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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第三章 田村奈美江
9/110

#09 本当に顔が大事なのか教えてくれ

風速100キロメートルでも壊れない傘に田村奈美江ちゃんと僕が二人で入り歩いている後ろをエノキちゃんは日傘をさしながら歩いていた。


僕は雨男なので外出するとたまに雨が降ることがあるが今日も降った。


嘘つきの友達から聞いた『北海道では蛇口から牛乳が出るらしい』という噂が本当なのか考えていると田村奈美江ちゃんが突然キスをしてきた。


前にはオッサンみたいな声で鳴くカラスしかいないし後ろは傘で隠れているのでエノキちゃんにバレることもない。


体操競技の技名は最初に国際大会で成功させた選手の名前からつけられているので僕は傘に隠れてキスをする技を『ナミエタムラ』と呼ぼうと思う。


今は動物がいるペットショップに向かっているが僕は行くならペットボトル飲料専門ショップの方が良かった。


世界中で知らない人はいないと思うが僕は犬が苦手なのだ。


なぜかというと小学生の時に『会社の犬』ではなく『美容院の犬』に何回も追いかけられたことがあったからだ。


あとは近所の犬が尾行のヘタな探偵みたいに僕が歩いているすぐ後ろを100メートルくらいずっとついてきたこともあった。


その時は通りすがりの可愛いお姉さんが犬に『ダメでしょ』と注意をしてくれて事なきを得たのだ。


その5年後注意してくれたお姉さんが僕の義理の姉になった……わけがない。


犬の放し飼いはバラエティー番組で後に放送する盛り上がったところやオチを番組の最初やコマーシャルに入る時とかに先に放送してしまうことくらいやめてほしいと思っている。


僕たちは自動車様がたくさんお走りになられているのを見ながら数分間歩いてペットショップについた。


店に入ったら店員さんに『いらっしゃいませ』と言われたので顔を上げるとその人は知っている顔で僕は1.5度見をした。


店員さんは1ヶ月くらい前に僕に『色々していただいて胸がおっぱいです』と夢の中で言ってきた女性にそっくりだったのだ。


僕は夢のこととドリームのことを思い出していたのだが横からこんな声が聞こえてきた。


「竹輪ちゃん可愛い」


エノキちゃんは『チワワ』という文字を『チクワ』と読んでしまったみたいだ。


動物に『竹輪ちゃん』と名付けた人は僕の父以外に聞いたことがないので普通は間違えるはずがない。


エノキちゃんは竹輪関係の仕事をしていそうな顔をしているので、もしかしたら職業病なのかもしれない。


「ダックス布団も可愛い」


エノキちゃんが今度は『ダックスフント』のこと『ダックスフトン』と読んでいたがどうやら常識が全然なくてカタカナが苦手なだけみたいだ。


良い意味で『馬鹿でアホでどうしようもなくて救いようがない人間』のエノキちゃんが店に入って約5分が経った時に僕たちにこう言ってきた。


「明日の朝食で食べるラーメンのスープ作りがあるので帰ります」


エノキちゃんが遅く来たのに早く帰ると言い出したので出っ歯でもアゴが外れたわけでもないが開いた口が塞がらなかった。


その後二人でペットショップにたった7時間しかいなかったがすぐ帰ることにした。


店を出て『舐めると甘いアメ』ではなく『空から落ちる水の方のアメ』が降るなかで僕は田村奈美江ちゃんに甘い言葉を囁いた。


「『永遠』て僕たちのためにある言葉かもね。これから『永遠』に一緒にいよう」


プロポーズにもとれる僕の言葉を聞いて田村奈美江ちゃんは「永遠ていう言葉なんて知らないです」みたいなことを言ってきた。


僕が高校の持久走大会で同じクラスの2人と最下位争いを繰り広げたくらい走るのが苦手なように田村奈美江ちゃんは国語が苦手なのかと思っていた。


でも僕と永遠に一緒にはいたくないから『はい』とは言えないけど別れたくもないから『いいえ』とも言えないので馬鹿になって逃げているのかもしれない。


もし僕が田村奈美江ちゃんに結婚しようと言ったら『結婚ていう言葉なんて知らないです』と言って逃げるのが想像できる。


あんなに好きだと言ってくれていたのに永遠に一緒にいるのが嫌かもしれないなんて『あなた達には日曜日の夜に毎週カレーを食べてもらいます』と母に言われた時くらい『嘘でしょ』と思った。


その後は言葉が『缶のコーンスープのコーン』のようになかなか出てこなかったが何とか乗り切りデートは終了した。


それから年月は経ち今日は付き合ってちょうど半年なのだが田村奈美江ちゃんは女子会みたいなので一人でずっと欲しかった握力測定器を買いに来た。


虚言癖がある友達が『一家に一台、握力測定器があるのが普通』と言っていたので思い切って買うことにした。


大型スポーツ用品店に夕方にO型で小型の僕は歩いて向かっていた。


すると『なみえ焼きそば』みたいな髪をした田村奈美江ちゃんらしき人が右足を前に出したり左足を前に出したりして前からこっちに歩いてきた。


水だと思って飲んだらウォッカだったみたいに田村奈美江ちゃんだと思って声をかけたらそっくりさんだったということも有り得るので自動販売機の陰に隠れて確認していた。


ペットの犬は飼い主に似ると言われているので田村奈美江ちゃんではなくて田村奈美江ちゃんのペットのチワワということもあるが見た限りではたぶん田村奈美江ちゃんだ。


会ったのは『インク内蔵型はんことスティックのりとリップスティックが無くなったのでホームセンターへ買いに行ったら全部同じフォルムをしていた時』くらい偶然だった。


歩いてきた田村奈美江ちゃんは石像の前で待っていた男性と会ってすぐに抱き合ったりキスしたりしていた。


浮気現場に遭遇するなんて『スリッパ保険証事件』くらいタイミングが悪い。


『スリッパ保険証事件』とは歯医者からスリッパで途中まで帰ってしまい気付いて戻ろうとしたが返し忘れていた保険証を持った受付の人が現れてスリッパで帰ろうとしたのが受付の人にバレた事件のことである。


七並べの次に人気のあるトランプゲームみたいな名前の『はち合わせ』というものをしてしまったが逃げるという選択肢もある。


だが僕は僕なりに僕っぽく僕風に僕らしく向かって行こうと思う。


「奈美江ちゃん、何してるんだよ」


『キレない』といえば「分厚い段ボール」と「最近の僕」が思い浮かぶと思うが僕は浮気をした田村奈美江ちゃんにキレてしまった。


「久慈さん、顔以外が好きじゃなかったので別れましょう」


高校の時にクラスメートに言われ続けた『澄まし顔がムカつく』という理由ではなかったのは良かったがかなりショックだった。


「もっと背が高くてもっと優しい人がいいんです」


「別れてもいいけど一言言わせて」


僕は高校の時のクラスメートにムカつかれそうなカッコつけた顔で渾身の力を声に託してこう言ってやった。


「『永遠』て僕たちのためにある言葉かもね。君とはもう『永遠』に会わない」

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