断章 第10話 出会いの物語・不良強襲編5
「何だよ、なんでこいつらこんなにつえぇんだ・・・」
少年の怯えた声が、静かになったグラウンドに響き渡った。既に多くの少年達が地に倒れ伏し、呻くか気絶していた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
尻餅を着き、後退りする少年を、肩で息をしながらボロボロのソラが睨みつける。さすがに100人もの不良少年達との乱闘は無理があったらしく、口からは血が流れ、身体の各所にはアザや様々な裂傷が出来ており、服は流れた血で赤く染まっていた。その服にしてもボロボロで、各所が破れていた。鬼のお面も同じくボロボロだ。まだ辛うじて顔の全容は隠れているが、かなり近しい者であれば、即座にソラだと気付けるだろう。この点、ソラがあまり授業にも出ず喧嘩に明け暮れた事が幸いし、誰にも顔バレはしていない。
「らぁ!」
これで終わり、と言わんがばかりに、ソラが後退りしている少年の顔面へと蹴りを入れる。少年は気絶しなかったが、既に戦意は喪失しており、起き上がることは無かった。
「バケモンだ・・・」
少年が目の前の光景を見て、もはや恐怖を通り越して笑みを浮かべて呟いた。
もう一人、この戦場で立っていられた人物が居る。カイトだ。彼は一切の傷を負わず、息切れも起こしていない。もはや圧倒的、という言葉さえ憚られる状況に、さすがの不良少年たちも、もはや怯えを隠す事が出来なかった。
「なんで・・・こいつは平然としてんだよ!」
怯えた少年の大声がグラウンドに木霊するが、答える者は誰も居ない。恐怖に駆られて不意打ちでナイフを振るう者も、怒りから頭をかち割ろうと鉄パイプを振るった者も、一方的な喧嘩が出来ると喜び勇んで木刀を振るった者も、須くカイトには一切触れられず、一撃で昏倒させられたのである。
「懺悔は済んだか?」
そんな恐怖に怯える少年へとカイトが問い掛ける。
「ひっ!」
引き攣った声がするが、カイトはここで逃す道理は無かった。そうして、カイトは無慈悲に逃げようとする少年に対して右手を振りぬいた。そのまま気絶する少年。
カイトは哀れには思わない。自身のミスが原因の一端とは言え、彼らが売った喧嘩だ。身体に残る怪我を残さないだけ、ありがたい方であった。
「他には?」
カイトが周囲を見渡すが、既に気絶していない殆どの少年達も戦意を喪失しており、誰も立ち上がって此方に向かってこようとは思わないらしい。
「おい、大丈夫か?」
その光景を見たカイトは、ボロボロになったソラへと近づいて問いかけた。
「ははっ、勝った・・・」
かなりボロボロで、見るも無残な姿だが、ソラはそれでも勝った事を理解する。
「・・・まあ、そのなりで勝者と言われてもな。」
カイトが苦笑しながら、ソラの惨状を笑う。
「るせー・・・」
そんなカイトに対し、かなり弱々しくはあるが、確かに笑みを浮かべたソラ。そうして、カイトに親指でグッジョブ、とサインを送る。彼が倒した数は約35人。彼にしても、今までで最多となる数であった。ここまでボロボロでも仕方がなかった。
「おい、三島!」
「はは・・・っ!」
カイトも笑みを浮かべてソラにサインを返そうとして、ソラを思い切り突き放した。そのまま、ソラは地面に倒れこむ様に尻餅をついた。再び立ち上がる気配は無く、どうやら気力だけで立っていたらしい。
「何を・・・」
もはや疲れ果て、呆然となるソラを尻目に、カイトは向かってきた男と対峙する。彼は幹部たちの動きに気付いていたが故に、今のソラでは危ないと遠ざけたのだ。
「おらぁ!」
