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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第六章 飯田啓子
20/110

#20 天才は馬鹿であり馬鹿は天才である

『日本700大大学』のひとつの、ある大学を卒業している飯田啓子ちゃんは『世界70億大天才』に入るほど頭が良くて『日本3大美女』に入るほど可愛い。


今は飯田家で『足が8本で吸盤がついていて敵に襲われると墨を吐いて逃げる軟体動物入りの水溶き小麦粉球体焼き』を食べていた僕に飯田母がコップに入ったシュワシュワした黒い液体を出してきたところだ。


黒い液体の正体はコーラということもありそうだが飯田母は素直にコーラを出すような単純な人間ではないので炭酸コーヒーか炭酸醤油のどっちかだろう。


「頂きます」


僕はオオカミではないので赤い頭巾をかぶった少女を飲んだことはないが今、喉に流し込んだ炭酸の液体も少女と一緒で一度も飲んだことがないヤツだった。


「昨日の朝に料理番組で大根を煮ていた人が久慈君に似ていたんだよ。もしかして久慈君は有名な料理研究家なの?」


飯田母はそう聞いてきたが僕は料理研究家ではなくて料理研究家のことが大好きな『自称料理研究家研究家』である。


僕に似ている人はたぶん大袈裟な手の動きでテレビの前の人に少しだけ不快感を与えていることで有名なあの人だろう。


「啓子。体重50キロから減ったか?」


僕の母が僕に怒る時に武器として持っているものは『キュウリ』だが飯田父が飯田啓子ちゃんに体重のことについて聞いてきたのは『急に』だった。


「減ってないけど洋服の重さが2キログラムで長い髪の毛の重さが1キログラムでメガネの重さが1キログラムなので本当の体重は46キログラムだけどね」


「啓子。そんなわけがないだろう」


洋服と髪の毛が重いのは分かるが1キログラムのメガネは『受験に落ちないために験担ぎで汚れが落ちない鍋を持ち歩く受験生』と同じで存在しないので飯田父の言う通りでそんなわけがない。


僕はドラマの音声が一緒に見ている人に聞こえるようにポテトチップスの袋を開けるのをコマーシャルまで我慢したことがあるくらい気を使えるのでこう言った。


「メガネは意外と重いからね」


「啓子。もっと痩せなさい」


僕がいないみたいに話をしている飯田父の態度にアンデスメロンが『アンコのように甘いですメロン』の略ではないと知った時くらい驚いた。


「明後日からダイエットを始めるわ。だから明日は大好きなコンニャクをお腹一杯食べることにするわよ」


今タコ焼き100個目を口に入れながら飯田啓子ちゃんがそう言ったがダイエットは無理だと思う。


『ゲストとして登場した大物政治家がメタファーをテーマに一時間語っているだけの朝のラジオ番組を聞いている夢を今日僕が見た理由』と『なぜダイエットが明日からではないのか』ということと『コンニャクでお腹はいっぱいになるのか』ということが今は気になっている。


「啓子は小さい頃からずっと可愛いけど痩せればもっと可愛くなるよな」


僕の父がストレスを発散する時にヒザで思い切り真っ二つに割るのは『キュウリ』だが飯田父が興奮して大きい声になったのは『急に』だった。


「『小さい頃からずっと可愛い』と今お父さんが言ったけど小さい頃だと今も小さいから適した言葉ではないし子供の頃と言ってしまうと20歳までが子供の頃だからこれも適していないし幼い頃という言葉を使っても今も顔は幼いから適していないので年齢で言わないと分からないわよ」


