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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 陰陽大戦編 第26話 陰陽大戦 ――友と敵――

 戦いが始まる約一週間前。鏡夜が鞍馬に背を押され決心を固めた数日後。鏡夜は自らの出来る事を全て把握することに努めていた。


「これが俺に出来る事全て・・・やな」


 何かが狂っていけない。ましてや意図がバレるのも、論外だ。そうして、鏡夜は決意と共に、覚悟を固める。そうして、電話をするのは、自分の幼馴染の少女だ。


「おーう。元気しとるかー」

『なんやの、いきなり・・・』


 紫苑の訝しげな声が聞こえてきたが、鏡夜はそれで良かった。ただ単に、覚悟を示す為だけに、彼女に声を掛ける事にしただけのことだ。そうして暫くの間、二人は雑談を交わし合う。


『そや、なんや元気なっとるやん』

「ん、おう。まな。ちょい悩み事が解決してな」

『え・・・あんたが悩み事・・・?』

「俺かて悩むわ!」


 こんな風に冗談を言い合う関係が、心地よかった。だからこそ、鏡夜は思う。彼女はこんなあけすけな言動が似合い、涙は似合わない、と。そうして、鏡夜は僅かな躊躇いを無くす。

 確かに、ここまで100年近くこの為だけに準備を続けてきた先人達への申し訳無さはある。彼らも必死で、それこそ涙を飲んでの決断なのだ。だが、それでも。自分には、納得が出来なかった。


「あ、そやそや! なんや皇花まーた忙しいみたいでな! もしかしたら、夏休み明けも少しの間連絡とれんかも、てぼやいとったわー」

『え・・・それ、大丈夫なん? 今月どころか先月からずっとやん』

「おう。とりあえず俺も手伝っとるからな」

『あんたの手伝いて・・・単なる邪魔ちゃう』

「おい!」


 親友は心配し、幼馴染は罵倒する。鏡夜が望んだ通りの反応に、彼はあくまで流れの一環として、決定を告げる。誰にも聞かれては居ない。ここは、誰もいない空高くだ。風の音は全て、自らが張った結界で取り除いた。


「そやからな・・・まあ、多分8月末から9月に入ったら、連絡入れさせるわ・・・あいつほっといたらこっちから連絡入れよらんからなぁ」

『あはは! そやな! 頼むわ。ここ当分皇花ちゃんの声も聞いとらへんから、結構心配やったとこやわ』

「おう、じゃな」

『うんー』


 二人は笑い声と共に、通信を切断する。決意では無く、決定。事が終わり、全てをもう一人の幼馴染にぶん投げたら、皇花には紫苑に今までの詫びを含めて連絡をさせる。それが、彼の決定だった。

 とは言え、これを為す事は、彼ではどうにも出来ない。なので申し訳なくはあったが、神様達からの助言通りに、お膳立てをしてカイトに丸投げすることにしたのだ。それが、彼の決定だった。

 そうして、彼はその決定を現実の物とするために、動き出す。目指す先は父の所だ。まずは父を動かし、そこから全てを動かすのだ。


「おう、親父おるか?」

「涼夜様はただ今本家にて、次の戦の会議中です」

「お、そりゃ、ええわ。俺もちょっとアイデア浮かんだんや。今から行く、伝えといてくれや」

「かしこまりました」


 使用人にそう告げると、鏡夜は庭から再び使い魔の背に乗って飛び立って、京都にある皇本家へと向かう。そうして皇本家にて使用人達から出迎えを受けると、鏡夜は会議室に通された。まがりなりにも、鏡夜は三童子の一人。本来ならば当主格のみが参加を許される会議にも、参加が許可された。


「・・・お前が策だと?」


 既に周知の事実だが、鏡夜は今回の儀式に対して最大の反対派と言えた。それは陰陽師たちには有名な事だ。

 それ故に、問いかけた父の涼夜だけでなく、周囲の全員から訝しみの視線が向けられる。特にひどいのは、皇本家から、だ。だが、鏡夜はこれも織り込み済みだ。だから、呆れた様子で答えた。