少年は大振りに右腕を振りかぶった。カイトはそれをつかみ、そのままカウンターで仕留めようとして、途端に寒気がしてやめる。そしてその手に宿る力を見て、驚きに包まれた。
「つぅ!」
しかし、それは一瞬の事。カイトは直ぐに加速した意識で自我を取り戻し、三島の右手を避ける。更に何も纏わない左手を振るうが、カイトはそれを掴んだ。
「・・・てめぇ。こいつが見えてるな・・・」
明らかに見えていなければ可怪しい行動を行うカイトに、忌々しげにカイトを見る三島。その眼には憎悪があった。
「何があったかは知らんが・・・何処でそれを身に付けた?」
憎悪については、カイトに興味は無い。しかし、その腕に宿った力だけは、別だ。
『おい、カイト。』
『わかっている。』
その力は、カイトとティナには見慣れた物。そして、地球に居る者達にとっては、空想の産物でしか無い筈の物。洗練されてはいないものの、見間違えるはずはない紛うことなき魔力であった。
「誰が教えるか!」
三島は吠えて、カイトに対して魔力を宿した蹴りを繰り出す。
「そうか。なら、お前には聞くまい。」
その手足に宿る力を見て、カイトにもはや容赦は無い。ナイフよりも、いや、下手な銃火器よりも危険な物を持ちだしたのだ。容赦をするはずが無かった。
「ぐふ・・・」
今まで何処かあった余裕が消え失せ、一気に冷酷な眼をしたカイトは三島を一撃で昏倒させる。彼は薄れゆく意識の中、なんとか立っていようと意識を保つ。
「がっは・・・はぁ・・・ぐ・・・」
「おい、下がれ。」
尚も反攻を試みようとした三島だが、それを御子柴と他の幹部たちが強引に抑えた。
「なに・・・を・・・しやがる!」
なんとか意識を保つことに成功し、三島はいきり立つが、御子柴がひと睨みするまでも無く、彼は黙った。幹部の一人が少し強く殴っただけで、意識を失ったのだ。三島と同じく、魔力が乗った一撃であった。
「おい、小僧。」
平凡な服装の幹部の問い掛けに対し、カイトは飄々と嘯く。
「さて、小僧かどうかは、明言しかねるな。もしかしたら、教職員の誰か、なのかもしれないぞ?」
「・・・正体は明かす気は無いということか?」
カイトの答える気ゼロの答えに、大柄な幹部が再度問い掛ける。
「やめとけ、カズ。そいつは答えねえ。そっちのガキの事も、だろうな。」
それに御子柴がカイトに代わって答えた。
「当たり前だろ・・・何のために仮面付けて出てきていると思ってんだ・・・どうしても、と言うならこの仮面を壊してみろ。」
右手を前にだし、くいくい、と挑発する様に笑みを浮かべるカイト。
「はっ、いいね。」
「あー、ヨースケ先輩好みっすもんね。今のセリフ。」
傲岸不遜なカイトのセリフに、ヨースケと呼ばれた幹部が笑みを浮かべる。どうやら気に入られたらしい。そうして、渦巻き始める目に見えない力の本流。多くの不良少年達がこれから始まる戦いの余波に怯えるが、カイトにとってはそよ風以下に等しい。
「おい、一個聞かせろ。マジでなにもんだ?」
他の幹部達が各々構えを取る中、御子柴は唯一構えを取らず、カイトに問いかけた。
「だから、答えるつもりはないと何度言えば・・・と言うか、お前が答えない、と言った所だろ・・・」
既に数回繰り返された質問に、カイトが肩を竦めた。此方も、いつも通りに構えは取らない。それでも、誰よりも隙が無いが。
「・・・まあ、それはいい。事情は大体分かる・・・お前、親は?」
「・・・そうか、なるほどな。逆に問・・・いや、やめだ。」
御子柴の何処か同情と期待を含んだ視線とセリフに、カイトは彼らの事情を察する。問おうとしたのは、彼らが孤児であるか否かであった。そこまで踏み込むのはさすがに不良少年達のボスといえど、カイトも無遠慮として避けたのであった。
