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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第1章 取り戻した日常編

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断章 第11話 出会いの物語・エピローグ

「いてっ!爺さん、もうちょっと優しく・・・」

「坊っちゃん、喧嘩もほどほどに。」

「うぎゃぁ!」

 ソラは中学から脱走した後、カイトと二人でゲームセンターで暗くなるまで遊び倒し、暗くなった頃にカイトの勧めで家に帰って、今は傷の手当てを受けていた。

「空坊っちゃん、旦那様がお呼びです。」

 そうして、傷の手当てを受けていると、使用人の一人がソラを呼びにやって来た。

「はぁ・・・わーったよ。」

 傷の手当ては殆ど終わっており、その頃を見計らってやって来たのだろう。ソラはかなり疲れていた事もあって、父親から逃げる気は無かった。内容も理解していたので、覚悟も出来ていた事もある。

「今直ぐ行く。」

「はい。旦那様は応接室でお待ちです。」

「あ?なんでだよ?」

「さて、それは私には。」

 使用人の言葉を訝しみながら、ソラは実家にある来客用の応接室へと連れて行かれた。

「ちょっと、待て。こっちか?」

 そうして、連れて行かれたソラは応接室の前で驚きに包まれた。

 ソラの実家には、応接室が複数ある。よく使われるのは、来賓の中でも天道家の本家筋の者や、権力者達有力者との会合で使う豪華な応接室と、当主や家人達の私的な知人を招いた時に使われる、質素な応接室の二つだ。ソラは既に夜も遅い時間の来客であったので、てっきり身内―質素な応接室―かと思っていたのだが、連れて行かれたのは豪華な方であった。

「はい、旦那様は中でお待ちです。旦那様、坊っちゃんをお連れ致しました。」

 使用人はノックをして、ソラの父親に来意を告げる。すると、直ぐに父親の声が返ってきた。

「入れ。」

 それを受け使用人が扉を開き、ソラを中へと連れて行った。そうして、ソラが中へ入った所で、使用人はお茶の準備を始める。

「・・・親父、入るぞ。」

「ああ。まずは座れ・・・また喧嘩か。」

 ソラが傷だらけなのを見たソラの父親は眉を顰める。そんな父の前には、一人のスーツ姿の中年男性が座っていた。

「あ?その事で呼んだんだろ?」

 何を白々しい、と言った感じで顔を顰め、ソラが父の横に座る。

「いや、今日、お前の通う中学校で乱闘騒ぎがあったらしいな。その件だ。」

 そうしてソラの父親は、対面する様に座っていた中年男性を紹介する。

「天神市の多摩川警察署署長だ。」

「はい・・・この度は誠に、申し訳ありませんでした。我々の不手際で、空君には非常に怖い思いをさせてしまいました。」

 深々と頭を下げる多摩川。そんな多摩川に、ソラが目を見開いて驚いた。

「天神市第8中学校で起きた乱闘騒ぎで、襲いかかった彼らについては、現在怪我の回復を待って順次事情聴取を行っている所です。戦ったという二人については、今も探している所ですが、誰とも分からない、と・・・ああ、いや。君を疑っているわけじゃないんだ。君は教室に居た、ってアリバイがある。」

 ソラの事は多摩川の耳にも届いており、彼は慌てて疑っていないと言明する。

「あ?教室に・・・?」

 しかし、ソラの方は言われた事が理解できず、きょとん、と眼を丸くする。しかし、そんなソラを置き去りに、多摩川は続けた。

「教室に居た事は、教職員の最上先生も、多くの先生方がそう証言してらっしゃるよ。」

 更に言われた事が理解出来ず、ソラは眉を顰めた。もしかして父親が圧力を掛けたのか、と思い父親を窺い見るが、父親は逆にそんなソラの様子を訝しんだ。

 その乱闘騒ぎの当事者こそが、自分であるはずなのだ。教室に居たはずはない。しかし、ソラの父親も多摩川もそれを把握していない様子だった。

「どうやら何処かから圧力が掛り、出動を遅らせていた様だ。犯人については調べさせているが、今後は無い。」

 とは言え、多摩川の話が終わったので、ソラの父親は事の裏側をソラに少しだけ話す。どうやら、御子柴の言葉は真実であったらしい。

「本当に、申し訳ない。」

「今回の一件。大人しくしていた事は褒めてやるが、喧嘩はするな。」

 ソラの父親は混乱を極めたソラの顔を訝しむが、構わず続けた。

「以上だ。もう下がっていい。」

「え、あ、おう・・・」

 そうして、きょとん、としたままソラは父親の許しがあったので、外に出る。

「一体、どうなってやがる・・・」

 仮面が割れた天音も、ゲームセンターで向かう途中で外したお面の惨状を見返した自分も、明らかにバレていない筈が無いのだ。それなのに、教員たちの誰も、彼らが戦った事を把握していない。

