#25 熱湯をかけたいほどのネット馬鹿だ
胸キュンフレーズ10回を連続で言わせて次に意地悪な質問をして間違いを誘発するゲームであるラブ10回クイズをしていて『愛してる』と10回言わされた後に『じゃあ今日の愛知照る?』と聞かれたら『愛知照るよ』という『愛してる』の赤ちゃん言葉バージョンみたいになってしまうが、今始めたいことを赤ちゃん言葉バージョンで言うと『エチュエニュエチュ』だ。
SNSはつい最近まで見たことも聞いたことも嗅いだことも舐めたことも言葉として発したことも触ったことも心に感じたことも無かったので、初めてSNSという言葉を聞いた時の反応をSNSに当てはめて表すと『知らない何それ?』だった。
SNSを知った5年前は、SNSを使いこなしているであろう来年からいうと6年前で、歯磨き中に口から小さなしゃぼん玉が自然発生した日からいうと一年前で、『SNSがしたいSNSがしたいSNSがしたい』と思ってSNSを1秒後に始めようとしている今からいうと5年前で、とにかく今SNSを始めた。
SNSという言葉を僕は今10回ほど使ったが『100本のタバコを同時に吸えたりしますか?』と質問した時に『えっ、吸えねっす』と10回クイズのようにつられる人の数ほど僕のSNSを見てくれれば満足だ。
僕の今の状況を名言風に言うと『フラれたりを繰り返す。愛が壊死だ』という感じだが、歩いていて側溝の蓋の隙間に爪先が入っても倒れなかった僕だから、フラれたり、知らない人に笑いながら殴られたり、どんなヤバイことがあっても決して倒れない。
『お金持ち』『社長』『イケメン』『長身』『カラダの柔らかさ』をSNSでアピールしたら、一人の女性がいきなり会いたいとか言い出したが、僕は今怖いものがほとんどなくて、中が見えない何が潜んでいるか分からない分厚い食べ物以外は怖くないので、すぐ会いたいと言ってくる女性も怖くない。
その会いたいと言ってきた網田優理花ちゃんという女性は、キュートで天使みたいで苺が大好きで一万回好きだと叫びたいほど僕の好きなタイプの女性だ。
キュートを910、天使を104、苺を15という数字に変換して全ての数字を合計して、好きだと叫びたい回数の10000も
合計すると『11029』になるので、初めて網田優理花ちゃんと会うお店は『良いお肉』を扱っている焼肉店にしようと思う。
SNSで関わりを持った全ての女性と付き合う気でいる僕だが、女遊びの度が過ぎる、言葉遊びの度が過ぎると言われればそれまでだ。
僕は自分のことを女々しいと凛々しいのちょうど間の性格だと思っていたが、五十音で考えると女々しいの『め』と凛々しいの『り』のちょうど間は『ゆ』なので、それでは『由々しい』となってしまい、あまり良くないのでもう考えない。
だけど、よく考えてみると図々しいよりはマシだったなと思ったが、よく考えてみると少し前にもう考えないとか言いながら、またよく考えてしまっているので、これは由々しいと呼ばずに何と呼ぶ。
今、待ち合わせをしているが、待ち合わせの国家資格があったら取りたいくらいの待ち合わせ好きではないし、何かよく分かんない予感が何かよく分かんないタイミングで何かよく分かんないところをくすぐったので、デートは何かよく分かんないけど全部が冷凍食品のお弁当を作る主婦くらい手を抜こうと思う。
空が光って断食生活2日目の夜のお腹みたいな音がしたが、本当の断食生活2日目の夜のお腹ではないものの、それに近い僕の『普通に食欲が無くて自然に発生した断食生活二日目の夜のお腹』は何の音も立てなかった。
ハゲの遺伝子『ハゲンシ』を父から貰っていない僕は、降っている雨がある程度髪の毛のある頭に溜まっていくが髪の毛周りの水分くらい僕のカラダには網田優理花ちゃんへの好きが溜まっている気がする。
雨が強くなり、僕は傘を開いて、待ち、歩いてきた女性に気がついて笑顔で手を振ったり頭を下げたりせずに、待ち、もっと女性が近くに来るまで気付かない振りをして、待ち、対面した。