「あのなぁ・・・俺かて<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>の討伐にゃ異論が無いのは言っとるやろ・・・」

「・・・ん、まあ、それはそうだな」


 どうやら全てを疑ってしまったということに気付いて、涼夜が少し照れた様な風にうなずいた。それに、周囲の陰陽師達も幾ばくかの警戒を解く。

 <<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>。それはかつてカイトが名乗らなかったことと、皇花とのやり取りで彼女が便宜的に覇王と呼んだ事から、<<秘史神(ひしがみ)>>の覇王と区別を付けるために名付けられた渾名だった。


「でや・・・俺からの提案や・・・」


 そうして、彼はよく練られた策略を開陳する。だが、それは一同の訝しみを呼ぶ。当たり前だ。それはどう見ても、彼が承服しかねていた儀式に全面的に協力する物だったのである。


「でや、それには秋夜の協力も借りたいんやけど・・・」

「・・・どういうつもりだ?」


 鏡夜の請願に対して、皇花のお目付け役が警戒感を満載にして問いかける。つい数日前までは、自分達の前でさえ皇花の翻意を迫ったのだ。だが、それが全くの逆の策略に警戒を示すのは当然だった。


「どうせ知っとるんやろ? 鞍馬さんとこ行ったのは・・・そこで説教されただけや。大義と小義を見誤るな、ってな。それに、ついこないだツクヨミ様にも説教されたしな」

「む・・・」


 鏡夜の道理を説いた答えに、お目付け役は言い淀む。ヨミについては既に京都に居たと報告を受けていたし、鏡夜との接触も報告にあった。説教も有り得る話ではあった。それに皇家とて、鏡夜自身が報告していたので、彼が鞍馬寺へ行った事は把握している。

 だが、流石にそこで何が話し合われたのかは把握していない。三貴子であるヨミは当たり前だが、鞍馬天狗の本拠地である鞍馬寺は、京都にありながら彼らの支配下では無い。鞍馬に安易な事をすれば、ただでさえ危うい現状を更に危うくしてしまう。それ故に今は内部には一切の密偵を走らせていなかった。


「・・・わかった。幾つかの見直す点はあるが、会議に加わる事を許可しよう・・・皇花。策略の一環にこれを加え、会議を再開しろ」

「承った」


 鏡夜の思惑がなんであれ、この策略は確かに有用性が高いのだ。それを考えて、お目付け役は本家の者達と短くない間相談して、鏡夜のプランの採用を決める。

 元々これは彼らも考慮していたプランだった。鏡夜が協力的でないが故にこれは選択肢に入っても、採用を見送られたプランだった。鏡夜が協力する、というのなら、採用を決定するのは、ある意味、当然だった。それに、鏡夜は読み通り、と内心でほくそ笑む。


「では、幾つかの変更点があるが・・・それを踏まえた上で会議を再開する」


 皇花の言葉で、会議が再開される。そうして、自らの望む通りに事が運んだまま会議が終わり、鏡夜は誰の目にも止まらぬ使い魔の上で、こう、一人呟いた。


「悪いなぁ、カイト。お前も俺の手の上で踊ってもらうで。まあ、ここ当分お前の手の上で踊ったったんや。俺の方でも、踊ってくれや」


 そうして、彼の決意を表す言葉は、誰にも聞かれぬままに、空の彼方に、消えていった。




 それから、一週間後。ついに、その日がやってくる。だが、そうにも関わらず、カイトもティナも平然とした物だった。


「あ、おかあさーん」

「なにー?」

「ちょっとまたティナと一緒に出かけてくる」

「あ、うんー。お昼はー?」


 綾音の言葉に、カイトは少しの間考えこむ。現在時刻は10時30分を少し回った所。多分、昼までには終わるはず、なのだ。まあ、そう思えるのにも、理由があった。


『現在、市内XXX駅周辺を中心として、太平洋戦争時代の多数の不発弾の処理を行う、とのことで周辺5キロに立ち入り禁止命令が・・・』

『もう90年も経過しようというのに、よくもこれだけ見つかったものですね。まあ、これは今まで見つかっていた物をいっぺんに・・・』

『半月前から周知が徹底されていた為、周辺では大した混乱も無く・・・』

『処理自体は13時には終了し、15時には規制は全て解除されると・・・』


 テレビから聞こえてきた音声に、カイトは思わず吹き出しそうになる。テレビで流れた駅名は、<<最後の楽園(ラスト・ユートピア)>>を中心とした範囲だ。何をやろうとしているのかまではわからないが、カイトは素直に感心する。