「・・・わっかんねー!」

 そうして、自室に戻るまで延々考えたソラだが、結局答えは出ず、頭を抱えてベッドに倒れこむ。

「・・・はぁ。まあ明日はがっこ、行くか。」

 結局、出た答えはこれだ。ここ当分は自分から学校に行こうと思わなかったソラだが、今の学校にはカイトが居る。彼にとって、カイトはトンデモなく稀有な存在であった。自身に怯えず、媚びることも無い。それに、ついでとは言え自身の弟まで救っているのだ。少なくとも、礼の一言は言わなければ、彼の気が済まなかった。

「・・・ちっ、しゃーねぇ。詫びの気持ちぐらいは見せとくか。」

 そうして、彼は買ってきた袋の中身に手を伸ばし、大きな失敗をするのであった。




「なんじゃこりゃー!」

 その夜、ソラの悲鳴が、夜の天城邸に木霊する。

「お兄ちゃん!どうした・・・の・・・」

 そうして、空也の笑い声が天城邸に響き渡る。それに釣られて、兄弟の母親がやって来て、更に笑い声が増える。それが天城邸の変化の兆しであることに気付いた者は、今は誰も居なかった。




 同時刻。カイトの自宅に作った異空間の一室で、カイトとティナが話し合っていた。カイトは少しだけ興奮した様子だ。

「おい、ティナ。」

「なんじゃ?」

「昨日と今日の見たよな?」

「うむ。」

「居たし、あった!まじかよ!オレ、全然知らなかったぞ!」

 楽しげな顔で、満面に笑みを浮かべるカイト。その眼は輝き、今にも冒険に飛び出しそうであった。と言うか、この数日後から、彼らは実際に日本各地へと飛び出すのであるが。

「ふふ、そのようじゃな。」

 そんな少年の様な―事実今の見た目は少年だが―カイトを愛おしげに眺めるティナ。とは言え、カイトが嬉しそうに語る内容には彼女も驚いていた。

「異族の血を引いている者も居たし、魔力を使える者も居た。なんだよ、あるじゃないか。この調子だと、マジで混じりけなしの異族達も居るかもな。」

 嬉しそうに、カイトが呟く。

 かつて、仲間から問われた事だ。地球には、魔術も魔物も、異族達も居ないのか、と。その時、カイトは知らなかったが故に、無かったし、居なかった、と答えた。

 しかし、多くを知って帰ってきて、地球にもまだまだ誰も知らない事が山ほどある事に気付いたのだ。

「っと、そんなことはさておき・・・お前、学校来る気あるか?」

「行けるのか!」

 今度はティナが目を輝かせる。そして、今度はカイトが少女の様なティナ―此方は大人の姿―を見て、嬉しげに微笑んだ。この顔が見たかったが為に、彼女に隠れてこそこそと手筈を整えていたのだ。

「ああ。ちょっと、考えがあってな。」

 そうして、カイトが取り出したのは一枚の紙だ。様々な国の大使館等のホームページから入手した、公的な資料であった。

「留学生制度?何じゃ、これは?」

 ティナが書いてある内容を精査し、怪訝な顔でカイトに問いかけた。残念ながら、カイト達が活躍した300年前当時のエネフィアでは留学生制度は存在しておらず、彼女には馴染みのない制度であったのだ。

「簡単に言えば、別の国からの有能な生徒を自国へ招いて勉強してもらう、という制度だ。」

「なるほどのう。それと余がどういう関係が?」

 資料を読みながら、大体を理解したティナが更にカイトに先を促す。

「まあ、気付いたと思うが、お前はどう見ても日本人には見えない。と言うか、地球人に金眼が居るとは思わないけどな。ということで、だ。いっそお前にはどっか欧米系の国の国籍を入手して割り振って、それで留学生扱いで中学に編入させよう、っというわけだ。幸い、ウチの中学には受け入れ制度が整っているからな。」

 新規の中学校として、第8中は市立ながらに留学生を受け入れているのであった。

「ふーむ・・・で、住居はどうする?」

「ウチに空いてる部屋がある。オレがちょっと説得して、明けてもらう。」

 カイトが少しだけ苦笑しながら言った言葉に、ティナはおおよそを理解する。説得、と言ってもやるのは魔術による思考の方向性を定める事だ。まあ、ティナの留学受け入れを認めてもらうだけである。中学校も最悪、難癖が付いた場合はそれで認めてもらうつもりである。

