#39 コンビニエンスストアは便利なお店?
クラスメート100円事件という、あまり話したことがないクラスメートに100円を貸したら返ってこなかったが返してよと言える仲ではなかったのでそのまま流れたということがあったが、お金を借りることはあまり良いことではないし、魔法の力を借りることもあまり良いことではない。
病弱で馬鹿で貧乏で性格が悪くて馬鹿で不細工で背が低くて馬鹿で馬鹿で手の小指が異常に短くて短気で馬鹿で見た目が44歳のオッサンに戻ったというか、ただ、今までかけた全ての魔法を解いてそのようになった。
高級なマンションから引っ越したり、高級な車を手放したり、コンビニのバイトを始めたり、元の生活みたいに戻りつつあって、『うどん打ち運動』が右から読んでも左から読んでも同じになる回文であることを見ただけで分かる人なんてあまりいないように、僕が元超人気俳優の山吹風雅であると気付く人なんていない、だって別人だもん。
不細工に戻ったので女性にモテないだろうし、手の小指も元の異常な短さに戻ったので今まで片手で持てていたバスケットボールも持てないだろうし、人見知りや動物見知りや勉強見知りをするように恋愛見知りをすることだろう。
コンビニバイトは今までにやったことがたぶんなくて『超』という言葉を多用する人の世界くらい分からない世界だが、今日か明日辺りに給料が倍になるんじゃないかと思うくらいそつなくこなし、ぬかりない仕事ぶりだ。
コンビニバイトの給料が今日に倍となることはもちろんなかったのだが、『コンビニバイト』という言葉を無理矢理変換すれば『今日に倍と』という言葉になることに気付くことが出来たので幸せは今日に倍となりハッピーだ。
行き慣れていなかった駅からショッピングセンターに行こうとしたがバス乗り場が分からなくて方向音痴の僕は勘だけをたよりに方向を決めて1時間くらいかけて歩いてなんとかたどり着いたのだが、『コンビニにやっとたどり着いたぜイエーイ』みたいなギャルが今僕がバイトしているコンビニに来た。
本屋を出ようとした時に亀より遅く歩く二人組が前を歩いていて抜かせずにイライラしたあの日を一ミリくらい上回るイライラを感じたのはそのギャルが僕に質問攻めしてきたからだ。
「オジサン?おにぎり1分多めに温めといて!給料ってどれくらいなの?いつから働いてるの?それでさ」
「一度に言われましても」
客がギャルひとりしかいないコンビニでおにぎりを1分多めに暖めるということは、必然的にギャルと不毛な会話をする時間も延びるということで、お米が硬くなるかもしれないし頑なに断ってもよかったのだが、瞳の奥しか笑ってなかったので素直に従った。
「お待たせしました」
そのおにぎりがいくらイクラではなかったとしても幾らなんでも温めすぎで、手が火傷するんじゃないかと思ったし、火傷という言葉を「今一番苦手な人と喋っていて心が火傷を負ったような状態だ」というような使い方で使ってもいいというのならば、僕は今8つの意味で火傷した。
今は「あんた、ぽっちゃりだね」と言われることも「お前、痩せすぎやけど」と言われることも「32型の蛍光灯の輪っかを潜り抜けられそうじゃな!」と言われることもないが、コンビニバイトを終えた僕は『うどん打ち運動ダイエット』に勤しむことなく健康のために歩いて帰っている。
お笑いのDVDを借るためにレンタルビデオ店に寄ろうとしているが、決してスベりネタDVDを観てさっきの火傷の傷を癒そうとかは思ってないし、ほとんどDVDしか置いてないのに『レンタルビデオ店』と名乗っているのはおかしいとかも思ってない。
DVDしか置いてないのに『レンタルビデオ店』と名乗っているお店代表みたいな店に来て、温めすぎたおにぎりを掴んでしまった『昨日と色が全く変わらない手のひら』をレンタルビデオ店にいる誰かに見られて「どうしたんですか?」と聞かれた時用の関西人風のセリフ「火傷やけど?」を用意して店内を彷徨く。
レンタルビデオ店に入って行ったら誰かに真後ろに付かれている気がしてDVDが置いてある棚をジグザグジグザグと複雑に曲がりながら進んでいったが3曲がりくらいまでは付いてきていて、その付いてきていた人というのが今の彼女である、というドラマみたいな展開はなかったが男に付かれて怖かったみたいなことは過去にあった。
借りるDVDはお笑いもいいけど他の映画とかも見たいな、でもやっぱりDVDはお笑いだなと思っていると、新作コーナーにいたカップルの彼女が笑いながら彼氏の頭をバシバシ叩いているのを見てしまい、頭にあった『DVDはお笑い』という言葉がいつの間にか『DV女をお祓い』に変わっていた。
ドラッグストアで『ポイントカードはお持ちですか』と聞かれたので『いいえ』と答えたら『失礼しました』と言われて次に『ポイントカードお作りしましょうか』と聞かれたので『いいえ』と答えたらまた『失礼しました』と言われたのだが、そのドラッグストアの店員と正反対の幸の薄そうな人とレンタルビデオ店のいろんなコーナーでいつも会い、今日も何回も棚の間で何回も二人きりになった。
すると話しかけるという常識がない店内で、テレビのCMで映った目のアップが僕の目と似すぎていて「もしかして知らない間に目のアップを盗撮されたのか」と怖くなったことのある常識がない僕は、標識のない道を猛スピードで走る車のように勢いのあるギャルに話し掛けられた。
「オジサン?今暇だよね?ちょっと話があるんだけど!あれっコンビニバイトの帰りみたいな感じ?それでさ」
なんとそれは、おにぎりで僕の手のひらに火傷を負わせようとしたコンビニギャルで、洗顔をしていたら鼻の穴に小指が入ってしまった奇跡と同程度の『奇跡の再会』だったと言っておけばなんか良い感じになるので言っておく。
コンビニギャルといっても、コンビニに客として来たギャルのことで、便利なギャルという意味でもコンビニの前で座り込んでいるギャルのことでもないし、昔レンタルビデオ店内でジグザグと僕の後ろに付いてきた男みたいにギャルは僕に付いてきたわけでも僕を好きなわけでもないらしい。
「なんかオジサンと友達になりたいから代わりに話しかけてくれって頼まれてさ!親友の代わり!それでさ」
僕の今の顔は不細工なはずだし、今は友達になりたいと言われる要素は持っていないし、『〇〇さんがよろしくって言っていたよ』みたいなことを言うのは恥ずかしいし馬鹿馬鹿しくてよろしく伝えたことがない、今は最低の男なのにおかしすぎる。
コンビニギャルという言葉をさっきは、コンビニに客として来たギャルという意味で使って、便利なギャルという意味でもコンビニの前で座り込んでいるギャルのことでもないと言ってしまったが、その親友からしたら頼みごとを聞いてくたこのギャルは便利なギャルなのである。
「僕は友達になってもいいけど、どういう人?」
「あそこの棚から顔だけ出してる子だよ!心配そうにこっちみてるあれっ!こっち来て!友達になってくれるってさ」
ウサギの真似の如く頭の上で両手で手招きをするギャルの元へやってきたのは、幸薄い顔をしていてレンタルビデオ店のいろんなコーナーでいつも会い、個性的という意味では気になっていた人で、『不眠症』と『区民賞』くらい違う二人が親友とはどういうこと?と思ったのだった。




