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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第九章 藻野美由
37/110

#37 ドッキリすることは女性がらみだけでいい

足首下虫刺され10ヵ所という、詳しく言うと『足首の下だけで10ヵ所も蚊に刺された状態』で目が覚めて、また眠りに就いた後、夢の中で右足を使って蚊を仕留めたのだが、朝起きたら、右足の周辺の布団の上に、蚊が瀕死の状態でよろよろと必死に歩こうとしていて、夢と現実が入り交じることが最近よくある。


夢と現実の区別もつかなければ、もちろんドッキリと現実の区別もつかず、「巨人と宮崎でキャンプ中です」と言われた時に野球チームの巨人と一緒に合宿練習をしているのか、巨人というあだ名の人と一緒にテントを組み立てているのかの区別も付かない。


僕の彼女の藻野美由さんと僕・山吹風雅がCMで共演することになり、今撮影に挑んでいるが共演が決まった直後から、これはドッキリなのでは?みたいな感じで色々と考えてしまい『ゴキブリが何色だったら悲鳴をあげずに冷静さを保てるのか』ということと同じぐらい考えを巡らせていた。


「マッサー、今日はよろしくね」


「藻野美由さん、よろしくね」


僕たちが出演するCMの商品はナタデココ飲料というやつで、よく振らなくてはイケない系の飲料はペットボトルを振っていて手が滑り、テーブルに投げつけて物凄い音が響いてから買っていないし、ペットボトルをテーブルに投げつけてからは、鏡の前でカミソリを思い切り振って水切りをすると誤って鏡を割ってしまうかもしれないし、もし割ったら非行青年だと勘違いされるので振れなくて、もう何も振れなくなったが、こんなどうでもいい話、触れなくてよかった。


ナタデココが何なのか調べずにここまで来てしまったのでナタデココがよく分からなくて、“ココ”という文字が入っているのでココアが入っているのではと思ったがナタデココは褐色をしていなくて、でも紅茶もジュースもコーヒーも透明飲料として発売されている世の中なので可笑しくはなくて、でも味が全くココアではないので違うだろう。


となるとナタデココの“ココ”はココナッツとココロザシと隠し味程度のココアの“ココ”ということに無理矢理決めてもいいかなと思ったが、ココア関係者も含めたほぼすべての人が怒ると思うので、ふんわりとぼやかしとく。


忙しすぎる藻野美由さんにダブルブッキングは無いというのに、僕は藻野美由さんが出演したドラマの録画したやつと、リアルタイムで流れてくる藻野美由さんが出演しているバラエティをダブルでルッキングすることが多いのだが、忙しいのに共演してくれて嬉しい。


ちなみにCMの内容は、電話で僕が藻野美由さんに「食べたいもの何?」と聞いて

、藻野美由さんが「ナタデココ!」と答えるが、藻野美由さんは僕の声に集中していなくて、電話をしながらやっている薪割りの指導で発した「鉈でここ!」だったことが判明するというオチのCMだ。


「食べたいもの何?」


「カット!何かが違うんだよね」


偉い人にイメージが合わないと言われたり、急遽泣く芝居をすることになったり、電話越しなので共演と言っていいのかなと思ったり、藻野美由さんに指導される薪割り役のマキちゃんが可愛いなと思ったり色々なことがあった。


今の状況を一言でいうと、急遽泣く芝居は出来ないが、キュウキュウと鳴く柴犬なら出来そうで、うがいの時は洗面台の蛇口に口を近づけて直接水を口に入れているが、まだ髪の毛が流しの水を受け止める部分に触れていていないので、今の髪の毛は人生で一番長いときよりは短く、今はそんな髪型で頑張っている状況。


「しっくりきたよ」


偉い人にそう言われたが、涙の代わりに角膜保護成分配合の洗眼薬を使ってしまった僕は今『その言葉そっくりそのままお返しします』または、『その言葉すべて変更してお返しします』と言いたい気分である。


『俳優』という括りのなかの『イケメン』という括りのなかの『正統派』という括りのなかの『演技派』という括りのなかの『そこそこの人気』という括りのなかに僕はいるはずだが、なぜかドッキリ番組に何回も呼ばれて出演している。


