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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第七章 土佐熊次
22/110

#22 ストーカーではない待ち伏せしただけだ

飯田啓子他人好感度ランキング100位以内を目指して僕は奮闘しているが、どこかにインパクトのある文頭を書くことに奮闘している人も少なからずいて、それらの人々はそれらの奮闘で分銅が錆びるほどの汗を流している。


僕が飯田啓子ちゃんの恋する他人として生活を始めてから早3日、僕がお気に入りのパーカーのボタンの掛け違いに気付かずに一日過ごしてしまってから早1日、全く連絡がなくて飯田啓子ちゃんと僕の間にボタンの掛け違いがあったのではないかと気にしている。


ボタンの掛け違いがどんな意味の言葉なのかを調べずに使ってしまったので、とりあえず調べてみようと頭の1細胞が思ったと同時に飯田啓子ちゃんの家を特定する魔法を使うことも思いついて、どうでもいい調べ物を見放して、魔法を使うことに全てを捧げた。


僕にとっての『ボタンの掛け違いの意味』と、飯田啓子ちゃんにとっての『僕』は同じどうでもいい存在なのでボタンの掛け違いの意味が可哀想になったが、人為的ミスから生まれた言葉と僕という人物を一緒にしたくはないので調べない。


魔法で調べた飯田啓子ちゃんの住居の前まで行って、『見えも隠れもせぬ』みたいな感じで様子を覗いていたがストーカーとは真逆のスタイルでストーカーをやらせていただいているので『ストーカー』ではなく『カートス』だ。


家の周りで特徴のある鳴き方のヒグラシが毎日鳴いていて、一匹のヒグラシが毎日家の周りで鳴いているのかと思いながら、その日暮らしをしていたのは昔の僕だが、そのヒグラシのように飯田啓子ちゃんの家の周りで毎日特徴のある泣き方で泣いてやろうかと思うくらい僕は真剣だ。


実家暮らしから立派暮らしに変えた飯田啓子ちゃんの家の前を行ったり来たり、行ったり来なかったりを交互に繰り返していると飯野という名字に憧れている飯田啓子ちゃんが、やや勇み足気味で前からやって来た。


僕は道に迷った系ヒューマン人を装おって飯田啓子ちゃんに話しかけた。


「すみません。ここは何処ですか?」


リアル方向音痴の僕は道に迷った系ヒューマン人を装おったんじゃない、ただ道に迷ったんだ。


今、飯田啓子ちゃんに無視されたとしたら、今までの努力が泡の水になり立ち直ることが出来なくなるかもしれないということと、都会の田舎という名の迷路でもがき続けて一生家に帰れなくなるかもしれないということの二つの意味でマジでヤバイ。


スイカが果物に含まれないのであれば、方向音痴も馬鹿に含まれないということで馬鹿嫌いの前で正々堂々と方向音痴宣言を醸し出した。


道に迷っている僕に飯田啓子ちゃんが血迷ってしまうことは無さそうだが、今日は帰り道の途中にある、ゾロ目ナンバーの車しか停まってない会社の小さな駐車場にゾロ目ではない車が停まっていることがかなりの確率で有りそうだ。


「迷ったんですか?ここはセレブシティーですよ」


『嘘つきはトロンボーンを始めがち』という架空のことわざがあるのにもかかわらず、この町がセレブシティーだと嘘をついた飯田啓子ちゃんは僕と一緒に、トロンボーンを演奏している全ての人に謝ると共に反省してほしい。


馬鹿が馬鹿なりにバカバカいくと嫌われるが、方向音痴の天才が天才なりにドカドカいっても嫌われるので本能に身を任せた。


「とりあえず、駅までの道を教えてもらえませんか?」


「いいですよ。あっ、それは有名なお店のスイーツですよね。私、甘いものには目がないんです」


飯田啓子ちゃんがスイーツ大好きな女性だと知っていて大人気のケーキを調べて選んだお店の行列にわざわざ並んで手に入れたケーキという『女性の気持ち分かってますよスタイル』の方がカッコいいが、僕はたまたま見つけて、たまたま行列が出来てなくて、たまたま甘いものが食べたい日だっただけで、要約するとただ食べたかっただけだ。