「残念ながら、健在だ。とは言え、知らないが。」
何が、なぞ5人の間には必要が無かった。それは、お互いが今渦巻かせている魔力のことだ。猛る彼らを表すが如くに荒れ狂う御子柴達の魔力と、凪の如く平然としたカイトの魔力。その二つが、見えぬものには見えない戦いを繰り広げていた。
「はっ、俺もお前みたいに器用に生きれれば、な。」
そういった御子柴の顔には、苦笑が浮かんでいた。
彼の仲間の4人は、生まれた頃から親の顔を知らない。しかし、彼だけは、力を親の前で使って見せて、恐れられ、捨てられたのだ。そうして、施設へ入れられ、同じように力を持った少年達―今の幹部達―を束ねていったのである。
「もう、捨てられた恨みも怒りもありゃしねえ。暴れまわって気付きゃあ、こんなとこだ。なら、最後まで意地張らせてもらう!」
そうして、御子柴が構えを作った所で、戦いが始まった。4人は一斉にカイトに攻撃を仕掛ける。カイトは一撃で倒すことも当然出来たが、彼らの気概に答える為、そして彼らの性根を見極める為、敢えて勝負を長引かせる事にした。
「よそ見してっと、頭ぶっ壊れっぞ!」
脚力を魔力で強化したリョータがカイトに一気に詰めより、ナックルダスターを嵌めた右手を振りかぶる。カイトはそれを、魔力を乗せた右手で弾いた。
「っつ、かってぇ!こいつ、無茶苦茶硬いっす!」
「ならば!」
カイトの防御力が堅牢であることを見ると、カズがカイトへと魔力を乗せた右手で殴りかかる。彼は手に何も嵌めていなかったが、その腕は鍛えられてまるで大木の如くに太く、喩え魔力が無くてもかなりの威力を誇っていただろう。
「ふぅん!」
「はぁ!」
それをカイトは真正面から受け止めることを選択する。そうして、カイトはカズの右腕を掴み、一歩も動くこと無く威力を殺しきった。
「・・・これはかなりっ・・・!」
拮抗する、いや徐々に押される自分の右腕を見て、カズが目を見開いて驚きを露わにする。
「おら、よそ見してんじゃねえ!」
「誰が見えていないと言った?」
横合いに仕掛けられたヨースケの木刀と御子柴の殴りを、カイトはカズの右腕を押し返して吹き飛ばし、両手で対処する。
「はっ!」
カイトはそのまま、御子柴とヨースケを魔力を応用して一回転させ、まるで映画の様に元通りに着地させる。そうして、カイトはそのままバックステップで一気に距離を取った。
「独学・・・いや、何らかの仕込みはあるだろうが、単なる遺伝か何か、か?」
カイトの呟きに、遠くでこの戦いを見ていたティナが反応した。
『恐らくのう。ソレ以外に何かつかめたか?』
「さあ・・・彼らが人間か、異族の血を引いているのか、それとも隔世遺伝なのかはわからん。あまりに弱すぎる。」
若干残念そうに、カイトが呟く。これがエネフィアでも高位の種族や腕利きの戦士であれば、カイトやティナでも種族等は判断出来ただろうが、如何せん彼らが持っている力は弱すぎた。地球で不良相手に振るうには過剰過ぎる力だが、カイトやティナ相手には、首も座らぬ赤子が新聞紙で出来た剣を振り回しているに等しかった。
「お前・・・マジでなにもんだ?」
御子柴が信じられない、という顔で、カイトに問いかけた。彼らも気付いたのだ。彼我の圧倒的な戦闘能力差に。魔力を使えるが故に、更にその差は歴然であった。
「・・・さて、オレが何者なのか、については常々疑問だ。本当に、何者なんだろうな・・・」
自嘲気味に苦笑するカイトに、少年達が真実であると悟る。
「だが・・・今はそんなこと無意味だろ?来い。」
獰猛な笑みを浮かべ、この戦いで初めて、カイトが構えを取った。それは、大戦での経験を活かした野戦仕込みの構えだ。言外に、その心意気に答えよう、と言っているのだ。
