言いたいことを言い終えたらしく、肩で息をする。そんな激高するガブリエルに対して、ミカエルは冷静に答えた。


『だから、今潰すべきなのだ。このまま手をこまねいていても、大同盟を結ぶだけだ。そうなれば、如何に私達といえども、安易には手を出せなくなる。次の大戦を考えれば、潰すべきタイミングは、ここだ。きちんと手は打った。即時開戦にはなり得んよ・・・それに、全ての魔を滅ぼし、民に安寧をもたらせ。それが、まだ在りし日の神の命だ。忘れたわけではあるまい?』

『つっ!? 命令命令って・・・貴方はほんっとに石頭! 少しは自分であの御方の状況を見て物を考え・・・いえ、今すぐ私も日本に向かいます! 今ならまだ、間に合う可能性があるわ! 貴方は少しは色々と考え直しなさい!』


 言いたいことがあるのは山々だが、それをここで言い合っている間にも事態は悪化の一途を辿るだけだ。まだカイトが無事であると思っているガブリエルにとって、ここで時間を無駄に潰すわけにはいかなかった。なのでガブリエルは捨て台詞と共に、大急ぎに部屋を後にする。


『・・・私こそ、貴様が何を考えているのかわからないよ・・・喩え可怪しくなられたとしても・・・今、そのお声を聞く事が叶わなくても・・・主の命こそ、絶対なのだ。何故、貴様はそれに背く様な事をする・・・そのままでは、貴様も堕天使に堕ちるだけだぞ・・・あの方の様に・・・』


 急ぎ足で去って行く同胞の後ろ姿に、ミカエルは少し寂しげに、言葉を送る。当たり前だが、ガブリエルとミカエルは熾天使の中でも同格に数えられたほどの間柄で、まだルイスが天使長を務めていた頃には、親友と言える間柄だった。

 共にルイスの我儘と傲慢さに辟易し嘆息しあった日々も、共にルイスの下で研鑽を積んだ日々も、彼女の中から失われてはいなかった。それから月日が流れ、変わり果てた今の現状に、頑固で石頭と言われる彼女もまた、悲しみを覚えるだけの感情はあったのである。


『どうして・・・お前まで、変わってしまうんだ・・・私も変わるのか・・・? あの方のように・・・あの方の模造品である私は・・・変わってしまうのか・・・?』


 恐怖をにじませながら、ミカエルがつぶやく。彼女がただ単に怖がっているだけだ、というのは、実はガブリエルも百も承知だ。

 だからこそ、彼女はミカエルに反旗を翻そうとは思わない。彼女にとっても、ミカエルは大切な友人なのだ。裏切る事が出来なかった。

 それ故に、ミカエルはガブリエルの行動を黙認していたし、ガブリエルも表向きは彼女の意思に従っている。この後だって、そうなるだろう。

 それが、ガブリエルの限界でもあった。様々な物を背負ったルイスに対して、そんなルイスの行動に天使長となり、誰にも打ち明けられずに一人で孤独に恐怖しているミカエルを知って、その彼女を助けようとしているガブリエルには、異族達の為にこれ以上の行動が取れないのだ。

 これ以上となると、確実に堕天してしまうからだ。そうなっては、今以上に、ミカエルは孤独になる。偽善で独善だとわかっていても、それだけは、許容出来なかった。


『主よ・・・貴方の命を果たしていけば、何時かまた、貴方の声を聞ける日が・・・ルル様やみんなと共に笑い合える日々が来るのでしょうか・・・』


 誰もいなくなった部屋の中で、かつての親友から叱責されて珍しく弱気になったミカエルが、小さく、呟いた。それだけが、ルイスの後を継いで天使長となった彼女の支えだった。

 彼女とて、今の神の現状は知っている。心の何処かで、本当は彼がどうしようもないぐらいに狂っているかもしれない、とも本当は思っている。

 だがそれでも。最も尊敬して、最も信頼した人に裏切られて、完璧な天使として創り出した神さえも前後不覚の状態に陥った今となっては、もはやそんな小さな願いしか、彼女には縋るものがなかったのだ。

 その姿はまるで親の愛を失った幼子の様、だった。これが、ミカエルの異族に対する熾烈さの原因、だった。主命を絶対として、なんとか、壊れそうにな彼女はやっていけていたのである。

 なにせ、ルイスが反逆した事で、ミカエルには自分自身が、信頼も信用も出来ないのだ。異族達には悪いが、彼女が人間不信に陥らなかっただけ、幸いだろう。

 そうしなければ、彼女自身が狂いそうだったのだ。そしてそれだけは、彼女には出来なかった。完璧として作られた彼女が狂えば、他ならぬ神が狂っている証明になってしまいそうで、怖かったのだ。異族達への苛烈さは、そこに起因していたのであった。

 そうして、もう既に終わっている事を伝えられずにガブリエルを見送ることになったミカエルは、沈んだ気持ちのまま、再び仕事に戻るのだった。




 一方、ミカエルの部屋を後にしたガブリエルだが、即座に情報を集める事にする。日本に行こうにも今自分がそのまま行けば、単純に延焼が始まりかけている火事に油を撒く様な物だ。日本側に事情を説明して、止める旨を通達しないといけないのだ。

