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断章 兆し編 第35話 エピローグ・1 ――新たなる一歩――

 戦いが終わり、数日後。鞍馬から許可を貰った総司は、天神市に戻って一度仲間達を集めていた。


「・・・というわけだ」

「・・・そうっすか・・・いや、良かったじゃないっすか! 親御さん見つかって!」


 たった今、総司は自らの生まれにまつわる云々を語り終えた所だった。涼太の言葉は、それを受けての物だった。


「養子に出されて手違いで別の家・・・おまけにそこで魔力を発露させた物だから、たらい回し・・・はっ、てっめえも面白い人生歩んでんなー」

「違いない」


 苦笑した希の言葉に、総司が苦笑する。あの戦いの後、総司は鞍馬を問いただし、彼が密かに自らの出生に纏わる事を調べていた事を初めて知らされたのだ。

 肝心の総司の過去だが、彼が養子にだされたのは、御子神家のしきたり上仕方がない事だった。それはそういうものもある、と鞍馬にも聞かされたので、総司も納得した。

 どうやらこの養子に出される以前に手違いが起きたらしい。総司の出産と時同じくして出産した女性が着けるはずの取り違え防止用バーコードと、総司の実母が取り付けるはずのバーコードを看護師が間違えたのである。

 普通はそれでも赤子にペンで記された記号等で判断出来るのだが、バーコードを過信したが故に記号の方がミスだ、と判断してしまったのである。

 そして悪い事に、なんの運命のいたずらか、この母親もまた、御子柴という名前だった。更に先の記載ミスを隠したい病院側の隠蔽が重なり、取り違えの発覚を遅らせてしまったのであった。颯夜達が違和感からDNA鑑定でもしなければ、今でも判明しなかっただろう。

 その違和感とは、言うまでもなく魔術関連の物だった。本来の御子柴家に行った子供には当然だが、陰陽師としての訓練が施される。そうして訓練をしている内に、魔術に対する適正が出生前に見た状況よりもあまりに低い事が発覚したのだ。

 そこから調査が始まったのだが、もう一つの御子柴は残念ながら、魔術を全く知らない家系だった。取り違えが発覚した時には既に不思議な力(魔力)を気味悪がって総司を孤児院に出してかなりの時間が経過しており、行方を調べられなかったのである。

 向こうの御子柴家が頑なに総司の事を語ろうとしなかったことも大きい。魔力についてを語っても一切信じて貰えなかったのだ。


「それで、どうするつもりですか?」

「・・・受けようと思う」


 和平の問いかけに、総司が真剣な眼で答えた。それに、少なくない面子が顔を歪める。


「・・・まあ、そっすよね。せっかく家族も見つかって弟さんってのも慕ってくれてる、つー話ですし・・・」


 総司の答えに、涼太が少し悲しそうな顔で答えた。だが、そんな彼らに対して総司が笑う。


「そういうことじゃない・・・俺を養子に出した家に、しかも今の状況で言い出してくる奴を俺が信じると思うか?」


 笑いながら、総司への一同に告げる。彼は実は、皇花の居なくなった事と武将の子孫達の怪我の治癒で出来る穴を埋めるべく奔走している陰陽師達から、御子神家への――これが正しい言い方では無いだろうが――養子縁組が持ちかけられていたのである。

 陰陽師達の裏事情を鞍馬から聞かされて理解している総司が、安々とそんな言葉に乗るはずがなかった。そうして、彼が続ける。


「・・・だから、幾つか条件を出させてもらった。まず、一つ。このまま鞍馬さんの所で修行を続けること。二つ、俺の所属は今はあくまで、鞍馬寺だ、ということ。そして、もう一つ・・・お前らの出生を調査すること、だ」

「なっ・・・」


 総司から出された最後の条件に、一同が絶句する。つまりは総司は敢えて大組織に所属することを選ぶことで、その対価として、自らの仲間の出生を調査させようと考えたのである。


「お前・・・」

「ふん、気にするな。元々孤児院で子供の面倒はなれているしな。弟ができただけだ。何か気にする必要はない・・・それに、俺達はどちらにせよ、自分が人間なのかそうでないのかを知らないと、次に進めなかった。それに・・・奴を潰すのに、俺一人では、手に余る。貴様らの力が必要だ」


