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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第1章 取り戻した日常編

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断章 第9話 出会いの物語・不良強襲編4

「・・・あ?何だ、あいつら・・・」

 不良たちが学校の靴箱から出てきたカイトとソラを見て、眉を顰めた。いきなり現れた揃いの服の仮面の男に、誰もが呆気に取られたのである。

「誰だ、てめぇ?」

「おい、早く戻れ!」

 二人に気付いた不良たちと、教師達がそれぞれ声を上げる。

「で、どうすんだ?」

「さて・・・」

 ソラに問い掛けられたカイトは、小さく呟くと、教師達と不良たちが対峙している所まで歩き、そして教師達よりも前に出た。そうして、前に出た所で口を開く。

「一つ、聞いておく。何の用だ?」

 問い掛けられた不良達は、それを聞いて真面目なのかなんなのかは不明だが、一度顔を見わわせて答えた。

「あ・・・?」

「天城のガキと、こないだウチの配下の石垣のチームやった奴出せや!」

 そうして、聞いた事の無い名前にカイトが仮面の奥で眉をしかめるが、即座に事情を察する。

「石垣?ああ、あいつらか。20人全員、怪我は大丈夫か?悪夢にうなされていないといいが・・・」

 カイトは言葉だけは、心配している口ぶりだ。しかし、垣間見える口には笑みが浮かび、明らかに嘲笑があった。言外に、自分がやった、と言っているに等しい発言に、不良たちが一気にいきり立ち、それに教員たちがすくみ上がる。

「てめぇがやったのか!」

「あいつを血祭りに上げろ!」

 そう言って一気に殴りかかろうとする不良たちだが、その前に全員を居竦ませる怒声が響いた。

「待ちやがれ!」

 その一声は、たった一人が発した物だった。しかし、その声に、今まで口々に怒声を上げていた不良たちが一瞬で大人しくなった。そうして、不良たちが波が引くかの如く、割れていく。そうして現れたのは、5人組の男だ。全員がガラの悪い服装と顔付きでわかりにくいが、カイトは纏う魔力の質等から年の頃は全員高校生程度だろう、と見て取った。

「・・・御子柴だ。あいつも来やがったのか・・・」

 いつの間にか近くまでやって来ていたソラが、カイトに耳打ちする。その声には少し、怯えがあった。

「てめぇ、天城のガキか!こないだはよくもやってくれやがったな!おい、今直ぐ潰すぞ!」

「だから待てっつってんだろ!」

「あ、いてっ!」

 御子柴の怒声でソラにやられたらしい少年が一気に恐怖で沈黙する。それに対してやったらしいソラは何故か頭を抑えて蹲っていた。ソラがそれに応じて怒鳴り返そうとして、カイトに頭を殴られたのである。

