断章 大妖怪編 第33話 当然の結末
玉藻の時間稼ぎによって封印が解かれたもう一つの殺生石は、水面から浮かび上がっても暫くの間緩やかな滞空を続けていた。が、それも十数秒だけだ。一同が見守る中、自分達の目の前に捕らえられているもう一人の玉藻以上の圧力を放出した。
「ぐっ!」
「くぅ!」
陰陽師達も同じく玉藻の前である目の前の玉藻も、等しくもう一つの殺生石の圧力に気圧されて思わず身体を震わせる。
「もう一度私が」
「いや、流石にそろそろオレにもやらせろよ」
どうやら此方も相手をしないとダメそうだ、と思った月花が構えるが、カイトが同じく構えたのを見て、場を譲る。少々残念ではあったが、既に戦ってしまった後だ。なので仕方がなかったが、カイトに場を譲る事にして、自らは弱いエルザや陰陽師達の守りに就く事にした。
「さーて、今度はオレの番。もっとド派手な戦いにしないとな」
吹き出す魔力に、カイトは獰猛な笑みを浮かべる。殺生石自体の大きさも一回り以上大きかったが、それ以上に、吹き荒む魔力そのものも濃度が違う。遥かに此方の方が濃く、そして洗練されていた。
実力としては現状でエリザを少し上回る程度で、分かたれた身とは言えこれならば、確かに日本三大妖怪の一角を占めるというのに相応しい実力と言えた。それに、カイトは激戦を予想する。
「来るか」
カイトが油断なく構えたと同時に、放出されていた魔力が収束し、もう一つの殺生石が形を変えていく。そうして殺生石が取ったのは、十代後半の少女の姿だ。顔や容姿のベースは捕らえられた玉藻と同じ様で、ただ彼女をそのまま若くした様な姿であった。可愛らしさと美しさが絶妙なバランスで同居する、非常に美しい少女だった。
「・・・」
「・・・」
暫くの間、カイトともう一人の玉藻は目を合わせ、間合いを図る。そうしてもう一人の玉藻が動きを見せると同時に、それを戦いの合図と取ったカイトは地面を蹴った。が、それはたったの数歩でたたらを踏む事になる。
「きゃあ! 男!?」
「はいぃ!?」
カイトがたった数歩地面を蹴った所で、身構えたと思った玉藻が叫び声と共に取ったのは、なんとしゃがんでカイトに怯える、という不可思議な行動だった。演技では無く、正真正銘男に怯えている様子だった。そんな玉藻にカイトは勢い良く地面を蹴った反動で、思い切り滑って転ぶ。
そうしてカイトは勢いそのまま地面を滑って行き、屈み震えるもう一人の玉藻の少し前で停止した。
「い、いたたたた・・・」
「お、男・・・あう・・・」
ガクガクブルブルと震えるもう一人の玉藻に対して、カイトは思い切り擦った腕を擦る。そうして意図せず近づいてきたカイトに、もう一人の玉藻は更に怯える。しっぽは震え、毛は逆立っている。どう見ても演技には見えなかった。
「え、えーっと・・・」
「さ、さあ・・・妾も妾以外の妾のことは・・・」
流石に対処に困って捕らえられた方の玉藻を窺い見るカイトだったが、彼女もどうやらもう一人の玉藻がこんな事になっているとは思ってもみなかったらしい。非常に困惑していた。
「えっと・・・げ、月花ー」
「はい、大丈夫です。ええ、大丈夫ですので、とりあえず、顔を上げてもらえますか?」
カイトはとりあえず怯えさせない様に月花を手招きで呼び寄せると、即座にその意図を読んだ月花がもう一人の玉藻の前にしゃがみ、なんとか事情を聞き出そうと苦心する。どうやらもう一人の玉藻も同族の、しかも女だとわかると少しは安心したのか、暫くの間、二人で話し合う。
「なるほど。わかりました。ええ、わかりましたとも」
どうやら、月花はもう一人の玉藻に起こったらしい事を把握したらしい。立ち上がり、カイトの方を向いた。それに合わせて、もう一人の玉藻もまた立ち上がり、月花の背中に隠れてカイトを盗み見る。
