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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第7章 氷のクリスマス・イブ編
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断章 天使達編 第28話 最高の誕生日プレゼント

 サンダルフォンとサリエルが何故、追手が掛けられなかったのか。それは至極当然の話だが、エリザが追手を差し向けようとしたすぐ後に、カイトから連絡が入ったからだ。


「つっ! 追って! カイトを出さないと、あそこからは誰も出て来れない!」


 エリザがとっさに指示を下し、それを受けて、周囲の面々がかなり慌て気味に戦闘の用意を整え、飛び立とうとする。だが、そこで即座に、ティナから待ったが入った。


「いや、必要が無い・・・お主らは、お主らが主と仰いだ相手が誰なのか、相変わらず理解しておらんようじゃな」

「ですが! 貴方は<<零時空間(コキュートス)>>がどんな所なのか、理解しているんですか!?」


 ティナの言葉を聞いて、エルザがティナを問い詰める。当たり前ではあるが、彼女らは元々が欧州出身だ。それ故に<<零時空間(コキュートス)>>の悪評は、それへの案内人とも言えるサリエルの悪評と共に、彼女らの耳にまで届いていた。それ故、ミカエルとは別に、最大に警戒されている相手が、このサリエルだった。

 ミカエルが最高戦力とするならば、サリエルは最悪の相手だ。魔眼は見るだけで、効力を発揮する。カイトがそうであった様に、油断していればどんな相手とて、縛り付ける事が出来る。

 そして一瞬でも拘束出来てしまえば、後は強制的に<<零時空間(コキュートス)>>に放り込んで封殺するだけだ。カイトでさえ簡単には出れないというのだから、他の者が出れないのは道理だった。ミカエルとは別に最悪と呼ばれるのは、至極当然の話だった。

 とは言え、それは相手がまともならば、勝ち目がない、というだけだ。なので、ティナは笑みを浮かべながら、スマホのスイッチを入れた。


『おーう。オレオレ。こっち無事。念話ティナに入れてる最中だったんだけど、こっちの方が全員わかりやすくて良いだろう、って』

「・・・はい?」


 スマホから響いてきたのは、カイトの声だ。しかも何か困窮しているとも思えない、のんびりとした声だった。それを聞いて、一同は首を傾げる。

 たった今、絶対に出れないと噂の牢獄に放り込まれたのに、あっという間に出て来ていたのだ。驚く以前の問題として、呆然としてしまったのである。


『いや、<<零時空間(コキュートス)>>とか言うとこに突っ込まれたんだけどよ。今脱出したわ』

「え、えぇ・・・?」

『いやぁー・・・今回ばかりは、やばかった。が、中に協力してくれる奴居てな? なんとか出て来れた』


 ケタケタと笑いながら、カイトが一同に告げる。やばかった、と言いながら声にはそんな感は少しも存在しておらず、これが本心から言っていない事を如実に表していた。

 まあ、それもそのはずだ。出れるのはかなり昔――カイトの感覚で、だが――から把握していたし、話し相手も困ることはなかったので、精神が狂うなぞという事もなり得ない。衣食住に加えて性欲についても問題がなかった。おまけに時間は空間の特性で問題にならない。

 というわけで、カイトにとってただ単に今回はちょっと高難易度だったかな、という程度に過ぎなかったのである。世界最悪の牢獄も、カイトにとっては牢獄になっていないのだった。


『でだ・・・まあ、ちょっとお礼参りしてくるつもりだから、適当に宴会進めといて。あ、後もし西の天使側からなんかあったら、一応混乱している風出しとくだけでいいや。ヒメ達来てくれたら、ちょっとサリエルどついてから来る、つっておいてくれると助かる』

「え、ええ・・・あ、サリエルなら多分、飛行機で欧州に向かうと思うわ・・・調べて送るわ」

『お、マジか。そりゃ、助かるね・・・じゃあ、ちょっと数時間後に・・・あ、ついでに堕天使達大量に引き連れて帰るわ・・・あ、後一人嫁増えた』


 エリザの言葉に、カイトが笑いながら感謝を送る。そうして更に告げられた情報に、思わずティナが吹き出した。彼女も知らなかったのだ。

 まあ、当たり前だが、カイトは年単位の時間を経験しているのに対して、実際には数秒と経過していないのだ。ティナでさえ、全てを把握していないのは当然だった。


「げふっ!? お、お主! それは余も聞いておらんぞ!?」

『だから今言った。それに説明途中で電話に変えろ、つったのお前だろ。まあ、取り敢えず・・・こっちの奴らにも情報教えてやらないといけないから、一度切るな』

「むぅ・・・わーったわ。お主の事。良い器量なのは確かじゃろう。こちらで受け入れ態勢は整えておいてやるわ」


 数秒消えている間に女を一人口説き落とした挙句、説明も無しに嫁増えた、とのたまったカイトに対して流石にティナも不満を隠せなかったが、取り敢えず何かあったのだろう、という事とカイトが認めたのだから、とそれを何も言わずに信じる事にする。そうしてそんなティナにカイトは少し有り難く思いつつも、それを最後に、通話を切るのだった。