「何しやがんだ、あ」

 そこで再びカイトが拳骨を振り下ろした。

「いてぇ!」

「てめぇは馬鹿か!顔バレしないようにしてんのに、名前だそうとする馬鹿がいるか!」

 正体がバレない様に隠したのに、自分達の正体へとたどり着ける情報を公開する事は愚かすぎであった。

「知らねぇよ!てめえが勝手に隠してんだろ!俺はバレたってどうでもいいんだよ!」

「うっせ!こっちがめんどいんだよ!」

「てめぇらもちったー黙れ。」

 いきなり漫才を始めた二人に、どすの利いた事で御子柴が怒りを露わにする。それに漸く二人もこんなことをしている場合ではないと思い出した。

「で、奴は有名なのか?」

「おまっ!知らねえのかよ!」

 ソラが大いに驚いていた。どうやら、かなり有名らしい。

御子柴 総司(みこしば そうじ)。天神市中心に周辺の不良たちを全部纏めてるボスだ。つーか、なんでてめーはんな常識しらねえんだよ・・・」

 今度はソラに呆れられるカイト。彼が呆れる程なのだから、よほどの常識だったらしい。

「・・・いや、知らん。猿山のボス猿なんぞ、どうでもいい。」

 カイトの明らかな侮蔑に、不良たちがいきり立つではなく、恐怖する。それほどまでに、御子柴の武名は鳴り響いていた。

「猿山のボス猿か。違いねえ。」

 しかし、ボス猿呼ばわりされた御子柴は、それを笑う。あっけらかんと認めた事から、どうやら彼にもその自覚はあったらしい。

「一個、こっちからも聞かせてくれ。石垣、いや、こないだガキ攫った馬鹿やったの、お前か?」

 御子柴も石垣の事は馬鹿だと思っていた為、何一切憚ること無くそう言ってカイトに尋ねる。

「ああ、何分、ウチの大事な妹なんでな。悪いが、潰させてもらった。」

 交わされた会話の内容に、教師達が騒然となる。誘拐事件など既に彼らの手には余る上、喧嘩が始まりそうなのに一向に警察が来ない現状に焦り始めたのだ。

「そうか。まずは、そっちについちゃ、詫びよう。ウチの部下が悪かった。」

 小さく、確かに頭を下げる御子柴。それにカイトが大いに驚く。彼ら不良少年達は、喩え自分に非があろうと頭は下げない、とカイトは思っていたのだ。

「・・・意外、だな。」

「そりゃ、違いねえ。だが、詫びるのはこれだけだ。てめえはやり過ぎた。さすがにぽっと出のガキに20人全員病院送りってのは、見過ごせねえ。」

 どうやら彼自身も変わり者であるとは思っていたらしいが、これは既に彼が荒れる要因が取り除かれているからだ。それ故、素直に悪い事には頭を下げられるのであった。とは言え、面子の問題は別だ。

「違いない。そっちはナメられないのが流儀だ。配下のチームが何処の誰とも知れないたった一人に全滅、では面子は大いに潰れただろうな。それも、天城なら問題は無かっただろうが。」

 そう、大問題なのは、ここなのだ。ソラでは無く、カイトがやった。ソラならば、また1つソラの武勇伝が増えるだけだ。しかし、カイトは無名かつ、何ら一切残してはいなかった。

「はっ・・・わかっててやったのかよ。病院から帰ってきたらウチで参謀の席用意してやるよ。」

 自分の部下の中には、それさえもわからない者が少なくない。それがわかって手を出せる人材は稀なので、御子柴が冗談混じりにスカウトする。

「え、ちょ、御子柴さん!」

 どうやら参謀役らしいチャラい服装の少年が、大いに慌てふためいていた。それに御子柴は笑う。

「ははっ、リョータ。安心しろ。そいつぁ下手したら一年以上先、病院から帰ってきて俺達への恐怖を忘れられてたら、だ。」

 彼は何処か陽気な笑みを浮かべ、リョータと呼ばれたチャラい服装の少年の肩をぽん、と叩いた。

「はぁ、良かったぁー。じゃあ、こいつには存分に怖がって貰わないとね。」

 コキコキ、と手を鳴らすリョータ。その顔には楽しげな笑みが浮かんでいた。

「おい、ボスの命令は殺すな、だ。せめて半殺し程度にしておけ。」

「前の奴は前に出ろ!それ以外は何時でも帰れるようにしとけ!」

 そうして、更に別の幹部の少年二人が声を上げ、片手を肘まで挙げる。それに伴い、隊列の一番先頭の少年たちが各々の武器を構えた。後は、幹部の少年が腕を振り下ろすだけだ。

「おい、やめろ!」

「あ?先公共が出てくんじゃねえ。」

 教師達が始りそうな乱闘に、声を上げる。しかし、御子柴がひと睨みすると、怯えてそれだけで終わった。彼と教師達の間で、地力の差が出たのだ。如何に鍛えられた体育教師達といえど、実体は教師だ。やはり不良のボスとして周囲の不良達を抑えている御子柴とでは、威圧感が違ったのである。

「うっわー、情けね。」

 如何に仕方がないとは言え、ソラがこの教師達の怯えように呆れ返る。不良の少年達は、半ば当然と受け止め、半ば嘲笑していた。

「まず、言っておいてやる。殺しはしねえ。せいぜい、半年から一年程味気ない飯食うだけだ。後、サツが来るかも、って期待ならやめとけ。後一時間はこれねえよ。別ん所で事件起こしてるのと、圧力掛けさせた。」