「えーっと・・・どうやら、ですね。彼女の言葉をまとめると、大昔にまだ彼女達が分かたれる前、寄ってたかって沢山の男達から攻撃された事がトラウマとなっているらしくて・・・その、男性恐怖症になった、と」
「あ、そ、そすか」
「そ、そんな阿呆な事が妾に起こるじゃと・・・」
「な、なんでもう一人の私はそんな平然と男の横に居れるの・・・」
いつの間にやらカイトの側で成り行きを見守っていたらしい大人の玉藻だが、月花から伝えられた少女の自分の状態に頬を引き攣らせる。そうして更にそんな平然と男の側に居るもう一人の自分に、少女の玉藻は訝しげな顔をしていた。
後に聞けば大人状態の彼女はどうやら封じられる最後の時の姿と性格を保っているらしく、これもまた流れだ、と大して気にもとめず、何ら影響はなかったらしい。
「・・・これ・・・マジでどうしよう・・・」
「後の事は考えていなかったのですか?」
「いや、ぶっちゃけあいつに頼まれただけだし。ぶっ潰すだけでいっかな、って」
目の前で繰り広げられる大人の玉藻による少女の玉藻への説教――どうやら男性恐怖症になっている事に対して非常におかんむりらしい――を見ながら、カイトは困惑する。
「・・・これ、どうする?」
「何もないなら、もう一度封じるだけだ」
苦笑したカイトの問いかけに、陰陽師達を代表して皇志が答える。が、それではせっかく儀式を叩き潰したのに、本末転倒だ。
「そりゃ、却下だ・・・そっちの嬢ちゃん殺されるのが困る、っつって来てるのに、ここで儀式再開されてたまるか」
「・・・覇王殿。一つ良いか?」
「おう、なんだ?」
ようやく自身に焦点が当てられ、皇花がカイトに問いかける。
「私はこの日、死ぬ為にだけ生きて来た。貴殿にその生き方をさし」
皇花の言葉を最後まで聞くこと無く、カイトは行動に出た。が、それを完全に理解出来た者は、この場では月花を除けば、誰もいなかった。
「・・・」
「わーったか、小娘。それが、死だ。わかったんなら、安易に死ぬ、つってんじゃねえ・・・死ぬってのはな。無茶苦茶こえぇんだ。全てが、失われていく。記憶、感情・・・希望も安堵も絶望も恐怖も、いや、虚無さえも、消え失せる・・・その恐怖を知ったなら、もう死のうなんて言えねえぜ?」
真っ青になり、恐怖で失禁した皇花に対して、カイトは不敵に笑って告げる。
皇花にはその言葉は聞こえていなかったが、言わんとする意味は理解出来た。そして同時に、彼女はカイトが真実、死と言うものを直視した事がある、と把握して、何も言えなくなる。結局は、彼女が死ぬと決意出来たのも、死を知らないが故だ。死を見せつけられては、何も言えなくなるのは当然だった。
カイトが行った事は、皇花を含めて誰の目にも見えなかった。ただ、後の皇花が告げた所によると、何か得体の知れない恐ろしい『何か』が首筋を通り抜けた、ということだった。そうして気付いた時にはおよそ人智が及ばぬ、記憶する事さえ出来ぬ人の言葉に言い表せぬ出来ぬ経験をしていたらしい。
そうして、カイトは皇花の首筋を通り抜けた不可視の何かを突き付けて、エルザに告げる。
「てめーもだ、エルザ。勝手に色々背負い込んで死のうとしてんじゃねえ。オレの下で安直に死を選ぶな。これは、オレの命令だ。大抵のことなら、オレがどうにかする。ぶっちゃけあんな石ころを落っことそうとする程度はどうとでもなる。オレとあいつの防備網を突破して、一瞬で爆破しきるぐらいじゃないと、怯える必要はねえよ・・・そんな事が出来る奴が居るなら、というお話だがな」
「・・・はい」
不可視の何かから発せられる絶大な死の恐怖を受けて、エルザはようやく、本当の死の恐怖を知る。
そして彼女は、死の恐怖と同時に、奇妙な話だが安堵を得た。里の為にもう誰かが犠牲になる必要は無い、という心からの安堵だった。
得体のしれない何かの先にある、暖かでありながら轟々と渦巻く圧倒的な魔力を見て、彼女は真実、この男なら喩え熾天使達が束になって攻めてきても里を守れると悟ったのだ。
