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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第七章 土佐熊次
24/110

#24 本当の自分を忘れるくらいの別人体質

美女9頭身モデルと身長も体重も全く一緒だった時代を経て僕は今、前を歩いている女性が普通に歩いているのに同じ側の手足を同時に前に出しているかのように錯覚したりして緊張しながらデートするお店に向かっている。


足の裏が攣らないうちに辿り着ければいいのだが、足の裏が攣って休憩してデートの待ち合わせ時間に遅れるのと、足の裏が攣りながら引き攣った顔でデートの待ち合わせ時間30分前に着いたのに今日は一時間前行動の気分だったという理由でもう待ち合わせ場所に飯田啓子ちゃんがいた場合と、どちらが良いかはよく分からない。


表示を見ずに、なにが書いてあろうと炭酸以外のペットボトル飲料を力の限り振ってしまう癖をペットボトルへの忖度と捉えて欲しくはないが、飯田啓子ちゃんに忖度をしようとも思っていない。


レストランへ来店して、来店してからは『家の皿がザラメでザラザラなのがザラなサラサラ髪のサラさん』のことをざっと小二時間考えていた時、飯田啓子ちゃんが靴下で来た。


「ごめんなさい。靴を落としたのにその時は気付かず、後で気が付いて戻って探しましたけど見つからず遅れました」


うがい中に鼻水が出たのですぐに近くにあったティッシュでまず鼻をかんだが水を口の中にずっと入れていられない体質なので鼻にティッシュを当てながら水を口から出したらお相撲さんみたくなってしまった夜もあったが、飯田啓子ちゃんのドジが怖くなった夜もあった。


言い訳をしないのはいいことだが『度が過ぎるんですけどぅー』『ドジの範囲に収まりきらないくらいなんですけどぅー』『どうなったらこうなるのかが疑問なんですけどぅー』みたいなことを思ってしまった僕がいた。


「大丈夫ですよ。誰でも失敗はありますからにゃ」


少し前に舌を噛んでしまって目覚めることが何回もあったが、今は言葉を噛んでしまうことが何回もあるので、舌を噛んで僕が目覚めたように、言葉を噛んで僕の才能が目覚めるということもあるかもしれない。


『不幸中の幸い』という言葉の原型を20%くらい残した『失敗慰め中の失敗』ということわざを生んだカミカミの神々に愛されている僕に怖いものは特にない。


占い師経験がある僕だが『今日、誰かにプレゼントを送れば今月の人生が良い方向に向かいます』という新聞の占いを信じて月末の今夜、初デートの記念にプレゼントを渡した。


「花を記念に!」


「嬉しいです。ありがとうございます」


『家の皿がザラメでザラザラなのがザラなサラサラ髪のサラさん』という言葉の中にカタカナの『サ』と『ラ』は7文字ずつ使われているが、今僕が言った「花を記念に」という言葉の中にカタカナの『サ』と『ラ』が1文字ずつ隠れているということはどうでもいい。


赤ワインと白ワインでは赤ワインの方が好きで、ロゼワインとアルコールゼロワインではゼロワインの方が好きで、ワイン全般と友達の『輪』に『IN』することではワイン全般の方が好きだが、ワインは好きではない。


『ワイン岩』という変な回文が自然と頭に浮かぶくらい僕はワインに飲み込まれていて、ワインを飲まないとイケないみたいな雰囲気にも飲み込まれた僕は赤ワインの入ったグラスを今、手に持っている。


『今ドキの若い者は……』という言葉は年配の方の常套句だが、僕は『今ドキの赤いものは……くすんで見えるなぁ』と手元の赤ワインを見ながら思っている。


僕は飯田啓子ちゃんに『結婚を前提に付き合ってください』ではなく『結婚を限定に付き合ってください』とこれから言おうとしていて力が入っている。


グラスを合わせる雰囲気ではないが、もし、このあと乾杯でグラスとグラスを当て合うことになったら、力が入りすぎてグラスが粉々になり、こぼれた赤ワインの赤と、グラスで切って出た血の赤の境界線がなくなるくらいの緊急事態になるだろう。


というか、そんなに力が入っているのならばグラスを鷲掴みにしている今の時点でグラスは握りつぶされて粉々になっているからそれはない。


「お待たせいたしました。こちら機械作り風野菜炒めになります」


機械作り風というかなりダサいフレーズを僕は頭のなかで否定なんてしていなくて、機械作り風というフレーズはいらなくないですか?とクレームを言うのも我慢していて、表情も変えずに全て5秒前のままだ。


『笑顔をもっともっと』をモットーにして、もっともっと良い印象を与えて飯田啓子ちゃんの最も大事な人になりたいが、『もっと』という2.7文字を何回も使いすぎではないかい?という厳しい世間の意見はごもっともだ。


僕は愛想笑いを標準装備しているが飯田啓子ちゃんは手強すぎて大変で、今は『飯田啓子ちゃんと魔法使いの男』という作品の第二弾の途中で、告白が成功しない限り第三弾の製作決定は決まらないので大変だが、苦手な赤ワインを息を止めながら飲んでみるという実験に成功したのでいい。


「いくら馬鹿を直そうと勉強しても無駄ですよ。馬鹿は完全には直らないんですから。久慈ナントカナントカさんですよね?あなたのことはしっかりと覚えています」


歯磨きで出る血は良い血か悪い血かで友達と兄弟喧嘩風の喧嘩をした時の友達みたいな言い方で迫ってきた。


「そうだよ。何で分かったの?」


「下唇をなめるクセが前と全く同じじゃないですか」


ウソ泣きみたいなことを飯田啓子ちゃんがしてきたが不良品なので、安っぽいウソ泣きではなく追加オプションとして新たにウソ泣きを付けた方が良いかもしれない。


ウソ泣きみないに見えるが、正体を見破った時だけに見せる変な笑い方かもしれないし、僕への拒否反応として自然と出てしまった全く別のものかもしれないし謎。


テレビとCDとラジオの音をイヤホンで同時に聞く3つの耳と周囲の音を聞く1つの耳の計4つの耳が欲しいが、その前に4つの音を同時に楽しめる脳がないとどうにもならなくて、僕の正体を見破った飯田啓子ちゃんのような鋭い脳が欲しい。


買い換えようと思ったら急に元気が良くなった家のオーブントースターのように飯田啓子ちゃんも急に元気が良くなったが、土佐熊次が僕だと確定してお淑やかさの綱が切られたのだ。


「整形して、名前変えて、声優並みの七色の声があったとしても私は騙せませんよ」


「すみませんでした」


最近、歯磨きをしている時に歯ブラシを折ってしまったことがあったが、今はその時と同じで知らないうちに力んでしまっているみたいだ。


ガラス部分は折れてもゴム部分でなんとか繋がっていた歯ブラシだったが僕と飯田啓子ちゃんがなんとか繋がっていることは不可能だろうか、不可能だ。


「こちらサービスの働き詰めシェフ特製ピーマンの肉詰めの袋詰めになります。お土産にどうぞ」


「ありがとうございます」


店員が僕と飯田啓子ちゃんを覆っている見えない壁を突き破ってきたのは、たぶん店のリーダー的存在の人物の指令だが、店からしたら僕たち二人は店のビーバー的存在なのかもしれない。


「もう会いません。さよなら」


「もうしません。さようなら」


『人間のくず』と『星くず』は同じ「くず」という言葉がついているのに正反対で『人間のくず』は「汚いくず」『星くず』は「綺麗なくず」なのだが、人間の僕と星のあなたとの距離は遠くて遠い。

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