「・・・おい、死ぬ気で止めろ。一撃、ソレぐらいは入れさせろ。」
勝ち目が無いぐらいは、御子柴達全員が理解していた。だからこそ、単なる意地として、一撃は与えておきたかったのである。
「いい顔だ。暴は更なる暴で駆逐される。それを理解した奴の顔だ。やんちゃ坊主にしておくには勿体無い。」
真っ直ぐに自分を見つめ、最後まで意地を張り通そうとする彼らに、カイトが年を経た穏やかな表情をする。
「・・・これがこの数年の全部だ。受けやがれ!」
親の愛を受けられず、施設に入れられ、ここまで暴れに暴れ、仲間を得て、何が欲しかったのかを理解した彼ら4人は、既に不良である必要が無くなっていたのだ。だからこそ、これは単なる意地だ。ここまでやった彼らだからこそ、最後は弱肉強食のルールに従う。三島、と呼ばれた少年はまだ、その領域まで至れていなかった。
「たっ!」
まず、駆け抜けたのはリョータだ。彼はカイトへと一瞬で距離を詰めると、連撃を加えていく。それをカイトは避けるではなく、全て受け流す。
「ふぅん!」
次に来たのは、カズだ。彼は先ほどと同じく右腕を振りぬくが、カイトはそれを今度は片手で受け止める。
「うらあ!」
更にカズは続けて左手を振り抜き、カイトはそれをもう片方の手で受け止め、がっちりと組み合う。
「まるで巌!その細腕で何処にこんな力が!」
自身の魔力さえ使った全力の一撃を何ら苦悶の表情を浮かべるでもなく、余裕さえ浮かべるカイトに、カズは歯を食いしばりながら抑えに掛かる。
「力はきちんと使えば、ほんの少しで十分だ。只々放出するだけが能じゃ無い。そして・・・」
全力でカイトに合するカズに対し、カイトは平然とした顔で答え、笑みを浮かべた。
「たらぁ!」
後ろから近づき、木刀を振り抜こうとしたヨースケにカイトは流し目で微笑む。しかし、ヨースケのその顔には笑みが浮かんだ。
「これはわかんねーだろ!カズ、リョータ!」
彼は振りぬく直前で木刀を手放し、カイトを後ろから羽交い締めにする。
「うっす!先輩!」
それに合わせて、リョータがカイトの左手を両腕で抑え、カズが右手を両腕で抑える。
「卑怯と言ってくれるな。」
カズが右側から全力でカイトの右腕を封殺しつつ、少しも申し訳無さそうでない声で告げる。それを、カイトは笑って許す。それは、まるで傲慢な王の如くの傲慢であった。
「なぁに、この程度、始めから知ってたし、一撃は貰ってやるつもりだった。いいぜ、一発。その覚悟に免じてくれてやる。」
勝てぬと悟り、自分の身さえ礎として自身に対峙した彼らに、カイトは戦士としての賞賛を送る。そうして、カズの巨体がどいたその先には、魔力を乗せれるだけ乗せた右腕を大きく振りかぶる御子柴の姿が。
カイトは始めからこの流れを知っていた。魔力が駄々漏れな彼らの行動など、始めから見えていたのだ。だから、本来ならばこれは避けることも潰す事も容易な連携だ。だが、カイトは向かってくる幼い戦士達に敬意を表して、一撃だけ受けてやる事にしたのである。
「おらぁ!」
ドゴン、轟音が鳴り響き、カイトの顔が大きくのけぞる。そして、ぱきり、と音が鳴る。お面が割れた音であった。
「この面結構気に入ってたのに。」
しかし、カイトには一切のダメージが無く、顔には仮面が割れた事に対する苦笑が浮かんでいた。
「まずは・・・男に抱きつかれる趣味は無い。」
「ぐがっ!」
カイトは少しだけ首を前に倒し、勢い良く後で羽交い締めするヨースケへと頭突きを繰り出す。更にいきなりの事態に驚くカズとリョータを只腕力だけで投げ飛ばした。
「ほっと。」
「うお!」
「わっと!」
