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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第七章 土佐熊次
21/110

#21 何事でも諦めたらカッコ悪いからね

最低9点という1桁の点数を学校のテストで取ったことはあるものの、2週間くらい前から頭良くなりかけているので飯田啓子ちゃんに馬鹿と言われたことに納得が出来ずにいたが、学校のテストで100点取った人以外はみんなバカだと思っていそうな人なので気にしないことにして、とりあえず魔法で天才になった。


トンテキだかインテリアだか忘れたが、とにかくそんなような雰囲気の言葉を飯田啓子ちゃんが好きなタイプとして挙げていたが「知識がある人」という意味らしいので今の僕は飯田啓子ちゃんに一番ふさわしい男だ。


レンタルショップでレンタルCDを探していたら母とまったく同じ名前の演歌歌手を見つけてしまったように、今のこのカッコいい顔と同じ顔もざらにいると思うが、念には念を入れて入れて入れまくって顔を魔法で変えた。


何ということでしょうか、カッコよかった僕の黒トリュフ塩顔はさらにカッコいい最高級白トリュフ塩顔になり、世界三大美男の5人に仲間入りするくらいの勢いだ。


かなり天才で甜菜糖くらい甘いマスクの塩顔男子になったので飯田啓子ちゃんは

絶対に好きになる。


好きになると思う、なるだろう、おそらくなる、おおかたなる、たぶんなる、きっとなる、なるとみている、なるかもしれない、なる可能性は否定できない。


自分のスマートフォンではなく同じテーブルに並べて置いてあった友達のスマートフォンを持って帰ってしまう『間違い電話』ではなくて、目的の人ではない人に間違えて電話をかけてしまう『間違い電話』を装って近付こうと思う。


魔法で魔法の声を手に入れて、この世に番号を知っている人が一人に限りなく近いという補欠の三台目スマートフォンで『スマート啓子ちゃん』に電話という名のテレフォンをすることにする。


毎食『胃の中でバランス良く混ざり合え!』と思いながら、いくつもの料理を少しずつ順番に均等に食べている僕だが、この均等食事法と今からする電話は絶対に無駄ではないと信じている。


金メダルと銀メダルは言葉が似すぎていて聞き間違えやすいので変えた方がいいと思うが、飯田啓子ちゃんに僕であるとバレないように僕の名前も変えた方がいいと思う。


だから、高級なステーキ肉をあえて包丁で叩き細かくバラバラにしてから再び繋ぎ合わせてハンバーグを作るみたいに、久慈雅人という僕の本名の文字をバラバラにしてから再び繋ぎ合わせた土佐熊次という名前に変えた。


その高級ハンバーグスタイルの偽名の作り方をアナグラムというらしい。


地下室のようなところに閉じ込められて特に動じることなく普通に生活しているという穴蔵夢は何回も見ていたが、アナグラムは最近まで知らなかった。


『電話に出んわ』というヤバイほど面白いダジャレが悲しい印象のダジャレに変わらないことを願って僕は今、飯田啓子ちゃんに電話をしてる。


「もしもし」


「あっ、こんにちわ、鈴木はるかさん。土佐熊次です」


何処にでもいそうだがいなくて『偽名として考えました感』が有りそうだが無くて、土佐熊次という名前の人の知り合いにいそうな絶妙な名前にした。


そう言ってしまうと宇宙内外の鈴木はるかさんを敵に回してしまうので撤回するが、とにかく良い名前だ。


土佐熊次を演じるにあたって色々考えた結果、電話コード読みを意識してみたが棒読みになってしまった。


でも、何とか何とか何とか何とか何とかなると思う。


「電話番号、間違ってますよ。私は飯野です」


「飯野さんでしたか、すみませんでした。あの、可愛い声してますね……」


飯田啓子ちゃんではなく飯野と名乗る女性の登場に焦ったが、僕の中で響きが好きな国の一つであるアゼルバイジャン風の言葉で表すと『焦っている場合じゃない』という感じだ。


リアル間違い電話、名前の聞き間違い、前に教えてもらった名前が偽名だった、初めましての人からの電話だけ偽名を使う、という四捨五入すると0個の理由が候補として頭に浮かんだ。


僕はミカンが大量に積まれたミカン売り場に人参が一つだけ混じっていたことに気づけた男だ、飯田啓子ちゃんが飯野と名乗った理由に気づけないはずがない。


飯田啓子ちゃんが電話の相手が姿を変えた僕だと気付いていて飯野と名乗っているとすれば、飯というところだけ合っていたので心を半分許していたと見て、良しとする。


色々考えていたら啓子ちゃんが僕に最初に教えた方の名字が飯田だったのか飯野だったのかを忘れてしまったが、多分濁音の方が知ってる方。


その後、小笑いと小盛り上がりで飯田啓子ちゃんが僕に小好意を持ってきていると少々思い始めた。


「飯野さん、下の名前は何て言うんですか?」


「私、飯野って言ってましたか。本当は飯田啓子といいます」


「飯田啓子さんでしたか。世界一いい名前ですね」


先程、全ての鈴木はるかさんにとにかく良い名前だと思ったことは本当で、飯田啓子という名前と鈴木はるかという名前は良い名前ランキング同率1位ということにして丸く納める。


「飯野という名字に憧れていて、つい、言ってしまっただけですからね。別に自分の名前が覚えられないバカではありませんからね」


海は波立ち、膿は涙し、国をはみ出すような魅力ある、低温ボイルの親戚の『低音ボイス』に魅了されて名字を間違えたと僕は思い込むことにする。


「私、恋をしました。電話をしてるだけなのに」


『恋』という10画に顔と心が乱れそうになったすぐ後に『電話をしてるだけなのに』という言葉の中に電話を意味する『テル』が隠れていたことに気が付いて、さらに顔と心が乱れそうになった。


「私と友人を前提した他人になってください」


「いいですよ」


「前に仲良かった人が最初は普通だと思っていたんですが、かなりの馬鹿でして、今回は慎重に」


砂糖を100g入れて作る予定だった生地に間違えて塩を100g入れてしまったことにすぐ気付き、その後に砂糖をたくさん加えてから焼いたケーキのように飯田啓子さんと付き合うのは意外と甘くない。


100円ショップで長い棒状のものとカゴを持っている人がいたので清掃員かと思っていたら清掃員風のファッションをして売っているホウキと山盛りの買い物カゴを持った買い物客だったが、飯田啓子ちゃんみたいなドジと昔の僕みたいな馬鹿の違いは本物の清掃員と清掃員風買い物客くらい違うものなのだろうか。


でも、土佐熊次という偽名は功を奏した。


半周回って逆に新しいみたいな感じで。

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