「さて・・・でだ。こいつらどっすっかなー・・・」
そうしてエルザが真実理解したのを見て、カイトは溜め息を吐いた。問題は、ここだった。とりあえず封印は却下だ。カイトが封印をすれば犠牲も無しでどうでも出来るが、結局万全を期すならば、定期的な封印の調整は必要だ。
つまりこれでも結局は未来に結論を先送りしただけだ。幾らなんでもカイトとて数百年先にまで地球に居るかどうかは、わからない。そこまで生きている保証も無い。
その時は、カイトの封印のほころびを治す為に、彼らはまた生け贄を捧げる必要が出てくる。封印では結果は変わらないのだ。
「ちっ、しゃーねえか。おい、お前ら」
「ん?」
「はひっ・・・!」
そうしてカイトは、答えを決める。とりあえず答えを決めたので、それを二人に伝える事にする。
「お前らの身はオレ預かりにする。ついて来い。当分は楽園で預かって、後々ヒメ・ヨミあたりからこっち向けに和解かなんか申し入れる」
「なっ・・・聞けるわけが」
「ないだろう、だろ?」
「当たり前だ」
皇志の言葉を引き継いで、カイトが問いかける。それに、彼は頷く。当たり前だが、皇志達陰陽師が飲める提案では無い。なにせ玉藻達は日本を荒らしまわった前科がある悪い妖怪だ。それを野放しにするなんぞ受け入れられる提案ではなかった。
「まあ、ぶっちゃけると、こいつらもうそんな暴れる事ねーだろ」
「・・・その根拠は?」
「んー・・・勘」
「なっ・・・」
カイトのあっけらかんとしたなげやりな答えに、陰陽師達は今日何度目かの絶句をする。勘で日本の危機を見過ごせ、と言われても納得出来ない。当たり前である。
が、これも当たり前だが、カイトの理由の方も半ば冗談だった。だから、笑って根拠を告げる。それは彼の今までの経験があればこそ、見抜ける事だった。
「嘘だっての。まあ、魂が分割したからなのかは知らんが・・・悪者特有の圧力が無い。ぶっちゃけ、あれ、悪というかなんというか・・・魔力の中に邪悪な思念つーような思念が感じられん。まあ、直感だが・・・多分殺生石化した時に恨み辛みやら放出しまくった所為で気が済んだ、ってとこだろ」
「こここ、よくわかったのう。ぶっちゃけると、あの時しこたま恨み辛みを放出したからのう。流石に600年も恨み辛みを放出すれば、飽きもしよう」
カイトの言葉を聞いていたらしい。カラカラと笑いながら、大人の玉藻が頷いた。どうやらカイトの見立ては正解だったらしい。
魔力とは、意思の力だ。それ故に素の魔力には何らかの感情の様なモノが混ざる。カイトはそこに不穏な空気が無い事を見て取っていたのだ。
まあ、そもそも600年も恨み辛みで人を殺せる様な瘴気を放出出来る方が可怪しいのだ。それだけやれば、どんな凝り固まった悪い感情であっても絞り尽くされるのであった。
「だが・・・先ほど我らを害そうとしていなかったか?」
「こここ・・・あんなもの嘘じゃ、嘘。適当に脅かして貴様らが怯える様を楽しもうとしただけよ」
皇志の言葉に心の底から楽しそうに、大人の玉藻が笑う。どうやらその言葉に嘘はなさそうだった。
「さって・・・じゃあ、これで終わり。帰って飯食うかな。エルザ、こいつらの家か部屋、なんとかしてやれるか?」
「あ、はい。用意させて頂きます」
「ふむ。では、しばらく厄介になるとするかのう・・・ほれ、お主は説教を続けるぞ。さっさとついてまいれ」
「ひぅ・・・男・・・沢山・・・怖いのに・・・」
そうして、カイトは三者三様の反応をする女達を連れて、その場を後にしようとする。が、そこに、もう用事が終わったはずの鏡夜が声を掛けた。
「っと、すまん! ちょい待ち!」
「あ? なんだよ、まだあんのか?」
「いや・・・それが、な? すまん! まだ終わっとらん!」
ぱん、と柏手打って鏡夜が頭を下げる。それに、カイトは嫌な予感がした。