「お主、親兄弟は大切にせいよ・・・」

 あっけらかんと肉親に魔術を使うと言ってのけたカイトに、ティナが少し呆れる。尚、後遺症の残る術式ではないし、彼女がカイトの家族から気に入られたのは彼女自身の性格からなので、問題は起きていない。

「あ?別に何か悪い事してないし。それに、活動資金は稼いでるとこだし。」

 ちらり、と横を見ると、ネットで株の遣り取りをやっている使い魔と自身の分身が見受けられた。元手はカイトのお年玉や小遣いだが、今では比にならないぐらいに増えていた。ティナを一人、数年日本暮らしをさせるだけの金額は既に稼げていた。此方での生活費はそこから捻出すれば問題は無い。

「魔術さまさまだな。」

「お主・・・いや、何も言うまい。」

 カイトが少しだけ得意げに言った言葉に、ティナが溜め息を吐いた。若干犯罪臭が漂うが、こういう風に育ったのは間違いなく彼女の影響が大きい。それ故、ティナは何も言わないことにしたのである。

「とは言え・・・まずは国籍の入手から、か。」

「むぅ・・・確かに、似ておると言えば、似ておるが・・・」

 二人はテレビを見て、そこに映る映像を確かめる。そこにはバライティー番組が放送しており、丁度何かの映画の番宣なのか、若い男と老人の男性、若い女の三人が映っていた。二人が観察しているのは、その中の老人であった。

「ま、実際に会ってみないことには、どうしようもない。」

「今週末の休みから、実際に行動開始じゃのう。」

「ああ・・・さて、意外にオレの思う以上に、地球にも冒険が溢れていそうだ。」

「余も、満足に動ける様になりそうじゃな。」

 そうして、二人は更にティナ編入のアイデアを煮詰めながら、夜は更けていった。




 明くる日、教室中が騒然としていた。ソラが送り迎えもなく、自主的に―ソラが監視付きで登校している事は有名であった―登校してきたのだった。そしてソラの次の行動に、更に教室中が騒然となった。

「礼を言う!」

 ソラがカイトに深々と頭を下げる。昨日帰ってから空也に問いただし、空也の方も同級生だからいいか、と天音という名前を答えたのである。

「弟を助けてくれたのはお前だったらしいな。それについては、感謝の言葉もねえ。」

「あ、いや、気に・・・ぷっ・・・気にするな。」

 間近でソラの頭を見たカイトが、思わず吹き出す。ソラはそんなカイトをひと睨みするが、梨の礫であった。

「あいつらは、癪だが親父が手を回して人攫いでえーっと、むしょ?行きらしい。」

「誘拐罪で少年院か?」

 カイトの補足に、ソラがぽむ、と手を打って頷いた。

「あ、それだ。」

「そうか。いや、此方も偶然助けただけだ。」

 これはカイトにとって事実であるが、ソラにとっては弟を救われた事も事実なのだ。だからこそ、彼は素直に礼を言ったのである。

「いや、20人になると、俺でも多分手こずった。おまけに空也も取られてたしな。マジで助かった。」

 勝てない、と言わないあたり、当時のソラらしかった。それにカイトは少しだけ笑う。尚、語られた内容に周囲の生徒達はぎょっとなるが、ソラもカイトもそれにはお構いなしであった。

「で、そんな事を言いに来たのか。」

「あ?ああ、まあ、詫びは入れとかねえとよ・・・」

「ああ、それはいいが・・・こっちはそろそろ限界だ。」

 実はここまでのカイトはずっと笑いを堪えながら会話をしていたのである。それを見たソラは、覚悟が固まったのか、溜め息を吐いて言った。

「ちっ、笑えよ。」

「では、遠慮なく。」

 そうして、声を上げて笑い始めるカイト。それにソラは若干真っ赤になりながら、声を上げた。

「わーってるよ!なんでかこーなっちまったんだよ!」

「どーせ・・・自分で染めようとして・・・失敗したんだろ・・・!あーはっははは!お前はぶちス○イムか!」

 カイトの言葉に、ついに誰かが思わず吹き出した。そう、ソラは詫びとして、頭を黒色に戻して来た・・・のであるが、失敗し、茶色の下地に、黒が斑模様として刻まれていたのである。カイトの推測通りに、自分で毛染めをしようとして、失敗したのであった。

