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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
特別章 川城界人
77/110

#77 欲しいのは王子様じゃない

こんちわ、私いま言いたいことあるんだよね、カワちゃんに言っておかなくちゃならないことがあるんだよね、私さ、【Ihi<イヒ>】みたいなローマ字表記の歌手になって顔は一切出さずに神秘的な曲を歌いたいなって思ってるの、スミちゃんもいいと思うでしょ?私にあってると思うでしょ?


はい。


じゃあ、オジサンについて喋っていこうかな、私たちが会ったオジサンは脱魔法した直後だった訳でしょ?会う直前までは魔法漬けの毎日を送ってて、私たちが知ってるオジサンと真逆だったわけでしょ?いかにも王子様みたいな感じだったんでしょ?全ての魔法を解いてなかったらスミちゃんも好きなってないわけだから良かったじゃん。


そんな王子さまみたいな人、私はともかくヒサゾウちゃんが好きになるわけないじゃんね、えっ、あっ、ごめんごめん、スミちゃんを数年前の数日間だけ流行ったスミちゃんの別名で呼んじゃった、【スミ】と【久三<ヒサゾウ>】って漢字の感じが似てるねってなって、それで呼んでたんだよね、スミちゃん?


いいえ。


あれっ、スミちゃん覚えてないの?そっか、記憶に全く残ってないのか、じゃあ私が私の頭の中だけで繰り広げてきた妄想だったのかな、【苦い】と【苦しい】は『し』が違うので違いが分かるが、【辛い<カラい>】と【辛い<ツラい>】は全く同じで違いが分かりにくいので『ツラい』を『辛しい』とすれば全ては丸く収まる気がするけど、私がスミちゃんを【久三<ヒサゾウ>】って呼んでた事実も実際にあったことにして丸く収めようか。


はい。


高級なマンションとか高級な車も手放してリセットしたってことか、オジサンなんか分からないけどなんかスゴいね、スミちゃんも私も金持ち家庭だからオジサンが貧乏だろうが金持ちだろうが、別にどうでもいいっしょ?って感じだったんだよね、高級から降級するって勇気がいることで、恒久なんてなくて、高給も永く続くなんて無くて、号泣しながら硬球を投げつけられるみたいな状況がよくある世の中だから、まあ何が言いたいかっていうと、オジサンなんかいいよねってこと、そういう話。


私たち大金持ちからすると、今の生活が変わるとかアリエナイことだしさ、もし貧乏になったら海外旅行とか宇宙旅行とかに行けなくなっちゃうわけだからさ、そう考えてるだけでなんか“ぞぞっぞぞっ”ってしちゃうんだよね。


豪快に浮き世を練り歩いてる訳じゃなくて、節約もちゃんとしてるからね、電気は点けたら消すとか、冷蔵庫は【冷⇒0、蔵⇒三⇒3、庫⇒ゴ⇒5】と変換して035になったから1日に035秒しか開けないとか、厚切りベーコンを買ってきたときには丸々一個をそのまま焼くんじゃなくて、切って焼いて何食にも分けて食べるとか、色々してるから。


【切って焼く】は【切】が『セツ』、【焼く】が『ヤク』って読むから、これが本当の意味での『節約』なのかもしれないよね、最近だと知人が言った『インスタントコーヒー』っていう言葉が『一部負担渡航費』に聞こえちゃって、それくらい海外旅行が好きってことだから、よろしく。


スミちゃんとオジサンは一言も喋らないまま、結局友達になった感じだよ、【まにまに】という言葉は漢字では【随に】と書くことを後で知って、それにも驚いたけど、歌詞カードを見ながら曲を聞いていて【まにまに】という歌声の場面で【随意に】という歌詞が歌詞カードに表れたときには、生きてる世界がガラリと変わったよね、それと同じだよね、スミちゃんとオジサンが一言も喋らないまま友達になったってことはさ、うん。


スミちゃんがDVDをオジサンと一緒に見たがっててさ、それでオジサンとDVDを一緒に見ることになったんだけどさ、スミちゃんオジサンと一緒にDVDが見られるって決まった途端に顔がガラリと変わったよね、ちょっと変なテンションで【DVD】っていう単語みたいな顔してたよね、Dが目でVが口なんだけどさ、本当に嬉しかったんだね。


はい。


オジサンが選んだホラー映画がいいってスミちゃんは言ってて、オジサンはもうかなり必死で探してたよね、オジサンはレンタルビデオ店に頻繁に来てたみたいだから相当の映画好きだよなって思ってたし、もう映画が好きすぎて常に最新映画とかチェックしてたり常にアンテナ張ってるんだろうなって思ってたりしてたよ。


【ダジャレ】っていう言葉を使ったダジャレの中で一番有名なのは『このダジャレを作ったのは誰じゃ?』だけどさ、この上を行くほどしっくり来るダジャレが他に無いかって常にアンテナを張っている私と同じタイプだよね、オジサンって人は。


あっ、それでオジサンが持ってきたDVDがアレだったの、あの、オジサンがオススメしてきたDVDが山吹風雅の【DVDだけで発売されたホラー映画】みたいなやつだったの、スミちゃんも私も山吹風雅の大ファンだったから【W】っていうアルファベットのカタチみたいに二人で手を繋いでバンザイをしたよね、私たちにピッタリだなって思ったからそっと心の中でね。


オジサンは私たちの反応が良かったから良い顔してたな、小文字の【dvd】っていう単語みたいな顔してたな、あっ、あの?カワちゃんさ、さっきから私がDVDって言う度に【TUV】みたいな顔してるけど、私のディーブイディーの言い方おかしいかな、あっ、もしかして、デーブイデーって言わないと気が済まなくて、ディーブイディーって聞くと蕁麻疹とか出ちゃうタイプとか?【ディーブイディーアレルギー】とかでしょ?


私、対応力半端ないから言い方変えるけど、オジサンが薦めてくれたその、ダーボイデー?ってやつ?スミちゃんは『ちょっと』が付くほどの山吹風雅の大ファンで、私も『ある意味』や『いい意味で』が付くほどの大ファンだったけど全く知らなかったのよ。


そのホラーDVDのタイトルがマジでヤバイの、最初聞いたとき白目むいたもんね、その日ちょっと前に喜んでスミちゃんがした【DVD】って単語みたいな顔とは同じような顔なんだけど別の種類の【DVD】って単語みたいな顔が出ちゃったよね。


タイトルがマジでヤバイって言ったけど、それは最高に私に合ってるってことだからね、そのタイトルっていうのが平仮名で『ほらあえいが』っていう素敵なマジでサイコーなタイトルなんだけど、えっ、カワちゃんのカラダに合わないタイトルだった?なんか【ディーブイディー】って言葉を言い終わったあとの【口を横に広げて引きつってる状態】みたいなので止まってるけど大丈夫?


私だって、壁のスイッチを押してから30秒以上経たないと付いてくれない家の蛍光灯が、何年も何年も切れずに長持ちしていることが不思議でしょうがないもん、ひらがなだけで構成された【ほらあえいが】もそりゃ不思議だと思うよ、最初はね、だって斬新だもんね、あっ、ちょっとトイレ行ってくるね。

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