 なりふりを構わない相手ほど、警戒すべき敵は居ない。彼らは大々的に国さえも動かしてみせたのだ。称賛に値する行動だった。

 まあ、それだけ今の世界のバランスを崩す存在の出現を恐れているということでもあった。これは表を含めた世界全体にあまり興味を持たなかった此方・・・いや、エリザや蘇芳達側の迂闊さ、と言えた。カイトとティナに関しては知り得る手段が無いのだから、迂闊でも仕方がないだろう。

 世界は魔術込みの裏世界だけで動いているわけでは無いのだ。過去のトラウマからミカエル達を警戒しているエリザ達や、総力として弱い蘇芳達だからこそのエネフィア最強のカイトを頭首に据えるという結論だったが、そうだから故に、のこの結果だった。裏を基準として動いたが故に、表での影響が若干考慮しきれていなかったのだ。


「んー・・・まあ、いらない。適当に食ってくるよ」

「そ、じゃ、いってらっしゃーい。あ、お祭り近いんだから、あんまり疲れちゃダメだよ?」

「はいはい」


 これからまさか息子が日本、ひいては世界の命運を決める戦いに挑むとは露とも思わぬ綾音は、カイトに向けて呑気な声で早帰りを勧める。対するカイトの方も、これから大戦だというのに、気負いはなかった。そうして、カイトはティナを伴い、彩斗の実家を後にする。そこで、鏡夜に出会った。


「・・・来るんやな?」

「おう。お互い、怪我はねえようにな」

「お前の方は死ぬなや」


 怪我しないように。生命を狙われているというのにあっけらかんとそう言ったカイトに対して、鏡夜が笑いながら告げる。そんな彼の顔に悩みが無い事を、カイトは見て取った。


「ま、お互い言いたい事は後にしよや・・・じゃな」

「おう」


 まだ、戦いは始まっていない。だから、単に友人同士の会話の一端として。二人は友人としての別れを交わす。そうして次の瞬間には、鏡夜は使い魔に乗って、遥か彼方の空に消えていった。


「さて・・・こっちも行こうか」

「うむ・・・余は武器を持ってくる。先に行っておれ」

「あいよ」


 戦いの前に、二人は最後の会話を交わし合う。そうして、二人はお互いの行くべき所へと、消えていった。そうして消えたカイトは、次の瞬間には自分の執務室の椅子に座っていた。


「さて・・・別に来なくても良い・・・が、来るか?」

「私は・・・私の街だもの。エルザは弱いから、置いていくわ」

「街の防備は、残った幹部達と私が」


 エリザの言葉に、エルザが頷く。昔から、戦いが起きた時には、エリザが前に出て、エルザが里を慰撫するのが、この里の決まりだった。


「さて・・・やるじゃねーか」


 何をやるつもりなのか、とは思っていたが、その意図は執務室からよく見えた。なんと<<最後の楽園(ラスト・ユートピア)>>近郊に、即席の足場を作り出していたのである。

 当たり前だが、<<最後の楽園(ラスト・ユートピア)>>は此方に地の利がある。そして、幾ら日本で有数の腕利きを集めようと、それら全てが空を自由に飛べるはずがない。

 ならば、答えは簡単だった。地の利を得る為に、地面を創り出してしまえば良かったのだ。幸いにして、<<最後の楽園(ラスト・ユートピア)>>以外の地の利は彼らにある。そして、数も向こうが圧倒的に上だ。2時間程度の間維持すれば良いだけだ。なら、主力以外の所に動員をかければ、どうにでもなった。