「いや・・・実はな? 贄女って・・・10人程おんねん。その一人が、こいつや。出来れば・・・な?」
苦笑に近い笑みを浮かべて、鏡夜が首を傾げて反応をカイトの反応を伺う。
「・・・って、こたぁもしかして・・・」
「まあ、ぶっちゃけると、他にも手に負えん奴が10体程おる・・・まあ、ほんとはもっとおんねんけどな」
「・・・てめぇ・・・マジで覚えてやがれ・・・場所は?」
鏡夜の言葉に、カイトは頬を引き攣らせながら、乗りかかった船と最後まで乗る事にする。いくらなんでもカイトとて皇花は助けて他の少女達を助けない、ということはやりたくなかった。が、そんなカイトに対して、鏡夜は笑って告げた。
「いっやー、すまん! 全然把握しとらん! そもそもおりゃ、警戒されとるからな! ここ以外ぜーんぶ、教えてもろうてない! 何を封じるつもりなんかも知らんわ!」
「なっ・・・おまっ・・・」
鏡夜は手を振って全然申し訳無さそうでない謝罪をして、カイトに全てを放り投げる。そうして、丸投げされたカイトはそれに絶句する。とは言え、だからこそ、カイトに頼ろうと思ったのだ。神々とも繋がっているカイトなら、どうにか出来る。それ故に鏡夜はカイトに丸投げするしかなかったのだ。
では何故、鏡夜は丸投げするしかなかったのか。それはけじめの為だ。当たり前だが、これは彼の独断専行。けじめは付けなければならない、と考えていた。謹慎はもとより、最悪は除籍・処刑さえもあり得る、と彼は踏んでいた。
そして、処刑でもなければ逃げるつもりは無かった。カイトや皇花、紫苑達に申し訳なくはあったが、けじめをつけるために、他の贄女達は鏡夜の手では無理だったのだ。
ちなみに、鏡夜が詳細を知らないのも当たり前で、鏡夜は最大の反対派だ。それ故に、最大の危険性があり有力者である鏡夜の力を借りなければならないここは仕方がないとしても、他の所については一切教えてもらえなかったのであった。
「はぁ・・・それなら、皇花が知っている」
そこに、声が掛かる。それは皇志の物だった。そうして、意を決して、皇志がカイトに問いかけた。
「・・・覇王殿に問おう」
「おう」
「貴殿なら、全員を救えると言えるのか?」
「知らん。が、とりあえず厄介なの潰すのと今回の様に身元引受で良いなら、余裕だが?」
「それで構わん」
皇志はカイトの言葉にそう言うと、まだ満足に身動きの取れぬ身体を動かして、なんとか立ち上がる。
「・・・どういうつもりや?」
「・・・私とて、誰も犠牲にならぬのなら、それが良いと思っている」
鏡夜の問いかけに、皇志が答える。当たり前だ。彼らとて、犠牲を生む事を承知したのは、涙をのんで、だ。自分達では抗えぬから、最小の犠牲を生む事を飲んだのだ。勝てるのなら、犠牲を飲む必要はなかった。
「皇 皇花。皇家当主皇 皇志より、命を二つ与える。まず、一つ。覇王殿に従い、全ての封印の地へと案内せよ」
「承った」
皇志は立ち上がり、当主として、皇家の贄女である皇花に最後の命令を与える。それを受けて、いつの間にやら気を取り戻していた皇花はまだ立てぬまでも、いつもどおりに、了承を示す。が、次の命令に、彼女は初めて、何時も通りに、とはいかなくなった。
「次いで、もう一つ。最後の命を与える。皇 皇花。貴様をその任の達成を以って、皇家より放逐する。どこへなりとも行き、好きに生きると良い」
「・・・え?」
皇花がきょとん、と首を傾げる。それは歳相応の少女の様な感じだった。今までこの日までのほぼ全てを決められてきたのだ。それを急に好きにしろ、と言われて困惑したのである。
「おいおい・・・放逐って。無茶苦茶無責任もいいとこじゃねーか」
流石にカイトも見るに見かねて苦言を呈する。今までずっと生き死にを左右していたのに、それが御役御免になるやいなや即座の手のひら返しだ。苦言を呈するのも当たり前だった。だが、これは何も無責任だったからこそ、ではなかった。