 だが、そうして計画を立てている間に、ガブリエルの下に既に戦いが終了して、サリエル達が帰還する、という報告が入ってくる。


『・・・では、<<深蒼の覇王(ディープ・ブルー)>>は<<零時空間(コキュートス)>>に落とされた、と?』

『はい。つい先程、サリエル殿からその様に報告が有りました』

『・・・助かった・・・それならまだ、最悪に至る事も無いかもしれませんねー・・・本当に、彼は悪運が強いですねー・・・』


 報告を聞いて、ガブリエルはようやく余裕を得て、ほっ、と一息吐き出した。もし殺されていれば、如何に熾天使と言われるガブリエルにもどうしようも出来ない。

 エネフィアでもそうだが、地球でも死者蘇生は不可能な技術なのだ。そして自分達の牢獄に囚われているだけならば、出してやる事も出来る。となれば、まだなんとか、最悪には陥る事が無いと判断出来た。


『<<零時空間(コキュートス)>>から出せた事はありませんけど・・・なんとか、してみるしかないですよねー・・・』


 元々、自分達がやってしまった失敗だ。困難だろうと、やるしかなかった。それに幸い、彼女は<<零時空間(コキュートス)>>を作った時にルイスの側に居たのだ。そこから分かる事もあるかもしれない、とサリエル達の到着までに古く、懐かしい記憶を辿る事を決める。


『サリエルとサンダルフォン殿の乗られた飛行機の到着時刻を調べてください。私が直々に説得します』

『わかりました。すぐにお調べします』


 サリエルとサンダルフォンとガブリエルでは、ガブリエルの方が地位が高い。それ故に、ガブリエルは説得が不可能では無い、と判断する。

 サンダルフォンは中立だし、サリエルはタカ派ではあるが、厳密には中立に近い立ち位置だ。職務上と性格の問題でタカ派に分類されているだけで、道理を説いてなんとか説得が出来ない相手ではなかったのだ。

 そうして、部下からの報告を受け取ったガブリエルは数時間後に到着する、という欧州のとある国際空港へと、翼をはためかせる事にするのだった。




 それから、数時間後。欧州のとある国際空港の搭乗口に、サリエルとサンダルフォンが降り立った。


『うあー・・・もうサイアク。なんでエコノミーなのよ』

『何時でも即時撤退が出来るように、と幾つかの便を手配しましたし、バレない様に、とエコノミーを買ったんですよねぇ・・・これは確かにサイアクでしたねぇ』


 サンダルフォンの愚痴に、サリエルが同じく何処か疲れた様に告げる。周知の事実であるが、二人は天界でも最高位の天使の一人だ。そして、表向きもかなりの社会的地位を築いている。

 それ故に実は二人は何時もはファーストクラスかビジネスクラスが基本で、今まで飛行機のエコノミークラスに搭乗した事がなかったのだ。おまけにその初搭乗が日本から欧州行きの国際線だ。長旅であったので、疲労感はとんでもなかった。


『これが激戦の後なら、思わず手配整えたあんたぶっ飛ばしてたわよ?』

『あはは・・・それも仕方がないかもしれませんねぇ・・・』


 今回の手筈を整えたのは、サリエルだ。襲撃については作戦といえる作戦はなかったのだが、当然だが撤退については、綿密な計画を立てていた。それ故に、サンダルフォンがサリエルに愚痴を言う。

 が、そうしてサリエルの方を向いて、彼女らにとって馴染みのある金髪の美女が、サンダルフォンの眼に入った。しかもその美女はこちらとしっかりと視線を合わせ、こちらに向けて一直線に歩き出していた。


『うあっちゃー・・・多分カンカンよねー・・・と言うか、なんでエコノミー乗ってんのバレてんの? 普通プレミアムクラスの搭乗口行かない? あの人多分エコノミーの搭乗口来たこと無いよね?』

『・・・多分、調べられたんじゃないですかねぇ・・・まさかこちらにも飛び火するとは・・・久しぶりに明日はお休みにしたほうが良いですかねぇ・・・』


 明らかに自分達を待ち構えていた様子のガブリエルを見て、二人はため息混じりに愚痴を言い合う。当たり前だが、天使と言っても所詮は人の一種だ。完璧な人格者であるわけが無い。


『はぁ・・・私達天使長の命令聞いただけなんだけどねー・・・怒りの矛先、そっちに向かってくれないかなー・・・』

『いえ、多分向かった後じゃないですかねぇ・・・』


 一直線に向かってくるガブリエルに、二人はため息を吐く。そうして、ガブリエルが開口一番、サリエルに告げる。


『サリエル。今すぐに、<<深蒼の覇王(ディープ・ブルー)>>を出してください。このままでは戦いが起きます』

『そう言われましてもねぇ・・・天使長・ミカエルからのお達しを受けて入れた以上、ミカエル様の命令が無ければ、出す云々の話し合いが出来ないですよ』

『そう言っている場合ですか? 今回の一件はミカエルの完全な独断による行動。流石に会議にもかけないでの今回の行動はあまりに稚拙過ぎます。表でも裏でも戦争とならない様にするためには、彼を即時開放するしか、手はありません』

