#40 ハイとイイエとちょくちょくイケイケのダチ
約10メートル離れたところにいた女の子の肩に、女の子の知り合いと思われる男性が後ろから近付いていってワッと言いながら手を乗せて驚かせていたのを見て、女の子よりも僕の方が驚いてしまったことがあったが、その時よりレンタルビデオ店でよく会う人が僕と友達になりたいと思っていると知った今の方がビックリしていない。
『友達に「友達になりたいらしい」と言わせた幸薄そうなあなたの友達の顔が見てみたいよ』と僕の友達を通して言ってやりたいくらい常識ではあり得ない行為だったが、友達の顔はもう見てるし、僕も友達に言わせようとしてるし、なんやかんやでプラマイゼロだ。
「この子は家田純子ちゃんって名前だから!私の親友なんだ!私の幼馴染みみたいなやつ!それでさオジサン?友達になってくれるんだよね!」
「うん、いいよ。よろしくね家田純子ちゃん」
「はい」
自分に関するダジャレ年表を作ってみてと言われたら10年前の欄には『ほとばしるという言葉知る』と書くだろうけど、俳優だったときの面影がない超一般人の僕に家田純子ちゃんというファンのようなものがついていたということで今年の欄には『僕に吹いた追い風で布団が吹っ飛んだ!みたいな出来事が起きそうだった』的なことを書くだろう。
家田純子ちゃんとは正式に友達となったが、ギャルさんと僕との関係をどう表現していいか分からなくて、『コンビニ客と店員』なのか『おにぎり温めすぎ事件の被害者オジサンと加害者ギャル』なのか『友達の友達』なのか未だに決められない。
家田純子ちゃんとは一言も喋らぬまま友達になり、家田純子ちゃんの親友のギャルさんの方が家田純子ちゃんよりも僕と喋っていて、よく考えるとまだ『はい』の2文字しか声を聞いていないのに家田純子ちゃんと友達というのは可笑しいくて、『リップ多彩ね』と『一夫多妻制』を聞き間違える人くらい変わっている。
家田純子ちゃんと同類だと思える人が僕の知り合いにいて、その知り合いはすごい自分に自信がありすぎていて、まだ二十歳で若くて顔もカッコいいのに唯一の弱点が服装がオヤジっぽいことだけという知り合いで、その知り合いを『地震・雷・火事・親父』という言葉風に表すとすると『自信家の身なりがマジでオヤジ』である。
「家田純子ちゃんはこのあと暇なの?」
「はい」
「スミちゃんはDVDをオジサンと一緒に見たいみたいよ!ちなみに恋愛映画じゃなくてホラーがいいって!それでさオジサンに選んで欲しいって!」
『開店前に客がズラズラ並んでいるカツラ専門店』と『いつもギュウギュウのローストビーフ丼屋』の間にある『ブックブック太った店員がいる本屋』の向かいの靴屋で売っている『ブカブカの靴をキツキツにする中敷き』くらい分厚い内容の言葉を家田純子ちゃんの口から聞きたいが言ってくれない。
『もしかしたらご飯に誘うかも』と同僚に言われたのに、たぶん誘ってこないだろうと思って家でガッツリご飯を食べてしまったら、同僚にトンカツ屋に誘われて家でガッツリ食べたことを言えずにトンカツ屋に行ったが、みんなご飯を3回おかわりしている中で僕は2回しかおかわりをしなくてみんなに少食だと勘違いされただろうと思ってしまったし、今は頻繁にレンタルビデオ店に来ているので映画好きだと勘違いされているだろうと思ってしまっている。
ラーメンを同僚と食べに行った時に苦しかったけど余裕な顔をして大盛りラーメンを食べきったら『まだ食べられそうだね』と同僚に言われたので、映画通のフリをしてホラー映画を探している今の僕も家田純子ちゃんに映画通でないことがバレるとは言い切れない。
「色々悩んだんだけど、これでいいかな?」
「はい」
「スミちゃんはそれでいいみたい!でも前に見たことがあるって!それにあまり好きではないみたい!だから出来れば新作か隠れた名作がいいんだって」
家田純子ちゃんは『はい』の一言しか言っていなくて、事前にネタ合わせみたいなことをしていても事前に打ち合わせみたいなことをしていても、それらが一切通じないシチュエーションで、『はい』だけでそんな細かい気持ちまで察することが出来る人なんて、この二人の他に双子や僕の好きな漫才師くらいしかいないので凄い。
「スミちゃんはメール以外ではハイとイイエしか使わないからね!ハイのニュアンスを感じ取るんだよ!幼馴染みだもん簡単よ!それでね」
DVDを選び直すことになったが、『DVD』という文字を並べ直すことと同じくらい必要の無いことで、でも『DVD』という文字がサングラスをかけた鳥に見えるねと言われたらその人に合わせるしかないのと同じで「出来れば新作か隠れた名作がいい」と言われたら合わせるしかない。
隠れた名作というか、隠れた迷作というか、隠した迷作というか、とにかくそういう作品を僕は知っているのだが、『何だ?この病気』と『七転び八起き』というそっくりな言葉のように、そっくりなホラー作品が幾つもあるなかで、その作品は異彩を放っている。
それは僕が魔法でイケメンになっていた頃の、超人気俳優の山吹風雅だった頃の、特に人気があってプイプイ言わされてた頃に発売されたDVDだけで見られるホラー映画みたいなやつで、さっき『僕は知っている』と変換しようと思ったら『僕走っている』と変換されてしまったのだが、この映画で俳優時代の僕走っているよ9割9分も。
「このホラー映画でいいかな?」
「はい」
親友のギャルさんではなくても、家田純子ちゃんに嘘発見器を装着して確かめなくても、うどんの発券機に聞かなくても、明らかに『見たい!』という想いが込められた「はい」だったので、ナンクロにカタタタキという言葉が出てくるのと同じくらいの確率で見たいはずだ。
5種のチーズが使われている食品のラベルを『どんな種類のチーズが入っているのかな?』とワクワクしながら見ていたらチーズの種類が一切書いていなかったし、僕主演のこのホラーDVDをネットショッピングサイトで検索しても詳細なんて一切書いてないし、売ってるところ自体が少ない。
自分で自分の主演DVDを勧めることは、難易度5のスリザーリンクを解くことくらい難しいことだが、もうその俳優とは別人なので別にいいし、昨日クロスワードを解いていたらカギに『今解いているものです』と出てきたんだけど、そのカギくらいセンスがいいホラーDVDなので勧めたい。
「スミちゃんは山吹風雅の大ファン!それで大親友の私も大ファン!だから三人で見るには丁度いいって!それに見たことないって!存在自体も知らなかったって!それで」
僕の友達が昔、「カラダを大量の大葉で覆うより、オーバーオールの方が暖かい」みたいなダジャレのようなものを話の流れでさらっと言っていて、その後の言葉が頭に入らず、ずっとそのダジャレが引っ掛かっていたが、今は「三人で見るには丁度いい」というところに引っ掛かっている。
でも“はいいいえ通訳”のギャルさんがいないと会話にならなそうだし、『木の下にポニーテールのあなた』という文章を見ただけで『木はホに似てるな』と気付けて『ホに似てる』と『ポニーテール』の響きがよく似てるとも気付けそうな人だから頼りになると思う。
我が道を行くなという占いの翌日に我が道を行けという占いが載っていたことによってさっきまで陥っていたパニックが収まったというのに、今『会話にならない』という言葉を頭の中で『飼いワニなら無い』と変換してしまい再びパニックになっていて、僕主演のホラーDVDが『ほらあえいが』というクソダサいタイトルであることがそれに追い討ちをかける。