 何か言いたげな陽介の顔を見て、総司は笑いながら告げる。見ようによっては、これは身売りだ。許容はしがたい。だが、こうでもしなければ、全員の出自を知る事はできそうにないのだ。

 仕方がない。如何に鞍馬といえども、彼の情報網は異族達に限られる。もしも何らかの突然変異による魔力の目覚めがあったとするのなら、国家とも繋がりのある御子神家を頼るしか、方法は存在していなかった。


「・・・すまん」

「いや、いい」


 かなり長い間、沈黙が下りた。そうしてしばらくすると、陽介が謝罪とも感謝とも取れる言葉を発する。自分達にとっても、これ以外に自らの出生を知る事はできないのだ。どう足掻いても自分達の出生を明らかにしないことには、先に進むことができないのもまた、事実だったのである。そこに、声が掛けられた。


「・・・どうやら答えは出たようだな」

「誰だ!」


 ここは、彼らの所謂セーフハウスだ。それ故に鍵を持っているのはこの場の面々だけで、声が掛けられる事なぞありはしない。なのでいち早く気付いて総司が誰何したが、その存在を見て、全員が納得した。その存在とは、カイトだった。彼ならば、鍵があろうか無かろうが関係は無いだろう、と思ったのである。


「貴様か・・・こんな所に何のようだ?」

「呼ばれていないが、失礼しているぞ・・・まあ、ぶっちゃけると、鞍馬殿からの依頼でな」

「鞍馬さんから・・・?」


 何故自分を通さないのか、という総司の疑問を他所に、カイトは懐から数通の封筒を取り出す。それは、数にして4通。封筒には宛名も書かれていた。それは総司を除く全員分だ。


「結論が出て御子柴の結論を受け入れたなら渡してくれ、と頼まれた物だ」


 カイトはそれを各自に渡していく。そうしてカイトは手で風を開ける事を促して、一同は中身を確認する。


「・・・なんだ、これは?」


 どうやら一番初めに読み終えたらしい和平が、カイトに問いかける。書かれていたのは、住所や建物の名前、そして、人名だった。


「各地に居る弟子入りできそうな異族や魔術師・・・呪術師達の連絡先だそうだ。もしも今後もこの世界に関わるつもりなら、という前提だが、弟子入りを受け入れてくれるだろう先を鞍馬殿が探してくれたんだよ」

「・・・そうか、あの人は・・・」


 カイトの言葉を聞いた総司の顔に、苦笑の様なほほ笑みの様な複雑な表情が浮かぶ。だが、そこに秘められた感情は、面倒見が良い、とどこか呆れた様な感情だった。


「あー・・・俺の都内って、マジか? しかも普通の茶店じゃねーか」

「ああ、そうだ。わんころの方にはオレからも一個ある」

「あ?」


 なぜ自分だけ近い上に普通の喫茶店なのだ、と疑問を抱いていた――他は高級料亭や地元の名家――希に対して、カイトがもう一通封筒を取り出す。それを受け取った希は、中身を確認して、訝しみの顔を浮かべた。ちなみに、わんころ発言については彼は気付いていなかった。


「何だこりゃ?」

「写真、っすね・・・仲の良さそうなご夫婦の」


 封筒に入ってたのは、少しだけ擦り切れた写真だった。そこには一組の夫婦と、一人の赤子が写っていた。そうして一同でじっくり確認していたのだが、そこでふと、陽介が何かに気付いた。


「これ・・・お前に似てないか? この眉の形だの輪郭だの・・・」

「あ、そういやそっすね」

「あー? そうか?」


 どうやら他の面々も言われて気付いたらしい。写真の男性と希の顔を見比べていた。一方、見比べられている当人は眉を剃っていたり髪に剃りこみを入れていたりと殆ど似ている印象はなかったのだが、こうなる前の希を知る他の面々には、似ていると思えたのである。

 それを確認して、カイトが頷いた。なるべく先入観が無い様に、事情を知らせぬ様にただ写真だけを見せたのだ。


「まあ、多分、お前の昔の写真だろう」

「あぁ? なんでんなもんお前が持ってんだよ?」

「前に言った異族達が集まる里は覚えているか? そこにあった。丁度前に電話した爺の弟子がその奥さんの方の姉でな。事故死した姉妹の遺品として、持ち合わせていたらしい」

