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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第七章 土佐熊次
23/110

#23 最高なくらい最低な人間である

沈黙10秒は精神ぶん殴り5時間と同じ体力を消費するが「クッシャミ!」というくしゃみをしたり、大声で「大声!」と叫ぶのと同じように沈黙を「沈黙!」という叫び声で切り裂くことは、飯田啓子ちゃんの口の動きが止まらない今は必要ない。


天才というものは馬鹿の向こう側に存在するものであり、僕というものはブラックホールの向こう側に存在するものなので、今考えていることをまとめると『たまごをレンジでチンすると爆発するということを僕が知った年齢は何歳ぐらいだろうか』ということだ。


『親バカ』とか『野球バカ』などはいい意味の馬鹿なので飯田啓子ちゃんのことが好きすぎる僕みたいな『飯田啓子バカ』もいい意味の馬鹿である。


だから、僕みたいな『飯田啓子バカ』は飯田啓子ちゃんの嫌いな馬鹿とは違う馬鹿で、飯田啓子ちゃんの好きな馬鹿と同じ馬鹿だと思う。


『バカ』と職業欄に書くことを想定した時に、字面の良さ、頭の良さを考慮するとカタカナのバカより漢字の馬鹿の方がいいが、土佐熊次という名前を使用して住所を鳥取県にして雑誌の「国産牛肉プレゼント」にハガキで応募するとしたら、『馬』『鹿』『熊』『鳥』『牛』という5種類の動物がハガキに溢れてかえってしまい、まるで字の動物園と化してしまうがそんな馬鹿なことはしないからいい。


「熊次さん、ケーキ美味しかったです」


「良かったです。飯田啓子さん、今度一緒に遊びにいきませんか?」


「はい、いいですよ。そんなことより今食べたケーキに入っていたパイナップルに含まれているタンパク質分解酵素の話を続けますね」


不景気が終われば自由になれる人がいる、刑期が終われば自由になれる人がいる、だが、ケーキが終わっても自由になれない僕がいる。


『午後01時05分にこの町に来た男は423分経った今もこの町にいます。今の時間は何時何分でしょうか?』というのは僕が作った時間の問題だが、このままいくとパイナップル飯田にプロテイン熊次が分解されてしまうのも時間の問題だ。


騙したことは紙パックに入れられアイスコーヒーという名前で売られている商品をあたたかいものが飲みたかったという理由で温めて飲んでしまった時と同じ罪悪感があるが飯田啓子ちゃんと付き合えればそれでいい。


あと、帰る道を正確に教えてくれて、話を早めに切り上げてくれて、今日中に家に帰ることが出来て、家に帰ってフカフカの布団でぐっすり寝ることが出来て、夢の中にパイナップルに含まれているタンパク質分解酵素の擬人化されたものが出てこなければ、それでいい。


最高の興味を与える魔法の言葉であると同時に、最強の恐怖を与える摩耗の言葉でもある「初めて会った気がしませんよ」は使うタイミングを逃した。


「初めて会った気がしませんよ」


僕の名フレーズを飯田啓子ちゃんに先に使われたが、ヒゲを剃っていて流れで眉毛を半分剃ってしまった時は「残りの眉毛も全て剃ってしまう」というのが正解だし、初めて会った気がしないと飯田啓子ちゃんが思った理由は「違う姿の時に何度も会っていたから」が正解だ。


「パイナップルに含まれているブロメラインには……」


まだまだ飯田啓子ちゃんの話は続くが、滑稽で短いパイナップルのタンパク質分解酵素の話をパイナップル小話と呼ぶならば、真逆でいつ終わるか分からないこの話はパイナップル大話と呼ぶだろう。


そういえば、ドジと言い訳だけで構成されているといっても過言じゃないかもしれなくない?みたいな感じだった飯田啓子ちゃんの性格がかなり薄くなってきている。


飯田啓子ちゃんは三倍濃縮の麺つゆのように3倍の水で薄めると丁度良くなるくらいだったのに、10倍の水で薄めてしまったかのように薄くなっていて残念だ。


もっと詳しく説明すると、普段は物で溢れ返っている部屋のガラクタを人が遊びに来る直前に無理矢理押し入れに全部突っ込むみたいな感じで飯田啓子ちゃんはドジと言い訳を頭の押し入れに突っ込んでしまっている感じである。


