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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第九章 藻野美由
30/110

#30 演技が良くなくて縁起が良くない

気温22度で冷房をかける時もあれば気温22度で暖房をかけてしまう時もある父の異常さが僕にも受け継がれているのかもしれないと思ったのは、魔法で好きな女優に近づいてアタックして付き合おうとしている今だ。


同性だったら同棲に抵抗ないなと思ったり思わせて頂いたり、同姓だったら動静が気になったり気にならさせて頂いたりして、どうせだったら好きな芸能人にアタックしてみようと思ったり思わせて頂いたりした。


魔法でイケメンになって、金持ちになって、長身になって、優しくなって、小指長くなって、天才になって、見た目は30歳くらいになって、高級車をよく運転するようになって、魔法使いの責任を担っている僕は偶然、好きな女優が好きなタイプとして挙げていた男性そのものだった。


魔法は直接恋には使えないし、使える魔法と使えない魔法の線引きは難しいが、念じれば大抵のことは魔法で何とかなるし、芸能人との恋なんて今のままでも何とかなるし、インド人の知り合いと遊びに行くと食事はカレーとかナンとかになる。


好きな女優というのは、様々な分野で活躍するミックスベジタブル女優であり、鳴かず飛ばずではなくて鳴いて飛んだ女優である藻野美由さんという女優である。


実家の車庫は縦長で、後ろに置いた車を出したいときは、前の車を動かさないと出せなくて僕は『不便、今日も』と思っていたが、ネットで藻野美由さんを調べてみるとラジオ番組もやっていることが分かってファンなのに不勉強だと思った。


魔法を使って藻野美由さんがよく行くバーを見つけることに成功して、よく行くバーを見つける魔法は使えたけれど、いつ来るかを予測する魔法は使えないので、そのバーで虫もはばかる良い女の藻野美由さんを待ち受けることにして、藻野美由さんをスマホの待受にすることにした。


『縁』と『緑』という漢字は、双子の『姉』と『妹』くらい間違えやすくて、目的の隠れ家的バーへの道は『壁』と『璧』くらい間違えやすかったが、結構な時間をかけてたどり着いた。


『点数が100点上がること間違いなし』というオーバーな塾のチラシで包んだ弁当箱を学生時代に持たされたことがあったが、このお店の内装も塾のチラシも斬新の一言だ。


『隣の小鬼はよく氷放り投げる小鬼だ』という早口言葉と『この小鬼に氷放り投げたのは氷放り投げたかったから氷放り投げた』という早口言葉を同時進行で練習しながらお酒を嗜みながら気長に待つ。


一週間に10以上の執筆を同時進行で行っている人が頭の中がごっちゃにならないのに、二つの早口言葉を同時進行で行っているだけの僕の頭は混乱していた。


お通しは、『黒色で30センチほどあって球体で爪楊枝が50本くらい刺さったような突起があるオモチャの方のブロッコリー』ではなくて、野菜のブロッコリーだった。


何時間待っても藻野美由さんが来なかったら困るし、隠れ家バーだからといって『いないいないばぁ』をするみたいな感じでいきなり『バー』と言いながら現れても困るので普通に現れてくれるのを祈り、待つ。


藻野美由さんらしき女性がサングラスとマスクとハットの変装三点セットを身に付けたサングマスハットスタイルで現れたが、もやしとえのきが料理に一緒に入っていると判別が出来なくて、『いつ使うの』と『5つ買うの』という言葉を耳で判別することも出来ない僕でも、この女性が藻野美由さんであると自信を持って言える。


素顔を見せた藻野美由さんは、まさに藻野美由さんという顔をしていて正真正銘の藻野美由さんで藻野美由さんそのものだった、隠れ家バーだけにね。


朝は目が開ききってないし、夜は目がくっつきそうになるし、目の調子が一番いいのは昼だと思っているのだが、あまり目の調子がよくない夜に見てこんなに可愛いのだから藻野美由さんは超絶美女だ。


藻野美由さんは最近、連続ドラマに主演したり、主演映画が立て続けに公開されたり絶好調に見えるが、独特の演技過ぎて賛否両論となっているという演技不評話は置いといて、今は話しかけるタイミングを伺うことだけに集中したいと思う。


中学のときに美術の授業でデッサンをすることになり、人参を家から持っていって授業でデッサンをし終わったので持ち帰ろうと美術バッグにしまって、そのまま忘れてしまい腐った人参の悪臭で忘れていたことに気付いたのだが、好きな芸能人を待ち伏せしてしまった僕の根性はその人参くらい腐っている。


さっき置いといた『藻野美由さんは最近、連続ドラマに主演したり、主演映画が立て続けに公開されたり絶好調に見えるが、独特の演技過ぎて賛否両論となっているという演技不評話』を拾い上げて遠くへ思い切り投げ捨てることにする。


一度聞いただけでは覚えられない50文字以上もある長い名前で、どこかの国の言葉では『恨み辛み妬み嫉み僻み憎み蔑み』という意味があるというカクテルを飲んで『恨み辛み妬み嫉み僻み憎み蔑み』を体内に入れていると藻野美由さんが話し掛けてきた。


「初めてですか?」


「はい。あまりこういうところは来たことがなくて」


「そうですか。あの、よかったらお話ししませんか?」


「はい」


僕は逢えて嬉しかったが、伝えてしまうと壁が出来てしまうと思って敢えて『ファンです』と言わずに過ごしていて、藻野美由さんが僕に『ファンでしょ』という言葉や『ファンデーション』という言葉を使ってくることも無さそうだ。


僕は免許を取ってから20年間一回も車を運転していなくてペーパードライバーの王様のバケモノという意味を込めて『怪獣キングペドラ』と呼ばれている顔見知りの話などをした。


そして、頭に出てくる天使と悪魔が『ぺてん師とヒグマ』だったらという話で盛り上がったりして仲良くなって、超一流女優と超一流自称社長の恋は動き出した。


ピストルやライフルを衝撃吸収材で包んで段ボールに入れて開かないように留めたりすることを『銃梱包』と呼ぶが、僕は藻野美由さんは思っていた以上に『自由奔放』だなと感じている。


『76億人の男女がいるなかで僕と藻野美由さんは出会った訳だが、こんな魔法のような出来事が奇跡じゃないとすると何だ?あっ、魔法のような出来事って魔法使って出会ったや!まあ、とにかく奇跡だよね?』という気持ちで頑張る。


76億という数字を使ったが、76億人という人数がどれくらいなのかがあまりピンと来ていないので76億人を全員床に敷き詰めたときの面積を専門家に教えてもらいたいと思ったりしている。


藻野美由さんに『好きな方角はどこ?』と僕が聞いたら『あなたがいる方角です』と答えてもらえるような関係になりたいが、仲良くなったばかりだし、法学も邦楽もあまり詳しくない僕にはまだまだ無理で、遠い未来のことだろう。


盗んでも罰せられないのは師匠の味を盗んだ料理人と、次の塁を盗んだ野球選手と、僕の心を盗んだ藻野美由さんくらいだ。

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