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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第九章 藻野美由
35/110

#35 どうか週刊誌が終刊しますように

悪戦苦闘30分という、歯に挟まったホタテの紐を取るのにかかった時間以上に無駄なものなんて何にもなくて、彼女の掘っ立て小屋に住まわせてもらってるヒモも、僕と藻野美由さんが付き合うことも無駄ではない。


店を出た僕たちは、夜気を握りたいのに焼きたての焼おにぎりのようなファンたちの熱気に包まれて、付き合いたてホヤホヤの熱すぎる焼おにぎりのような愛や感情のようなものは内に秘めて歩いた。


ファンと不安は発音がほぼ一緒だし怖いという意味では同じようなもので、超有名人と有名人予備軍が隠れもせず堂々と二人でファンの前を歩くなんて、僕には『生き地獄』だが、藻野美由さんの表情を見る限り僕の反対の『生き天国』である感じがする。


食べ歩きと飲み歩きをするという志を持って今夜集まったが、食べ歩きや飲み歩きを続けている場合ではなくて、最近まで食べ歩きを飲み食いしながら歩くものだと勘違いしていた僕ではなくても帰りたいと思うのは当然だと思う。


「藻野美由さん?帰ろうよ」


「待ってよマッサー。まだ食べ歩きに満足してないから」


「こんなに囲まれてるのに大丈夫なの?」


「いつものことだから慣れてるよ」


藻野美由さんと僕は、僕の友達の田部くんがよくしている「手を真っ直ぐ下に下ろして一切動かすことなくゆっくりと大股で歩く」という歩き方の“田部歩き”で歩くことなく普通に歩いて食べ歩きを続行することにした。


しかし、藻野美由さんというトンデモナイ大女優には周囲を監視をしてくる週刊誌の人やパパラッチや最近パパになったパパパパラッチなどが常に近くにいてもおかしくない。


実家に住んでた頃の話だが、玄関辺りにいるときにリビング辺りから親の声がするなと思っていたのに親は二階にいて、二階から聞こえた声だったことが判明したことがあったけど、今は言われた「お時間よろしいですか?」みたいな言葉の出所が目の前の記者風の女性だということは間違いない。


「今度ドラマに初出演するイケメン俳優の山吹風雅さんと藻野美由さんですよね?一般人のSNSに多数の目撃情報が投稿されていてラブラブだという風に書かれていたんですが、二人は付き合ってるんですか?」


記者が汽車も驚くようなスピードで僕たちの情報を入手してすぐに駆けつけたことに驚き、芸能レポーターや記者たちはみんなこんなグイグイ来るものなのかなと驚き、スーパーの飲料売り場の扉を思いきり引っ張って開けて戻ってくる間にペットボトル飲料を取って、一回の引きだけで扉に触る動作を済まそうとしていたら、開けても自動的に閉まらないタイプの扉で勢い良く開きすぎて焦ったときのように、記者が勢い良すぎて焦った。


「私たち付き合ってますよ。付き合って一時間も経ってませんけど。私から告白しました。バーで知り合ったんです」


以前にも藻野美由さんは有名俳優との熱愛報道に堂々と交際宣言をしたことがあったが、聞かれてもいないことまでペラペラ喋るなんて、僕の部屋の壁の高いところにある靴痕みたいなシミくらい理解が出来ない。


電車で僕の好きなアーティストの曲の着メロがどこからか聞こえてきて嬉しくなっていると友達が『変な曲だな』と言ってきたことがあったのだが、その時に僕の頭に友達への怒りの言葉がわんさか浮かんできたペースと同じくらいのペースで藻野美由さんはわんさかプライベート情報を記者に漏らしていた。


部屋にいるときに結構大きめのホコリが僕の目の前の空中を一分以上漂っていたことがあったが、それ以上に記者が長居していて、堂々と『交際宣言』をする藻野美由さんを横目に僕は、「逃げ足が早い子ウサギのようにここから逃げ出したい」という意味の『子ウサギ宣言』をしたくなった。


子ウサギとは、耳が長くて前足が短くて後ろ足が長くてよく跳ねるおとなしい哺乳類のウサギの子どものことで、ウサギは寂しいと死んじゃうとよく言うがそれはほぼ嘘らしいし、ウサギは逃げ足が早いが子ウサギはどうだか調べないまま逃げ足が早いものの象徴として使用してしまった“意外と耳が長い僕”はウサギにおとなしく謝るしかないだろう。


コンロの油汚れや、お茶碗でご飯を押し潰しながら食べてご飯粒がこびり付いたまま放置したお茶碗のご飯粒や、チーズをお皿に乗せて500Wで1分チンする予定が600Wで3分30秒チンしてしまったときのお皿のカチカチのチーズよりも“しつこい”と言って過言ではない記者の直撃は間接的に僕の神経を撃ち抜く。


何かあった時のために御世辞を使わせて頂くが、あの超絶美人記者は週刊誌の記者なので記事が週刊誌に載るのは確定で、週刊誌に僕がのるなんて小学生以来だ。


小学生の時になんで週刊誌にのったかというと、友達の家で、鬼が指定した色を探してその色を触っていれば捕まらないみたいなルールの鬼ごっこである『色鬼』をしていて、僕たちは触るのではなく踏むというルールを追加して遊んでいたが、ピンクと鬼に言われて見つからず、ピンク⇒エロ⇒エロい写真⇒週刊誌、と連想して上に乗っただけの話。


しつこい、しつこい、しつこい、しつこい、しつこい、とずっと思っていて、頭の中でしつこすぎる“しつこい”という言葉によって、失恋という本来は“しつれん”と読む漢字の読み方を変えると“しつこい”とも読めることに気付いてしまい、付き合ってすぐに『失恋』なんて縁起が悪いから頭から無くしたいのにしつこくて無くならない。


落語の寿限無のなかに出てくる長い名前を特に覚えた記憶はないが、言えと言われた7割5分は合っている自信があって、7割5分といえば記者が僕ではなく藻野美由さんに質問を投げ掛ける割合で、あまり興味を持たれていなくて、寿限無を7割5分覚えてるのに自分の芸名をど忘れしている僕はまだまだだなと思う。


「マッサー!取材終わったから、とりあえずビールね」


「分かった。もう一軒ね」


もう帰るという考えや、一旦別行動をして野次馬やファンや記者を撒くという考えなどもあったが、『別行動』という言葉は英語で不協和音という意味がある『ディスコード』に発音が似ていることもあり、別行動をすると二人の間に不協和音が生じるのではないかという不安から居酒屋に行くと決めた。


「ここでいい?」


「藻野美由さんが行きたいのならいいよ」


居酒屋の入り口には“赤提灯”がぶら下がっていて、どちらかというと『馬鹿』な藻野美由さんと、どちらかというと『常人』の僕は入り口から中に入っていったが、それを簡単に言い換えると“馬鹿・常人が赤提灯の店に入った”だ。


最近、僕の溜め息がハァーからブヒーに変わってしまったのでそろそろヤバイと思っているが、ブヒーをやめろと強要されても無理なのに、僕は藻野美由さんに強要気味に「変顔して少しでもバレないようにして」みたいな言葉を言ってしまって、藻野美由さんはそれに素直に応じて、何をするにも上のアゴを突き出していて逆にザワつくだろうと思って見てた。


“国立藻野美由さん博物館”なるものが建てられる日と、最近よく目にする『白い衣装を着た女性4、5人が商品説明をするだけのCM』が新たに制作される日はそう遠くないだろう。

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