#32 テレビでは映らない裏側物見遊山
飲料22品を酒屋みたいなところで買ったら小計4630円+税370円の合計5000円ジャストだったのだが、ドラマ出演本数が合計50本ジャストになった藻野美由さんの付き人として今現場に同行している僕なんて、22品で5000円ジャストだったことより凄いことだろう。
藻野美由さんは移動中もかなり明るくてよく喋っていて、僕はこのようなことは全然思ってはいないけど「もう少し落ち着いた方がいいんじゃない?」と言う人もいるかもしれなくて、でも藻野美由さんが落ち着くなんて、携帯電話を接着剤で机に固定するようなものなのでやめた方がいい。
書き始めと同時くらいに小説のタイトルを響きがいいという理由だけで適当につけてしまって内容とそんなに関係なかったがタイトルの質としては良いのでタイトルにどう近づけようか試行錯誤の日々でタイトルに絡めたオチを今考え中の人もいれば、携帯電話を接着剤で机に固定するような感じでずっと運転席でハンドルを握っている僕のような人もいる。
「今度やるドラマなんだけど、仲人する大人の小人役なの」
「そうか。大変そうだね」
「特に『ワタベタカシはシカたべたわ』と『ナガオカはカオがな』っていう回文のセリフは難しくてね」
『ワタベタカシはシカたべたわ』と『ナガオカはカオがな』というセリフは、上から読んでも下から読んでも同じ言葉になる文という意味の『回文』だが、どういうストーリーか全く想像できない怪しい文という意味の『怪文』でもある。
上から読んでも下から読んでも同じ言葉になる文と言ってしまったが、横書き愛好家の方々、並びに横書きに関わる職業のお偉いさん、並びに回文の発明者に後ほどお詫びを申し上げることにします。
発明者で思い出したのたが、僕の初眼医者は、ソファに鉛筆を投げてトランポリンのように跳ねさせる『鉛筆トランポリン遊び』をさせていたら鉛筆が白目に刺さってしまった時だが、こちらの不快な話も後ほどまとめて謝らさせて頂きます。
そんなことを考えていると現場に着いた、着いたのだけれど藻野美由さんが忘れ物を何回もしたり色々あって、少ししか余暇がなく到着した。
僕はこのようなことは全然思ってはいないけど、縦書きの場合は上から読んでも下から読んでも同じ言葉になる文で、横書きの場合は左から読んでも右から読んでも同じ言葉になる文である『回文』を使って表すと『何度も戻んな(なんどももどんな)』みたいなことを思う人もいるだろう。
「藻野美由さん。ベストダイコンニストの授賞式会場に着いたよ」
「ご苦労様、ありがとうマッサー」
近日撮影が始まるドラマで藻野美由さんが『弱虫な中学生の強羅くん役』とほぼ同類である『仲人する大人の小人役』を演じることにも興味があるが、ベストダイコンニストというあまり響きが良くない賞にもとても興味がある。
付き人というやつは荷物を持たなくてはならなくて、藻野美由さんの荷物を右手に持っているが、ボウリングで使う16ポンドの玉が何個入っているんだよというくらい重くて疲れた。
僕は魔法使いなので魔法で重さを軽減したかったが“魔法をかけていることが一目で分かるオーバーアクション”と“大声大会優勝記録くらいのデシベル”が魔法を唱える際に必要となるので、出先での魔法はコンプライアンス的にNGだし、ストーリー的にもOUTだ。
ボウリングピンの一本の重さと、一番軽いボウリングボール一個の重さがほぼ一緒という衝撃事実とほぼ一緒の衝撃が右手に加えられていたので右手がバテ気味だが『右手バテ気味』は回文みたいだ。
楽屋というには楽しさが感じられなくて、控え室というには控え目な感じが全く無くて、待ち部屋と言ってしまうと誰も使っていない言葉なのでしっくり来ないので控え室と呼ぶことにするが、今そこにいる。
大量のお菓子やお弁当やケータリングが置いてあって、もしそれを大量に藻野美由さんが食べ出したとしたら『控え室なんだから控えめにしろ』みたいな声が出てきて、用意した人と食べた人の責任で『控え室』という言葉が死語になり兼ねない。
『ベストダイコンニスト』という貧乏ゆすりの存在理由くらいよく分からない賞なだけあって、お弁当には大根弁当という、貧乏ゆすりをしているのか足のストレッチをしているのか分からない人くらい見たこともない弁当があって、僕はイカ弁当が気になった。
イカ弁当が僕は食べたくて、食べていいかを稚拙な回文で聞くとしたら『イカいいか?イカいいかい?』となるが、『イ』と『カ』の二文字しか使ってないのに回文と呼べるのかみたいなクレームが来て、「今後はイカの回文しか作らないでください」みたいに言われて『回文全部イカ?(かいぶんぜんぶいか)』みたいな回文を使う羽目になりそうなのでイカ弁当は諦める。
「藻野美由さん、こちらへどうぞ」
タコ焼きを作ろうと思ったのに冷蔵庫にイカしかない時は『イカでもまーいっか』というダジャレを言いたくなるが、ドライブしていて自分の車を壁に擦ってしまった時は『マイカー擦ったけど、まーいっか』というダジャレさえ浮かばないほどのショック状態に陥るし、授賞式に入れない僕はショック状態に陥っている。
ウエストの関係上、下のパンツは子供用、上のパンツ(ズボン)は女性用しか穿けない男性もいるし、スマホで文字を打っている時にタッチ間違いみたいな感じで見たこともないような虫の漢字が頻繁に何種類も出てくる男性もいるのだから、こんなこと別にどうってことない。
“ベストダイコンニスト”の大根おろしを最後まで綺麗におろせそうな有名人部門で5年連続1位となって殿堂入りしたみたいで、藻野美由さんのファンの僕はこんな賞があったことすら知らなかったけれど確かにおろせそうだ。
カフェオレ飲んだら、鼻水が止まらなくなったんだけど、カフェオレに鼻水促進成分入ってたっけ?鼻水抑制成分が入った飲み物何かあったっけ?みたいに考えたことはあったが今は涙抑制成分が入った飲み物を求め控え室で控え目に彷徨う。
「藻野美由さん。お疲れ様」
「マッサー。賞品で大根おろし料理専門店『大根役者』の生涯無料券を貰っちゃった。一緒に行く?」
「うん、行こうか」
デブと痩せのカップルはデブが痩せの脂肪吸飲をしているのかもしれないという説と藻野美由さんはテレビに出過ぎているので二人いるのかもしれないという説は、藻野美由さんの付き人をやってみてたぶん違うだろうという結論に至った。
この後も藻野美由さんは、バラエティ番組や取材などなどが控えていて、1日に長さ40センチメートルの大根10本分をおろした時くらいのカロリーは消費していると思うが、控え室で控え目に彷徨っていただけの僕は、かいわれ大根を1本収穫した時くらいのカロリーしか消費していないと思う。
藻野美由さんがこれから出演する、バラエティ番組様や取材様は控えているといっても僕たちみたいに控え室があるわけではないし、後ほどまとめて謝らさせて頂きますみたいなことを前に言った気がするが忘れてしまったので、とにかく全部ゴメンナイ。
鼻の下の有効活用法はボールペン挟みくらいしか思いつかないし、付き人の有効活用法は運転手くらいしか思いつかないし、有名俳優になる方法は演技を上手くさせる魔法をかけることくらいしか思いつかないので、あとで自分に魔法をかける。
『“石”という漢字の成長が止まらず天井を突き破って“右”という漢字になったのを元に戻すのにも三年』という諺があるように、そう簡単には有名にはなれないのが芸能界だ。