「うるっせー!んなどっかの夢限定色物雑魚と一緒にすんじゃねえ!つーか、今笑った奴誰だ!ぶっ飛ばすから出てこい!」

 周囲を血走った眼で見渡して犯人を探すソラだが、当然名乗り出る者はいない。

「あーっはははは!ぶっ飛ばす、って言われて出てくる奴は居ないぞ!」

 そうして、怒り狂うソラの怒号とカイトの笑い声が響くが、周囲の誰もが笑いたくても笑えない状況が続く。奇怪な頭のソラだが、今はやはり恐怖の対象に他ならなかったのだ。尚、吹き出したのが翔であった事が分かるのは、これから更に後の事である。

「おーい、お前ら、全員席に・・・天城?」

「あぁ!?」

 そうして笑っている内に最上がやって来た。彼はソラの頭に目を白黒させ、そして来ている事を理解して目を白黒させた。どうやら、誰も気付かない内に予鈴は鳴り終わっていたらしい。

「あ、ああ。いや、あー、とりあえず、席に付け。出欠とるぞ。」

 笑うな、そんな雰囲気を滲み出していたソラに従い、彼は出欠を取り始める。

「今日も三枝と小鳥遊は休み・・・と。じゃあ、朝礼はこれで終わりだ。」

 そうして種々の連絡事項が終わり―当然、昨日の乱闘騒ぎにも通達があった―、最上は去って行く。そうして、ソラが立ち上がり、一同が出て行くかと思いきや、彼はカイトの前に立つ。

「で、おい・・・なんで昨日のがバレてないんだ?」

「さて、なんのことやら・・・」

 ソラが昨日からずっと考えていた事をカイトはスルーし、ソラを激高させる。

「てめ!ふざけてんじゃねえ!昨日ウチにサツの署長が来やがったが、何も把握してやがんねえぞ!?どうやったらんなことが出来んだよ!それに、今のセンコも何も把握してやがらねえ!」

 ソラは大声で語るが、その語られた内容に、周囲の誰もが首を傾げる。それが更にソラを混乱へと叩き込んだ。

「はは、さて、な。意外と、この世界は面白いぞ?」

 そうして言外に語る気は無い、と言って、ソラの質問はスルーする事にする。

「あぁ?」

「ま、試しに授業にでも出てみろ。意外と、面白いかもしれないぞ?」

 カイトが楽しそうにそう言うや、一時間目のチャイムが鳴り始める。朝礼は昨日の乱闘騒ぎの連絡で長引き、一限目の直前まで行われたせいだ。それと同時に、一限目の担当の教員が入ってきた。

「おい、天城。座れ。教室に居たからには、授業に出てもらう。」

「あ・・・ちっ、逃げそびれた。」

 ソラが舌打ちをして、自席に着いた。残念ながら、一限目の教師はソラも知る生徒指導の先生の授業であったのだ。

 そうして、ソラはその授業で行われた小テストを0点スレスレという赤っ恥な結末で終えるのだった。0点では無いのは、選択肢形式の問題は勘で答え、幾つか正解したからであった。実質、0点であるとも言える。

「・・・」

 絶望。そんな様子が言葉なくてもソラには現れていた。本来、根は真面目なソラは自分がサボっていた事は理解していたが、それが現実の点数として表れればやはりショックらしい。

「い、意外だな・・・」

 そんな様子を見たカイトが、頬を引き攣らせながらソラに声を掛けた。まさかサボりまくりの不良が、テストの点数が悪かったからといって落ち込むとは思わなかったのだ。

「うがぁー!こんなテストの点数に何の意味があんだよ!」

「無いぞ。」

「だろ!・・・って、テメーはこれみよがしに満点とってんじゃねーよ!」

 若干涙目のソラがカイトのテストに文句を言う。まだ片付けていなかったカイトはテストが机の上に乗ったままであった。前の席なので、覗き見れたらしい。

「・・・はぁ。説明してやる。」

「あ?」

 とは言え、落ち込んでいる姿を見てしまったので、カイトは仕方がなしに今のテストの解説をしてやることにした。昨日の喧嘩に巻き込んだ詫びのつもりであった。

「まずは問1。これは2011年だ。これは一般常識だから覚えておけ。というか、テレビで見ただろ。」

「あ、ああ・・・」

 そうして、始まるカイトによる授業の解説。授業は近代史。それも丁度、2000年代に入ってからの所であった。ソラは流れに逆らえなかった事もあるが、音は真面目なので熱心に解説を頭に入れていく。

