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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第十章 家田純子
42/110

#42 画面に映しているが映画ではなくドラマ

連続3日間寝込むことはたとえ失恋のショックであってもなくて、僕が主演した映画を家田純子ちゃんとギャルさんにもうすぐ見られてしまうというショック

があっても寝込むことはないが、失恋のショックではなくて喫煙によるショックなら三日間トンコツを煮込むことはあるかもしれない。


「スミちゃん?山吹風雅ってカッコいいから楽しみだよね!顔もカッコいいけど演技が上手いよね!魔法にかかっているかのような演技が好きなんだ。ああすごい楽しみだね、このホラー映画!」


「はい」


『ホラー』とは恐怖や戦慄という意味があって『恐怖』とは恐れることで『戦慄』とは恐ろしさのために体が震えることで、今まで色々説明してきたが『説明』とはある事柄の意味などを相手が分かりやすいように述べるという意味なのだ。


今はDVDを見ようとしているところで、その前に山吹風雅の話で盛り上がっているところで、今は外で満天の星空が広がっているところだろうけど、満天の星空という表現は『勝ちを決める決勝戦』みたいな表現と一緒で間違った表現で、もし今見ようとしているDVDが何かのサイトで5段階で評価されているとしたら『満点の星』は絶対にないだろう。


「僕はこの映画一回だけ見たことあるけど好みが分かれるかな。家田純子ちゃんもこの映画の主演俳優さんのこと好きなんだよね?」


「はい」


「スミちゃんはあの独特な演技が好きみたいよ!だからすごい楽しみなんだってよ!山吹風雅はオジサンと雰囲気が似ている気がするって。あっ、始まるよ」


暗闇でスクリーンに映し出されたカッコいい頃の僕はただひたすら走っていて、普通のホラー映画の『かける5倍』くらい疾走感が溢れているだろうけど、『かける5』と『5倍』は一緒なので『馬から落馬して腹痛が痛くなったりして被害を被った』という言葉と一緒で同じ意味の語を重ねた二重表現であるので、普通のホラー映画の『5倍駆ける』と表現することにする。


家田純子ちゃんは普通にスクリーンを見ているけど、ギャルさんはコーラを水みたいに飲み干しながら見ていて、まるでデブがカレーを飲み干すみたいにコーラを飲んでいて、よく見ると家田純子ちゃんはバリウムを飲むみたいにコーラを飲んでいて対照的だった。


うがいをして頭を戻すときに洗面台の棚を頭で外してしまったり、食べかけのアイスを持ったまま探し物をしていて棚にアイスを押し付けてしまったりすることがあって、集中すると他のものに集中がいかなくなる僕なのに、映画中に二人の飲み方がかなり気になった。


コーラの飲み方にケチをつけて「コーラッ、普通に飲みなさい!」みたいにダジャレ怒りをする気はなくて、気の抜けたコーラみたいに穏やかな気持ちを僕は保っている。


コーラって何から出来てるのかなみたいに思ったが、コーラよりもかき氷のブルーハワイの方が謎で、調べたらコーラノキみたいのがあるらしくて、ブルーハワイはオレンジらしくて、僕は『俺ん家』でも『僕ん家』でもない今いる『家田ちゃん家』にいるときが一番快適かもしれない。


この映画は正確にはドラマだということはたぶんみんな“がってん承知の助”で、最初からスピード感が半端ない『スロースターター』ではない映画だがゆっくりと終わる『スローフィニッシャー』で、トウモロコシは煮ても焼いてもポップさせても歯の隙間に挟まるという事実を僕が知ったときくらい、二人もきっと驚いてしまってポップコーンを飛ばしてしまうことだろう。


ポップコーンみたいに家田純子ちゃんも弾けてくれたらなと、『元気を髪の毛にほどんど持ってかれたんじゃないですか?』と行きつけの美容師に言われたことのある僕は思っている。


弾けると言えばギャルさんは常に羽目を外しているみたいな状態で、コーラはずっと炭酸の小さな泡が破裂していて、それらはポップコーンと同じ弾けているもので、まさにここは弾けているものの集合体である。


一週間お風呂に入らなくても許される季節の夜の暗い部屋には無表情の家田純子ちゃんと絶叫ギャルさんがいて、僕の性格は海千山千かもしれないと思っているが、デブ専ブス専でも無表情専門でも絶叫ギャル専門でもないので、そういう二人を無表情と絶叫の間の感情で見てる。


俳優だった僕の魔法にかかっているかのような演技が好きだと、さっきギャルさんが言っていたが、自分で演技が上手くなる魔法をかけて上手くなっていただけだ。


そしてこのホラー映画は、早く走ったり遅く走ったり、怖そうに走ったり笑顔で走ったり、道路を走ったり森を走ったり、一人で走ったり大勢で走ったり、とにかく走っているのだが、詳しくいうと『走る映画』だ。


「家田純子ちゃん、面白くないかな?」


「いいえ」


家田純子ちゃんの初めての『いいえ』は、ポテトサラダに黒胡椒をかけることでさらに美味しくなるように、家田純子ちゃんの魅力をさらに引き出してくれたかというとそうでもないが『はい』しか聞いてなかったから嬉しい。


『はい』と『いいえ』しか言わない女性と、『ハブアナイスデー』と『やっぱ美味いっすね』と『あれは無いっすね』という似たような言葉のみで会話を成立させようとする女だったら、前者の方がましだ。


「スミちゃんはこの映画意外に面白いってよ」


「良かった良かった」


【撒いた毛を拾う仕事】と【舞茸を拾う仕事】のどっちかやらなくてはならないと言われたら僕は「まぁ痛ければどっちもやりたくないけど、痛くなければね」と言うだろうけど、この映画のクライマックスの『部屋に舞茸』ではなく、部屋に撒いた毛が大量にあるシーンはいい感じだった。


この映画は要するに、見ると悲しくて『喉にダイレクトにたくあんが張り付いた時くらい死にそうなる【ダイレクトたくあん】』みたいな映画で、いま映画を見終わって、家田純子ちゃんがテニスのボールボーイがコート内に転がったボールを取りにいく時みたいな走り方でトイレに行ったが、その理由は要するに『ダイレクトたくあん』みたいに苦しかったからだろう。


今見た映画は僕には特に印象に残らない作品でセリフとかも頭に残ることはなくて、昨日の夜見た捜査ドラマの影響でカラビナってめっちゃ言いたい気分になっていると家田純子ちゃんは『カラビナ』と似ている言葉の『ただいま』を言うことなく戻ってきて元の位置に座った。


「映画はどうだった?」


「はい」


今は『家田純子ちゃんの「はい」をギャルがもうすぐ通訳をする』という場面で、詳しく説明するとしたら、ハイとイイエしか言わない幸薄女を、幸薄女の気持ちを全て察するという能力を持ったイケイケ親友ギャルが訳していくというところだ。


「スミちゃんは疾走感と緊迫感と表情の豊かさと走り方の使い分けとストーリーの組み立てとカメラワークが最高だったって。あとはさ」


水を見て「この無色透明な液体は何ですか?」と聞いてくる人の総称である『水知らず』ではなくて、一度も会ったことがなくて全然知らないという意味の『見ず知らず』に近かった人と数時間後にはこんな状態になっていて驚いているが、二人のことは好きではないし嫌いでもない。

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