#54 不細工と貧乏を天秤にかけた日々
続きを話そうと思うんだけど、一番こうしてくれていたらと思ったことがあって、それは私の時も彼が顔変える魔法してくれていたらよかったのになってこととかさ、大好きな女優さんがテレビで怪獣の着ぐるみを着ていたんだけど私はその女優さんの綺麗な姿が好きだったから顔だけ出た着ぐるみなど全然求めてなかったし、その時の彼にも優しさを全然求めてなかったんだよね。
私は特別イケメンが好きなわけではないけど、イケメンの方がいいに決まってるし、最低限の顔の良さは絶対必要だなって私の知り合いの女子もみんなそう思っているわけよ、ちなみに姉もね。
姉もねって言って思い出したんだけど、私はアネモネっていう花が大好きでね、もちろん『一万円札の札束』か『アネモネの花束』かでいったら一万円札の札束の方が欲しいけど、妹もこの花が好きって言っていて姉妹で大好きな花なんだよね、ちなみに姉もね。
ちなみにアネモネという花は、地中海沿岸原産の花で、早春に花を咲かせる花で、赤・白・桃色などの花をつけるキンポウゲ科の花で、観賞用に栽培される花で、多くの品種がある花なんだよ。
それで魔法が使えたというのに不細工からイケメンに何で彼は変えなかったのかという議題に戻るけど、『食パンは6枚切り派』の私、『食パンは12枚切り派』の妹、『自称食パンは切られていないものに思い切りかぶりつく派』の姉がいるように、食パンは好みが分かれるけど、イケメンはみんな好きなんだよね。
『目玉焼きは何もつけない派』の私と『オムライスは薄焼き卵派』の妹と『ゆで卵は固ゆで派』の姉はすごく仲が良くて意見も合って、全人類が私達みたいに飽き性だったら芸能人みな一発屋だねみたいな話で盛り上がることもあって、同情されるだけってのも姉妹はみんな嫌いなんだよね。
何かのコンテストとかで審査員がコンテスト参加者に向かって電話で『銅賞にするから金送れ!』みたいに言ったとしたら、それはただの賄賂だけど、あなたたちみたいな記者に同情されるくらいなら私はお金が欲しくて、同情するなら金をくれよって感じだよ。
彼に向かって『同乗するから金をくれ!』なんて一言も言ってないのに、彼の高級車に同乗したときにも、そうでないときも、彼は花束のかわりに札束をくれていたんだからね。
彼とは色々な話をしたと思うけど、ほとんど覚えてなくて、一番最後に彼が私に放った言葉はたぶん『耳掻きを長時間持っていたら耳掻きで編み物がしたくなっちゃったよ』だったと思う。
お金持ちだから付き合ったけど彼の顔がキモくて、段々と気持ち悪さも増してきて、彼は私の顔のパーツの大きさと形と位置を変えて髪型と輪郭を変えたような顔をしているんだって、そう考えを変えてみたんだけどどうしてもダメで、このままでは私の身に危険が及ぶと思ったりして限界が来て別れたの。
限界が来たって言って思い出したんだけど、玄界灘にはたまに釣りをしに行ったりしていて、玄界灘とは、九州の北西部に広がる海域で、大陸棚が広がっている世界有数の漁場として知られているところなんだけど、アジとかイカが美味しいんだよね。
あっ、私はお金以外興味ないから、釣りとか玄界灘とかがかなりかなりかなり好きとかそういうことではなくて、『小さくはあるがカゴを持たずに10商品くらいを手に持ってスーパーマーケットを歩いている人』を見かけたことがあって、その奇妙な光景くらいお金が私の中でずば抜けているというか、他のものはほんの少し好きというか、そういう感じだからね。
私は浮気というものをしたいと思ったことは一度もなくて、この先も、この先の先も、この先の先の先も、この先『ダジャレを作ったつもりだったのにダジャレ作りのターゲットとなった言葉をその言葉の語源でただなぞっただけだった』ってことが何度も起こっても、浮気をすることはないと思う。
でもこんなブサイクな人とお金のために付き合っているという状況じゃ、浮気の1つや2つや3つや4つや5つなんて、浮き輪を1つや2つや3つや4つや5つ身体に通すみたいな感覚と一緒じゃんみたいに思えてきても仕方ないよね。
彼の顔の気持ち悪さを詳しく言えばいいのね、えっと彼はパグから可愛さをとったような顔で、『私は嫌いな人に話しかけられるのと、好きな人に鼻血かけられるのはどっちも嫌だけど、嫌いな人に話しかけられて鼻血かけられた』と想像したときくらいの気持ち悪さに彼の顔を見ただけでなってたかな。
あとマンションを買ってくれるって彼が言ってくれて、マンション購入の約束を彼としていたんだけど貰ってなくて、彼と別れたあとに一万回くらいそのことを思い出しては『しょんぼり』としてしまって、『一万回のしょんぼり』の略語の『マンしょん』なら彼に貰っていたことになるわね。
『札』という漢字と『礼』という漢字がどっちが『れい』で、どっちが『さつ』なのかなんて未だに間違えるくらいだけど、私は札束があれば何もいらないと思っていて、札束があれば何でも出来ると思っているからね。
昔有名だったあの俳優が彼の魔法で変身した姿だったってことは本当なのね、もし本当だったとしたら私は立ち直れそうにないし、私正直あの俳優のファンだったから魔法で彼があんないい男になってたなんて驚きで、元カレが顔を変えて俳優をやってたなんて『アルバイトでこの世界の時間を止めている最中だから少し待って』と言われるのと同じようなものだよ。
彼が魔法使いだと分かっていたら瞬間移動使いたかったなと思ったり、私に金運アップの魔法を掛けてほしかったなと思ったりしたけど、今は一万円札の福沢さんと結婚するって決めていて、一妻多夫で沢山の福沢さんと結婚するという夢以外はなるべく持たないようにしてるから。
今の世界を回文で表すとするなら、「世の中ね顔かお金かなのよ」という言葉がピッタリじゃないかなって思うの。
彼のことは正直言うと気持ち悪くて大嫌いだったけど、とても充実していてとても幸せな今の生活に彼が導いてくれたんじゃないかとか、なんか少しだけ彼に性格が似てきたんじゃないかとか思っていて、彼に少なからず影響されているのは事実だね。
冬の道を歩いているときにセミくらいの大きさのものが手に体当たりしてきたら誰だって人目もはばからず叫んでしまうだろうけど、私は彼がこの先どうなろうと、人目もはばからず叫んでしまうことなんて一生ないと思ってるわ。




