#88 ラーメンのように細く長い愛の糸を
話が変わるか変わらないかで言ったら変わらない方なんですけど、久慈さんと一緒に行ったオシャレな隠れ家ラーメンバーは本当にお洒落すぎでしたよ、オシャレに更に【御】を付けて【御御オシャレ】にしたくなるくらいのオシャレさでしたよ。
私がそんなオシャレな隠れ家ラーメンバーに行くことなんてね、他のことで例えるなら、雑種の野良犬が急に高級マンションの最上階で飼われるみたいな感じですよ、ちょっと違うかもしれませんね、あっ、こっちの方かもしれませんよ、雑種の野良犬が急に高級ステーキを食べさせられたみたいな感じですね。
あっ、ごめんなさい、ちょっと今、思い出し笑いをしてしまいました、雑種の野良犬という言葉を先程、私は言いましたけど、その【雑種の野良犬】という言葉を頭に浮かべていたら、野良犬の【良】という漢字が、久慈さんがラーメンを食べる前に両手に一本ずつの箸を持ちながらするポーズに見えてきてしまったんです。
3週間前に通されたカラオケボックスの部屋と全く同じ部屋にその時は通されまして、カラオケの機械の履歴を見ていましたら、3週間前に歌った曲がまだ残っていまして、まだ残ってるんかい!と心の中で突っ込んでいたことがありましたが、本当にそのラーメンバーという場所は、いろんな意味で突っ込みたくなる場所でしたね。
落ち着かなくて足がカクカクしたり、シンプルなラーメン名を噛んだり、全然ラーメンが喉を通らなかったりしましたよ、少し前のことなんですが、休憩室のテーブルに、よくコンビニで売っているようなサンドイッチと、よくあるようなペットボトルの醤油が置いてありまして、もうその人がサンドイッチを食べながら醤油をガブガブ飲む姿しか想像出来なくなってしまいまして、そんなことを想像してしまうくらい想像力が豊かなんですよ私。
因みになんですけど、隠れ家ラーメンバーということで【ラーメンバー】という文字のどこが一番隠れやすいかを考えてみたんですけど、ラーメンバーの【バ】の真ん中は、日差しが上から降り注ぐかもしれませんが見つかりやすいですし、ラーメンバーの【メ】の上のくぼみ的な部分は少し不安定ですよね。
やはり少し狭いとはいえ、ラーメンバーの【ラ】の『一』と『フ』の隙間が一番隠れるのには適していますよね、えっと、そのラーメンバーではその後、色々とあって、久慈さんに好きだと言われたので、私も好きと言ったら久慈さんは泣いていました、溢れた涙がぽろぽろと落ちていました。
私と久慈さんは、喧嘩上等と口にするほど仲が良いわけでもありませんし、性格的に『靴が似合う人』と『靴が臭う人』くらいの違いがあるかもしれませんけど、凄く私には久慈さんが合ってるんですよ、好きと言われることに対しての傾向と対策はして来ませんでしたけど、昔、蛍光灯を拝借したことはありました、あれっ、今は何の話をしてたんでしたっけ?
久慈さんという言葉ばかり発してましたら、9時半という言葉が頭から離れなくなってしまいまして、それで今日の9時半に見たいテレビがあるのを思い出してしまったのですが、今は何時ですか?
あっ、ごめんなさい、今どこまで話しましたか?ラーメンバーで久慈さんに好きと言われて、指輪が入っている四角い小さな黒い箱を私の目の前に置いたところまで話したんですよね?あっ、まだそこまで行ってませんでしたか、では、それがそうなってそうなったということで頭に入れておいてください。
あの、ちょっといいですか?今、ラーメンバーという言葉で思い出したんですけど、昔の昔のそのまた昔の昔に、仲良くしていた仲間がいたんですけど、その仲間の人のことを私は陰で【ラーメンバー】と呼んでしまっていました、とにかく辛口で刺激の強い発言しかしないので、【ラー油みたいなメンバー】という意味で【ラーメンバー】と呼んでいました、ちなみに私以外の6人全員が【ラーメンバー】です。
這いつくばって俳句配っている人と、その人を見下しながら啖呵を切っている短歌名人だったら、俳句配っている人を支持したいタイプなので、今だったらラー油みたいなメンバーという意味の【ラーメンバー】は支持できないですね。
あっ、ごめんなさい、今どこまで話しましたか?ラーメンバーで久慈さんに好きと言われたり好きと言ったりして、久慈さんが指輪が入っている四角い小さな黒い箱を私の目の前に置いて、それが高級な指輪で、そのあと北海道の貴金属店で婚約指輪を購入してくれていたことが発覚して、ちなみに趣味は人間観察待ちだった、というところまで話したんですよね?あっ、まだそこまで行ってませんでしたか、では、こんな感じに進んでプロポーズの流れになったということを頭に入れておいてください。
こんな感じで幸せ目前まで来た私を【うらやましい】と思ってくれましたか?はい?何でしょうか?えっ、あっ、はい、そうですよ、そのあとはスーツを着た二人の男がやって来て、久慈さんは話しかけられていて、そのあと、ああなって、ああなって、今に至る感じです。
もうすぐプロポーズを受けるであろうその時の私は、【うらやましい】と思われたいとしか思っていませんでしたけど、まさか久慈さんが、魔法で法律に背くことをしていたなんて思いもしませんでしたよ、【うらやましい】と思われたいと思う前に、【裏やましい】かもと思った方が良かったかもしれませんね。
そして先程言った通りで、そのあとに男たちに久慈さんは無理矢理連れていかれました、全人類がご存じの通り、魔法でお金を発生させた魔法法違反です、ちなみに、無意識に『生姜無いと思うよ、まあ、しょうがないと思うよ』と言ってしまったことがあるんですけど、久慈さんが魔法法違反をしてしまったのも無意識でしょうか、たぶんそうですよね。
【ここからの放送はご覧・・・】まででチャンネルを変えてしまったので【ここからの放送はご覧のスポンサーの提供でお送りします】とその後に続いたとは限らなくて、他のことを言おうとしていた可能性もあって、もしも【ここからの放送はご覧(にならなくて結構です)】と続いていたならば、聞きたくて聞きたくて堪らなかったので、チャンネルを回さなければ良かったなと思ったりしたことがありましたけど、【しておけばよかった】とか、【しなければよかった】とか、久慈さんに対しての後悔が山程あります。
今はそれなりに幸せで、辛いことはあまりないんです、きっと雅人さんが幸せにする魔法をかけてくれたんだと思います、私が持っていた【辛】に横棒を打ち込んで【幸】にしてくれたんだと思います。
魔法を使えば捕まっている場所から逃げることだって出来ますからね、魔法を使えばもう何処へだって飛んでいけますからね、でも逃げはしなかった、雅人さんはあまり悪い人ではないんですよ、雅人さんはいい人なんですよ、私は雅人さんを愛しています。
最後に雅人さんへの想いを全て吐き出してもいいですか?【ありがとう、そしてありがとう、さらにありがとう、加えてありがとう、それからありがとう、最後にありがとう、おまけにありがとう】、そしてさようなら、そしてまた逢う日まで。