料理は食材を切りながら何を作るか考えるタイプだし、物語は書きながら考えるタイプだし、演技プランはやりながら考えるタイプだが、ドッキリのリアクションはドッキリにかかりながら考えるタイプではない。


僕のリアクションなんて『不毛の山の麓を踏もうとしている』という1人中0人しか笑わないようなかなりつまらないダジャレのようなものだと思っているのでドッキリのターゲットになる意味がわからない。


“母とばあばとバーバーのパパと私でゴルフに行って、パパがパパッとパーパットを決めた”という文章くらい言いにくいことなのだが、僕のリアクションのどこが面白いんだよ、どうせ飽きたら全く呼ばなくなるんだろうよ、と思ってる。


『しかしかしかいにはいらない』を『鹿しか視界に入らない』と読むか『しかし菓子買いに入らない』と読むかは前の文章によるが、CM撮影の合間のトイレで今来ている場所に書いてある『TOILET』はトイレットと読んでいいのだろうか?


トイレには軽快な足取りで軽快さを装って入っていった僕だったが、軽快に見えて実はドッキリを警戒していて、“曲がり角を10秒かけてゆっくりと曲がらなければヌー的なものに轢かれてしまう”みたいな状況での心持ちと似たようなものだ。


ドッキリは、小学生たちが授業終わりに言うゆっくりとした“ありがとうございました”を上司の前で言ってしまったことのある自分くらい好きではないので、上手くドッキリを回避すれば呼ばれなくなるし、リアクションを抑えれば呼ばれなくなるので頑張る。


スリッパが床に接着剤でくっ付けられていても、僕はゆっくり足をスリッパに馴染ませてから動くタイプなので大丈夫だし、床がラーメン店の厨房の床のようにツルツルだとしても、僕はゆっくり足を床に舞い降りさせることの連続で歩くタイプなので大丈夫だけど、自動でフタが開くタイプのトイレは作為的なドッキリの類いではないが分かっていてもビックリしてしまうので気を付けないといけない。


トイレでの必須事項を済ませて、特に何も起こらずトイレから出ようとしているが、新聞に毎日載ってくる占いのラッキーフードの使い回し疑惑は晴れないし、空は晴れないし、ドッキリへの疑念は晴れないし、新人なのでまだまだ主役は張れないし、腫れたのは親知らずが出来た歯茎のみだった。


藻野美由さんが僕に告白したことも付き合っていることも、僕たちが付き合った直後に記者が直撃してきたことも、全部ドッキリだったのではと、ほんの僅かしか思っていないがドッキリって怖い。


トイレから出るために扉を開けたら、女性スタッフが扉の前にひょっこりと現れて、こういうドッキリか!と驚いてしまったが、スーパーマーケットの冷凍食品売り場の開けたら自然と閉まってしまうタイプの扉に挟まれたって挫けなかったのだからこんなことどうってことない。


「山吹風雅さん大好きです。結婚したいくらい好きです。今度お食事でも行きませんか?」


「えっ、あの、ごめんなさい」


話すことが一番苦手で下手だった頃に「話すのが上手ですね。接客とか得意そうです」と言われたことがあって、そのことを思い出せば全ての苦笑い演技が賄えるが、今は素の苦笑いが出た。


「好きです」


「ちょ、ちょっと、やめてください」


『0÷2=0』を「0←卵、÷←割る、2←2個、=←は、0←0個」と変換して『卵割る2個は0個』と無理矢理読ませても別に問題ないが、その女性スタッフがいきなり僕の唇を奪ってきたことは問題である。


女性スタッフは走り去り、典型的なお色気ドッキリの類いかと思っていたのだが、一向にネタバラシに来なかったので、本当かもしれないと思ってしまったら今日一番ドッキリしてきた。


「月って意外とちっさいな」とその夜、空を見ながら呟いたのだが、その真の意味は『アイラブユー』でも、『ロンリー』でも、『僕は小さい男だ』でも、『ドッキリなんてどうってことないや』でも、『あの女性スタッフの名前何ていうの?』でもなく、『月は意外と小さいものだな』という意味である。

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