#27 調べるのは得意だが調べられるのは苦手
メジャーコンビニ2大巨頭の中に入っていない、メジャーコンビニの中ではマイナーなコンビニが、マイナーな道ではないメジャーな一本の道沿いに4つもあったが、網田優理花ちゃんがデートに持ってきたカバンのようなものも4つもあった。
僕の分のサーロインステーキは網田優理花ちゃんが、女優でモデルで歌手でアイドルでタレントもしている美女のような見た目になって戻ってくる前に僕の胃が消化をし始めた。
「このステーキ美味しかったよ。優理花ちゃんも食べてね」
「はい、頂きます」
口に入れた瞬間に僕の血を滾らせて滾らせて滾らせまくった、あのサーロインステーキが網田優理花ちゃんの口の中に今、入ろうとしているが僕は『スイートコーンを敷いておこう』というダジャレに頭を滾らされていて、食べ姿に全然集中できない。
『食べ姿』と『艶姿』がイコールで結ばれているかどうかなんて『アサリのお吸い物』ではなく『エビの和風スープ』でもなくて『カニの味噌汁』でもなくて『神のみぞ知る』こともなくて、滾った頭の僕以外みんな知っている。
何回も使っている『滾る』という言葉を『タギル』と読めるようになったのは、一番最近滾った日から二日ほど前のことで、『滾る』という漢字が書けるようになるのは明日を予定していて、性的な意味で滾らさせて戴くのは明日を予定している。
さっき頭を滾らせていたダジャレも忘れるほど『タギルさん』が増殖しているが、よく見たら不気味な『滾』という漢字と同じ不気味さを僕が放っていたらごめんなさい。
ちなみに『滾る』の意味は、なんか『ぶぁぉぉぉっ』ってなる感じだが、網田優理花ちゃんがサーロインステーキに今、5回目の歯の突き刺し作業をしたところだ。
「ハロー、サーチ!『サーロインステーキ 美味しいですね 久慈さん』」
音声検索をしているのか、僕に話しかけているのかでいったら、僕に話しかけている方だとは思うが、何でもドバッとかけるタイプの人がふりかけをかける場合も、ご飯の上に振ってかけずにそっとのせるタイプのご飯のお供も、ふりかけと呼ぶことがあるのでよく分からない。
網田優理花ちゃんが音声検索というものをスマホに閉じ込められた『園井健作』という人間という解釈のもとで優しく扱って愛しているのならば、僕より大切な人かもしれない。
僕が今までしてきた『滾る関連の話』と「ハロー、サーチ!『サーロインステーキ 美味しいですね 久慈さん』」という音声検索の中の『ハロー、サーチ!』は要らないなと思っている。
相手が僕じゃなかったら、音声検索と相手の二方向から『すみません。よくわかりません』という言葉が飛ぶ可能性があっただろう。
網田優理花ちゃんはSNS上では職業も年齢も秘密で、さらに血液型まで秘密になっていたので、スマホの音声検索で『網田優理花 過去』と検索せずにダイレクトで聞いた。
「優理花ちゃんの仕事って何?」
「言いたくなかったですけど、一応事務です」
「歳も聞いていい?」
「それは内緒のままでいいですか?」
レストランでメニューがなかなか決められないからメニュー側から逆指名してほしいと言っていたのは知り合いの『小丸くん』で、「。」は文の終わりにつける符号の句点で僕がそれを呼ぶ時の名前は『小丸』だが、個人情報を聞こうとする僕に網田優理花ちゃんは『困るよ』みたいな表情を浮かべていた。
「じゃあ、どこ出身かな?」
「日本です」
目の前に指を4本出して「これは何本?」と聞いたときに、今の言葉を言ったのならば、怖くてヤバくて非難轟轟だが、出身を聞かれて「日本です」と答えるのは、名前を聞かれて「人間です」と答えるのと一緒なのでマシにみえて、これはこれでヤバイ。
非難轟轟という言葉を使ったが、僕は『轟轟』という漢字みたいに2台の大きい高級車と4台の超高級車を置いてある二階建てのスペースを所有出来た理由が魔法でお金儲けしていることだということを網田優理花ちゃんに隠していて、色々誤魔化そうとしている網田優理花ちゃんを責められない。
網田優理花ちゃんが色々誤魔化そうとしていて怪しいのでやっぱりスマホで調べようと思ったが見つからなくて、毛を引っ張られた時に『毛痛い』と言う人がいるが毛はハサミで切っても痛くないので毛が痛いのではなくて毛穴が痛いのだと思っている僕は携帯電話を探している。
『タン 語源』という音声検索をしながら、タンタンタンという貧乏ゆすりをしながら、淡々とスマホという携帯電話を探している前の僕を横目に、タンを網の上で焼いている網田優理花ちゃんだった。
網田優理花ちゃんはタンをひっくり返すタイミングを腰をタンタンと叩きながら虎視眈々と狙っていたが、今、タンをトングでひっくり返して「超いい感じだ」という独り言を言った。
焼き具合は超いい感じみたいだが僕は、カッコよさと美しさを併せ持っている『蝶』という漢字は良い漢字だと思う。
『舌』という漢字をひっくり返しても、斜面に足を埋められた♀というマークにしかならないし、『下』という漢字をひっくり返しても『上』という漢字になる訳でもなく、網田優理花ちゃんが音声検索人間だというイメージをひっくり返しても意味がない。
漢字で色々遊んでしまったが僕は漢字遊び団体の幹事ではない。
「ハロー、サーチ!『告白情報』」
どうやら愛の告白を僕にするために網田優理花ちゃんは告白のやり方を調べているみたいだが、『告白情報』と調べると、たぶん結構前に公開された『告白』という映画の情報や、昔ひそかな大ヒットをした『告白』という曲の情報などの文芸作品系がバーっと出てきて、後の方には出てくるもののスクロールする指の無駄遣いをするのが予想できる。
「『告白』という漫画の最新刊がもうすぐ発売されるみたいです。オススメですよ」
「ああ、そうか」
「私、ショッピングはほとんどネットなんですけど、この漫画もネットで全巻買ったんで貸しましょうか?」
「いいよ」
『告白様』は僕に酷薄で逃げていきそうで、網田優理花ちゃんが僕に告白する可能性が、昔のブラウン管テレビくらいの厚さから今のプラズマテレビくらいの薄さに変わってしまった。
網田優理花ちゃんが今日のデートに持ってきた4つのカバンのうちのひとつに『告白』というお気に入りの漫画がぎっしりと詰められているという告白をしてくる可能性は高い。
「ほとんどネットで買ったってことは、その洋服も?」
「ネットです」
「その網タイツも?」
「ネットです」
先ほど僕の頭に突如降臨した『ヒステリックなお芋パン』という言葉を忠実に具現化出来る確率と一緒で90パーセントくらいが検索頼りの網田優理花ちゃんなのに何一つまともに出来ていないことに気付き笑顔になる。
「久慈さん、私と付き合ってください」
「はい」
今という瞬間にキャッチフレーズをつけるとしたら『笑い面に蜂蜜』である。