「このケーキ食べますか?」


「あなたカッコいいですし、タイプなので時間があるなら私の家で一緒に食べますか?」


定食屋で色々悩んでアジ干物定食にして、新聞の占いを何となく見ていたらラッキーフードの欄に干物と書かれていた物事全般を表す言葉は『偶然の干物』だが、今の状況は『偶然の産物』だ。


ちなみに飯田啓子ちゃんは『甘いものには目がない』と言っていたが、今持っている有名店のクマの形をした甘い甘いケーキには目がある。


魔法使いとはいえ、よく飯田啓子ちゃんの家にたどり着いたなと自分で自分を愛でてあげたい所存だ。


迷い目的でこの町に来たのならば僕は幸せだったのかもしれないし、ケーキ目的でこの町に来たのならば僕は幸せだった可能性も限りなく100に近い100だっただろうが、飯田啓子ちゃん目的でこの町に来た僕はマジで紆余曲折。


「お邪魔します」


間違い電話を装おって飯田啓子ちゃんと電気信号のキャッチボールをした時のままの、ありのままの偽名で行こうと思っていたが思い出せないので聞かれるまで

青年A(仮)として飯田啓子宅で燻っている。


小学生の時、授業中に爪を何かでずっと擦っている女の子をイライラして見ていたら僕がその女の子のことを好きだという噂がクラス中に流れたが誰かに名前を聞くという恒例行事も流れろと思っている。


土佐ナンチャラを貫くか新キャラの小笠原ナンチャラ竜二を登場させるのかの3択を僕は柔らかめに突き付けられている。


とりあえず偽名を思い出すまでケーキのカラダを借りたクマに身を削ってでも場を繋いでもらうしかないのだ。


「おいしいです」


身を削ってというか身を削られてというか身をこそげ取られてというか身をフォークで切断されてというか身を食べられてというか、とにかく頑張れクマ。


クマのケーキに意思があるかのような表現を延々としてきたが、お店のケースに並んでいた時点ですでに生首だったクマの生首を、透明なケースに綺麗に並んでいた大量のクマの生首のひとつだったクマの生首を、心の中で捲し立てて救世主に仕立てあげた僕は本物の生首より怖い。


僕の名前を聞かれたら「申し訳ありません」か「申し上げられません」という似て非なる言葉のどっちかを言って乗り切ろうと決めかけていたが「申し訳ありません」と「申し上げられません」ではなくて「堂島の有馬健」や「帽子だけくれません?」という似てかなり非なる言葉が頭の中にへばりついて離れない。


僕がまだ久慈雅人だった時代に馬鹿を露呈だか布袋だかして抱かせた嫌悪の名残で馬鹿を慎重に選別するようになった飯田啓子ちゃんへの餞別にこのケーキがならないように名前を一所懸命思い出す。


そして脳内に帰ってきた名前『土佐熊次』をメイドカフェの店員風に「お帰りなさいませ、土佐熊次様」と忙しなく歓迎した。


「そういえば表札に飯田って書いてありましたよね。人違いでしたらすみません、あなたは電話で僕に恋をしたと言ってくれた啓子さんですよね」


「えっ、そうです。電話であんな面白いことやこんな面白いことを言い合ったナントカナントカ熊ナントカさんなんですね。フフフッ」


「そうです。ハハッ」


飯田啓子ちゃんは思い出し笑いをしたけれど僕は表面的には思い出し笑いをしたものの内面的には『思い出せぬ笑い』というヤツなので「おい、長老!ホイコーロー!」と言っていた5日前に夢に出てきた中華料理店の店主を呼ぶ韻踏み客を無理やり思い出して笑って、電話の思い出し笑いに代えさせていただいた。


唇をブルブルブルと高速で振動させることがどうしても出来なかったのに溜め息したときに自然と出来てしまったことと、僕のことで思い出し笑いをするくらいなのに飯田啓子ちゃんとずっと連絡が取れなかったのは何故だろうか?

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