「そうは言ってもな。何分、彼女らは我らにとっては本来は贄。何時か繰り返さぬためには、そうするのが、一番だ」
「ほう・・・」
皇志から告げられた言葉に、カイトが感心する。確かに、ここでこれ以上カイトとの軋轢を厭ったという事情もあるが、それ以上に、彼自身の覚悟を示した物でもあった。
彼らとてカイトと彼に従う者達の実力を見せられては、カイトに全てを丸投げするのが最良と判断したのである。そうして、重ねて皇志が問いかける。
「覇王殿。貴殿が一度儀式を取り潰した以上、最後まで責任を取る所存だろうな?」
「たりめーだ。全部、もってこい。それが人に仇為す存在なら、全部ぶっ潰してやるよ・・・おい、行くぞ」
「え、あ・・・え?」
そうして、こんどこそ、カイトは混乱する皇花を連れて去って行く。もう何か問う必要もない。言わんとする所は理解出来だ。それを見たのか、陰陽師達は誰も何も言わなかった。
つまり、他の贄女達も全て、カイトが面倒を見ろ、という事だった。元々ここで死ぬはずの生命だ。それを勝手に生きながらえさせたのだから、カイトにも責任を取る必要があったのである。それを見送り、皇志に涼夜が問いかけた。
「良いのか?」
「良い訳が無い・・・が、こうするしかない。もはや、世界大戦は避けられん。我々の代で起こる・・・元々、我々かその次か、という程度だ。諦めるしかあるまい」
涼夜の問いかけに、皇志は首をふる。良いはずがない。許容出来るはずがないのだ。だが、それを許容しなければならないのなら、仕方がない。彼らは国の防人。ここで受け入れられぬ事と抗う事も大事だが、その後の事も考えねばならないのだ。
皇志は勝てる相手では無い、ということは先の一戦で把握した。どう足掻いても、それこそ多大な犠牲を強いても、彼らでは玉藻にさえ勝てない。それを遥かに上回る実力を示した月花を更に上回るカイトだ。勝てる道理はどこにも存在していなかった。ならば、それに抗い国力を減少させるのではなく、手を結ぶ方を選択したのであった。
「更に戦力を集め、なりふり構わず戦う事も出来る・・・だが、他国から見れば、我らもあれも等しく日本の住人。これは他国から見れば、単なる内輪もめにすぎん」
「次の次を見据える、か・・・内輪もめで喜ぶのは、他国のみだからな」
「ああ・・・そのために、皇花を、贄女達を放逐した」
二人は深い溜息と共に、頭を振った。皇花達の犠牲を政治的な判断とするのなら、これもまた、政治的な判断だった。
皇花達の生存を決めた最大の理由はカイトへの詫びと同時に、カイトと自分達の繋がりを作る事が大きかったのである。つまり、カイトの気に入るだろう決断を見せる事で彼との繋がりを得て、彼の力を国防として活かそうとしたのであった。
確かに、三童子の一人である皇花を喪失する事は痛い。だが、カイトという力を得られるのなら、それは何よりもの収穫だ。今戦力の若干の減少を認めて、更に遠くの未来での莫大なリターンを得る。つまりは、先行投資だった。
「これがわからぬ相手と読むか?」
「いや・・・分かるだろう。だが、あれはそれでなお、いや、それを理解してやることも良しとするタイプと読んだ」
「そうか・・・」
「ああ・・・戻ろう。やるべき始末は多い。これから忙しくなる」
様々な覚悟を決めた彼らだが、上に戻った時、一つの朗報がもたらされる。総司、即ち御子神春夜の事である。それは彼らが失った戦力には遠く及ばないが、何時かの力となる可能性のある事だった。
この戦いは結果として、日本の戦力から見て若干の喪失で済んだ、ということは、何よりもの朗報なのだろう。そうしてこの時、カイトをめぐる日本の戦いが終結し、鎮火に失敗した戦いの火種は世界へと広がっていく事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