 警察が来れない、というのは事実であった。彼の配下の少年たちの中には、天神市の政治に多大な影響を与えられる人物を父に持つ少年が所属しており、彼に命じて父親から警察へと圧力を掛けさせているのである。とは言え、さすがにソラの父親の存在から、抑えられて一時間、というのが彼の見立てだ。

「・・・やれ。」

 そうして、御子柴の号令と共に、幹部の少年が腕を振り下ろした。

「しゃあ!」

 ソラが向かってくる大声を上げて向かってくる少年たちを見て、気勢を上げる。そうして彼も勢い良く駆けようとして、カイトに止められた。

「あぁ!?ここに来て止めんなよ!」

 いきなり気勢を削がれたソラが、カイトを睨む。しかし、カイトは肩を竦めるだけで、それを受け流した。

「この程度、別にオレ一人で十分だ。」

「はぁ?てめえのやり方は時間掛かんだよ。」

 かなり苛立った様子のソラが、カイトのやり方を非難する。確かに、何時も学校で見せているカイトの戦い方では、時間が掛かっただろうが、今回はカイトも戦う気であった。

「なら、見ておけよ。不満があるかどうか、な。」

 カイトは静かにそう言うと、一瞬、誰の視界からも消え去った様に見えた。そうして次の瞬間には、向かってきていた不良達の集団の中央に居た。

「なっ!?」

 速い、誰もがあまりの速さに目を見開く中、カイトだけが動く。すぐにドン、という音が鳴り響いて少年が一人、崩れ落ちた。肘鉄でみぞおちに一撃を食らわせ、昏倒させたのである。尚、さすがに衆人環視の中であることと、彼らが面子を潰されている事へもほんの僅かに理解出来たので、あまり手酷い怪我はさせるつもりは無かった。

「ぼさっとしてんじゃねえ!」

「ほう、やるな。」

 このまま何時もの流れで呆然としたまま一気に勝負を決めるつもりのカイトだったのだが、呆けている少年たちを見た幹部の少年が声を荒らげて、全員が我を取り戻した。

「だが!」

 そうして、大声を上げて襲い掛かってくる少年達だが、カイトとは場数も練度も全てが違いすぎるし、ソラと比べてでさえ遥かに下だ。全員が数分もしない内に、地面に倒れていた。

「これで文句あるか?」

 圧勝、誰しもが分かるぐらいに、圧倒的な強さであった。向かってきていた十数人の少年達は誰一人立っておらず、その中心でカイトただ一人が立っていたのである。

「・・・てめぇ、俺ん時は手抜いてた、ってことかよ。」

 手を出した途端に、一分も経たずに全滅した少年達を見て、ソラが忌々しげに呟いた。

「別に攻撃を仕掛ける理由が無かったからな。」

 倒れ伏す少年達に一切の興味を示さず、カイトは只々未だ健在な少年達を観察する。この程度で、終わるとは思っていなかった。

「さて・・・おかわりは自由か?」

 そう言って前を向いて不良少年達を睨むカイト。そこに一切の疲労感も気負いも無く、ただ何時もと同じ様子がそこにあった。

「ちっ、まあいい。今は有りがてぇ。おい、こっからは俺も混ぜろ。さすがに俺もこの人数はマズイからな。どーせ、お前もだろ?」

 カイトの横に並ぶソラ。今見たカイトの実力に、共に戦う事を選んだらしい。まあ、さすがに100人近くの不良達を相手にするのは、如何に強いと言えども無理があるのは彼も把握していたのである。

「さて、な。」

 ソラの質問に対し、カイトは何時も通り、平然として答えた。そんな二人に対し、対峙する不良の少年達が大笑いする。

「こいつら、マジで俺達に勝つつもりかよ!馬鹿じゃねーの!こっちは100人も居るんだぜ!」

「構わねえ!潰せ!」

 そうして、カイトとソラV.S.100人の不良少年達の戦いの火蓋が切って落とされたのであった。



 そうして十数分後。二人によって多くの少年達が昏倒し、グラウンドに倒れ伏していた。無傷のカイトに対し、ソラはそれなりに傷を負っていたが、未だスタミナにも余裕がありそうだった。

