#44 DVDでエクササイズをするの大半はデブだ
午前4時に目が覚めて、久し振りに夢を見たなと思って振り返っていて、見た夢が『停電の夢』と『モノマネ芸人が「伊能忠敬」一本でいきますと宣言している夢』だったので今日はツイテないだろうなと思っていたのにまあまあ普通だった。
朝はそんなことがあったので、どこかのベランダに洗濯バサミで吊るして干してあるジーパンに人が入っていても気付かないくらいの精神状態だったが、今はDVDを見ながら女性二人と女性の部屋で女性向けのエクササイズをするという状況下にいて、朝とは似ているようで異なる精神状態になっている。
「楽勝じゃないの!これで痩せるんならいいな!オジサンは痩せない方がいいけどね。スミちゃんももっと動いて。それでさ」
僕は『という言葉』という言葉を毎回使っている気がするが『という言葉』という言葉を使わずに生活なんて出来やしなくて、ただカカトを浮かして縦揺れしているだけの運動をこのDVDの運動のレベルだと解釈しているであろうギャルさんが一時間後に二本足で立つこともたぶん出来やしない。
始まってから少し経ち、ギャルさんの動きがヤバイことになっていて、例えるなら炭酸飲料のペットボトルを100回以上振って開けた時の中身くらい激しくて、僕は何者かの手によって歯磨きをすると白目を剥いてしまう体になっているのだが歯磨き中の僕くらい独特な顔の動きをしている。
『牛乳・卵・牛乳・卵……』と唱えながら買い物に行ったら、いつの間にか『牛乳・卵・生ゴミ・牛乳・卵・生ゴミ……』と唱えていた僕くらいヤバいギャルさんに比べると動きが小さいように思えるが、家田純子ちゃんの動きもなかなかである。
「イェーイ!フォー!」
「いいえ」
『はい』と『いいえ』しか言わないことでお馴染みの家田純子ちゃんが、ギャルさんのあげた奇声を規制するように『いいえ』を使っていたという既成事実を受け入れ、『いいえ』だけで奇声を片付けた希世の天才の家田純子ちゃんはギャルさんに寄生しているといえばしていてギャルさんが帰省したらどうなるの?とか色々考えているとギャルさんは疲れ始めた。
家田純子ちゃんはエクササイズが地味に上手くて、モノマネ芸人が「伊能忠敬」一本でいきますと宣言している夢を今日の朝に見たのに『伊能忠敬さん』の顔が頭に浮かんでこなくて、運動で汗をかいてメイクが落ちたギャルさんのいつもの顔も『伊能忠敬さん』の顔と一緒で頭に浮かんでこなくて、メイクが落ちたギャルさんの顔は地味に可愛かった。
「疲れたよ。すごい疲れた。あああああ。水分が欲しいよ。あとさ」
シュワシュワしているコーラは運動中に飲むものではないのにも関わらずギャルさんが飲んでいるのだが、麦茶を飲んだ後のコップではないのにコップに注いだミネラルウォーターを飲んだら麦茶味だったことがあったので、もしかしたらコーラ味だと錯覚するようなミネラルウォーターも存在するのかもしれないから、あったらギャルさんにあげたい。
エクササイズをしながら僕は必死に『伊能忠敬さん』の顔を思い出していて、現段階で僕が導き出した答えは【伊能忠敬=映画などで大活躍中のベテラン名脇役】で、これは高い確率で正解だと思うが、ギャルさんが頭の中で導き出したであろう【コーラ=スポーツドリンク】という答えは全くの不正解である。
ちなみにスポーツドリンクを『スポドリ』と略してしまうと『スポットライトドリーム』や『スポンジドリブル』や『シェフのケーキ~スポンジケーキにドリアンを添えて~』の略と間違えるかもしれないので、いつもスポーツドリンクと言っている。
運動を激しくやり過ぎると熱中症になることもあり、熱中症の対策として塩分は必要不可欠だと思うが、エクササイズに熱中しすぎているという意味で『熱中症』であるギャルさんは、エクササイズをしながら、たぶん無意識にポップコーンで塩気を補充している。
予測出来ない動きをするギャルさんを見て、地震を予測出来るのならベルトの穴が足りなくてズボンが落ちそうになっていた昔のガリガリの僕が苦しまない『ガリガリ用のベルトの穴の予測』も当然出来ていたはずだろうと思っていた僕はスッと消えていった。
「スミちゃん!私、痩せたと思うよね?ほら特にお腹の部分とか顔の部分とかさ!このままいったら二の腕とかガリガリになっちゃうよね!太ももももっとシュッてなっちゃうよね」
「はい」
家田純子ちゃんの発した『はい』と『いいえ』だけで家田純子ちゃんの考えの詳細が分かってしまうギャルさんに『今の「はい」にはどんな隠れた意味とかが含まれているの』みたいな感じで聞きたかったけど、『太ももももっと』という言葉に四連続で『も』という文字があることに気付いてしまい、動揺して普通に聞いてしまった。
「今のハイの意味分かる?」
「スミちゃんは、私が痩せたと思うって!特にお腹の部分とか顔の部分とかが痩せたって!このままいったら二の腕とかガリガリになっちゃうかもねって!太ももももっとシュッてなっちゃうかもねって」
嘘か本当か定かではないが、ギャルさんがさっき自ら言った言葉とほぼ同じことを家田純子ちゃんが思っていたということとなり、それはもう普通の『はい』で、『鼻血が出てるのに話しかけてるの』という文章の『鼻血が出てるのに』と『話しかけてるの』の類似性どころではない。
エクササイズが終わって僕と愉快な仲間達は疲れて座り込んでしまった訳だが、エクササイズDVDに出てきた人が鬼軍曹をギュッとした感じの人で暴言が急行列車のように止まらなくて『お前なんかリップスティックを唇に塗ろうとしたのに間違えてスティックのりを塗ってしまって一生喋れなくなれ』とみんな思っていたと思うけれども、僕が思ったかどうかは僕のみぞ知ることだ。
無色透明なのにカレーの味がする水が開発されたらもう何でも出来そうな気がするし、DVDがあれば遊びの類いなら何でも出来そうな気がするし、家田純子ちゃんと遊ぶときにレンタルビデオ店と家しか行ってないなと思ったけどこんな遊び方も永遠に出来そうな気がする。
今日も楽しかったなあと思って立ち上がり、ふとギャルさんの部屋の本棚に目をやると謎のDVDを発見して、それがオジサンと一緒に食事している雰囲気を味わえるDVDだと分かって、ギャルさんは僕のようなオジサンが好きなのかなと思って『小学生の頃、同学年の生徒全員の前で話していた保健の先生が全然体調が悪くない元気な僕に向かって突然「顔色悪いけど大丈夫?」みたいなことを言ってきた時』と同じくらい『えっ?』てなった。