「あ? ってこたぁ・・・」

「連絡入れて人をよこしてもらえ。で、一度前に言っていた里に行って来い。そこが、待ち合わせ場所だ」

「・・・考えとくぜ」


 困惑しながらも大体の状況が理解できた希は、かなり悩みながらも封筒を自分が何時も使っている棚の中に少し大切にしまい込む。カイトもカイトで実は蘇芳翁達の伝手を使い、悩める彼らの出生については調査していたのである。


「まあ、他のについちゃ、皇家に頼るのが確実だろう。これも偶然発覚した事だからな」

「・・・いや、それでも、調査をしてくれて感謝する」


 鞍馬に一応の礼儀作法は叩きこまれた総司は、此方も此方で調査してくれていた事に感謝を示す。だが、そうして更に疑問に思った事を問いかける。


「だが・・・一つ疑問だ。鞍馬さんはともかく・・・なぜ貴様は俺達に手を貸す?」

「まあ、ぶっちゃけ・・・お前の従兄弟は知ってる・・・わけねえな。ついこの間実家がわかったばっかりだからな」

「秋夜と颯夜さんしか知らないからな」


 苦笑したカイトの言葉に、総司が頷く。流石にまだ彼もいろいろとあって父を父と呼べるだけの素直さはなかった。


「奇妙な縁だが・・・その従兄弟がまあ、オレの幼馴染でな。最近になって異族との融和も悪く無い、と言い出してやがる。お前らなら、それに手を貸せるだろうと思ってな。先行投資だ」


 カイトは笑いながら、異族達の実情や様々な経験から宥和政策を考え始めた鏡夜について語る。元々これはカイトの意図する所でもあるし、それを応援しないはずがなかった。彼ら、特に総司ならば、仲間の事もあり、異族に排他的な事はしないだろう、と踏んでの事だった。


「まあ、とりあえず。そういうことだ。後はお前らが考える事。好きにしろ」

「・・・ああ、感謝する」

「っと、そうだ。そういや・・・俺の方は急ぎじゃなくても良いか?」


 伝えるべき事を伝え終えた為、立ち去るかと立ち上がったカイトに対して、希が告げる。それにカイトが首を傾げる。


「ああ、まあ・・・確かに別に急ぎじゃないし、オレが電話一本でなんとかなるが・・・?」

「そうか。じゃあ、問題ねぇな」

「?」


 当たり前だが、カイトにだってわからぬ事はある。なのでカイトは首を傾げるが、希は何も語ろうとしなかった。


「まあ、良いか。ま、ここにいるってのがわかったから、用事があったら顔出すわ」


 気にすることでもないか、と考えたカイトは、そのままスルーして消え去った。だが、どうやら聞かされていなかったのは他の面々も一緒の様だ。


「どうした?」

「ん、まあ、ちょいとけじめはつけっか、と思ってよ」


 総司の問いかけに対して、希が照れくさそうに告げる。そう、彼らは目的に向かって歩き出す事を考えて、けじめをつけるのを忘れていた。それを、ソラを見て思い知らされたのだ。だから、そのけじめをつけようと思ったのである。

 そうして、どうやら全員おんなじ考えに至ったらしい。その場の一同が、少しイタズラっぽい笑みを浮かべる。


「そうだな・・・では、全員でやるか」

「おう」


 総司の号令を受けて、一同が立ち上がる。元々天神市の裏道は彼らの領土だ。どこに不良たちが屯するのか、というのなぞ誰よりも理解していた。そうしてこれから数日間に渡り、拗れまくっていた不良たちの取り纏めを行うべく、彼らは奔走する事にするのだった。

 なお、そこでまた総司は鞍馬の所に連絡を入れるのを忘れてしまっていた為、呆れとともに、精神修練に関する時間を増加させられる事になるのであった。




 その、翌日。カイトは転移術をフル活用してとある少女の引っ越しの用意を手伝っていた。


「べ、便利だな・・・」


 その少女とは、皇花だ。彼女はカイトが転移術を活用してぽんぽんと荷物を部屋に運び入れるのを見て、呆れ混じりに呟いた。

 皇との関係を断たす為に偽名を作ったりで学校の転入――カイトとは別で、現在選別中――自体は流石にすぐには、とはいかなかったが、引っ越しそのものは今からでも出来る。が、残念ながら、今の彼女は皇から放逐された身だ。なので皇家の人員を使えず、かと言って今までのことがあるだろうし、と蘇芳達も使えないのでカイトが出はってきたのである。