 カイトの解説は基礎からきちんと教えるもので、元々が真面目なソラにとって、わかりやすい解説であった。そうして、この日を境に、ソラは授業に出始める事になる。

「で、こっちは2017年終わりの某軍の撤退。これは同年の中東での・・・」

「ああ、そういや親父がなんか言ってたな・・・法案がどうのこうの・・・」

 この授業は傍から見てもわかりやすく、実は他にも教えて欲しがっていた生徒は沢山いた。しかし、今はソラとカイトに怯え、言い出せる者は居ない。

 この噂が段々と広がり、ついにはクラスの殆どが参加する事になるのは、ティナが加わってからだ。その中には、魅衣と由利の姿もあったが、それはまだずっと先の話である。





「と、言うわけだ。まあ、オレ達が名前で呼び合う様になったのは、魅衣と由利の一件の後、だな。」

 そう言って、カイトが過去語りを締めくくる。一部隠しているが、大方こんな所であった。

「うあ!あっちはやめて!」

「あははー、やったらぶっ飛ばすよ?」

 いつの間にか飛び火しそうになった二人は、大慌てでカイトを止める。由利に至っては、往年の口調になっていた。二人共、ソラを黒歴史時代と言いながら、自分達にとっても黒歴史なのであった。

「あら、そちらも別に有りますの?」

「え?あ、いや、うん。まあ、ね。」

 魅衣が照れた様子できょとん、とした様子の瑞樹の質問を肯定する。それは、ティナが来た頃の事だ。御子柴達が倒された事で不良達を纏め上げる者がいなくなり、天神市の不良達が群雄割拠の時代に突入したのである。それに、魅衣も由利も巻き込まれた上、様々な事件が起きたのであった。

「あー、うん。あっちはあっちで忙しかったよなー。今の状況を当時しか知らない奴が見たら、驚くだろうなー。」

「でしょうねー・・・と言うか、由利の状況が一番驚かれるわよ。」

「あははー。」

 三人は昔語りの最中で当時の自分を思い出したのか、何処か懐かしげな苦笑を浮かべる。当時は、触らぬ神に祟りなし、な二人の現状は、当時しか知らぬ者達にとってはまさに青天の霹靂だろう。

 今では魅衣はサバサバした男女共に交友関係の広い女子高生で、由利はぽやんとした家庭的で、男子生徒に人気な女子高生だ。今ではティナを含めて2年A組のかしまし娘の二人だが、親友となるまでには、一つの物語があったのである。

「なんじゃ、あれはお主の切っ掛けじゃろ?」

「ちょ、なんで知ってるの!?」

 真っ赤になりながら、魅衣はティナを止めようと努力するが、彼女は止められない。

「んなもん、伊達に親友なんぞやっとらん。魅衣の事なら大抵把握しておる。どの場面かもはっきり理解しておるぞ。」

「きゃー!もう、やめてー!と言うか、当時は親友じゃ無かったわよ!」

「む、気付かれたか!」

 ティナに茶化される魅衣を見て、ソラがふといきなり小声で歌い出した・・・のだが、即座にバシン、という良い音が響いた。

「盗んだバイクでは、いてっ!」

「ブツって言ったよね?」

 弄られる魅衣を見て茶化された仕返しに由利を茶化そうとして、ソラが良い音を出して叩かれたのだ。

「いてて・・・いいだろ、別に。人の過去を面白おかしく茶化してんだから・・・」

「それとこれとは別でしょ。曲がりなりにも彼女なんだから、そのぐらい黙ってあげなさいよ。」

 何時の間にやら魅衣弄りは終了したのか、由利の横には不満気な魅衣とティナが。

「うぅー、ひどいよねー。誰にだって忘れたい過去はあるのにねー。」

「よしよし、由利もこんな嫌な男は忘れると良いぞ。」

 明らかに演技なのだが、彼女は豊満なティナの胸に蹲り、よしよしとティナに頭を撫でられていた。

「始めに茶化したのはそっちだろーが!」

 そんな楽しげな4人を尻目に、カイトは桜に問いかけた。

「まあ、これで納得してもらえたか?」

「はい・・・まあ、ソラさんの罰ゲームでは無かった気もしますが・・・語ったのは殆どカイトくんですしね。」

 聞きたいことは聞けたので満足な桜であるが、これを罰ゲームと呼んで良いのかわからず、少しだけ苦笑交じりの笑みを浮かべた。

「そういえばそうか・・・なら、何かソラには罰ゲームを受けて貰わないとな。」

「げぇ!おい、今さんざん辱められててまだあんのかよ!」

「おいおい、罰ゲームを肩代わりしてやったんだから、対価はあるべきだろ?」

「うぎゃー!」

 ソラの悲鳴とカイトの笑い声が、奇しくも在りし日の絶叫と笑い声と同時刻に響き渡る。そうして、今度は報復にと魅衣と由利も加わり、ソラへの罰ゲームを考えるのであった。

 お読み頂きありがとうございました。次だけは同時に3話分更新します。

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