「下、見たかしら?」

「ん? いや?」


 楽しげなエリザの問いかけに、カイトは首を傾げる。ここに来るまでは転移術で一瞬だ。となれば、下の状況なんぞ見てはいなかった。


「日本全土から、人が集まっているわ・・・北は北海道から、南は沖縄まで、ね。おまけにまあ、聞けば分かるでしょうけど、ヘリで大量に運び込んでるわよ」

「わーお。マジで総戦力で来やがったか」


 エリザの言葉に、カイトは楽しげな笑みを浮かべる。まさに、全国から動員を掛けたらしい。おそらく周辺を大規模に封鎖したのもこれだけの人員を動かせば隠蔽も容易ではなく、おそらく何らかの儀式を行って隠蔽する為だったのだろう。地面を作り出せたのも、隠蔽が行えると分だからだろう。

 後にカイトが政府と和解した際に聞いた事だが、この時に動員された兵力は、自衛隊の数だけでみればヘリ数十機に人員2000人ということだったが、陰陽師達は非戦闘員含めて約3000人との事だった。

 陰陽師達は魔術を使って戦える内、日本の戦力として数えられる半分を遥かに上回る数を動員したらしい。それこそ治安維持に最低限必要な分と敗北後を担ってくれる事になっている覇王達をを除いて、全て動員した、と言っていた。まさに、国の威信をかけた戦いだった。


「さて・・・じゃあ、行こうぜ」

「ええ」

「いってらっしゃい」


 カイトとエリザは、各々の武装を纏い――と言ってもお互いに武器を持っただけだが――執務室を後にする。そこに待つのは、<<最後の楽園(ラスト・ユートピア)>>の幹部達だ。


「さて・・・お前も良いのか?」

「私は・・・謀反を見過ごされた恩がある。里に弓引いた咎も・・・ならば、これが恩返しだ」


 こういったのは、龍洞寺だ。彼はあの日カイトの覇気を受けて以来、カイトに服従していた。圧倒的な強者であると判断して、彼を里の盟主と認めたのである。そして、それはかつての謀反を起こした者達も似たような物だった。

 元々、彼らは強者こそが正義というような感が強い者達で、後から入ってきたが故に元々頭首だったエリザに反発した面々が多かった。それ故に、自分達よりも遥かに圧倒的な実力を示されては、庇護者として認めざるを得なかったのである。


「エリザ殿とエルザ嬢がそれを認めたのなら、我らは貴方に従うだけだ。元々、私達は彼女らと共に、この里を作り上げたのだからな」


 そういうのは、蘭人の母、つまりは夜魔家の前当主だ。蘭人は前回のクーデターの傷が未だ癒えておらず、内部の治安維持に回ったのだ。

 ちなみに、彼女はミスラの娘だった。吸血姫も全員が無事では無く――と言ってもフィオナもミスラも無事だが――、彼女も夜の一族の庇護の為にエリザの求めに応じて里の防備にあたっていたのである。


「はぁ・・・まあ、良いけどな。わかっていると思うが、なるべく殺すな。後がめんどい。終わった後は奴らと日本国政府に全部ぶん投げだ。まかり間違って減らしてどっかの国に攻めてこられりゃ、オレ達でやんないといけないんだからな」

「了解だ」


 カイトの言葉に全員が笑い、カイトの後ろを歩き始める。そうして会議場を出た先に、人気は無い。既にこの日に襲撃があることは察しており、地下に避難させたからだ。

 <<楽園(ユートピア)>>の頃に培った知識で地下に避難道を作り、更に出入り口を押さえられた場合に備えて立て籠もれる様に避難壕も作ったのである。

 全てが繋がっていたが故に捕らえられるという結果になった事を受けて、最悪の場合には袋の鼠を覚悟でも逃げ込める場所も作ったのである。まあ、エリザという強力な戦力を得られた事も大きい。救援が来るとわかっていれば、立てこもっても問題は無いのだ。


「行くぞ」


 カイトの掛け声で、全員が一気に陰陽師達が創り上げた即席の足場へと移動する。足場はしっかりとしており、地に足をつけて戦う各家の戦士達に配慮されていた。目の前には、一千を超える敵が、既に此方を待っていたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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