「良し。まあ、これで大丈夫だろう」


 数分で全ての手筈を終わらせて、カイトがスマホをポケットに仕舞い込む。そんな様子を見て、ルイスが感心した様に頷いていた。彼女の認識では、人間はまだようやく火を満足に扱える様になり、治水を始めた、という所だったのだ。


「それが、スマホか。便利な物を人間は作る様になったものだ」

「意外と、馬鹿に出来ないだろ?」

「・・・これが、外の世界か・・・随分と、変わった物だな・・・」

「ここ以外は、もっと変わってんぜ」


 何処かの草原から周囲を見渡していたルイスに対して、カイトが笑いながら告げる。どうやら一同は草原地帯に放り出されたらしいのだが、そこからでも遠くには、彼女が居た頃とはかなり違う建物が見て取れたのだ。他にも遠くには自動車が走っていたり、と彼女の興味は尽きない。

 そうして暫く様々な物の解説をしながら待っていると、封印の影響で意識を失っていたらしい堕天使達が、目を覚まし始めた。そしてそれは、ルイスが友と呼ぶベルも一緒だった。


『・・・ここは・・・』

『・・・起きたな、ベル』

『・・・ルルちゃん?』

『だから、その甘ったるいアダ名で呼ぶな。スイーツ女』

『ルルちゃん! 無事だったのね!』

『・・・ああ』


 自らに抱きついたベルという堕天使の女を、ルイスはしっかりと抱きとめる。その頬には、一筋の涙が流れていた。永劫とも思える時間の果て。ようやく果たされた再会だった。

 ベルは、ルイスよりも少し年上の容姿をした綺麗な女性だった。そうして二人は暫くの間しっかりとお互いの存在を確かめ合っていたが、いきなりベルが崩れ落ちた。


『い・・・いいじゃない・・・触らせてくれても・・・』

『ふん・・・油断も隙も無い。感動もさせてくれんか』


 ぱんぱん、と手を鳴らしながら、ルイスがベルに告げる。何があったのか、というと、実は殆ど誰にも見えない様に密かにベルがルイスにセクハラをしようとしたのである。そしてその挙句に、ゼロ距離からルイスの掌底を思い切り腹に食らったのだ。

 まあ、ルイスが感動していたのは永遠にも思えるほどの時間を孤独に過ごしたからであって、その殆どの時間を眠っていたベルにとってみれば、つい先程別れたばかりなのだ。お互いの対応に差が出るのは、至極当然の話だった。


『だ、だから恋人の一人も出来ないのよ・・・』

『ふん・・・あいにくだがな。今の私は夫が居る』

『は・・・? うそよー。だって、ルルちゃんよ? あの、傲慢で横暴で唯我独尊でわがままし放題のルルちゃんよ? 私に限らず神様を顎で使うルルちゃんよ? 男なんて出来るはずが無いでしょう? 第一そんな超器の大きくて、奇特な男が居るはずないじゃない』


 ルイスの言葉を聞いて、ベルが笑いながらその言葉を否定する。どうやら少し前にサンダルフォンが呟いた様に、ルイスの傲慢さはかなり有名だったらしい。


『その奇特な男なら、貴様の後ろに居るぞ』

『奇妙な男ですよ、っと』

『まあ、確かに・・・奇妙な格好ね』


 ベルの言葉に後ろを振り向けば、そこに居たのは当然だが、片手を挙げたカイトだ。ルイスの時もそうだが、彼女らの認識は古代ローマ風の衣服で止まっている。

 となれば当然だが、カイトのTシャツにジーパン、加えて何時もの装備である純白のロングコートだ。奇妙に映るのは、致し方がなかった。とは言え、これは時が止まった彼女らの認識だ。なので、カイトがそれを指摘する。


『残念ながら、今はこっちがデフォルトだ・・・なにせ、お前たちが<<零時空間(コキュートス)>>とやらに入れられてから、幾星霜が経過してる・・・人類の中に、こんな奇特な男が出るぐらいにはな』

『と、言うわけらしい。全く・・・これだから、人は侮れん』


 自身の言葉を肯定する様にカイトに抱き寄せられたルイスが、肩を竦めてその言葉を認める。この数分でさえ、カイトの言った通りに自動車や飛行機を目撃したのだ。どんな言葉よりも、その存在こそが、幾星霜の月日が流れた事を表していた。


『まあ、ざっとあらましを語る前に・・・お前らの服をなんとかしないとな。その服は何処のコスプレイヤーだ、と笑われかねん。最悪は警察に通報物だな。下着も履いてないって完璧アウトだぞ』

