表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第十一章 宇野真帆
47/110

#47 遠くの美女より近くのおばさん

給料3ヶ月分の婚約指輪より給料3ヶ月分のコンニャクとビワの方が嬉しいと真顔で僕に言ってきたことがあるほど食べ物が好きな、OLで、100キロで、元々は痩せていて、ブタに顔が似ていて、いつも厚化粧で、元同僚で、僕の初めての女友達である宇野真帆さんとはずっと会ってなかったけど久し振りに連絡して会うことになった。


少し前にメールで宇野真帆さんに、田中さんと田畑さんという同僚がかなり仲が良すぎるという話をされたのだが、その田中さんと田畑さんの仲良しコンビをバドミントンのペア風の呼び方で表すと七月七日の行事のような名前になってしまうということに僕が気づいたというのがきっかけで久し振りにまた会うことになった。


四捨五入しても三捨四入しても二捨三入しても一捨二入しても、どんな計算式で処理しても宇野真帆さんの年齢は僕よりも年上にたぶんなるので、それは正真正銘のおばさんであるということだ。


『魍魎、散り散りとなりて古に虚す』という、さっき自然と頭の中に発生した言葉は響きがいいのに意味不明だが、僕とはほぼすべてが正反対で遠くの遠くの世界にいる美女なんかよりも、なんか少し似ていてずっと近くにいたおばさんが落ち着くのは意味不明なんかじゃない。


スーパーマーケットのセルフレジでタッチパネルを押すときに、ちくわ天が天ぷらかフライかで悩んでいたのに店員は操作が分からないと思ったらしく手伝ってくれて、その店員には感謝していて、ちなみに今までで一番感謝している人は死にそうなときに僕を助けてくれた宇野真帆さんである。


ちくわ天が天ぷらだと認識するのに一分以上かかったというのに宇野真帆さんを久し振りにご飯に誘う長文のメールを書くのに一分もかからなかった。


メールをうつ時に全身に力を入れてうっていて、特に腕から指先にかけて力を入れすぎていて、メールの文章が完成したときには疲れすぎて手に力が入らず、『手がプラッ』としてしまっていて、そんなの『引くわ!』と思う人も沢山いると思うけれど、『手がプラッ』で【天ぷら】が、そして『引くわ!』で【ちくわ】が思い浮かんだ人はそろそろヤバイ。


僕は天ぷらが大好きというわけではなく、ただラッキーフードのちくわ天を店員と接触せずにセルフレジで買いたかっただけで、宇野真帆さんを連れていくご飯屋さんは天ぷら屋さんとかうどん屋さんではない。


「久慈さん、ご無沙汰してます」


「うん」


「顔、元に戻されたんですね。その方がいいです」


「うん」


蚊が顔の半径10センチ以内に近づいた時にブヒッと口で言ってしまう癖がある宇野真帆さんは、蚊のいない気温なのでブタに変身することもなく、サタデーナイトの食事はサバでないとダメな宇野真帆さんは、土曜の夜ではない今日なのでなんの変わりもなく、年齢を鯖読むことも体重を鯖読むこともなく、サバサバした性格に変わっていることもなく普通だった。


『浸透圧』という言葉を一日に最低30回は言ってくる友達を見て外腹斜筋と内腹斜筋と腹横筋は痛くならなかったが腹直筋が痛くなるほど笑ったみたいな感じの明るい夜空の下で、『食道楽で着道楽の友人はリムジンで送り迎えしてもらっていて移動楽だよな』と思いながら移動した。


宇野真帆さんは食べ物が好きで、特に炭水化物が好きで、特に粉ものが好きで、特に麺系が好きで、特にラーメンが好きなのでラーメン屋をハシゴするという計画を立てているが、ハシゴだからといって845店も行ったら口から麺の滝が止めどなく流れるだろうから5店くらいにしておく。


ペットは飼っていないが愛犬の犬にはなってもいいと思っていて、宇野真帆さんの犬にも少しならなってもいいと思っているが、ペットの犬用のエサを食事として出されても気付かずに食べてしまうほど食欲がとてつもない宇野真帆さんのようにはなりたくない。


ラーメン屋をハシゴすれば、ハシゴということでラーメン一杯『845キロカロリー』と仮定しても相当いってしまって、仮に5店ハシゴするとしたら『4225キロカロリー』もいってしまう計算になって『4225』という数字は読みかえると『死に』から始まってしまっているし、なんか不吉である。


「誰かが笑えば相手は笑ってるなあと思います。今の久慈さんを笑ってるなあとは思いません。もっと笑いましょう」


「あっうん」


『前頭葉、爆発して死にたい』と夢で僕に言ってきた男性が何にも考えていないような顔をしていて、その男性の顔とほぼ同じような顔をいま変な名言みたいなものを言った宇野真帆さんもしていて、なんだか落ち着いてしまっていて、僕と宇野真帆さんが一緒になっても『鬼は外!福は内!僕は外!鬼嫁は家!』と節分の時に叫ぶような奇妙な家庭にはならない気がする。


目的のラーメン屋に着いて遠くから店を覗いてみたが、それなりに混んでいると言えば嘘になるくらいで、まあまあ混んでいると言っても嘘になるくらいで、スッカスカの店内と言っても嘘になるくらいで、僅かに混んでいると言えば本当になるくらい混んでいた。


ラーメン屋の建物と教会の建物のラーメンの麺100本分くらいの隙間のラーメン屋側にはハシゴが立て掛けられていて、ラーメン屋をハシゴする予定の僕たちがラーメン屋にあるハシゴを見たということは何かいいことが起こるということなのだろうかと思ってしまっていた。


今まで付き合ったりしてきた女性は可愛かった、しかしかなりの変人が多かった、でもそれなりに楽しかった、けど普通の恋愛の方がしたいと思っていた、けれどそんな恋愛もう出来ないと思っていた、けれども宇野真帆さんとなら出来るかもと思ってしまった、だが宇野真帆さんも少しだけ変な人だ、だけど今までの女性がかなり普通じゃなかったから宇野真帆さんが普通に感じる、だけども可愛いかと聞かれたらそうでもない、だけれども落ち着くかと聞かれればかなり落ち着くと答えるくらいだ。


鼻血が出た日のラッキーフードがヨーグルトだったので優秀な占いなら鼻血とヨーグルトに何かしらの因果関係があるのではないかと思って調べてみたが関係無かったし、スポンサー契約はしていなそうなのでブタがラーメン丼で浸かっているイラストと会社名が印字されたTシャツを宇野真帆さんが着ているけどTシャツに印字されている会社と宇野真帆さんも調べていないがたぶん関係がないだろう。


深夜ドラマが録画されていないことを知らせるためにその日は鼻血が出たのかもしれないが、ラーメン屋に入り、ラーメン屋の席にどっしりと座った『ラーメンスープを煮込む寸胴鍋のような体型の宇野真帆さんのカラダ』を見て鼻血が出ることはたぶんない。


その日鼻血が出たのは鏡の前でうがいをしているときで、ドラマでよく見るエッチなものを見た時に出るような綺麗に流れる鼻血だったが、ラーメンスープを煮込む寸胴鍋のような体型の宇野真帆さんのカラダを見て鼻血が出ることはきっとない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