「まあ、転移術でも無いと、やってられないからな」


 皇花の呆れた声に、ダンボールを持ったカイトが告げる。これは勿論、地球では無くエネフィアで、だ。地球の数倍の広さを持つエネフィアであるが、魔物の影響から公共交通機関は殆ど発達していない。こんな物でも無ければやってられないのであった。


「・・・ここが、新たな我が家か」

「まあ、もうちょっと・・・多分今年中に何棟か高層マンションとか買う予定だから、少しの間はここで我慢してくれ。他の女の子も一緒にな。だから、あんま荷物置くなよ。億ションだぞ、億ション。楽しみにしとけ」

「・・・は?」


 一通りの荷物を運び終え、外に出て改めて確認するとした皇花に付き合ったカイトが、いたずらっぽく笑って告げる。ちなみに、彼女が入ったのは築十年程度のマンションだった。

 そうしてそれなりに綺麗なマンションを見てあっけらかんと高層マンションを購入する、とのたまったカイトに、皇花は目を見開いて驚いた。だが、驚きはこれでは終わらない。


「欧州から逃げてきた異族達の社会復帰とかも必要だからな。その間のセーフハウスやホテル代わりなんかで買うつもりなんだよ。裏取れないのに里にも入れられないしな。まあ、下層階と中層階は普通に住居として提供するつもりだがな」

「・・・ま、まあ、それは妥当だろうな・・・」


 カイトはあくまで里長として当然の事をしているのでわからないわけではなかったが、皇花から見ても、規模がぶっ飛んでいた。そうして頬を引き攣らせる皇花と楽しげなカイトの所に、声が掛けられた。


「おーう、終わったなら、こっち手伝ってくれやー。姉貴共が組み立て家具を大量に買ってやがる。こんなの俺一人で組めねえって」


 声を掛けたのはスサノオだった。彼はワゴン車から顔を出していた。どうやらカイトを回収しようと思っただけらしく、エンジンは掛かったままだ。

 彼は何時も通りに、姉達の荷物運び兼運転手であった。今回の場合は天神市近くの家具屋で買った家具を持ってくるのに、彼が使われたのである。ヒメ達は当然、転移術で一足先に購入した家に行って寛いでいる。それに、カイトが手を振って少し待て、と合図する。


「あいよー・・・あそこ一帯、神様達で買う事にしたらしい。今後は色々と活性化させるからな」

「・・・す、すまない。状況がつかめないのだが・・・」


 皇花の才能から、どうやら彼らが神様、それもかなり高位の神様だとは気付けた様だ。カイトのあっけらかんとした対応に頬を引き攣らせつつも、何が起こっているかわからないという心からの疑問を得ていた。

 ちなみにカイトが指差したのは、まだ買い手がついていない遠方の住宅街だ。幾つかの家屋は完成していたが、開発がまだ完全に終わっていなかったことから売れ行きは芳しく無く、ならば、と神様達が天神市の別邸として買う事にしたのである。経済を回す事もまた、彼らの密かな仕事だった。


「どうせやるなら、とことん、だ。神様、異族、人間・・・連合を作る。それに、あいつらも協力してもらおうとな」

「なっ・・・」


 カイトが不敵に笑って告げると、それに皇花が絶句する。一応、人間と異族の連合ならば、無いわけではない。日本もその一つだ。

 だが、そこに神様が入ると話は別だ。誰もそんな事をやったことはないし、考えた事も無いだろう。全てにおいて、カイトがやろうとしている事の規模は前代未聞の大きさだった。


「さって・・・まさか日本でも街づくりをやることになるとはな・・・来いよ。ちょっと早いが、第二の人生ってやつを楽しませてやる。まあ、忙しいのは、ご愛嬌だがな。若いから諦めろ。おーい、スサノオ。一人追加で」

「おーう・・・って、皇のか。こりゃラッキー。口添えした甲斐があったな」

「え・・・え、えぇ!? す、素盞鳴尊様ぁ!?」


 そうしてウィンク一つでカイトは困惑する皇花の手を引いて、スサノオの運転する車に乗り込む。

 そこで、皇花は相手がスサノオと知り絶句して、更にこれから向かう先にヒメこと天照大御神達が居る事を知らされ更に絶句して、彼らのいい加減な性格に、色々な常識を破壊されることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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