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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第三章 田村奈美江
8/110

#08 遅れてしまったがあまり怒らないでおくれ

降水確率90パーセントの街を運動会の徒競走だったらビリになるくらいの速さで僕は全力疾走している。


出逢ってから『日にちだと1日以内』『時間だと24時間以内』『分だと1440分以内』に僕は田村奈美江ちゃんに告白された。


秒に直すのは面倒なのでしないが告白されたのは大人になってから初めてで歴史的出来事である。


もちろん四つ返事で告白を了承して付き合うことになった。


今なぜ全力疾走しているかというとテレビゲームに夢中になり夜9時というかなり遅い時間に寝たので朝9時というかなり早い時間には起きられず田村奈美江ちゃんとのデートに遅刻しているからである。


いつものように普通にベッドと壁の間で気持ちよく寝ていたら『チリチリチリンチリリ』という田村奈美江ちゃんからの電話の音が鳴って目が覚めた。


ニュース番組でコメントを言う人は『コメンテーター』だが僕は電話で田村奈美江ちゃんに『ゴメン寝ていた~』と言った。


誰がモデルか分からない銅像の前で待ち合わせしていたがそこは『自宅から激走2分』という近さでまさに『失態中の幸運』だ。


『シウマイ、安いしうまい!』というダジャレののぼりを過ぎたところで待ち合わせ場所にいる田村奈美江ちゃんが見えた。


僕は急いで駆け寄り謝ったが田村奈美江ちゃんは山に持っていくと気圧でパンパンになるポテトチップスの袋のようにほっぺを膨らませて僕に怒り出した。


「も~。遅いですよ」


もしも『も~』という言葉を言うだけのコンテストがあったら優勝候補の牛を抑えて田村奈美江ちゃんが優勝するだろう。


全力で走った直後だからではなくて怒っている田村奈美江ちゃんが可愛すぎたからだと思うが胸がドキドキして息が切れていた。


「何か気づくことありませんか?」


田村奈美江ちゃんはこう言ってきたがこの問題は二億人に一億人は間違えると思う。


でも僕はテレビ番組のちょっとしたクイズに90パーセントの確率で正解している男なので自信があった。


「奈美江ちゃんが今被っている黒い帽子はマジパンで作られていて食べられるね」


「スゴい!ほとんど正解です。正解は髪の毛の長さでした」


ほとんど正解と言っていたが『マジパン帽子と髪の毛の長さ』は『金メダルとキンメダイ』くらい違うものだ。


しかも、どれくらい髪の毛を切ったのか聞いてみたら前髪を一ミリ切っただけだった。


『萩』という漢字を『荻』に変えても分からないように前髪を一ミリ切ったくらいでは変化に気付かないのが普通だ。


呼び鈴がない飲食店で店員を『すみません』と呼ぶ時くらい緊張していたがすぐに田村奈美江ちゃんの手を握ることに成功した。


そしてカッコよく手を引っ張り歩きだそうとしたが『銅で出来ている像』や『動物のゾウ』を引っ張っているかのように、びくともしなかった。


「待ってください。まだ来てないですけど実は友達を呼んであるんです」


僕に内緒でデートに友達を呼んでいたこととすごく遅刻した僕よりもっと遅れている人がいたこと以上に田村奈美江ちゃんの頭に蝶々が止まってなかなか離れないことに僕は驚いていた。


田村奈美江ちゃんはボックスステップをしながら待ち僕は本を読みながら待っていると約一時間後に田村奈美江ちゃんの友達が遅れてきた。


僕は愛読書の国語辞典を鞄にしまい洋服と肌が白くて細いエノキ茸似の田村奈美江ちゃんの友達に挨拶をした。


「初めまして。久慈雅人です」


でもエノキちゃんは『す』という息のみで挨拶をしてきた。


僕の辞書に『す』という挨拶は載っていないがたぶん『初めまして田村奈美江の友達です』を略して『す』なのだろう。


でも『すみません遅れました』を略した『す』ということもあるかもしれない。


蝶々は頭から離れたが『田村奈美江ちゃんのボックスステップ』と『エノキちゃんの「す」と言った時の顔』がなかなか頭から離れなかった。


「今日は早かったじゃん」


「奈美江のカッコいい彼氏が早く見たかったからね」


早くないよと思ったが田村奈美江ちゃんが僕に怒ってエノキちゃんに怒らないのは入部して半年経ったのに同じ部活の人にどの部活に入っているかを聞かれたのと同じくらいおかしいことだ。


かき氷店で食べる前に友達がSNSに載せるために写真を撮っていたがなかなかいい写真が撮れなくてかき氷がただのジュースになってしまった時と同じあきれた表情で僕はこう言った。


「もう少し早く来てほしかったな」


「す」


その後もエノキちゃんは僕の言葉に何回も『す』という息で返す『マシンガン息吐き』をしてきた。


久慈雅人スタンダードから久慈雅人ゴールドに進化したので前みたいにムカついてキレたりしない。


久慈雅人ゴールドから久慈雅人プレミアムになる日も近いだろう。


エノキちゃんは猫を被ってはいないみたいだが猫の帽子は被っていた。


「その帽子可愛いね」


僕はエノキちゃんの『お世辞を言う気にもなれない不細工な顔』は褒めず『可愛い猫の帽子』を褒めてエノキちゃんがまた『す』という息だけで答えるのを予想して待っていた。


でもスーパーで買ったカップかき氷を開けてテーブルに勢いよく置いたらかき氷の上にのっていたあずきが飛んでテーブルに20粒くらい散乱した事件くらい予想外のことが起きた。


「ありがとうございま」


あれだけ連呼していた『す』を言うべきところで言わなかったのだ。


エノキちゃんの『す』という返答は僕にとって、多いと苦手だが無いと物足りない、ちらし寿司の『酢』のようなものになっていたわけだ。


そして、使うと笑顔になるので『スマイルほほえみ電話』の略称だと最近まで思っていた『スマホ』を田村奈美江ちゃんが取り出して僕とエノキちゃんに見せてきた。


そして僕が最近まで『接待画面』というと思い込んでいた『待受画面』を見てみるとチワワの画像が使われていた。


「最近飼い始めたんだ」


待受画面が僕の画像ではなくて犬の画像だったことは20代の女性だと思っていた人が40代の男性だった時と同じくらいショックだった。


僕が勝手に思っているだけだが僕と田村奈美江ちゃんとチワワは二等辺三角関係なのだ。


「奈美江、何ていう名前なの?」


「考え中だよ。候補はワワチとワチワとチチワとワチチとチワチなんだ」


田村奈美江ちゃんがチとワにこだわる理由と今、僕の足がかなり痛い理由は不明である。


「毎日癒されているわ」


僕を癒している田村奈美江ちゃんを癒している犬。


それは『頑張れ』と応援している人に向かって『応援頑張れ』と言っている人と一緒だ。


僕たち仲良し3人組はさっき降り始めた雨を傘で防ぎながら歩き始めた。

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