「啓子は7歳から可愛いぞ」


父が娘のことを0歳から可愛いと思わないのは『普通』ではないが二人の変なやり取りが『苦痛』で『退屈』ではない訳がない。


小学生の頃、僕は校長先生の話が退屈な時には校長先生の癖である語尾の『ね』の数を数えて乗り切ってきたが今の退屈のしのぎ方は分からない。


「洗い物手伝ってくれる?」


飯田啓子ちゃんがいなくなり飯田父と二人きりになったが飯田父と二人きりでいることは『くしゃみが出そうで出ない状態が一時間以上続く』くらい苦しいことだ。


「血液型は何型だ?」


「O型です」


『ふ菓子で頭を思い切り殴ってやろうか』と誰かが言ってきても怖くないが飯田啓子ちゃんのお父さんは何を言ってきても怖く感じた。


「啓子とはどういう関係だ?」


そう聞かれて頭が真っ白になったが白髪になったわけではなく雪が頭に降り積もったわけでもなく『牛乳かけババア』に牛乳をかけられたわけでもない。


たぶん緊張も関係なくて『脳内クリーニングスタッフ』3名に頭の中の片付けなくていいところまで片付けられたのだろう。


「啓子のことが好きなのか?」


「はい」


僕が朝の情報番組で天気予報士が喋っている後ろで1ヶ月間ほぼ毎日小さく映り込んでいたというのは嘘だが僕が飯田啓子ちゃんを好きなのは本当だ。


鯛は養殖の方が好きだが女性は天然の方が好きなので少し天然の飯田啓子ちゃんは僕の好きなタイプなのだ。


昔、友達が深刻そうな顔で『俺も年を取ったら演歌が好きになるのかな』と言っていたが年を取ってから演歌が好きになることと飯田父が僕を好きになることはたぶんない。


「嫌いなものは何だい?」


「嫌いなものは父さんとこうして二人だけで話している時の気まずい空気です」という『嫌いなもの第1位』は言わずに『嫌いなもの183位』と『嫌いなもの14位』を答えた。


「ワインとトマトです」


「良かった。久慈くんが喜ぶようなプレゼントを用意したよ」


この上ない緊張とこの下ないテンションだった僕だったがプレゼントが貰えると聞いた瞬間に『この上ある緊張』と『この上ない普通のテンション』へ変わった。


「受け取ってくれワインだ」


テレビでやっていた格闘技に関するニュースでアナウンサーが『スパーリング』のことを間違えて『スパークリング』と言ったのを聞いて僕は咄嗟に『ワインかよ!』と突っ込んでいたが今『ワインかよ!』と突っ込む勇気はない。


昨日夢の中で300円の『巨大土偶キーホルダーのガチャガチャ』をやったらレアアイテムの『ゴールドの土偶』が手に入ったがその『ゴールドの土偶』くらいワインは要らない。


その後ハシビロコウのワンポイントロゴが入ったポロシャツを着た飯田父とウシ柄のエプロンをつけた飯田母に見送られて飯田啓子ちゃんと共に駅に向かった。


女性の下着売り場を横切る勇気に比べたら『付き合ってもいない僕を実家に呼んでくる絶対僕のことを好きな飯田啓子ちゃんに告白する勇気』なんて大したことないので僕は告白をすることにする。


駅に着いて『足の人差し指の形がエイリアンみたいな僕』は飯田啓子ちゃんにこう言った。


「地球温暖化は僕の熱すぎる啓子ちゃんへの愛が原因かもね。付き合ってくれ」


「ごめんなさい。久慈さんは馬鹿だから付き合えないです」


お店でポイントカードを出そうとして違うカードを出したことはバレていないし飯田啓子ちゃんの前では馬鹿じゃなかったのでおかしい。


電車に乗って電車の中を歩いて電車の椅子に座って電車の外を眺めて電車の外を連写して電車の椅子から立って電車の中を歩いて電車を降りて外を歩いていると『お猪口をひっくり返したような雨』が降り出した。


子供の頃は空き缶を踏んだり蹴ったりしていたが今の僕は飯田啓子ちゃんにフラれたり雨に降られたりして踏んだり蹴ったりだ。


テレビのバラエティ番組で早食いの達人が別の分野の達人に早食いで負けたのを見たのが一番古い記憶だがその記憶はあるのに飯田家で何をしたのか全く記憶に残っていない。

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