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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第十章 家田純子
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#46 北に行きたいって言ってキター

登校3日目くらいまでは見覚えのあるクラスメートの後をついていかないと教室までたどり着けないみたいなことが学生時代にはあったのだが、マンガ喫茶では取ったマンガの戻し場所くらい分かるし、戻した後に自分の陣地に戻ることだって出来る。


今の状況を1000文字以内でまとめるとすると、友達たちとマンガ喫茶に来て『酔っ払って男性におぶられながら指図をして下の男性を操縦したとしたら、その女性は酒帯び運転になるのだろうか』とか『【難しい】という漢字は難しいという感じはしないのに何度書こうとしても書けない時があったな』とか考えているところ。


ちなみに『マンガ喫茶』を『マンガキッサ』としてみるとマンガ喫茶の中にはガキという言葉がいるのが分かるのだが、今いるマンガ喫茶の中にガキと呼べるほどの人物は存在しない。


ギャルさんが何を読んでいるのかを覗いてみると漁師もののBLマンガを読んでいて、家田純子ちゃんが何を見ているのかを覗いてみると漁師もののサスペンス映画を見ていて、今からギャルさんと家田純子ちゃんを二人の方という意味の【両氏】という言葉で呼ばせてもらうが、両氏は漁師が好きなのかもしれない。


両氏という言葉は、二人の方という意味があることを全国民には頭に焼き付けて今日一日を過ごしてほしいと僕は思っているが、今マンガ喫茶でマニアックな作品を見ている両氏の両親の顔が見てみたいと思ったりしている。


『あなたは自分が頭の中で思い浮かべてるダジャレを新しいと思ってるかもしれないけど新しいんじゃなくてクソダサイからみんな言ったり使ったりしないだけだよ』と思ってしまった人は、280円多く払って速達でハガキや手紙を僕に送ってきて欲しいと思っているが、ダンボールいっぱいのプチプチと固形石鹸の上に手紙を置いて送ってきてもいいと思っていて、着払い以外なら何でもいい。


ストレス発散はプチプチ潰しと石鹸削りが二大巨頭らしいのだが、ギャルさんや家田純子ちゃんから与えられたストレスなんて全くないのでストレス発散をする必要なんてなくて、今一番のストレスは『構想三年夏期八年』という結構前にスマホのメモ帳にメモした謎の言葉の処理方法が見つからないことだけだ。


マンガ喫茶でみんなで遊んでいるといってもほぼ一人遊びだし、一人といえばキーパーで、サッカーはキーパーがキーパーソンだがミスをすると他のポジション以上に責められてキーパー損だと思うし、何が言いたいかというと、三人で来ているのに未だに一言も喋っていないこの状況を破壊するキーパーソンはギャルさんしかいないということだ。


アイドルDVDを家で観て『おうちライヴ』を開催するとか、芸術作品に関するDVDを家で観て『おうち美術館』を開館するとか、散歩DVDを家で観て『おうち散歩』するとか、そういうやつの方がよかったかもしれないが、同じ方向を向いて一度も向き合わないことになるので、結局これも望んではいない。


カラオケで「今からタイトルに『さくら』がつく曲しか歌ってはいけない『さくら縛り』で行くからね」と言われたとしたならば、ここから逃げたいと当然思うのだが、今はさくら縛りほど深刻でもないし、ただ退屈なだけなので、逃げずにそっと他の場所へギャルさんと家田純子ちゃんの両氏を誘導したい。


持ち込んだポテチを食べてポテチの袋並みに膨れたお腹になってしまっているギャルさんは、忘れてしまいたい魔法使いであるという事実を自分の中でずっと忘れられている僕と同じ形で、喋ることを忘れているのかと思っていたが普通に喋りだした。


「北の方へ旅に出たくなっちゃったんだよね!長い旅に」


漁師もののマンガをギャルさんは読んでいて、まさかそれに影響されたということなのだろうかと思ったが、体調が悪くならないのなら食べ物を食べずに飲み物だけを飲んで生活したいほどの僕にはその気持ちが理解できず、僕は何かを楽しむという意識がほんの少し欠けているのかもしれない。


「明日、北行くわ!」


野球で『スリーラン』を打ったらカッコイイし、タクシーで『ツリいらん』と言ったらカッコイイけど、ギャルさんがマンガ喫茶で『北行くわ』と言ったことは一番カッコいいようで実はそうでもない。


「スミちゃんも一緒に行く?」


「はい」


クイズ番組でそれまで単独トップだったのに他の解答者に最終問題で100ポイントを獲得されて負けた時に『これまでのは何だったんだ』と思うと思うが、家田純子ちゃんまでも長い間北へ行ってしまったら、電話やメールでもはいといいえしか言わず、ギャルさんが横にいないと会話ができない家田純子ちゃんと僕は疎遠になるなと思ってしまって、僕も今『これまでのは何だったんだ』と思っている。


「スミちゃんも漁師映画見てて行きたいと思ってたんだって!漁師ってカッコイイよねだって!」


家田純子ちゃんもついていくと思っていたし、家田純子ちゃんと普通の友達として続くなんて最初から思ってなかったし、家田純子ちゃんはメールでも電話でもはいといいえしか使わないから、まあいつかは疎遠になるだろうとも思っていたし、ギャルさんはそんなに僕のことが好きじゃないとずっと分かっていたし、恋愛感情は湧いて来なかったけど楽しかったしよかった。


包丁で野菜を切っている人の横で『紅』という歌をノリノリで歌ってしまうと野菜を切っている人の指が紅に染まってしまうという惨事も起こり兼ねないのでやめた方がいいが、ギャルさんと家田純子ちゃんって、その包丁で野菜を切っている人と横で歌をノリノリで歌っている人の関係性よりだいぶ浅いように見えて実は深そう。


家田純子ちゃんよりギャルさんの印象の方が強かったのは当然で、「四国にある88ヶ所のお寺を巡ること」を何と言いますか?とモヘンジョダロ周辺の人に聞いても『お遍路だろ!』と正しく答えられる人はオラヘンノダロ!と思ってしまうことも当然で、明日から二人と遊べなくなり少し寂しくなるのも当然だろう。


「僕のこと忘れないでね」


「いいえ」


「僕とまた会いたい?」


「いいえ」


『僕のこと忘れないでね』という言葉に「いいえ」と答えたということは忘れるということで、『僕とまた会いたい?』という言葉に「いいえ」と答えたということは会いたくないということで、日本の歌の歌詞の中に『会いたい』という言葉が蔓延る世の中なので、逆にそれはそれでいいのかもしれない。


最近連続ドラマを見すぎているせいか、連ドラ慣れしてしまって映画が短く感じて何だか物足りなく感じてしまっていて、ギャルさんや家田純子ちゃんと別れた直後の今も何だか物足りなく感じてしまっていて、家田純子ちゃんが最後に言った「いいえ」が「イエーイ」や「イエス」に聞こえなくもなかったし、また会えるかもしれないのでよしとする。


僕と家田純子ちゃんの心の隔たりは紙一重だったかも知れないが、『神が人になった時に生じる差』くらいのかなり大きな差があったかもしれなくて、【紙一重】の差か、【神、人へ】の差かは定かではない。


家田純子ちゃんは色々感じ取ってくれるギャルさんこと、一場ひとえさんのことを『マジ神、ひとえ!』と思っているかもしれないことくらい、家田純子ちゃんの気持ちを察することの出来る特殊能力を持っていない僕でも分かる。

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