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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第九章 藻野美由
33/110

#33 はい、と言うだけの俳優なんて

某100円ショップに何かカーテン的なものがヒラヒラしてるところがあってアダルトコーナーがあるのかと思ってよく見るとスタッフオンリーだったが、今周りにいる人たちは、ほぼスタッフオンリーだ。


魔法で演技を上手くさせて、魔法でアドリブ力を向上させて、魔法で表情の豊かさをプラスさせたお陰でドラマのオーディションに受かったが、魔法使いの読み物で全然魔法を使ってないことに気付いて急に魔法のシーンを増やした書き手と同じにしてほしくはない。


サメやクラゲやオニダルマオコゼは“ダイバーの敵”だが、僕は連続ドラマに“大抜擢”されたわけで、ドラマ出演は脇役ではあるけどとてもめでたいことで、オニダルマオコゼを愛でたいくらいめでたいことで、でもオニダルマオコゼの背ビレには猛毒があるので絶対に触れてはならなくて、僕が藻野美由さんのコネで俳優になったことにも絶対に触れてはならない。


某魔法小説は、とっくに8万字を越えてて「8万字マジ卍!」みたいな状態だが、このドラマの主演が藻野美由さんの元カレの人気俳優Aで最初はすごく緊張していた僕だけど、人気俳優Aは現場で自慢ばかりしていて「魔自慢ジジイ」とは思っていないが、それなりのことを思っている。


藻野美由さんは25歳で、元カレの人気俳優Aは49歳みたいで、25と49は“5と7の二乗”だが、人気俳優の実名を出せずイニシャルなのは“大人の事情”だ。


「風雅くんさ?自慢じゃないんだけど僕ね、オフの日にね、占いで一位だったから期待していたらね、レシートに書いてある買った時間がね、ドラッグストアでは1時ジャストでね、本屋では3時ジャストだったんだよね」


「スゴいですね」


色々説明するところがあるが、風雅というのは僕の適当につけた芸名の『山吹風雅』の名字ではなく下の名前の方で、今は休憩中に主演俳優のAさんが僕に自慢しているところで、僕とAさんはなぜか仲良くなっていて、僕が藻野美由さんと仲がいいことも僕が藻野美由さんの付き人をやっていたことも知らないらしい。


「あとね、オフの日にね、このアルバムの一曲目何だろうと思いながらね、再生ボタンを押してね、流れてきた曲に対してね、頭の中で『ああ、そうか』と思っていたらね、ほぼ同時に曲の中でも『ああ、そうか』と言ったんだよね。スゴいよね?自慢じゃないんだけどね」


「スゴいですね」


主演俳優と新人俳優が仲がよくなることはあまりないが、ネズミが家のあらゆるところから出てきても僕は何にもせずにスルーすると思うから、あらゆるところに出てきたネズミをスルーするように、あらゆる語尾に出てきた人気俳優Aの『ね』もスルーすることにする。


エンジンをかけなくてもカーステレオに入れてあるCDは出せるのに、エンジンをかけないとCDを入れることは出来なくて、トンカチで割らないとブタの貯金箱に入れてある硬貨は出せないのに、トンカチで割らなくてもブタの貯金箱に硬貨を入れることは出来て、カーステレオとブタの貯金箱は反対だが、反対方向を向いたブタの貯金箱が棚に置かれたドラマセットで僕は今撮影している。


誰とでも仲良くなれるとテレビで何人もの女性芸能人が公言しているが、そんな自信満々の人と僕は仲良くなれる気が全くしないなと、思いながら決められた場所へつき、台詞を言う。


「この割引券使ってくださいね」


「カット!語尾は『ね』じゃなくて『よ』だから」


“ゴム毬”も一文字変えれば、爆弾が仕込んである毬である“ボム毬”に変わるし、“ボム毬”も一文字変えれば、レゲエ界の英雄になるわけで、セリフも一文字変わっただけでガラリと印象が変わってしまうものだ。


人気俳優Aの癖である語尾の『ね』に影響された訳ではないし、緊張をしている訳でもないので、手のひらに『ね』と3回書いて飲み込まなくてもいいし、『ね』を3回飲み込んだりしたら余計に『ね』に蝕まれそうだから、ペットボトルの水以外に今は何も飲み込まない。


