#48 このままじゃ全飲食店がラーメン屋
気温100度あっても冷房があればなんとかなって、ラーメン屋に来て味噌ラーメンを頼んでその味噌ラーメンが運ばれてきた今、その味噌ラーメンのスープが100度あったとしても、この氷が沢山入ったグラスの水を一気に飲み干せばなんとかなりそうな気がする。
「味噌ラーメンはまさに人生そのものですよ」
「ああ」
宇野真帆さんは会話の中にやたらと名言を入れたがる人で、その名言はほとんど的を得ているが、僕が初めて会った芸能人の鼻に詰めた豆を鼻息で飛ばす芸みたいに、ごくたまにとんでもない方向に飛んでいってしまうことがあるので恐ろしい。
ニンニクがあまり好きではないので色々な料理にニンニクを効かせないで欲しいと僕は思っていて、今食べた味噌ラーメンにはどうやらニンニクが入っていなくてニンニクを全然効かせていないことがすぐに分かったが、宇野真帆さんの名言混じりの言葉はずっと聞かせてほしい。
味噌ラーメンを食べた感想を今から言おうと思うが、なんか食べた瞬間から脳内にピアノの美しいメロディーが流れているというか、頭の中をずっと心地よい二音が響いている感じで、その二音の音階はミソではなくてラシくらいだと思う。
「久慈さん?日本で初めて中華麺を食べたのは水戸黄門なんですよ」
「そうなんだ」
今日の占いのラッキーフードのジンジャーエールを午前中に近くのスーパーマーケットに行って買おうと思って探したのに見つからなくて、見つからないということは神社エール、つまり神社からの声援がないということになり、神社からの声援がないということは、つまり神に見放されたということで、つまりいつもの倍はある宇野真帆さんの今日の蘊蓄から今日の僕は逃げられないということだろう。
十月十日という漢字を合体させると朝という漢字になるから『十月十日の朝』という言葉は『頭痛が痛い』と同じ表現になるのかもしれないが、今は十月十日の朝でもなく、頭痛が痛くもなく、ただ美味しい食事を食べているだけの幸せな日だ。
宇野真帆さんと一緒にいるとやっぱり落ち着くし、身近にいるおばさんが一番いいなと思っているが、人生って何が起こるか分からないし、幸せが急に崩れることだってあるし、今の僕はラーメンの麺で出来た脆いハシゴをゆっくりとしっかりと慎重に登っている感覚でいる。
四種類の味噌ラーメンを頼んで取り分けてくれた宇野真帆さんだったが、二人なのに四種類も味噌ラーメンを頼むのは頭がおかしいとしか思えなくて、取り分けていた手が太いのに弱々しくてかなり辛そうで、宇野真帆さんの脳年齢と上腕三頭筋年齢は80歳くらいだろうと思っている。
僕は、ブラジルあたりが原産のヤシ科の植物で、見た目は果実のブルーベリ一とほぼ同じで、アサイーベリーみたいに表記されるときもあるけど、植物学的にはブルーベリーやベリ一類と近くはない果物である『アサイー』の知識は浅いけれども、宇野真帆さんのラーメン知識は深いので宇野真帆さんの脳年齢は80歳では無さそうだ。
スーパーマーケットのレジで同じ商品をスキャンすると『同一ラベルです』とレジが喋るが、その声が怖くて、10回連続で聞こえたときは頭がおかしくなりそうになったし、たくさんの味噌ラーメンを食べている最中にたくさんのサラダを宇野真帆さんが頼んだ今も頭がおかしくなりそうになった。
自分で作ったスープや煮物があまり美味しくなかった時はうどんにかければ何でも美味しくなるし、それをラーメンにかけても少し美味しくなるけれども、もし今僕が目の前にある食べ終わったラーメンのスープを頭にかけられても、さほどおいしくならないのでやらないでほしい。
『今日から婚カツだ』と言って結婚活動の方の婚カツをするのではなく、こんにゃくカツレツの方のこんカツを食べに行き『こんにゃくってこんにゃクニャクニャしてたっけ』みたいなことをいうタイプの僕と、お節介蘊蓄名言野郎の宇野真帆さんは何だがピッタリな気がする。
「久慈さん?サラダをいっぱい頼みましたけど、お菓子のサラダ味が何でサラダ味と呼ばれているか御存知ですか?実はサラダ油のサラダなんです。細かくいうとサラダ油をまぶした塩味なんですよ」
「そうなんだ」
宇野真帆さんの蘊蓄には為になる蘊蓄もあって、『蘊蓄』という漢字は『うんちく』と読むが、ちなみに僕は蘊蓄の『蘊』という漢字の右の真ん中の四角で囲まれている『人』という漢字が何だがいい感じで、蘊蓄という漢字の四角の中の人になりたいと思っている。
僕が一通りの味噌ラーメンを少量ずつ食べ終わり、サラダが来て宇野真帆さんにサラダを大量に勧められ、学生時代にテストの問題が自分だけ配られないまま何も言えずにテストを終えた時のように、僕の健康は気を遣うくせに自分の健康に気を遣わず野菜を食べない宇野真帆さんに『仕方ないか』と思いながら食べ進めた。
宇野真帆さんは僕にお節介してくれたり、『卒業アルバムの寄せ書きの1ページ分を友達に頼まれて全部一人で埋めたことがあったということは覚えているが何を書いたかはよく覚えていない何もいいところがない僕』を普通に受け入れてくれる唯一の存在である。
「地球がひとつで良かったですね」
「うん」
深いようで浅いようで深い名言を発した宇野真帆さんは、鍋の〆でうどんを頼むみたいな感じで、ラーメンの替え玉としてうどんを頼んでいて、大食い過ぎるいつもの宇野真帆さんを上回る大食いっぷりに、ここにいるのは本物の宇野真帆さんではないという説が浮上し、宇野真帆さんの替え玉疑惑と替え玉うどんのことしか考えられなくなった。
【伏線は張るんじゃない、普通の文章を伏線に仕立てあげるんだ!】みたいな感じの映画の台詞が好きなのだが『替え玉うどんの件<くだり>』を伏線に仕立てあげるなんてことしたら、とんでもないことになってしまいそうなのでしないし、話は変わるがここらへんの地域はラーメン屋多すぎるなと思っている。
「これから寿司屋のラーメンを食べに行きましょう」
ソース味のパスタが作りたくて『ソースパスタ』とネットで検索したのに、出てきたものはほとんどがパスタの上にかけるパスタソースのレシピで、もし『寿司屋のラーメン』とネットで検索したとしても、シャリをラーメンに変えた『ラーメン寿司』くらいしか出てこないと思うし、寿司屋は寿司を食べるところだ。
寿司屋に行くと宇野真帆さんに言われて、まだ食べるのかよとは少ししか思ってなくて、またラーメンを食べるのかよとも少ししか思ってなくて、遠くから見てパンの専門店だと思ったらペンの専門店だったこともあったから、これから目的のお寿司屋さんに行ったとして着いたときに目に入ってくる『寿司』という看板も『ことぶきつかささんの家』ということにしてスルーしてほしい。
今は一度の風呂より宇野真帆さんが好きだ。




