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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第八章 網田優理花
29/110

#29 検索エンジンと共に去りぬ

睡眠5時間の気分で目が覚めて起き上がりながら時計を見たら、まだ30分しか経っていなくて、この後の一日を元気で過ごしていけそうな体調だったが、ぶっ倒れても困るのでその日は、もっと寝るしかなかったし、メリーゴーラウンドに一回乗っただけで酔ってしまった網田優理花ちゃんと今後このテーマパークで少しでも楽しんでいくための作戦も、もっと練るしかなかった。


最近、靴底に沢山ついているピンクの小さなゴムのかたまりが剥がれて、愛車の運転席の足元に溜まり始めているが、レストランに入って店内を見回すと、運転席のシートのような黒い店内に、靴から剥がれたゴムのかたまりのようなピンクの服の人がちらほらいた。


無計画で書き進めていき伏線を張る余裕はないが伏線を張りたいので、何でもない文章を伏線に仕立て上げる小説家の如く、網田優理花ちゃんの音声検索を思い返しながらレストランの真ん中の席へ座る。


「ハロー、サーチ!『卵料理と言えば』」


「オムライスが一番人気なんじゃない?オムライス美味しそうだよ」


「久慈さんと検索さんがそう言っているのでオムライスにします。久慈ケンサクさんは何にしますか?」


「同じオムライスにするよ」


二股していて二人の彼氏の名前が頭のなかで混ざり合ってしまい、ハーフハーフの新しい名前を作り上げ発してしまう現象が起きたのならば修羅場だが、検索と彼氏の名前が混ざってしまうのは聞いたことがないので何も起こらないし、誰も怒らない。


「オムライス二つと梅酒をひとつ下さい」


「かしこまりました」


待っている間に、僕がSNSに入り浸っていると『メチャクチャね』というコメントを見つけたが、メシ食っちゃ寝、メシ食っちゃ寝の生活をしている人に言うのなら納得できても、普通のことをしている僕に『メチャクチャね』という言葉は合わないので納得できない。


今、目の前にある水の入ったグラスの下に敷いてあるコースターは、スプレー式でテーブルに噴射すると一瞬で固まるジェットコースターという名前の商品の可能性があるかもよという話や、僕がジェットコースターに手放しで乗った話である『ジェットコースター手放し話』もしないで、普通のジェットコースター話をしている。


「ジェットコースター好き?嫌い?」


「嫌いという訳ではないですけど、苦手な方です」


「乗った経験ある?」


「えっ?NOT KKRっ何ですか?」


『NOT KKR』なんて言葉は僕も知らないし、辞書の監修をしている人もたぶん知らないし「ハロー、サーチ!『NOT KKR 意味』」と音声検索しても厳かな情報しか出てこないだろう。


料理が運ばれてきたのに今、僕は色々あって、心ここに在らずみたいな状態で、さっきの意味不明な聞き間違いを『NOT⇒無い KKR⇒KOKORO⇒心』とすると、『心ここに在らず』みたいな感じになるので、今「NOT KKR!」と叫びたい気分だが叫ばない。


『熱中症の疑いで介抱されました』と僕が言ったとしたら『熱中症の疑いで逮捕されました』と受け取られてもおかしくない滑舌だと自覚しているので、落ち込まない。


オムライスに全てを集中させて、オムライスを満喫しようと、僕が尾村椅子と名付けた椅子に座り、オムライスをスプーンで掬ったとき、ダブルクリックしてと言われたときにビリオンクリックしちゃう人くらいの勢いで梅酒を飲み進める網田優理花ちゃんが目に入った。


スプーンに出来たミニオムライスは落ち、また掬っては落ち、また掬っては落ちを繰り返し、何回も元のビッグオムライスに帰ろうとして、目の前の信号が赤から青に変わるとすぐ近くにある次の信号が青から赤に変わり、タイミングが最悪なことでお馴染みの信号がある道と同じで、あまり先へ進めない。


小説を読むときは、無音でも歌が流れていても気が散るので、いつもお気に入りの曲のインストゥルメンタルを流しながら読んでいるが、その日聞いたインストゥルメンタルはサビにコーラスが入っていて、小説に集中出来なかったし、今はオムライスに集中出来ていない。


時間はかかったものの、ようやく一口食べて普通の美味しさが口の内外に広がったが、一口といっても人それぞれ想像しているものは違うのと思うので説明するとスプーンだと半分くらいの量で、親指だと第一関節までくらいの体積だ。


短い時間でサッサッと二回に分けてスプーンを口に入れてしまったので『それは一口ではなく二口だろう』という意見もあるだろうけど、辞書には確かに『一度で』と書かれているから訂正します。