「第二話のゲストさん入られます」


このドラマは特殊で毎回ゲストが出演者にも直前まで内緒で進められるみたいな感じだが、僕は今月はテレビで漫才を多目に見てるし、とある物語のとんでもない矛盾も大目に見て欲しいし、ドラマの変なやり方も大目に見て欲しい。


付き人は文字通り、ツキがある人がやるべきで、藻野美由さんの付き人の僕はドラマに大抜擢されるというツキがある人だが、連続ドラマという肩書きが付いた僕は忙しくて付き人が出来なくなり、付き人は卒業した。


女性が入ってきて、ドラマの第二話のサプライズゲストが藻野美由さんだと分かったときに僕は『驚くことも驚かぬことも出来ぬ』みたいな感じになっていたが、人気俳優Aこと鈴木さんは語尾の『ね』も忘れるくらい驚いていた。


今日食べた弁当名は『梅干しと青じそが入ったおにぎりの入った豪華弁当』で、今撮っているドラマのタイトルは『埋めた自尊心を掘り返すように』で、弁当もドラマもタイトルを略すとウメジソとなる。


フリーライターも縮めればフリーターな訳で、フリル付きセーターも縮めればフリーターな訳で、フリーマーケットで売っているライターは縮めればフリーライターにもフリーターにもなる訳で、僕はこのドラマでは、いずれかのフリーター役である。


でも、フリル付きセーターを縮めれば着られなくなる訳で、着られなくなったら手袋やバッグにリメイクする方法もある訳で、トリートメントやスチームアイロンを使うという方法もあるわけで、セーターの縮みは未然に防ぐのが一番だ。


僕がセリフを頭のなかで一人きりで輪唱している時に、藻野美由さんと人気俳優Aが“談笑”をしていたけど僕は今、『極々極々普通の気持ちだ』というくらい気になっていなくて、『極々極々普通の気持ちだ』というのはこの物語の第一話の“断章”である。


このたい焼き何餡だろう?と聞かれて「白餡かな?」と答えたのに「知らんがな!」とその人に聞こえていたとしたら周りには悪い人に映ってしまうが、セリフが何言っているか分からないときがあると言われた僕は周りには滑舌が悪い人に映ってしまっているだろう。


回転寿司屋でみたらし団子を見たらしいというどうでもいい情報を少し前に教えてくれた人気俳優Aが僕に近づいて話し出す。


「風雅くんさ?藻野ちゃんの付き人やってたんだね。知らなかったね。じゃあ仲もいいってことだよね?」


「はい、そうですね」


「自慢じゃないんだけどね、僕はね、藻野ちゃんのことはね、よく知っている方なんだよね。付き合いが長いからね」


「そうなんですか」


この場を去っていった人気俳優Aを俳優と呼ぶのなら、油で揚げてあるもの全てを油揚げと呼んでも可笑しくなくて、カキフライをかき揚げと呼んでも可笑しくないので、こっちへ向かってきた超人気女優の藻野美由さんを俳優と呼んでも何も可笑しくない。


「あっ、マッサー共演嬉しいよ。まさかこんなに早く共演出来るなんて思ってなかったから」


「藻野美由さん、ありがとね。全く知らなかったよ」


「スケジュールがあるからすぐ行っちゃうけど。じゃあまた今夜」


「うん」


レモンスカッシュを『レモンスカッ酒』と書いて、レモンが入った飲むとスカッとするお酒のことだと思っていた人や、「ハム挟むのだ」が『カムサハムニダ』に聞こえてしまう人くらい藻野美由さんのスケジュールは異常だ。


控え室のドアを開ける音が猫に似てると言っても過言ではなくて、人気俳優Aも藻野美由さんも衣装の肌触りも毎日使っているT字カミソリもスタッフも共演者も優しすぎると言っても過言ではない。


僕は脇役だが、どのくらいの重要な役かというと『貧乏暇なしと言うが、貧乏暇だし、貧乏嫌だし、一生品出しは嫌だし……』みたいなナレーションを別撮りするくらい重要な役だ。


『説教食らう敵に積極的に絶叫不敵な面構えで挑む』という言葉が僕の頭に無駄に登場したり、僕の役はシーンに無駄に登場してくるという設定だったり、訳が分からないことが多かったがこの日の撮影も終わった。

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