「おら!」

 ソラが倒れた少年へと追撃を仕掛ける。腹に入った蹴りは少年を少しだけ浮かして、1メートル程吹き飛ばした。

「馬鹿!追撃仕掛けるより、スタミナ残しておけ!」

「うるせぇ!指図してんじゃねえよ!」

 血を流し、何人もの少年を倒してきた事で、ソラの顔には獰猛な笑みが浮かび、同時に周囲への注意がかなり疎かになっていた。

「ちっ、フォローが面倒なガキだ。」

 只々周囲へと攻撃を仕掛けるだけのソラに、カイトがため息混じりの舌打ちをする。ソラは後から仕留め損ねた少年に忍び寄られていたのに、気付いていなかったのだ。

「死ね!」

 仲間が多く倒れ伏し、怒りでもはや御子柴の命令も忘れた少年が、小型のナイフを取り出して、ソラへと攻撃を仕掛ける。

「・・・そいつ、使ったら遊びじゃ済まさねえぞ?」

 しかし、それはカイトによって阻まれる。ナイフを持っていた右手を万力が如くの力で握られ、カイトから先ほどまでと異なる類の威圧を感じ、額から血と脂汗と冷や汗を流し始める。

「ひぃ!」

「寝てやがれ!」

 そのままカイトは少年の右腕を振り回し、まだまだ多い元気な少年達の中へと放り投げた。

「・・・どんな馬鹿力だよ、おい・・・」

「おい、てめえら!」

 人一人を片手で投げたカイトに唖然とするソラの呟きを無視し、カイトが声を上げる。

「こいつ、使うなら覚悟しやがれ!そっから先は遊びじゃ済まさねえぞ!」

 ビリビリと大気を震わせ、カイトが吼える。そうして、没収したナイフを少年達の隙間を縫うようにナイフを投擲する。投げ放たれたナイフは一直線に中学校の塀へと直進し、そのまま突き刺さった。それを見た少年達が、カイトの投擲の腕と身に纏う怒気に竦み上がる。

「もし、ナイフ持ってる奴は遠慮なく、来い・・・但し、その場合はこっちも容赦しない。それを、覚悟しておけよ。」

 一気に怒気を鎮めたカイトはただ静かに、言った。しかし、それでも少年達には理解できた。いや、先ほどの怒気と合わせて、強制的に理解させられた。今はまだ、ナイフ等の殺傷力の高い武器を持ち出していないが故、カイトが抑えている事を。そうして、終始カイトが優勢のまま、戦いは進むのであった。




「おい、あいつ。俺達の同類か?」

 誰もが個性的な服を着る中、平凡な服を着たある幹部の少年が、まるで有り得ない物でも見たかの様な顔で呟いた。

「・・・俺ら以外にも、居たんっすね。」

 それに、チャラい少年が少しだけ感慨深げに答えた。やられていく少年達を見ながら、幹部陣の少年達は怒るではなく、只々驚きを持ってカイトを見ていたのである。

「強いのも納得がいきます。」

 やられていく部下達を見ながら大柄な少年が言った言葉を受け、御子柴が頷く。

「・・・はっ、まさかこんな事で同類に出会えるたあな。世の中何が起こるかわかんねえもんだ。」

 ただ単にソラを潰しに来ただけだが、思わぬ収穫を得た御子柴が苦笑する。

「はい。」

 大柄な少年が、御子柴の言葉に短く応えて頷く。彼ら幹部陣には、幾つかの共通点があった。ソレを縁に、行く宛のなかった彼らは徒党を組んだのだ。そうして、気づけば多くの不良達を束ねるボス格へと登り詰めていただけなのである。そんな彼らは、カイトの中に自分達と似た共通点を察知したのであった。

「同族?はっ、御子柴も他の奴も何腑抜けた事抜かしてやがる!あいつが俺達の同類かよ!」

 髪に剃り込みを入れ、幾つものピアスを付けた最も凶暴そうな少年が、そんな他の幹部たちの言葉を聞いて苛立ちを隠せず、一気にカイトに向かって走りだした。

「おい、三島!」

 それに対して、御子柴が声を上げるが、彼は止まらない。そして、彼らの部下の殆どの少年が倒れ伏した所で、ついに幹部の一人が打って出るのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

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