そしてそのまま空中に浮かんでいる間に、蹴りを入れて大きく吹き飛ばした。
「よっし。」
パンパン、と手を鳴らし、3人を昏倒させたカイトは最後の仕上げ、と御子柴に向き直った。
「やんちゃ坊主にしちゃあ、まあ悪くない。10年、どっかの師匠の元で修行すりゃ、良い腕の戦士になる。この世界にそんな師匠がいるか、知らんけどな。」
カイトは御子柴だけに聞こえる様に小声でそう言うと、中学生らしからぬセリフと表情を隠すため、隠し持っていた予備の狐面を再び被る。既に御子柴には顔バレはしているが、警察にまでバレる気は無かった。
「ガキに言われたくないな。」
子供の姿でやんちゃ坊主と言ったカイトに対し、御子柴が苦笑する。今のは彼の全力の一撃だった。だが、それでもまったくダメージが無かったカイトに、もはや呆れるしか無かったのである。
お互い後は腕を振るうだけで殴り合える距離だ。そうして、二人は同時に右腕をお互いの顔面へと、振りかぶった。
「ぐはぁ!」
同時に振り抜き、当たったのはカイトのパンチだけだ。御子柴の一撃が到達する前にカイトの一撃があたり、吹き飛んだのである。
「くはっ・・・勝てねえ、か・・・」
倒れこみ、何処か少し残念そうに呟く御子柴に、カイトが近づいて屈み、アドバイスを与える。
「ま、これはいい機会だろ。さっさとチーム解散して、足洗え。」
彼らの中に迷いが無かった事は既に見て取っていた。ただ単に惰性で続けていただけだ。それに、彼らは配下のチームをも動かし、この中学に襲撃を掛けたのだ。彼らのチームが壊滅した事は、近く天神市全体に伝わるだろう。なら、この敗北は彼らにとって、良い引退の機会だろう。真っ当にやっていける見込みのある者達に、暗い裏路地での生活を続けさせるのはカイトには、心苦しかった。
「チームは解散する。が、引退は断る。俺達が引退するのは、てめぇをぶっ潰してからだ。」
既に立ち上がり、ソラの方へと歩いて行くカイトの顔は御子柴からは見えないが、少なくとも声には憤怒などの激情は乗っていなかった。
「そか。なら、一つだけ忠告だ。次にオレの家族やこの学校に手、出してみろ。そん時は容赦はしねえ。」
カイトは振り返ること無く一度だけ足を止めると、声だけで御子柴に告げる。
「まあ、覚えておく。」
そうして、御子柴達は地面に倒れたまま、再起を誓う。余談だが、その後、彼らは怪我が治り、チームの解散と同時に、姿を消したのだった。更にその数年後。とある縁で集ったカイトの軍門の下には、彼らに良く似た青年達の姿があったという。
倒れた御子柴達を置き去りに、カイトはソラの方へと足を進める。
「おい、天城。起きれるか?」
カイトはボロボロのソラへと手を差し伸べ、ソラはそれを掴んだ。
「・・・まあな、と。」
そうしてソラはカイトの手を借りて立ち上がる。足元はまだおぼつかないが、カイトと御子柴達の戦いの間に幾分か回復したらしく、なんとか歩けそうだった。
「さて、さっさとずらかるぞ。」
「は?」
立ち上がってお互いを賞賛するでもなく逃げるといったカイトに、ソラが眉を顰めた。どうやらすっかり忘れているらしい。
「聞こえるだろ。」
そう言って静まり返るグラウンドで耳を澄ませば、サイレンの音が小さくだが、確かに響いていた。
「さて・・・走れ!」
ドン、とソラの背を押して校門から駆け出すカイト。それに釣られる様に、ソラも痛む足を堪えながら走り始める。
「って、おい!何処行くんだよ!」
「どっかのゲーセン行けばいいだろ!」
そう言って駆け抜けるカイトとソラ。それに遅れる事少しして、サイレンの音と共に、警察がやって来たのであった。
お読み頂きありがとうございました。