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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第九章 藻野美由
36/110

#36 女優という漢字通りの優しい女で

合計100点に限りなく近いマイナス100億点である性格の僕は、調子に乗るときや、朝食に海苔のときや、天狗になることや、天ぷらを食べて美味しかったときに『天ぷらグッド』という言葉を縮めて『テングー』と言ってしまう時もあり、今は調子に乗っている。


少し前にスーパーマーケットのセルフレジで、ものすごいスピードでバーコードを読み取り、ものすごいスピードで袋詰めしていたのにスカウトされなかったが、今は街でスカウトマンにさえも話しかけられたことのない僕にファンが集まってきている。


ちなみにスカウトは、子供の頃から憧れていてずっとされたかったが、出演したドラマが高視聴率で今絶賛放送中で人気が出てきて、今は握手や写真攻めに遭っている。


ちなみに酢買うと家に持って帰る途中に『瓶を落としたら臭くなる、瓶を落としたら臭くなる』と慎重になるが、今は

『悪い印象は与えるな、悪い印象は与えるな』と慎重に対応している。


「娘が大ファンなんです。握手してもらってもいいですか?」


「はい。いいですよ」


「凛ちゃん。握手してもらいなさい?」


「うん」


酢が入った瓶を今は持っていないし、もし知らぬ間に鞄に入っていたとしても割れるような激しい動きはしていないし、割れていたらあの独特のツンとくる匂いにすぐ気づくはずだし、“悪臭”はしていないので気兼ね無く“握手”できる。


「応援ありがとうね」


「だいすきっ」


その女の子は、小学生の時に跳び箱4段を一度も跳べなかったが今なら跳び箱24段を一回で跳べそうな気がしているというメルヘンな考えを持つ僕よりも遥かに可愛い天使ちゃんだった。


スーパーマーケットでペットボトル飲料を棚から取ったら後ろのペットボトル飲料たちがゆっくりと前に進み始めたが、どれくらいゆっくりかというと、ビビりすぎている『ダルマさんが転んだのプレーヤー』くらいで、僕と世間との距離の縮まり方はたぶんそんなものではない。


「ドラマ観てます」


「ありがとう」


ドラマ初出演で『埋めた自尊心を掘り返すように』という高視聴率ドラマに関われて、とても嬉しいが、もうすぐクランクアップで寂しく、ドラマ初出演での演技は「どらまはつしゅつえん」と早口で言うことくらい難しく、僕が一番苦手な「料理教室講師調理中」という早口言葉の「講師調理中」と似た言葉の『高視聴率』が取れるなんて思ってなくて、たぶん僕の力は関係ないだろう。


今は半日オフで、パンの食べ過ぎでお腹パンパンではあるが、まだ店の中がパンパンなパン屋さんに行きたくて、さっきのパン屋さんでトレイに乗せたパンの合計が600円ジャストの予感がしたままレジを通ったら599円だったので、いい予感しかしない。


柑橘系のいよかんの方がパン全般より好きということは置いておいて、まだまだファンが話しかけてきて対応に追われる。


「風雅さん、サインください」


「はい」


すごいかなりヤバイほど前に書いた借金の保証人のサインのときはあんなに躊躇わずに書けたのに、今は恥ずかしくて自信がなくて少しの躊躇いを持って書いた。


「ありがとうございます。一生好きでいますから」


「ありがとうね」


僕の名前が分からずスマホで検索していたっぽいギャルの『一生好きでいる宣言』は、太ったお医者さんがダイエットを推奨しているのと同じで説得力がない。


サインは色紙の大きさにしては小さいものになってしまい、サインではなくコサインと呼ぶ方が正しいと思うが、タンジェントと読めなくもない形をしたサインなので、もうどれでもいい。


家の中で前に進んだとき、五秒以内に後ろ歩きをしても障害物がないとは限らないので後ろを確認すべきだが、この自宅からさほど遠くない街中では確認しても後ろ歩きは絶対にしては駄目だ。


