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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第十章 家田純子
43/110

#43 運動する場所は家ではないってと言えって

【御一人様1個限り】と書いてあったら、いわゆる一人で来店する寂しい人<御一人様>は一個しか買っては駄目で、二人以上で来店したら何個でも買っていいのだと捉えてしまう人もいるだろうけど、行きつけのレンタルビデオ店に『御一人様DVD1枚限り』と書いてあっても特に何とも思わない。


今は【御一人様1個限り】と書いてあったら一個買って自宅に戻ってその商品を置いてから再び店に行っても駄目なのだろうかとか思ったり、家田純子ちゃんとはあまり深くならずDVD仲間として付き合おうとしているのだが駄目なのだろうかとか考えたりしている。


家田純子ちゃんと遊んだことといえば、落語のDVDを家田純子ちゃんの家で見たり、ミュージカルのDVDを家田純子ちゃんの家で見たり、ほぼ家田純子ちゃんの家でDVDを見ていて、他の家に行ったからといって何か変わるわけではないが、【御一人様1個限り】となっている商品は他の店舗に行けばもう1個買えるし何かが変わる?


メールでたまに家田純子ちゃんとやり取りすることがあって、『やり取り』と聞くと槍で突いた鳥を槍先につけたままドッシドッシと歩くおじさんが思い浮かぶが、家田純子ちゃんはメールでも『はい』と『いいえ』だけで返信してきていて、想像の中の槍先に鳥をつけたおじさんのような堂々さで『家田純子ちゃんは友達』と宣言することは出来ない。


僕の考えの中に何かの初期症状だと思われるエピソードが含まれていた場合に何かしらの方法で伝えてもらいたいのと、家田純子ちゃんの『はい』と『いいえ』しか言わない症状の名前を知っている方がいたら教えてもらいたい。


家田純子ちゃんが行きたいところがあるみたいと家田純子ちゃんの友達のギャルさんから連絡があって、どうせレンタルビデオ店だろうと思っているので、得点から失点を引いたものは『得失点差』だが、もしレンタルビデオ店に行きたいと思っているのであれば家田純子ちゃんに僕は『得、知ってるのさ』と言いたい。


家田純子ちゃんを迎えに大きい家の前にやって来て、大きい家の前で『オーイェーイ』とつい呟いてしまったが、スーパーマーケットの惣菜売り場で昼食として『カレーライス』と『カレイの唐揚げ』を買ったことがあって、それは『カレー』と『カレイ』という名前が似ているものとして買ったのではなく無意識で、大きい家でオーイェーイと呟いたのも無意識だ。


ギャルさんがいないと家田純子ちゃんのことなんて何も分からなくて、カレーで言えばギャルさんは家田純子ちゃんの香辛料みたいなもので、カレイで言えば右側にある目みたいなもので、今日もギャルさんは隣にいる。


「オジサン、いらっしゃい!早速出掛けようか!スミちゃんが運動したい気分なんだって」


「うん。じゃあ、行こっか」


「はい」


「スミちゃんが、私に付いてきてだって!」


『時間が経って愛はガタッて下がったって』とギャルさんが家田純子ちゃんの言葉を通訳する日が来ないと思うくらい、家田純子ちゃんから友達の僕に向かってくるはずの愛がそれほど感じられなくてモヤモヤしている。


毎回、家田純子ちゃんとは部屋で映像を見ているので、インドネシアをぎゅっとしてない方の『インドア』が好きなのかと勝手に思っていたのに、『北海道沿岸で逢うトドは……』という文章から抜き取った『逢うトドは』ではない方の『アウトドア』が好きみたいだということで、運動だけに「うん、どうでもいいけど」と思っている。


『影で殺す』みたいなサスペンスドラマはあまりないが『陰で殺す』みたいなサスペンスドラマはよくあって、今歩いている道の横にある白い壁に『影で食す』みたいなギャルさんが映っていて、たぶん歩きながらチョコ食ってる。