『そう言われましてもねぇ・・・そもそも、出せるんですかねぇ?』


 ガブリエルから何を言われても、サリエルはのらりくらりと取り合わない。どちらにせよ出せた事は無いのだ。ガブリエルの申し出を受けた所で、どうしようも無い。そうして暫くの押し問答の結果、一つの事を決める。


『わかりました。では、すぐに会議を招集します。決定すれば、出して構わないのですね?』

『まあ、そうですねぇ・・・私も曲がりなりにも、裁判官として法を司る以上、会議で決定されれば、従わなければならないですからねぇ・・・ですが、本当にやるおつもりですか?』

『そうしないと、もっと多くの血が流れる。ただでさえ、もう裏でも騒がしくなり始めています。今この場で、軛が失われるのは避けなくてはなりません』


 当たり前だが、ミカエルが独断で動いたとすれば、ここでのガブリエルの動きも独断だ。というわけでサリエルにそれを指摘されて、今後の対応は天使達を集めて会議で審議する事にする、と決定する。


『では、すぐに戻りましょう。刻一刻と事態は悪化して・・・サンダルフォン? どうしたんですか?』


 急いで帰ろう、そう言おうとしたガブリエルであったが、サンダルフォンが会話にも参加せず、それどころかある一点を見つめて完全に硬直している事に気付く。顔には信じられない、もしくは幽霊を見た、という様な感情が溢れていた。そうして、サンダルフォンが呆然と呟いた。


『・・・ベル姉・・・?』

『は?』


 一人だけ全く別の所を見ていたサンダルフォンの言葉に、ガブリエルとサリエルが後ろを振り返る。そうして、二人もサンダルフォンと同じ顔になった。当たり前だ。そこに居たのは、遥か過去に袂を分かったはずの仲間が居たのだ。


『はぁい、みんな。元気してた? 随分と顔付きが変わったみたいだけど、良い顔付きになったわねぇ』

『よぉ、ガキンチョ共。久しぶりだ。俺達の事、忘れちゃいねえよな? エノクの奴は元気してるか?』

『アザゼル!?』


 三人の注意がベルに向いた瞬間、その背後を埋める様にアザゼル率いるグリゴリの天使達の最上層部の面々が埋める。だが、それだけではない。その二点と三角形となる様に、最後の一点に、彼女らが慕った前天使長が、舞い降りた。


『ふん・・・貴様らは簡単に引っ掛かるな。ここに来る事が理解できていれば、包囲する事は容易い・・・にしても、<<深蒼の覇王(ディープ・ブルー)>>とはガブリエル、貴様が出迎えて、サンダルフォンが補佐に付くぐらいに危険な相手の様だな』

『・・・ルシ・・・姉・・・?』

『天使長・・・?』


 敵が本物か偽物かを判断していたために声を上げれなかったサリエルに対して、とんでもなく昔に袂をわかったはずのルイスの姿を見て、二人は思わず愕然と膝を付く。確かに昔は敵対したが、それも恨み合っての事でも無い。なのでお互いに敵意や恨みは存在していなかった。


『つっ・・・本物・・・ですか・・・一体、何時出られたのですかねぇ・・・』

『嘘!? じゃあ、幻影でもなんでもない、本当のルシ姉!?』

『ふん・・・私以外にこれだけの美少女がいるのなら、聞いてみたいがな』

『・・・変わりませんねー・・・その傲慢で自信過剰な態度・・・』


 サンダルフォンの言葉に対して答えたルイスの答えに、何処か涙を堪えたガブリエルが呆れた様なつぶやきを行う。


『変わるはずがあるまい? 私は、私だ。何処にいようと、どれだけの月日が流れようとも、変わることは無い・・・が、変わった物もある。紹介しよう。私の、夫だ』

『よう、サリエル。最悪の誕生日会サンクス。おかげで腹壊しそうだったぜ・・・それと、最高の誕生日プレゼントを、もらっといたぜ!』


 三方向に注意を向かせたカイトは困惑する三人に一瞬で肉薄し、前もって聞いていたサリエルの風貌を頼りに、サリエルに一撃を食らわせて、昏倒させる。


『<<深蒼の覇王(ディープ・ブルー)>>!?』

『よう。天使様からのクリスマス・プレゼント。確かに、有り難く頂いたぜ・・・氷のラッピングも、イカス具合だったな』

『中身も綺麗だっただろう?』

『ああ、ガワよりも、中身が最高だな』


 サリエルを一撃で昏倒させたカイトは、そのまま一瞬で転移してルイスの横に行き、白銀の少女を抱き寄せる。そうして、混乱する頭をなだめるのに少しの間が空いて、ガブリエルが口を開くのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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