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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第八章 網田優理花
28/110

#28 調べても調べても調べてもなお

テーマパーク100選には選ばれていなくて、薄汚れた暗い雰囲気で、オンボロで客が多くも少なくもないテーマパークに網田優理花ちゃんと来ているが、廃墟をテーマにしたパークという視点で捉えると最高極まりない。


テーマがハッキリしていないとテーマパークとは呼べなくて『テー・マーパク』という外国人の知り合いが出来たとしても気軽に『テーマーパク!』とは呼べないが、網田優理花ちゃんのことは『優理花ちゃん!』と素直に呼べる。


「優理花ちゃん!何に乗りたい?」


イヤホンには右と左が分かるように親切にRやLという文字が印字されているが、同じラ行ということもあり、ライトとレフトをRとLを見ただけで咄嗟に判断することは僕には困難で、どっちがどっちなのかを覚えられるものでもないので、毎回の判断材料は耳へのフィット感だが、網田優理花ちゃんが着ている暖色系ニットのフィット感が半端ない。


「ハロー、サーチ!『テーマパークでもれなく楽しい乗り物』」


「どう、検索結果は?たぶんメリーゴーラウンドとかでしょ」


「正解です。では、体力が続く限りメリゴラに乗り続けましょう」


人によく思われたくて、人によく思われるような知識などをよく検索してきた網田優理花ちゃんが、男性が一番嫌う『同じものエンドレスループ』を検索もせずに選択するということはありえないことで『テーマパークでは一つのアトラクションをとことん極めるべし』というまとめ記事が検索結果の上の方に来ない限り変だ。


「私、メーリゴランドーが一番好きなんです」


「そうか。じゃあたくさん乗ろうね」


「はい。メリーゴーラドン楽しみです」


メリーゴーラウンドを網田優理花ちゃんは素直に好きだったのに、頭がおかしくなったのかと疑ってしまい申し訳ないと思っていて、メリーゴーラウンドの馬たちにも申し訳ないと思っていて、一頭ずつ丁寧に頭を下げたいと思っている。


でも、乗ってしまうと同じ方向に同じスピード同じ間隔で進んでしまうので、幾ら進んでも追い付くことが出来ず、後ろの二、三頭にしか謝ることが出来ないので、それなら平等に誰にも謝らない。


網田優理花ちゃんがさっきからメリーゴーラウンドという言葉を一回も正確に言えてなかったのが気になったが、ドラッグストア前で考え事をしていたら特売の旗みたいな、のぼりみたいなものに顔から突っ込んで顔を埋めてしまったことがあったのでテーマパーク内の池に落ちないように気を付ける。


「最初はこの馬にします」


「じゃあ隣のこの木馬にするよ」


「二回目のメリーゴリラランドは二人で馬車に乗りましょうね」


「わかった」


メリーゴリラランドだと『陽気なゴリラの国』となってしまうので可笑しすぎて、この先その事ばかり考えてしまいそうなので、僕が数分後に網田優理花ちゃんと馬車にいるか、池でバシャバシャもがいているかは僕次第だ。


メリーゴーランドとメリーゴーラウンドのどちらが正解なのか気になってきたが、『ウ』を付けても付けなくても意味が分かるからいいし、居留守に『ウ』を付けても付けなくても、居留守とウイルスは悪いという意味では同じようなものなのでいい。


物の名前の外来語を見るたびに、全部その物を作った人の名前がそのまま名前になっているのかと思ってしまう癖があり、『メリーゴーラウンド』はもちろんのこと『スマホ』も高須真帆さんという人が作ったのかなと思ったりもしたが、今、メリーゴーラウンドを牛耳っている係員の女性がまさに高須真帆という名前がピッタリな顔をしている。


「私、酔いました」


「大丈夫?」


メリーゴーラウンドはお酒で例えると甘酒のようなもので、お下げで例えると美男子のお下げ髪のようなもなので、一回目で酔うというのは普通じゃない。


「ハロー、サーチ!『乗り物酔いにいい食べ物』」


「とりあえず、休憩しようか」


「乗り物酔いには、梅干しがいいみたいなので、梅干しのおにぎり探しましょうか」


普通のテーマパークに梅干しのおにぎりは無いが、梅干しのおにぎりありますよ感が、そこら中に漂っていて、もしこのテーマパーク内の食堂に梅干しのおにぎりが無かったら、二度とこのテーマパークでニコニコしないし、もう二度しか来ない。


こんな厳しさ極まりない僕の考えをテーマパーク側の人間が脳内でこっそり受信していたとしたら、テーマパーク内にあるドロドロしている場所に埋められて、客という役割から干させる『埋め干し』をやられるかもしれない。


無駄に広いとか言うとパーク関係者に、厳しく血も涙もなく夢中で無心で切られ続ける『鬼斬り』をされるかもしれないので、ヤバイくらい広いという表現に留めさせてもらうが、ヤバイくらい広くて目当ての食堂になかなかたどり着けない。


パンフレットを見ても食堂の名前と大まかな位置しか載っておらず、網田優理花ちゃんが音声検索を試みたが、食堂のメニューの情報だけでなく、食堂自体の情報もなく、他のレストランも同じで、辛うじて『美味しくも不味くもない店』と誰かがその食堂のことを呟いていたのみだ。


網田優理花ちゃんが乗り物酔いから醒めるほど歩き続けて、僕の足が悲鳴をあげていたが、足は耳から遠いのでそこまで気にならず我慢できる程度だったが、もし「埋め干しと鬼斬りどっちにする?」とテーマパーク関係者に耳元で囁かれたとしたら耳が悲鳴をあげて、耳から近いというか耳そのものなので、ウルサすぎてもう耐えられないだろう。


「ハロー、サーチ!『九月生まれ 今日のラッキーフード』」


新たな情報が加わり、今、分かっている網田優理花ちゃんの情報は『日本のどこかで事務をやっている九月生まれの女性』となったが、個人的な情報を聞いても教えてくれないなら、こういう情報を聞き逃さないことが大事だ。


「ラッキーフード何だった?」


「卵料理でした」


食堂に行く理由はなくなり、すぐそこにあるレストランに行く理由が出来たが、快晴のぬかるんだ道には、僕が捜査ドラマの見すぎで日常会話でも普通に使いたくなる言葉『ゲソコン』の一般名である『足跡』がいくつもあって、網田優理花ちゃんは足を取られた。


「優理花ちゃん大丈夫?」


「いいえ。私はサイボーグではありません」


確かに、足を取られたのに網田優理花ちゃんは、あの人間とは思えない奇妙な体勢で持ちこたえて、転倒することなく手も付かなかったので、サイボーグではないと説明がつかないが、「優理花ちゃんサイボーグ?」と僕は聞いてなくて「優理花ちゃん大丈夫?」と僕は聞いた。


御天道様の下の伝統がありそうなレストランの店頭で電灯が点灯しているにも関わらず、今まで出てきた五つの言葉とほとんど同じ読み方をする同類の言葉の『転倒』をしなかったのは、転倒条件が整っているこの場では不思議なことだ。


わざとよろけるという高度な技もあるが、網田優理花ちゃんはそういう人ではないし、ことわざの『終わりよろければウケて良し』を実行しようとしたとしても、終わりではなく序盤なので、たぶん本気でよろけたのだろう。

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