そういえば家田純子ちゃんが運動をしていたことや運動が好きという情報なんて家田純子ちゃんの口からはもちろん、ギャルさんの口からも聞いたことがなくて、ダイエットとかストレス発散か何かかなとも思えず、それが今僕の口から出てしまった。


「おかしいな」


「オジサン、食べる?」


「あっ、いいよ。大丈夫」


ギャルさんは「おかしいな」が「お菓子いいな」に聞こえたみたいで僕にチョコレートをくれようとしたが、僕は路上でチョコを貰おうとする変な人ではないし、独り言で言った「おかしいな」が伝わらないのはおかしいなと思ってしまって、また「おかしいな」が口から出そうになり、必死で抑えた。


ギャルさんが食べているチョコレートの名前は確か『クリオネチョコレート』とか『クラリネットチョコレート』とか『クーラーの部屋にいるねチョコレート』みたいな名前だった気がする。


何かを遂行している時も何かを推敲している時も、僕はテンションが高くてかなり変なギャルさんのことばかりを考えてしまっていて、恋とか好意とかそういういい意味ではなくて悪い意味で考えている。


僕の友達の家のリビングの真ん中にある大きな柱は木の幹のまんまで、その友達は着の身着のままという言葉が似合わない友達で、今歩いてきた道は『いつもの道のまま』でたぶんとは思っていたがやっぱりレンタルビデオ店だった。


運動したいと言っていたのにレンタルビデオ店に来たってことは、エクササイズ系のDVDを借りるか、レンタルビデオ店内鬼ごっこか、指定されたタイトルのDVDを早く見つけ出すゲームくらいしか考えられない。


「家田純子ちゃん?エクササイズのDVDとか借りるんでしょ?」


「はい」


「スミちゃんは、最近太ってきちゃったから家でエクササイズしたいんだって!自分の家でもいいけど私の家でやりたいってさ!」


家田純子ちゃんは痩せているし、ギャルさんが脂肪も知識も理解力もそれなりに詰まっている大容量で業務用の女だとも少ししか思ってないし、どんなものが詰まっていようと色々校閲してくれるという要素をプラスしないとギャルさんを特に何とも思えないのだが、とにかくエクササイズがお似合いの人がこの中に一人もいない。


カリカリしたりせずDVDを借り借りしたのだが、クラシック音楽の終わりみたいに電動ヒゲ剃りも終わるときの音を伸ばしたいという気持ちと、電池を消費したくないという気持ちがぶつかるみたいに、エクササイズしたくない気持ちとエクササイズDVDへの興味がぶつかった。


「学生時代に流行ったよね」


「はい」


「僕がとっくに学生から卒業していたころか」


このエクササイズDVDは知っていたがよくは知らなくて、僕が学生の時に“はやったこと”といえば『「これあげるよ」と言ってただ持っていたものを上に挙げるだけというつまらない遊び』と『家に早く帰りたいと気がはやったこと』くらいしかなかった。


【エクササイズ】をするギャルさんの家に着いて家を眺めたが【XLサイズ】とはいかなくて、人間で言うと、学生時代に「これあげるよ」と言ってただ持っていたものを上に挙げるだけというつまらない遊びを流行らせた中肉中背の江草くんくらいの大きさの家で、まとめるとギャルさんの家は【江草サイズ】ということだ。


不慣れなエクササイズをするということは、【秒針の長針化】は免れないということで、詳しくいうと秒針が一分に一回動く長針みたいに遅く感じるということで、詳しくいうと時間が進むのが遅く感じるのは免れないということだ。


「よしやるぞ!お菓子食べ過ぎちゃってダイエットしたかったからエクササイズやりたかったんだよね」


「はい」


ギャルさんはあくまでも家田純子ちゃんが運動したいからという理由にしているが、今の言葉は家田純子ちゃんではなく自分がエクササイズしたいだけだと吐いてしまっているようなもので、よくある『口に液体を含んで笑いに耐える番組』に出たとしたら僕は笑う以前の問題で液体を口に留められない人なので笑わなくても飲んだり吐いたりしてしまうだろうと思うが、それとギャルさんは一緒だろう。

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