とある魔法小説の作者が、初期設定や初期文体と現在で矛盾が生じているのではないかなどの不安から御意見・御要望を100万字詰原稿用紙1枚か、2字詰原稿用紙541枚以内で送ってきてくれないかな?と嘆いているが、僕はなかなか進めなくて嘆いている。


ちなみに541枚というのは御要望ということで、5は御、4は要、1は望となるためそうなったみたいだが、1を棒と見立てるのは苦しいし、俳優のプライベートは苦しいものだと知った。


藻野美由さんとは頻繁に会っているが、時間に換算するとそれほど会っておらず、時間に換算すると、時間は菅さんという一般人と会っている方が長い気がする。


酔い止めを飲んでも電車で酔ってしまう僕のような人のために電車酔い専用シートを作って欲しいがたぶん無理なので、電車に酔って最悪キラキラした液体を撒き散らしたとしても誰も責められなくて、ちなみに僕は藻野美由さんに酔っていて、藻野美由さんのメールに酔っている。


早送りや巻き戻しが出来る録画番組の視聴に慣れてしまったらリアルタイムでの視聴に戻れないとか、このプリンを食べてしまったら他のプリンは食べられないとか、ここのマドレーヌを食べたら元のマドレーヌには戻れーぬみたいな感じで、藻野美由さんと付き合ってしまったら他の女性とは付き合えない。


藻野美由さんから来たメールの内容は、『たぶん「つくねは作んねえ」というダジャレを言うことを求められているな』というシチュエーションで何の躊躇いもなくダジャレを言う人くらい単純な文章などだ。


あと、雑貨店にいる人が僕も含めて全員が店員にも客にも見える外見の人だったとして、店の商品である鉄アレイの前で誰かに僕が「てつだってください」と言われたとしたなら「鉄だって?下さい!」なのか「手伝ってください!」なのか分からないが、そういう状況のような複雑に絡み合った文章もあった。


藻野美由さんからのメールは、基本ファイトメールで、毎日ファイトメールがくるが、今の季節が仮に何でも「〇〇の秋」という表現で表す季節だとしたら、「ファイトメールの秋」ということになる。


“私はマッサーの一番のファンだから”


そういうメールが藻野美由さんから最近来て、こんなに優しい人なんて『母国語もままならないのに日本語ペラペラ系アメリカ人』くらい稀少だよなと思ったりした。


カフェに入り、さっき道を歩いていた僕に女性ファンがくれたファンレターを開けようとしたが、母が「マジ卍」って言ったのでビックリしていたら「いま何時?」だった時もあったので、良い方の手紙か違法の手紙かは判別出来なくてどうしようというファンレターへの不安が出た。


花よりは団子で、団子よりはお酒で、お酒よりは女で、女よりは花な僕は、パンとコーヒーを待ちながら、運転席が右か左か時々分からなくなるという天然さを隠し、手紙の封を普通に開けた、そして中の手紙を普通に出して普通に開いて普通に読んだ。


すると『私とデートしてください!』という文字が書かれていて、痛んだリンゴは煮たリンゴに似たリンゴらしい、という俗説くらい興味をそそったが、少しの怖さもあって、何かデートプランのようなものも書かれていた。


********************


まずは2ヵ所の大きな本屋へ行く。

そしてカカオドリンクを1杯飲む。

最後に3月末までやってる個展へ。


********************


何の変哲もない文章だと思っていたが、藻野美由さんに向けたものか僕に向けたものかは分からないが、そのデートプランの文章のなかに大きな『脅』の文字が隠れていた。


その他にも色々と書かれていて、藻野美由さんへの誹謗中傷は無かったが【希望:チューしよう】や【夢:結婚】の文字はあって、その女性が僕と付き合っている藻野美由さんに嫉妬していないことはないだろう。


『有名人は楽じゃない』と実感した僕は、『ワイン売り場だけでは貧血を起こすな』という言葉を胸に、『ポテトチップス縦食いの刑』を受けた時のような苦しみを思い浮かべ、『骨付きチキンを骨無しチキンだと勘違いして思い切り噛んでしまった場合の痛み』を想像し、それを糧に明日に向かって羽ばたいていこうと思う。

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