「トイレ借りてもいいですか?」


尿意が飯田啓子ちゃんの話の長さを物語る。


「トイレはここですか?」


そう言い終わってすぐにその扉を開けると、子供の頃に近所の公園の大きめの滑り台の滑るところを逆から数人のお友達と登っていたら前のお友達が足を滑らせて一番後ろだった僕に雪崩のように迫ってきた時のように、ガラクタが迫ってきた。


頭の押し入れにドジと言い訳を突っ込んでいるとは予想していたが、今、僕がトイレと間違えて開けてしまったリアル押し入れにゴミやガラクタが突っ込んであるとは予想していなかった。


「あれですよ。今、流行っている『押し入れへ部屋にあるものをほとんど押し入れてから開けてみた』という動画を撮る予定だったんです。今、片付けますね」


馬鹿で要領が悪かった人間がメガネを掛けたら急に、頭が良くなり真面目すぎる人間に変わるといった内容のドラマなどはあるが、もうすでに頭の良いドジの飯田啓子ちゃんが今、掛けようとしているメガネを完全にかけ終わったとしてもガラクタナダレがより鮮明に目に映るだけで何も変わらないだろう。


「これって、私が食べた猫のケーキの空き箱と袋ですか?知らない……あっ、違うんです違うんです」


飯田啓子ちゃんがそこだと思っていた有名な店とは違う他の有名な店のケーキで、飯田啓子ちゃんが食べたのは猫のケーキではなくクマのケーキで、飯田啓子ちゃんがその店をスマホで調べようとスマホをバッグから探したらテレビのリモコンが入っていて、飯田啓子ちゃんが心を落ち着かせるためのお茶を冷蔵庫からだそうとしたら箱ティッシュが出てきたりした。


災難続きの冴えない男が魔法使いになって恋愛していくどこかのラブコメの内容くらい薄かったドジがいきなり主張してきた、というか主張しすぎてきた。


押し入れの雪崩をきっかけにドジの雪崩も押し寄せてきたが、怒濤のドジラッシュはまだまだ続くのだろうか。


母の喋り方は茨城出身の芸人3割、人気アニメの幼児キャラ3割、元議員3割、普通の人1割で構成されているが、飯田啓子ちゃんはドジ10割だった。


名前に擬きという、商品としてはマイナスの言葉が入っているにも関わらず何の違和感もなく世間に受け入れられている『がんもどき』は凄いが、世界最上級のドジを受け入れられる『熊次もどき』の僕も凄い。


かわいい声がしたのでその声がする方を見たら結構なおばさんだった時みたいなガッカリ感を味わうことなく飯田啓子ちゃんとデートの約束を出来たことは、何らかの参加賞を1日3ヶ所で貰うことと同じで喜ばしいことだ。


「今日はありがとうございました。来週のデート楽しみに待っていてください」


「はい。楽しみにしていますね」


「最後にお願いがあるんですけど、駅までの道を教えてくれますか?」


魔法でもスマホでも地図でも物知りおばさんでも博識おじさんでも説明のプロでも僕の方向音痴には勝てないと思うが飯田啓子ちゃんは僕を家の外の道路の真ん中に誘導すると僕の肩を持って真右に向かせた。


「このカラダの向きのまま一ミリの狂いもなく直進すれば、2つある自動改札の左側をそのまま通過できますよ」


行きは直進で迷っていたことになるが、帰りにはカラダを一ミリもずらさないで直進するだけという頭は使わないが、精神力を使う行動だけでいいので楽だが、IC乗車券を持っていないので券売機に寄り道をすることになるが、結局要約するとただの直進だ。


自動改札から階段行ってホーム行って電車行ってホーム行って階段行って自動改札行って道行ってマンション行って部屋番号163へ一目散。


来週ある飯田啓子ちゃんとのデートへまっしぐらのまっしぐらのまっしぐら。

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