「ハロー、サーチ!『マズイ 遠回しの言い方』」


僕が普通に美味しいと思ったオムライスを網田優理花ちゃんがマズイと思っていることはショックだったが今、僕が網田優理花ちゃんから携帯を借りて『検索女は嫌われる』のページにして返すほど網田優理花ちゃんのことを嫌いになっていない。


ただ“嫌われないための検索も人前でやり過ぎると逆に嫌われる”という広告を検索画面や高速道路から見える巨大看板や新聞の見開きで載せたいとは少し思っている。


「優理花ちゃん、おいしい?」


「独創的な味です」


僕が嫌いなトマトは、丸かじりしても、スライスしても、すりおろしても、好きな女性に口を開けて上を向いてと言われその場で握り潰したトマトジュースを飲まされても、普通にジュースにしても味は変わらないのと同じで『マズイです』を『独創的な味です』にしても感じ方はそれほど変わらない。


「優理花ちゃん?あのさ、、、」


「あっ、ちょっと待ってください。お酒を追加したいので後でいいですか?」


インストゥルメンタルが流れるレストランで網田優理花ちゃんが大好きな僕を取ることなく、飲酒を取るメンタルの強さは流石だし、昼から飲酒するメンタルの強さも凄い。


カミソリで剃った毛がまた生えてきたときに“生きている”と感じる人もいれば、一気にテールスープを飲み干して“生きている”や“一気テール”と感じる人もいて、たった今梅酒とビールを注文して“生きている”という顔をしている網田優理花ちゃんという人もいて、人それぞれだ。


「写真を撮りましょう。SNSに載せる用で」


写真を撮るタイミングなんて、世界中のカメラの数ほどあったのに、テーマパークでの初写真が梅酒と酔っ払いとは『開いていない口が開ききらない』という感じだ。


3ヶ月くらい前から、食事しているときに目の前にある食べ物がぼやけだしたのに部屋を浮遊する綿ボコリが鮮明に見え出した僕は、ネットがないと生きていけなそうな網田優理花ちゃんがSNSや動画投稿サイトで大人気になる未来も鮮明に見え出した。


「いい感じです。このフォトのタイトルは『梅酒とオムライスと私』です」


「いいね」


『網田優理花 1st写真集 梅酒とオムライスと私』や『網田優理花 1st single 梅酒とオムライスと私』というヤツを発売しても売れないし、僕は熟れないトマトも熟れたトマトも嫌いだが、トマトケチャップは好き。


『かれいにへんしん』といえば、前日に作ってまだ食べきれていない肉じゃがにお母さんがカレー粉を溶かすとなったり、先日焼肉屋のトイレから戻ってきた網田優理花ちゃんに僕が思ったりしたヤツだが、今日の網田優理花ちゃんのメイクは華麗に変身したときと一緒のメイクだ。


梅酒を体内に入れ終わって、オムライスも体内に入れ終わって、1回のメリーゴーラウンドで酔った網田優理花ちゃんをウォーターコースターに乗せるための説得もし終わって、今はウォーターコースターに乗っている。


「ハロー、サーチ!『ジェットコースター 怖くなくなるには』」


まるでエイリアンがお経を唱えているみたいな声の上がり下がりがない感じで網田優理花ちゃんがそう言っていたが、網田優理花ちゃんの声のような上がり下がりがないジェットコースターがあったらつまらなすぎて全然人気が出ないと思う。


終始、抜かりない叫び方をしていた網田優理花ちゃんの叫び声と共に機体は水へと突っ込んだ。


全身に水を浴びた僕と網田優理花ちゃんだったが、二日前にドラッグストアの防犯カメラを5秒間も凝視してしまった後悔に苛まれている僕は、網田優理花ちゃんの顔も5秒間凝視して固まる。


水掛け前と変わったところが水分を少し含んだということだけの服や髪や靴などに反して、化粧の取れた顔は1800度変わってしまい、ブスの放物線上にいる。


「ハロー、サーチ!『ブス バレた 対処法』」


僕は少しの間だけ言葉を失ったが、僕が気付かないくらい上手な厚化粧だった網田優理花ちゃんに厚化賞を贈りたい。


「『マスカラで美しさ増すから』ということです」


マスカラ駄洒落を何個か常備しているであろう網田優理花ちゃんがやっていたことは、レストランでメニューから『大きなピザ』という料理を頼もうと思ってよく見てみると『大きなピザを小さく切り分けた一切れです』と小さく書かれていた場合と同じくらい悪質な詐欺だ。


同じ人なのに芋虫と蝶々くらい違うルックスを見たときに人は、国語辞典で『辞典』という言葉の意味を調べたら予想していた『これです』ではなかった時くらいのガッカリ感を味わう。


「別れましょうか」


「別れません。次はどれに乗りますか?」


我が強い網田優理花ちゃんの可愛いときのルックスは今思えば蝶々というより、少々蛾が強い顔だった気がするが、とにかく別れた。

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