『の前に、だ・・・俺達の方に、そこの女共が何故ここに居るのか、というのを説明しちゃ、くれねえか?』


 取り敢えずの対策を考えて行動に移ろうとしたカイトに対して、待ったが掛けられる。それは少し警戒した男の声だった。そうして、人垣を割って、漆黒の翼を持つ一人の30代前半ぐらいの男が現れた。後ろには彼以外にも漆黒の翼を持つ男達が数人従っていた。

 先頭の男は顔立ちは悪くはなく、何処か野性的で、例えるのなら、ちょい悪オヤジという所か。インドラと並べば、やんちゃな親父達、という風に非常に遊び慣れた感が出るだろう。


『アザゼルか・・・久しぶりだな』

『天使長殿も、お変わりない様で・・・で、こりゃ、何があったんだ? 俺達は確かに、あんたとサリエル、それとエノクの野郎の前であの野郎の審判を受けた。で、あの糞寒いとこに入れられた、と思ったんだが・・・なんだ、ようやく釈放か?』


 どうやら彼はここが<<零時空間(コキュートス)>>の外である事に気付いているらしい。それ故に落とされた事と合わせて、釈放されたのか、と問い掛ける。

 ルイスの言葉に拠れば、彼がアザゼルで、その後ろが堕天使達の先駆者となるグリゴリの天使達なのだろう。当たり前だが、彼らはルイス達が神に反逆する前に<<零時空間(コキュートス)>>に落とされた存在だ。それ故に、それ以降の事の顛末は何も知らない。

 なので、ルイスをまだ天使長だと警戒していたのである。とは言え、現状では安易な行動が出来ないため、警戒している程度に留めていたのである。


『・・・ふん。喜べ。釈放では無い。脱獄だ。この奇特な男が、そいつらを出すのに邪魔だ、と言うことで一緒に脱獄させてやっただけの話だ』

『だつ・・・ごく、だぁ!? 誰よりも神に慕われ、誰よりも神の命に忠実だったあんたが・・・まさか<<零時空間(コキュートス)>>行きってわけか!? 信じられるわけがないだろう!?』


 ベルというルイスの親友とも言えた天使を指して脱獄とまで言ったルイスの言葉を、アザゼルは信じられなかったらしい。まあ、彼の言葉に拠れば、ルイスが元は神の右腕とさえ言える存在だった事が理解出来る。それを考えれば、アザゼルが信じられないのも無理は無い。

 そうして、そんなアザゼルに対して、ルイスはまるでそれこそが証拠だ、と言わんばかりに自らの背中の黒白の翼を見せる。


『・・・漆黒の翼・・・半分とは言え、冗談じゃ、ねえみたいだな・・・何があった?』

『・・・貴様が堕天した後。本当に色々あった・・・』


 どうやらアザゼルもルイスの何処か物悲しげな表情とその背中の堕天の証に、ルイスの言葉が嘘では無い、と理解したらしい。そうして求められた問い掛けに、ルイスがカイトの方を向いた。当たり前だが、今の彼女らには時間があるのか無いのかさえ、理解出来ないのだ。


『語っても良いが・・・語っている時間があるか?』

『数時間、という所か。折角の人の誕生日に最高のプレゼントをくれたサリエルの横っ面に一発お見舞いしてやりたいからな』

『ほう・・・』

『へぇ・・・』


 獰猛に牙を見せたカイトの言葉に、ルイスとアザゼルが口角を上げる。当たり前だが、彼らも様々な理由があるとはいえ、サリエルによってあの<<零時空間(コキュートス)>>に落とされているのだ。当然だが、一撃ぐらいは、という気持ちは等しく抱いていた。


『じゃあ、それまでに教えてくれ。一体今まで何があった? そして、今の世界はどうなっている?』

『まあ、その前に服買いに行かせてくれ。流石にこんな所を誰かに見られでもしたら、面倒で仕方がない。オレの服装を見りゃわかるが、その服装、はっきり言って時代遅れもいいところなんだよ』

『・・・そういうことなら、俺も見に行こう。これでも、おしゃれにゃ、煩いぜ・・・セムヤザ! 悪いが残った奴の面倒頼んだ!』

『ああ、了解した!』

『ベル、ついてこい。貴様の服を買いに行く事にしよう』

『あら、また神様に反逆する前に、デート?』

『話は聞いていろ! あと私の尻を触ろうとするな、このセクハラ女!』

『ちっ・・・それで、話はきちんと聞いてたわよ』


 一同は取り敢えずの方針を決めて、どうすべきかを判断しかねていた神への反逆者達とグリゴリの天使達に通達をする。

 そうして、カイトはルイスとベル、そしてアザゼル達グリゴリの上層部の一部の面々を連れて、カイトのスマホを頼りに近くの大型ショッピングモールへと、繰り出したのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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