「初めまして網田優理花です。久慈雅人さんですよね?」
「そうです。今日はよろしくお願いします」
普通だと、写真で見た女性とダイレクトに見た女性は、鏡に映った女性の姿と鏡に映った女性を映した鏡を映した鏡を映した鏡に映った女性くらい違うものだが、網田優理花ちゃんは普通に綺麗だった。
「焼肉店を予約してあるんですけど、いいですか?」
「はい」
予約はしたものの、お店の場所をなんとなくしか把握しておらず、頭の中で道迷い注意報が発令されて、心落ち着かせアプリが欲しいくらいだが、迷っても嫌われない権などこの世にないし、パトロール式に探すしかないのだろう。
「ハロー、サーチ!『近く 焼肉店 ルート』」
僕はニキビなどの吹き出物やブツブツや暑さなどで表れる水分や毛穴から生えてくる黒くて細い物体は顔から出るタイプの人間で、焦っていることは顔に出ないタイプの人間なのだが、網田優理花ちゃんはアゴに似合わず頭が鋭い。
スマホで網田優理花ちゃんが音声検索をして僕を助けてくれたが、動き出すまでに時間がかかっていた僕を見て『動き出すまでが遅すぎて幻覚かと思ったわ』という言葉を短くした言葉の『オッセー幻覚?』が頭に浮かんだから『オッセー幻覚→オンセーゲンカク→オンセイゲンカク→オンセイゲンサク→音声検索』となって音声検索をしてくれたのかもしれない。
「久慈さん?もしかして、この高級焼肉店ですか?星の数がすごいですよ」
「ここです。ありがとう」
網田優理花ちゃんが今言った『星の数がすごいですよ』がお空に輝くことでお馴染みのあの本物の星の数のことならば今は雨が降っていて空に何も輝いていないのでおかしくて、この焼肉店のオーナーが星野和さんという名前の人で星の数がすごいのではなくて星野和さんの経営術がすごいのならばおかしくはないのだが、たぶん店の評価の星の数だろう。
「久慈さん、着きましたよ。楽しみです」
「そうだね。楽しみだね」
「ハロー、サーチ!『焼肉店 値段 相場』」
僕の両親は相性が良さそうだが実は良くない『ほうれん草ベーコン夫婦』というヤツで、父はギャンブルが好きだが、一番ダメなことはギャンブルを妻に隠れてすることで、今の『焼肉店 値段 相場』という音声検索は目の前でしないで、僕に隠れてすることだ。
『音声検索→滑舌が大事→舌を上手く使う→牛タンを上手に使った新しい料理が食べたい→焼肉楽しみ』という連想ゲームをしたが、とにかく焼肉が楽しみだ。
席に座ってメニューを見ると最高級のサーロインステーキがあり、もし頼んで焼かれたサーロインステーキが目の前に運ばれてきたとしたら止めどなくヨダレが溢れると思うが、そんなヨダレの量ほどお金を持っているのでサーロインステーキを頼んだ。
今までに僕は、サーロインステーキを焼いたことも炒めたことも煮たことも揚げたことも蒸したことも茹でたことも揚げ焼きにしたことも蒸し焼きにしたことも漬け焼きにしたことも炒め煮にしたことも茹で干しにしたことも干したことも生で食べたことも無かったので人生3回目くらいのサーロインステーキが楽しみだ。
500gのわたあめと500gのサーロインステーキ肉が同じ値段で売っていたら普通はステーキ肉を買うが、たぶん500gのわたあめはこの世界に収まりきらないくらいのとてつもなく大きなものだと思うので僕の網田優理花ちゃんへの愛は500gのわたあめだ。
焼肉店に来ているというのに僕は玉ねぎやネギやニンニクなどのユリ科の野菜があまり好きではないのだが、ユリカでも網田優理花ちゃんは大好きだ。
何の計画も立てず雑に書かれた長編小説は、そんなキャラではないのに主人公が、多重人格、忘れっぽい人、言葉を噛む人になりやすいと思うが、僕は何の計画も立てず雑にデートをする人間ではない代わりに、多重人格、忘れっぽい人、言葉を噛む人のすべての要素を兼ね備えている。




